夏休みの仕上げ
「は! は!」
シーダが誘拐された事件から、はや二週間が過ぎた。
そろそろ夏休みも終わろうとしてる。
俺は最後の追い込みとばかりに、バルドール邸地下でベンチプレスをしていた。
ここは全く使われていない物置きも同然の部屋だったので、改造してウエイトトレーニングができるようにしたんだ。
ちなみに最初は庭でやろうとしていたんだけど、ファティマ兄さんに「ここは外からでも見える。恥ずかしいからやめろ」と注意されたっけ。
最初は面倒だったが、地下でやったほうが集中できて良いことに気づいた。今では二日から三日おきにここにきては、程よいトレーニングを行なっている。
でも、自作のバーベルの負荷が物足りなくなってきたなー。とはいえ、もうバーベルの両方につけている重りが限界に達してる。
それにウエイトトレーニングをするなら、やっぱりパートナーが欲しいなぁ。
一人でするのはやっぱ危ないし。
うちの護衛騎士達に頼んでもいいんだけど……と、今後のトレーニングプランに悩んでいると、階段を降りてくる足音が聞こえた。
「ぼっちゃま、お手紙が届いています」
「お! シーダからか」
実はここ最近、シーダと手紙のやり取りをしているんだ。
内容としては、まあ普通の友達に送るようなものと一緒だと思う。基本的には雑談ばかりなんだけど、こっちの街に関することが多い気がした。
ちなみに、手紙を俺のところに持ってくるのは決まってカタリナで、さらにはなぜか手紙の中まで一緒に読もうとしてくるんだけど。
「紳士にとって、手紙のお返事というものは大事です。私はまだ、ぼっちゃまの教育を解かれておりませんので」
「は、はあ。そういうもんかなー」
でも、もうお見合い的なものは終わったと思うんだが。不思議だなぁと思いつつ、今日も手紙の返事を書くことにした。
まあ大体雑談なんだが、必ず俺はスターボードのことについてと、筋トレについて新たな情報を添えるようにしてる。
この時期が大事だから、と念を入れて最後に書いておく。彼女は人類の希望であり、変な成長をされたら困ってしまうからだ。
ちなみにだが、光の紋章の所持者には特別な特典がある。その中の一つに、スターの振り直しというものがある。
ただ、振り直しはある一定の時期を過ぎて、ある強さまで到達してなければ実行できない仕組みだったと記憶してる。それと、できるのは一回限りだったような。
俺としては、最初に均一に振ってしまったいくつかも、後々全部パワーに割り振ってもらいたいと思っている。
だから手紙の後半には、大体の場合「筋トレ頑張ろうね」とか「成長率はパワー、これを忘れずにね」という記載を必ず入れるようにした。
でも、不思議なことに手紙の返事では、あまり筋トレやスターの振り分けについては触れてこない。
一体どうしてかな、なんて思っていた時だ。なぜかうちのメイドが小さく震えた。
「く……」
「ん? どうした?」
「いえ……とても仲が良さそうに見受けられましたので」
「え? なんか嫌そうだけど、いいことじゃないの?」
「そう、ですが」
最近カタリナの様子が変な気がする。
っていうか、なぜかデートの特訓をたまに続けているし。朝はやけに優しい声で起こしに来たりするし。
仕事が忙しくて疲れてんのかもしれない。またはストレスかな?
カタリナにも筋トレを教えたほうが良いかもしれないな。そう考えつつ、手紙を書き終えた俺は、飯を食ってから外へ出かけた。
◇
『な、なあ……本当にいいんだろうな。これで』
「ああ、問題ない! やってくれ!」
そしていつもの草原へ。
いつも祠でスターボードを表示させてくれる精霊が、ドン引きしながら二度目の確認をしてきた。
問題ないに決まってるんだけど、常識という鎖に縛られちゃってるようで、どうも歯切れが悪い。
『……割り振ったぞ』
「ありがとう! おお、これは」
そしてスターボードは、以下のような感じになった。
============
ガイ・リー・バルドール
筋肉に狂った鈍感男
HP:☆
MP:-
パワー:☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
マジック:-
タフネス:☆
スピード:☆
クレバー:☆
ラック:☆
============
「よーし! 順調順調……って、なにこの肩書き?」
『……さあ?』
精霊のやつ、めっちゃ適当な返事なんだが。
このステータスの肩書きって、原作でもコロコロ変わるようになってたんだ。
スターの振り分けや戦闘結果、どんな言動をしているかなど、いろいろな条件で変化するようになってる。
筋肉に狂った、というのは若干語弊がありつつもまあ分かる。でも鈍感については覚えがないので、これは不思議な変化だった。
ただ、原作でも謎だらけの部分だったので、今考えたところで答えが出そうもない。
とりあえず家に帰って、もう一度筋トレしてみた。すると、わずかに重みを感じていたはずのバーベルが、すでに軽くてしょうがない。
新しい負荷をつけるために、いろいろ工夫をしなくてはいけない。こういうのは面倒に感じる人もいるかもしれないが、俺は楽しかった。
せっかくなので、次の日から護衛の騎士達も仲間に入れて鍛えたりした。
なかなかに充実していた日々だったけど、自由に溢れた時間はもうすぐ終わる。
あっという間に夏休みが終わり、しばらくぶりに学園に通うことになったのだ。
原作ではこの後すぐに、俺は殺されてしまう運命が待っている。
だが、そうはならない強さには達したつもりだ。どちらかというと、同級生に会うことのほうが憂鬱になっていた。
……と言っても、ほとんどの人は特に問題ないんだけど。若干一名だけヤバい人がいる。
俺がしがない悪役モブだとすれば、あいつはそれ以上。しかも席は俺の一つ後ろだから、会わないわけにいかない。




