第1章 第21話 森の深部
第一章
第21話「森の深部」
森の奥へ進むにつれて、空気が変わっていった。
最初は普通の森だった。
鳥の声。
風の音。
木々のざわめき。
だが——
今は違う。
静かすぎる。
アルトは足を止めそうになる。
(……変だ)
森は生きている。
いつもなら、どこかで動物が動く気配がある。
だが今は——
何もない。
まるで森そのものが息を潜めているようだった。
前を歩くBランクの冒険者が手を上げる。
「止まれ」
全員の足が止まる。
男はゆっくりと地面を指さした。
アルトたちも視線を向ける。
そこには——
無数の足跡。
「……多いな」
ローレンが低く言う。
オークの足跡。
それも一体や二体ではない。
数十。
いや、もっと多い。
ミリアがしゃがみ込んで確認する。
「新しい足跡ね」
「昨日か、今朝」
アルトの背筋が少し冷える。
(こんな数がいるのか……)
もしこの群れが村へ向かっていたら。
昨日の戦いとは比べものにならない被害が出ていたはずだ。
Bランクの男が言う。
「この先に巣がある」
ローレンが顔をしかめる。
「オークの巣か?」
男は首を振る。
「……まだわからない」
その言葉に、少しだけ不安が広がる。
調査隊はさらに慎重に進んだ。
枝を踏まないように。
音を立てないように。
森の奥は薄暗い。
木々が密集し、太陽の光がほとんど届かない。
その時だった。
アルトの胸がピリッと反応する。
(……来る)
《危機察知》。
アルトはすぐに周囲を見た。
「……右」
小さく呟く。
Bランクの男の目が一瞬だけアルトを見る。
そしてすぐに剣を抜いた。
ガサッ!!
茂みから影が飛び出す。
「グォォ!!」
オーク。
だが——
普通のオークより少し大きい。
「強い個体だ」
男が言う。
オークはすぐに突進してきた。
ドンッ!!
ローレンが剣で受け止める。
「ぐっ……!」
重い。
普通のオークより明らかに力が強い。
アルトはすぐに横へ回る。
(背後……!)
オークがローレンへ注意を向けている。
その瞬間。
アルトは踏み込んだ。
「はぁっ!」
短剣を振るう。
ザシュッ!!
脇腹を切り裂く。
「グォッ!」
オークが怒りの声を上げる。
だが、次の瞬間。
Bランクの男が動いた。
剣が閃く。
ズバッ!!
首が落ちた。
オークの巨体が地面に崩れる。
静寂。
ローレンが息を吐く。
「またオークか」
ミリアが周囲を見る。
「数が多すぎるわね」
男はオークの死体を見ながら言う。
「これはただの群れじゃない」
「……集められている」
アルトの胸が強く鳴る。
(やっぱり……)
魔物を集める存在。
昨日から感じていた違和感。
それが少しずつ形になってきている。
その時だった。
森の奥から風が吹いた。
サァァァ……
木々が揺れる。
そして——
その向こう。
アルトの目が見開かれる。
「……あれ」
森の奥に。
ぽっかりと空いた場所があった。
自然にできたものではない。
地面が大きくえぐれている。
まるで——
何か巨大なものが、そこを掘ったような。
ローレンも気づいた。
「なんだあれ……」
ミリアが小さく言う。
「……巣?」
Bランクの男の表情が初めて少し変わった。
「……違う」
そして低く言った。
「これは巣じゃない」
アルトの胸がざわつく。
男はその穴を見つめながら言った。
「……ダンジョンだ」
その言葉に。
調査隊の空気が一瞬で変わった。
ダンジョン。
それは——
魔物が生まれる場所。
普通はもっと大きな街の近くにしか存在しない。
こんな小さな村の森にあるはずがない。
だが。
目の前にある。
地面にぽっかりと開いた巨大な穴。
そこから、冷たい空気が流れ出ている。
アルトの視界に文字が浮かんだ。
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【クエスト更新】
森の異変を調査せよ
進行状況:45%
新目標
ダンジョンの調査
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アルトはゆっくり息を飲む。
(……ダンジョン)
つまり——
森の異変の原因は、これだ…




