第1章 第12話 報告
第一章
第12話「報告」
森から村に戻る頃には、太陽はすでに高く昇っていた。
アルトは村の門をくぐると、ようやく大きく息を吐いた。
「……はぁ」
全身の力が抜ける。
森の外に出てからも、ずっと気を張っていたらしい。
足が少し震えている。
「……まじで死ぬかと思った」
あの巨大なオーク。
普通のオークとは明らかに違った。
体格。
力。
威圧感。
どれをとっても、今のアルトでは太刀打ちできる相手ではない。
アルトは空を見上げた。
青空が広がっている。
さっきまでの森の重苦しい空気が嘘のようだった。
だが——
あの魔物は確実に森の中にいる。
「……ギルドだな」
アルトは呟く。
あれは新人冒険者が相手にする魔物ではない。
放っておけば被害が出るかもしれない。
アルトは村の中央へ向かって歩き出した。
⸻
村の中心には、大きな木造の建物がある。
入口の上には、剣と盾の紋章。
冒険者ギルド。
冒険者たちが仕事を受けたり、報告したりする場所だ。
アルトは扉を押し開けた。
ギィ、と音がする。
中はいつも通り賑やかだった。
数人の冒険者がテーブルで酒を飲んでいる。
装備を整えている者もいる。
アルトはまっすぐ受付へ向かった。
受付の奥には、いつもの女性がいた。
栗色の髪を後ろでまとめた女性。
名前はミリア。
この村のギルド受付をしている人だ。
ミリアはアルトを見ると少し驚いた顔をした。
「アルト?どうしたの?」
アルトは息を整えながら言った。
「森の奥で……変な魔物を見ました」
その言葉に、ミリアの表情が変わった。
「変な魔物?」
アルトは頷いた。
「巨大なオークです」
ギルドの空気が少しだけ変わった。
近くのテーブルにいた冒険者がこちらを見る。
ミリアは真剣な顔になった。
「詳しく話して」
アルトはゆっくり説明した。
森の奥の足跡。
潰されたゴブリン。
折れた木。
そして——
巨大なオーク。
ミリアは黙って聞いていた。
話が終わると、小さく息を吐く。
「……なるほど」
ミリアは少し考え込んだ。
そして言う。
「普通のオークじゃないかもしれない」
アルトは眉をひそめた。
「普通じゃない?」
ミリアは頷いた。
「オークにもいくつか種類があるの」
「普通のオークより強い個体もいる」
アルトは少し嫌な予感がした。
「……例えば?」
ミリアは静かに言った。
「オークファイター」
「オークウォリアー」
「……そして」
少し間を置いて。
「オークリーダー」
アルトは息を呑んだ。
「リーダー……」
ミリアは続ける。
「オークの群れのボスよ」
「普通のオークより遥かに強い」
アルトは森で見た姿を思い出す。
三メートル近い体。
圧倒的な力。
「あれ……多分それです」
ミリアは腕を組んだ。
「だとしたら問題ね」
「オークリーダーがいるなら、群れがいる可能性がある」
アルトは思わず言った。
「群れ?」
ミリアは頷く。
「オークは単独で行動することもあるけど、リーダーがいる場合は別」
「群れを作るの」
ギルドの中が少しざわついた。
近くにいた冒険者が会話に入る。
「本当か?」
大柄な男だった。
この村では中堅の冒険者だ。
ミリアはアルトを見る。
「場所はどの辺?」
アルトは森の奥の場所を説明した。
男は少し考えてから言った。
「……確かにあの辺は最近静かだったな」
別の冒険者も言う。
「ゴブリンも減ってた」
ミリアは小さく頷いた。
「つまり、可能性は高い」
アルトは少しだけ不安になった。
「……どうするんですか?」
ミリアは答える。
「調査隊を出すわ」
「数人の冒険者で森を調べる」
そしてアルトを見る。
「アルト、よく報告してくれたわ」
アルトは少し照れくさくなった。
「……たまたまです」
その時だった。
アルトの視界に文字が浮かんだ。
⸻
【クエスト達成】
森の異変を報告する
ランク:D
報酬:スキル経験値+50
⸻
アルトの目が少し見開かれる。
「……Dランク?」
今までで一番高いランクだ。
体の奥に、少し強い力が流れ込む。
アルトは拳を握った。
「……また強くなった」
ミリアは不思議そうに見る。
「どうしたの?」
アルトは慌てて首を振った。
「なんでもないです」
クエストのことは言えない。
アルトは少し考えた。
このスキル。
まるで——
未来を知っているようにクエストを出してくる。
森の調査。
報告。
全部つながっている。
アルトは心の中で呟いた。
「……このスキル」
いったい何なんだ。
だが今は考えても仕方ない。
アルトはギルドを出た。
外は夕方になりかけていた。
風が少し冷たい。
アルトは森の方を見た。
あの奥には、まだあの魔物がいる。
アルトは拳を握る。
「……もっと強くならないとな」
次に会った時。
逃げるだけでは終わりたくない。
アルトはゆっくり歩き出した。
その背後で。
森の奥では——
低い咆哮が響いていた。
「グォォ……」
そして、その近くには。
もう一つの影が動いていた。




