第1章 第18話 冒険者ギルドの朝
第一章
第18話「冒険者ギルドの朝」
翌朝。
村の空気は、昨日とはまるで違っていた。
朝の光が村を照らし、鳥の声が聞こえる。
昨日まで漂っていた緊張は消え、代わりに安堵が広がっていた。
「助かったよ、本当に」
村の広場で、木こりの男がローレンに頭を下げていた。
「オークなんて初めて見た……」
「村が無事だったのは、あんたたちのおかげだ」
ローレンは頭をかきながら笑う。
「大げさだって」
だが、表情は少し誇らしそうだった。
アルトはその少し後ろに立っている。
村人たちの感謝の言葉を聞くたび、胸の奥が温かくなる。
(……守れたんだ)
昨日の戦い。
オークリーダーとの死闘。
あれが夢ではなかったことを、今ようやく実感していた。
「アルト」
ミリアが声をかける。
「ギルドに行くわよ」
「うん」
オーク討伐の正式な報告をしなければならない。
そして——
オークリーダー討伐。
それはかなり大きな成果だ。
三人は村の中心にある建物へ向かった。
冒険者ギルド。
木造の二階建ての建物で、村では一番大きい。
扉を開けると——
中はすでにざわついていた。
「来たぞ!」
誰かが言った。
「昨日のやつらだ!」
視線が一斉に集まる。
アルトは少し戸惑う。
昨日までは、ただの新人だった。
だが今日は違う。
「おいおい、本当に倒したのか?」
「オークリーダーだろ?」
「新人が混ざってたって聞いたぞ」
ざわざわと声が広がる。
ローレンが笑った。
「人気者だな」
アルトは苦笑する。
その時。
カウンターの奥から、ギルド受付の女性が出てきた。
「おかえりなさい」
落ち着いた声。
そしてすぐに言った。
「報告をお願いします」
三人はテーブルへ案内された。
ミリアが簡潔に説明する。
「オーク三体を討伐」
「さらにオークリーダー一体を撃破」
受付の女性の手が一瞬止まった。
「……確認ですが」
静かに言う。
「オークリーダーを倒したのは誰ですか?」
ローレンが親指でアルトを指す。
「こいつ」
ギルドの中が一瞬静かになった。
「……新人?」
「本当かよ」
「嘘だろ」
アルトは少し困った顔をする。
受付の女性はアルトをじっと見た。
そして静かに頷く。
「後で死体の確認をします」
「ですが——」
少し間を置いて言った。
「事実なら、正式な功績として記録されます」
ローレンがニヤリと笑う。
「聞いたか?」
アルトは少し照れくさくなった。
その時だった。
アルトの胸の奥が、わずかに反応する。
ピリッ。
(……?)
アルトは思わず振り向く。
ギルドの扉。
誰かが入ってきた。
黒い外套を着た男。
フードを深くかぶり、顔がよく見えない。
男は静かにギルドの中を見回した。
その視線が——
一瞬だけアルトに止まる。
(……なんだ?)
胸の奥がざわつく。
《危機察知》が反応しているような感覚。
だが、敵意は感じない。
男はそのままカウンターへ向かい、何かを小さく話した。
受付の女性の顔色が変わる。
「……本当ですか?」
男は小さく頷いた。
そして静かに言う。
「森の奥で、異常が広がっている」
その言葉に、ギルドの空気が変わった。
「異常?」
「どういうことだ?」
男は振り向く。
フードの奥の目が光った。
「魔物が増えている」
「しかも——」
少し間を置く。
「オークだけじゃない」
アルトの胸が強く鳴る。
ドクン。
ドクン。
昨日感じた違和感。
森の奥の気配。
それが、頭の中で繋がった。
男が静かに言う。
「この森で、何かが起きている」
その瞬間。
アルトの視界に文字が浮かんだ。
⸻
【新クエスト発生】
森の異変を調査せよ
ランク:C+
報酬:???
⸻
アルトは息を飲んだ。
(……C+)
今までより、さらに高いランク。
つまり——
危険度が上がっている。
アルトはゆっくり拳を握る。
森の異変。
その正体を突き止めるための、新しい戦いが始まろうとしていた。




