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俺しかできないパワー特化型転生ライフ  作者: コータ


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7/7

あなたが必要です

 ジャンプはわりと飛距離が出ている。


 ただ、みんながいる場所まではちょっと足りない。


 でも別に構わなかった。実はシーダに見せたいものがあったから。


「ちょっとだけ、寄り道してもいいですか」

「……はい。構いませんが、どちらに?」

「少しばかり、今後の手伝いができればと」


 彼女はハッとしてこちらを見つめた。


 ちょっと誤解させちゃってたら申し訳ないが、俺は仲間になろうとしたわけじゃない。


 ただ、パワーファンタジーと全く同じこの世界で、役立つ情報を可能な限り教えておきたかったんだ。


 ようやく地上に着地した俺は、草原の上でシーダを下ろした。なんだかポカンとしている。


「ほ、本当に……無傷なのですね」

「ええ。丈夫なことが取り柄なんで。はっはっは!」


 暇さえあれば筋トレとモンスター退治を繰り返しているので、防御力もだいぶ上がっている。だからこのくらいのジャンプはなんてことない。


 草原を少しだけ進むと、小さな祠がある。後ろについていた彼女が、ハッとして前に出た。


「これは……精霊の祠! もしかして、ガイ様はすでに星の振り分けを!?」

「はい。この夏の間、ずっとやってました。最初は全然効果を感じなかったんですが、今はけっこう効いてます」


 この世界で戦いに生きる者にとって、星の振り分けは欠かすことができない重要なもの。


 さっき話していた限り、すでにシーダは振り分けをしているだろうと思っていた。


 実際のところ、どうなのだろうかと気になっている。


「シーダ様は、何度か祠を利用されていますか」

「はい。まだ少ししか、振り分けていないのですが」

「なるほど。俺は二十回くらい振り分けているので、経験論と言いますか、多少の助言ならできると思います。それで、ここに寄り道したんです」


 もしかしたら、余計なおせっかいもいいところかも。


 でも、こっちよりずっと身分が高い令嬢は、嫌な顔一つしていなかった。


 ……いや、なんか驚いてるな。


「二十回!? そ、それは……今年の夏だけではなく、以前から続けられていたということですか」

「いえ。この一ヶ月です」

「え!?」


 めっちゃ驚いてる。まあ、けっこうハイペースで飛ばしちゃったところはあるけど、そんなにビックリすることかなぁ。


「信じられません。あの、宜しければ……私の振り分けをお見せするので、ガイ様のも見せていただけますか」

「はい。大丈夫です。元々そのつもりです」


 まあ、彼女はまだこの世界の仕組みに慣れていないようだから、ビックリするのも無理はないのかも。


 すぐに俺たちは、それぞれのステータスを見せ合うことになった。幾分興奮しているシーダ嬢が、ちょっと慌てつつ祠に手をかざす。


 すると、淡い光と共に落ち着いた声が響いた。


『見ない顔だな。汝、何を求めるか』

「成長率を確認させてください」

『よろしい』


 直後、精霊の声と共に、彼女の成長率の割り振り画面が表示される。以下のような内容となっていた。


 ============

 シーダ・フォン・グローヴァ

 光を継ぐ者


 HP:☆☆

 MP:☆☆

 パワー:☆☆

 マジック:☆☆

 タフネス:☆☆

 スピード:☆☆

 クレバー:☆

 ラック:☆

 ============


 なるほど、こういう割り振りか。


 スターについてだが、MPとマジックについては適正がある人だけ振り分けが可能だが、他は基本的には最初から一つは必ずついているものだ。


 そう考えると、現在のところシーダはスターを六個手に入れ、パワーから均等に分配しているらしい。


 多分次にスターが手に入ったらクレバーを上げて、その次はラックの成長率を上げるつもりでいるのだろう。


 俺はホッとした。今のタイミングで気がついて良かった。


 ハッキリ言おう。彼女はこの世界の罠にハマっている。


『な、何? 光を継ぐ者だと!?』

「きゃ!?」


 俺が考え事をしている間に、精霊が彼女のステータスを見て騒いでる。うるさいなもう。


「シーダ様。スターボードをお見せいただき、ありがとうございます。今後も全ての能力値を均等に割り振っていかれる予定、ということで合ってますか?」

「はい。バランス良く上げていければ、この先困らないと考えてます」


 いけない。この発想はいけない。


 このままでいけば、彼女は必ず詰み状態に陥ってしまうこと間違いなし。


 俺がなんとか軌道修正をしなくては、世界が大変だ。


 その前に一つコホンと咳払い。まずは息を整えた。


「実は俺、スターボードについては有識者なんです。いくつも文献を漁ったり、とにかくひたすら調べました」

「そうなのですね」

「なので、どういった割り振りが正しいか、知見があるつもりです。いいですかシーダ様、成長率を均等に振っていたら、今後敵が強くなるにつれてどんどん苦しくなりますよ」

「え?」


 目を丸くする金髪少女。なんとも可愛い反応をされるので、ちょっと楽しくなってくる。


「成長率というものは、尖っていれば尖っているほど役立つのです。つまりこのステータス! と決めたらそれをひたすら高める。それこそが強者への近道となります」

「で、でも……そうしたらバランスが悪くなっちゃう」


 おっと。やはりバランスにこだわる人だ。


 しかし、ここで熱弁を止めるわけにはいかない。彼女のために。


「ステータスによってはそうなります。しかし、ある一つのステータスを高めまくってしまえば、もう何の問題も要らなくなるのです。あなたはたった一つを、極限まで高めればそれで万々歳です!」

「そのたった一つのステータスって」

『お、おい。お前……まさか』


 ん? どうした精霊。っていうか普通に喋れたのが地味に驚きなんだけど。


「精霊よ、今度は俺のスターボードを見せてくれ」

『……承知した』


 精霊の声がいつになく重いのは気のせいだろうか。


 スッとシーダの板は消え、続いて俺のスターボードが草原に映し出される。わずか三秒の出来事である。


「これは……!」


 陽光に輝く金髪を揺らしながら、令嬢が驚きで固まっている。


「とても……大胆……ですね」


 ん? なんか引いてない?


「ええ。一見すると極端な振り分けに見えるでしょう。しかしながら、この振り分けこそ、この世界で強くなる最適解なんです」

「最適解……」

「そうです。成長率というものは、均等に上げようとすればするほど、あまり効果が望めない状況になってしまうんです。この話は冒険者ギルドに行けば誰もが納得しますよ。だから彼らも、多少は偏った振り分けをしています。しかし、まだ足りない。まだ全然足りない偏りなんです。あれじゃ勝てない!」


 パワーファンタジーに登場する魔物は、後半になるほどエゲツない。平均的な伸ばし方をした仲間ほど、後々役に立たなくなってしまう。


「一つを極めることが大事です。ですが、タフネスを上げても敵が倒せなくジリ貧になるばかり。スピードを上げても、やはり力が足りず決定打に欠ける。HPやMPなどもはや論外。クレバーやラックもまた、極振りすればひ弱な存在になってしまう」


 俺は彼女の周りを歩きながら熱弁する。ここで意を決してもらわないと、これから大変な苦労をすることになるからだ。


「マジックはパワーの次に良いかもしれませんが、これだけ上げていくのは極めて難しい。結局のところ、パワーしかありません。パワーさえ上げ続けていけば、後半になるほど爆発的な強さを手に入れられるんです!」


 よし。これだけ語ればきっと、シーダ嬢にもパワーの素晴らしさが伝わっただろう。そう思い振り返ると、彼女は呆然としていた。


「で、でも。パワーだけを上げてしまったら、他の能力値の成長が遅れてしまいますよね?」

「はい。ですから最初は苦労します。というか何度も死にかけます。でも最後に笑うのはパワーですよ。シーダ様、あなたも今日から、パワーに全振りしましょう」

「……そうなの…ですね。ご教授ありがとうございます。考えておきます」


 むう……あまり響いてないな。これはどうしたことか。


 もしかしてただドン引きされてしまったのだろうか。そう心配した俺だったが、どうやら杞憂だったらしい。


「私のために、いろいろと教えてくれるのですね。あなたの熱意が伝わりました。ガイ様……私にはやっぱり、あなたが必要です」


 えええ……それはちょっと。俺としては、ご遠慮したい決意を感じてしまう。


 爽やかな風で金髪が揺れ、自然に包まれた笑顔が眩しく輝いていた。

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