第1章 第25話 第一階層の探索
第一章
第25話「第一階層の探索」
ダンジョンの空気は、地上とはまったく違っていた。
冷たい。
そして、重い。
アルトは一歩踏み出した瞬間、肌でそれを感じた。
(……空気が違う)
湿った土の匂い。
岩肌からにじむ水滴。
そして、洞窟の壁に埋まった青い鉱石が、ぼんやりと周囲を照らしている。
その光が、静かな通路を青く染めていた。
ロイドが低い声で言う。
「隊列を崩すな」
先頭はロイド。
そのすぐ後ろにローレンともう一人の前衛。
中央にアルト。
後方にミリアと後衛の冒険者。
典型的なダンジョン探索の隊列だ。
足音が洞窟に響く。
コツ……コツ……
その時。
アルトの視界に、文字が浮かんだ。
⸻
【クエスト更新】
森の異変を調査せよ
進行状況:60%
新目標
・ダンジョン第一階層の調査
・魔物の種類と数を確認する
推奨ランク
Cランク以上
⸻
アルトは少しだけ目を細めた。
(またクエスト表示……)
この世界では、スキルを持つ者の一部だけが見ることができる。
アルトの持つ《クエスト》スキル。
冒険者としては珍しい能力だ。
ローレンが小さく振り向く。
「どうした?」
「いえ、大丈夫です」
アルトは短く答える。
ロイドが前を見たまま言う。
「魔物はすぐに出る」
「警戒しろ」
その言葉の直後だった。
奥の暗闇から音がする。
カサッ……
カサカサ……
何かが動いている。
ミリアが弓を構える。
「来る」
次の瞬間。
影が飛び出した。
「ギャアア!!」
ゴブリン。
一体。
そして——
二体。
三体。
さらに奥から続けて現れる。
ローレンが舌打ちする。
「多いな!」
ロイドが叫ぶ。
「迎え撃て!」
戦闘が始まった。
ゴブリンがロイドへ突進する。
だがロイドは一歩も下がらない。
剣が閃く。
ザンッ!!
一体が倒れる。
ローレンもすぐに踏み込む。
大剣が振り下ろされる。
ズバン!!
ゴブリンの体が吹き飛んだ。
アルトの前にも一体が来る。
「ギャッ!」
短剣を構える。
(落ち着け)
相手は速い。
だが、動きは単純。
ゴブリンが爪を振るう。
アルトは半歩下がる。
空振り。
その瞬間。
アルトは踏み込んだ。
ザシュッ!!
腹を斬る。
ゴブリンが苦しそうに声を出す。
だが倒れない。
(硬い……!)
昨日と同じだ。
普通のゴブリンより体が強い。
その時。
ヒュン!
矢が飛ぶ。
ゴブリンの喉に刺さった。
ミリアだ。
ゴブリンが崩れる。
「助かりました!」
ミリアが言う。
「油断しない!」
その横で別の冒険者が叫ぶ。
「右から来る!」
さらに三体。
ロイドが前へ出る。
「下がれ!」
剣が光る。
連続の斬撃。
ザン!
ザン!
二体が倒れる。
最後の一体はローレンが叩き斬った。
戦闘はすぐに終わった。
地面にはゴブリンの死体が転がっている。
ローレンが息を吐く。
「普通の第一階層より多いな」
ロイドも頷く。
「魔物の密度が高い」
ミリアが死体を確認する。
「やっぱり赤い目」
アルトはそれを見ながら思う。
(ダンジョンの影響……)
その時。
アルトの視界に再び文字が浮かんだ。
⸻
【クエスト進行】
ダンジョン第一階層
魔物討伐数
7 / 30
追加報酬条件
・魔物30体討伐
・変異個体の調査
達成報酬
経験値増加
⸻
アルトは少し驚く。
(討伐数……?)
どうやら、このダンジョン調査では魔物討伐も記録されているらしい。
ローレンがアルトを見る。
「何見てる?」
「いえ……ちょっと」
アルトは誤魔化す。
《クエスト》スキルのことは、あまり知られていない。
ロイドが言う。
「先へ進む」
調査隊はさらに奥へ進んだ。
第一階層の通路は曲がりくねっている。
途中で小さな分岐もあった。
ロイドは壁を調べる。
「まだ新しいダンジョンだ」
「構造が安定していない」
ローレンが聞く。
「崩れる可能性もあるか?」
「ある」
アルトの背中に冷たい汗が流れる。
ダンジョンは危険だ。
魔物だけじゃない。
地形そのものが罠になることもある。
その時。
アルトの胸が強く反応した。
ピリッ——
(来る!)
《危機察知》。
アルトはすぐに言う。
「前です!」
ロイドが剣を構える。
暗闇の奥。
そこから現れたのは——
ゴブリン。
だが。
普通ではない。
鎧を着ていた。
鉄の胸当て。
手には剣。
ミリアが驚く。
「……嘘」
ローレンが言う。
「武装ゴブリン?」
ロイドが低く言った。
「違う」
「これは——」
ゴブリンが叫ぶ。
「ギィアア!!」
その声には、明らかに知性があった。
ロイドの表情が変わる。
「ゴブリンソルジャーだ」
その後ろからさらに現れる。
一体。
二体。
三体。
武装したゴブリン。
アルトの心臓が速くなる。
(強そうだ……)
ロイドが剣を構える。
「戦闘準備!」
ローレンが笑う。
「面白くなってきたな」
ミリアが矢を番える。
「アルト!」
「下がりすぎないで!」
アルトは短剣を握る。
「はい!」
そして——
ゴブリンソルジャーたちが、一斉に突撃してきた。




