第1章 第10話 日常そして「実感」
今更ですが9話までの話を変更したくなってきました…
すいません…
第1章
第10話 日常そして「実感」
朝の空気は、まだ冷たかった。
村の屋根の上には薄く霧がかかり、太陽はゆっくりと昇り始めている。
アルトは自分の家の扉を開け、外に出た。
「……今日もいい天気だな」
大きく伸びをする。
体は軽い。
数日前までの自分とは違う感覚だった。
それも当然だ。
クエストの報酬で、少しずつ体が強くなっている。
まだ大きな変化ではない。
だが、確実に何かが積み重なっている。
アルトは小さく息を吐いた。
その時——
頭の奥に、いつもの感覚が訪れた。
まるで誰かが静かに扉を開くような、不思議な感覚。
そして、視界に淡い光の文字が浮かび上がる。
⸻
【本日のクエスト】
① 村の井戸から水を10杯汲む
ランク:F
報酬:小銅貨2枚
② 村の外の森で薬草を3本採取する
ランク:F
報酬:体力+1
③ ゴブリンを1体討伐する
ランク:E
報酬:スキル経験値+10
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アルトは少し考えた。
「……いつも通りか」
だが、よく見ると少し違う。
討伐クエストがある。
しかもEランク。
最初の頃は、こんなものは出なかった。
掃除。
荷物運び。
薪割り。
そんなものばかりだった。
それが今では、魔物討伐が普通に出てくる。
「俺が強くなってるからか……?」
スキルは答えてくれない。
だが、そう考えるのが自然だった。
アルトは軽く頭をかいた。
「まあいいか。やるだけだ」
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まずは井戸だ。
村の中心にある石造りの井戸。
朝早い時間だが、すでに何人かの村人が水を汲んでいる。
アルトは桶を持った。
「おはよう、アルト」
声をかけてきたのは、パン屋のおばさんだった。
「おはよう」
「今日も仕事かい?」
アルトは少しだけ笑った。
「まあ、そんなところ」
スキルのことは誰にも話していない。
言っても信じられないだろう。
アルトは桶を井戸の中に落とした。
水の音が響く。
そして引き上げる。
一杯目。
それを大きな桶に移す。
二杯目。
三杯目。
「……十杯か」
思ったより多い。
だが、体は以前より楽だった。
昔なら腕が疲れていたはずだ。
五杯。
六杯。
七杯。
汗は少しかくが、苦しいほどではない。
九杯。
そして——
十杯目。
その瞬間、視界に文字が浮かぶ。
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【クエスト達成】
村の井戸から水を10杯汲む
報酬:小銅貨2枚
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アルトは小さく頷いた。
「よし」
小さな達成感。
それだけでも少し嬉しい。
だが今日はまだ始まったばかりだ。
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次は森だ。
村の外にある小さな森。
薬草も魔物もいる。
初心者の冒険者がよく来る場所だった。
アルトはゆっくり森の中へ入る。
木々の間から光が差し込む。
鳥の声。
風の音。
落ち着く場所だ。
「まずは薬草だな」
薬草は見慣れている。
緑の葉に細い白い筋。
根元が少し赤い。
アルトはしゃがみ込んだ。
ナイフで丁寧に切る。
「一本」
袋に入れる。
少し歩く。
また見つける。
「二本」
そして——
「三本」
その瞬間。
視界に文字が浮かんだ。
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【クエスト達成】
薬草を3本採取する
報酬:体力+1
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体の奥がほんのり温かくなる。
アルトは腕を動かした。
「……やっぱり少し強くなるな」
まだ小さい変化。
だが確実な変化。
アルトは袋を閉じた。
残るクエストは一つ。
ゴブリン討伐。
アルトは森の奥へ歩き出した。
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ゴブリンは弱い魔物だ。
だが初心者が油断すると危険。
群れで襲ってくることもある。
アルトは周囲を警戒する。
落ち葉を踏む音。
風の音。
耳を澄ます。
すると——
「ギィ……」
小さな声。
アルトは足を止めた。
茂みの向こう。
そっと覗く。
そこにいた。
ゴブリンが一体。
地面を掘って何かを探している。
アルトは短剣を抜いた。
心臓が少し速くなる。
何度か戦ったが、まだ慣れてはいない。
「……落ち着け」
深呼吸。
一歩。
二歩。
そして——
走る。
「はっ!」
ゴブリンが振り向く。
「ギィ!?」
アルトは横から斬りつけた。
だが——
ゴブリンは後ろに跳んだ。
「チッ」
避けられた。
ゴブリンが棍棒を振り上げる。
「ギャア!」
振り下ろされる。
アルトは体を横にずらした。
棍棒が地面を叩く。
その瞬間。
アルトは踏み込んだ。
「っ!」
短剣が突き出される。
ザシュッ
ゴブリンの胸に刺さった。
ゴブリンの体が震える。
そして倒れた。
静寂。
アルトは息を吐いた。
「……勝った」
視界に文字が浮かぶ。
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【クエスト達成】
ゴブリンを1体討伐する
報酬:スキル経験値+10
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アルトは短剣を拭きながら、ゆっくり呟いた。
「……最初より戦えるようになってるな」
確実に。
少し前の自分なら、もっと苦戦していた。
クエスト。
報酬。
そして経験。
それがアルトを変えていた。
森の風が吹く。
アルトは空を見上げた。
「……このスキル」
いったい何なんだろう。
誰が与えたのか。
何のためなのか。
答えはまだない。
だが一つだけ分かっている。
この力は——
俺の人生を変え始めている。
アルトは剣を腰に戻した。
そしてゆっくりと村へ歩き出した。




