第1章 第11話 森の奥へ 前編
9話までの話は少しずつ変えていくつもりなので…すいません
第一章
第11話「森の奥へ」
前編
村を出たとき、空はまだ朝の色をしていた。
東の空からゆっくりと昇る太陽が、森の上を淡く照らしている。
アルトは村の門をくぐり、ゆっくりと森へ向かって歩いていた。
腰には短剣。
背中には小さな袋。
そして頭の中には、今日のクエストのことがあった。
森の奥の調査。
それは今までのクエストとは少し違っていた。
討伐でもない。
採取でもない。
調査。
アルトは歩きながら小さく呟いた。
「……調査って言ってもな」
何を探せばいいのか。
どこまで行けばいいのか。
スキルはそこまで教えてくれない。
だが、それでも行くしかない。
アルトは森の入り口に立った。
見慣れた森。
だが今日は、少しだけ違って見えた。
「……行くか」
アルトは一歩踏み込んだ。
⸻
森の中は、朝の光が木々の間から差し込んでいた。
葉が揺れる音。
遠くで鳴く鳥の声。
落ち葉を踏む音。
普段と変わらない景色。
だがアルトは慎重に歩いていた。
森の奥へ行くほど、魔物は強くなる。
それは冒険者なら誰でも知っていることだ。
アルトはゆっくりと進む。
目を凝らす。
耳を澄ます。
そして周囲の気配を探る。
その時だった。
「……?」
アルトは足を止めた。
違和感。
何かがおかしい。
アルトは周囲を見回した。
木。
草。
岩。
特に変わったものはない。
だが——
「……静かすぎる」
森なのに、音が少ない。
鳥の声が遠い。
虫の音もほとんど聞こえない。
まるで森全体が、何かを警戒しているようだった。
アルトは眉をひそめた。
「気のせい……か?」
そう思いながらも、慎重に進む。
しばらく歩くと、地面に何かが落ちているのが見えた。
アルトは近づいた。
それは——
折れた木の枝。
だが普通ではない。
太い枝が、力任せに折られたような跡だった。
アルトはしゃがみ込んだ。
枝を触る。
まだ新しい。
「……誰かが折った?」
いや。
人間ではない。
こんな太い枝を素手で折るのは難しい。
アルトはゆっくり立ち上がった。
そしてその周囲を見渡す。
すると——
見つけた。
地面に残る足跡。
「……これは」
アルトは目を細めた。
足跡は大きい。
人間のものではない。
ゴブリンでもない。
それよりもずっと大きい。
しかも——
一つや二つではない。
いくつもある。
森の奥へ続いている。
アルトの背筋に、わずかな緊張が走った。
「……魔物か」
しかも、普通の魔物ではない可能性がある。
アルトは足跡を追うように歩いた。
慎重に。
できるだけ音を立てないように。
森はだんだん暗くなっていく。
木が密集している。
風も弱い。
そして——
さらに静かだった。
アルトは短剣に手をかける。
その時。
ガサッ
茂みが揺れた。
アルトは瞬時に構える。
心臓が強く鳴る。
「……誰だ」
だが返事はない。
もう一度、茂みが揺れた。
そして飛び出してきたのは——
ウサギだった。
アルトは小さく息を吐いた。
「……驚かせるな」
ウサギはすぐに森の奥へ逃げていった。
アルトは苦笑する。
だが、気を抜くことはできない。
森の奥は、いつ何が出てもおかしくない。
アルトは再び歩き出した。
足跡はまだ続いている。
そして少し進んだ時だった。
アルトは立ち止まった。
目の前の光景に、思わず息を飲んだ。
そこには——
倒れた木。
しかも一本ではない。
二本。
三本。
まるで何か巨大なものが暴れたように、木が折れていた。
アルトはゆっくり近づいた。
折れた幹を触る。
硬い。
それでも真ん中から折れている。
「……こんなの」
普通の魔物では無理だ。
アルトの胸の奥で、警戒が強くなる。
その時だった。
ズシン
遠くから重い音が響いた。
地面がわずかに揺れる。
アルトの体が固まる。
「……今の」
耳を澄ます。
森は静かだ。
だが確かに聞こえた。
重い足音。
アルトはゆっくりと顔を上げた。
足跡。
折れた木。
静かな森。
それらが一つの答えを指していた。
この森には——
何か巨大な魔物がいる。
アルトの喉が少し乾く。
だが目は逸らさない。
むしろ——
少しだけ胸が高鳴っていた。
恐怖。
そして同時に。
冒険者としての興奮。
アルトは短剣を握り直した。
「……調査、か」
クエストの言葉が頭に浮かぶ。
アルトはゆっくりと森の奥を見つめた。
そして——
一歩踏み出した。




