第1章 第17話 静かな余波
第一章
第17話「静かな余波」
ドォォォン……
オークリーダーの巨体が地面に倒れたまま、もう動かない。
その場にいた誰もが、すぐには動けなかった。
荒い呼吸だけが聞こえる。
「……終わったのか?」
一人の冒険者が小さく呟いた。
ローレンが肩で息をしながら、大剣を地面に突き立てる。
「……たぶんな」
アルトはその場に膝をついていた。
全身が熱い。
腕が震えている。
短剣を握る手も、力が入らない。
(勝った……)
頭ではわかっている。
だが、体がまだ戦いの緊張から抜けていない。
ミリアがゆっくり近づいてきた。
「アルト……大丈夫?」
アルトは少し息を整えてから答える。
「……なんとか」
そう言いながら立ち上がる。
改めてオークリーダーの死体を見る。
やはり巨大だった。
近くで見ると、その圧迫感はさらに強い。
普通のオークの倍以上はある。
ローレンが近づき、足で死体を軽く蹴った。
「完全に死んでるな」
「油断しないで」
ミリアが言う。
「魔物はたまに動くことがある」
ローレンが苦笑する。
「マジかよ」
しかし数秒待っても、オークリーダーは動かなかった。
ようやく冒険者たちの緊張が少しずつ解けていく。
その時。
アルトの視界に文字が浮かんだ。
⸻
【クエスト達成】
オークを撃退する
ランク:C
報酬
敏捷+3
追加報酬
スキル獲得判定
⸻
アルトの目が少し見開かれる。
(来た……)
体の奥に、何かが流れ込む感覚。
一瞬、視界が白くなる。
そして——
新しい文字が浮かぶ。
⸻
【スキル獲得】
《危機察知》
危険が迫った時、微弱な直感として感知する
⸻
アルトは思わず息を飲んだ。
(新しいスキル……)
今までの「クエスト」だけでも不思議だった。
だが、さらにスキルが増えた。
ローレンがアルトの顔を見て言う。
「どうした?」
アルトは少し迷ってから答えた。
「……ちょっとな」
クエストのことは、まだ誰にも言っていない。
説明が難しい。
それに、あまり知られない方がいい気もしていた。
ミリアが周囲を見回す。
「怪我人を確認して」
冒険者たちが動き出す。
幸い、死者はいなかった。
何人かは怪我をしているが、命に関わる傷ではない。
村の家の扉が、少しずつ開き始める。
中から村人たちが顔を出す。
「……終わったの?」
「オークは?」
ローレンが大声で答える。
「もう大丈夫だ!」
その瞬間。
村に歓声が広がった。
「助かった……!」
「本当に……!」
アルトはその光景を見て、胸の奥が少し温かくなる。
(守れたんだ)
ほんの数日前まで、ただの新人だった。
だが今日は——
村を守る戦いに立っていた。
その時だった。
アルトの体が、ふっと反応する。
胸の奥に、微かな違和感。
(……?)
アルトは森の方を見る。
暗い木々の奥。
何かがいるような気がした。
ほんの一瞬。
気配のようなもの。
だが——
次の瞬間には消えていた。
「アルト?」
ミリアが不思議そうに見る。
アルトは首を振る。
「……いや」
気のせいかもしれない。
だが。
さっきの感覚。
(危機察知……?)
新しく得たスキルが、反応したのかもしれない。
アルトはもう一度森を見る。
静かだった。
何も動いていない。
だが——
アルトの胸の奥には、小さな違和感が残っていた。
森の異変。
それはまだ終わっていない。
そんな気がした。
遠くで、風が木々を揺らす。
サァァ……
その音の奥で。
何かが静かに動いていることを、アルトはまだ知らなかった。




