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俺しかできないパワー特化型転生ライフ  作者: コータ


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王子と伯爵

 端正な顔立ちと長身は王族譲りであり、男は誰より優雅な振る舞いをしていた。


 彼の名前はアーソンといい、ここイルザーク王国の第四王子にあたる。


 肩まで伸びている燃えるような赤髪が、イルザーク王家の人間であることを主張している。


 彼はこの日、華やかな王都を離れて辺境近くへと住まいを移すことになっていた。


 国王や兄弟、家臣達と挨拶を終え、見送りの儀が終わろうとしている。


 長い別れの言葉が終わり、幌馬車に乗り込むと、彼はだらしなく寝っ転がった。


「はあ。くだらぬ儀式だったな」

「皆、王子との別れを惜しんでいたのでございましょう」


 側には、彼と同じくして辺境付近に送られる老貴族がいた。世話係ともいう。


「何が惜しんでいるものか! この俺をさっさと厄介払いしたいという気持ちが顔に出ていたではないか。目が腐っているような奴らだ。お前には分からんのか」


 人目についていた時とは、まるで違う言動である。先ほどまで彼は、聖人のように清らかな仕草や言葉遣いをしていた。


 アーソンの本性を知る老貴族は、慌てたように苦笑するばかり。


 多くの護衛を引き連れた馬車の旅は、それから一週間ほど続いた。


 幾度かを宿で過ごし、アーソンは徐々に田舎に変わっていく風景にうんざりしているようだった。


「俺ともあろう男が、このような地味な世界で、退屈な日々を過ごさねばならんのか。爺……今からでも戻れぬかな?」

「なりません王子。あれだけの盛大な見送りをいただきながら、舞い戻るなどということがいかに恥となるか」

「辺境の学園などに通うほうが、余程恥ではないか!」


 彼は自分が、父や世間から過小評価されている気がしてならなかった。兄達よりも自らのほうが優れていると、本気で思い込んでいる。


 有能なこの身を王都の学園ではなく、田舎に向かわせるとはどういう了見か。


 彼は自分が自惚れているとは思っていない。もっと認められたい、名声が欲しいという気持ちは、もはや飢えていると表現しても良いほどだ。


 一度前もって自らが通うことになる、リューク学園に挨拶に出向いたのだが、彼の期待している世界とは大きく違っていた。


(どれを取っても、王都膝下の学園とは比較にならぬ。この俺が、凡庸な場所で貴重な時間を浪費して良いはずがない)


 学園の教師達にはまさに優等生と言える振る舞いをしながら、心の中では悪態が止まらない。日に日に王子の不満は募っていく。


 ようやく新しい家に落ち着いた時も、彼は不満を口にした。


「家が狭すぎる。そこらの下等貴族と変わらぬではないか。俺が住む以上、誰よりも広い家でなくてはだめだ」


 アーソンの世話を頼まれた人々は、こういった要求に困り果てていた。どうにかして新しい家を準備しても、何か一部でも不満があると声を荒げてしまう。


 それだけではない。彼は美少年前とした見た目からは想像できないほど、性的欲求が強い男でもあった。


 決して噂にならぬよう、若い女を準備するにも骨が折れる。


 ある時、とうとう世話係を任されていた老貴族は倒れてしまう。気苦労が続き、老人はそのまま息を引き取ってしまった。


 しかし、長年連れ添った者が亡くなっても、アーソンは特に気にする様子もなかったという。


 むしろ、新たな世話係が自分の要求を思いどおりに叶えてくれたので、喜んでいたほどである。


 この新たな世話係というのが、辺境では名の通った貴族であるらしい。


 まだ歳こそ二十代だが、社交界や財政界でも頭角を現している、長身痩躯の男だ。


 だが、その実態をよく知る者はいない。この地方における人脈に詳しいガイの両親も、これまで聞いたこともない男であった。


 ある日急に成り上がってきたその男……パペッティア・ツー・ドルムンドを、アーソンはとにかく気に入っていた。


「パペッティアよ。お前は本当に有能な男だな。田舎の伯爵などやらせておくには惜しい存在よ」

「もったいないお言葉です。ところでアーソン様、今宵お伺いしたのは……貴方様の望みを叶える最上の方法をお伝えするためでございます」

「何だと? お前にこの俺の望みが分かるというか」


 王子は要望どおりの豪華な広間で、パペッティアが連れてきた女二人の肩を抱きながら、話の続きを待っていた。


「はい。私には理解できておりますよ。短い期間ではありますが、ご一緒しておりましたのでね。貴方様の望みは、やがて王国を納めること。そして史上最も素晴らしい国王として、歴史に名を刻むこと」

「なぜ、そう思うのだ? 俺は辺鄙な町を支配するだけで充分、と考えているやもしれんぞ」


 心にもないことを、王子は口にした。若き貴族は笑顔のままだ。


「私の経験からくるものが大きいのですが……。なんと申しましょうか。アーソン様からは、強く偉大な野心を感じるのです。貴方様ほどの方が野心を持つとするならば……それはイルザークの王。……いいえ、この世界の王ではないかと」

「この世界の王だと?」


 アーソンはハッとした。まるで想像もしていないことを、この貴族は口にしている。


「ええ。そしてアーソン様ほどの才覚がおありならば、イルザークだけではなく、世界ごと手に入れることは造作もない……と私には見えるのです」

「本気でそのようなことを……」

「はい。間違いありません。貴方ならば可能です。私がその為の道を準備することも、難しいことではありませんよ」


 王子は驚愕していた。初めこそ、イルザークの世継ぎの話だとばかり思っていたのに。


 気がつけば世界の覇王という、馬鹿馬鹿しいまでに巨大な夢想に飛躍している。


 側にいた女達は、心の奥では二人の会話を気味悪がっていたが、決して顔に出すわけにはいかなかった。


 もしパペッティアの機嫌を損ねれば、彼女達は何をされるか分かったものではない。


「準備だと? なぜお前がそこまでする必要がある? お前は俺が在学中の世話をする……それだけの役目だろう」

「私にも、野心があるのですよ」


 男の目は本気だとばかりにギラついていた。お互いに外では聖人を装う二人の、意志が伝わり合うかのような、奇妙な間が部屋に訪れた。


「世界を手にした方のお側にいれば、ほぼ世界を握ったも同然。そこに至るまでの道筋は、この目に見えております」

「妙な話だな。ならば自分でやれば良かろう」

「残念ながら、私の身分では力が足りません」

「だから俺を、というわけか」


 アーソンは興奮を隠すことに精一杯であった。疑っているような素振りをしながら、完全に目の前にいる男に心を奪われている。


 しばしの時間が過ぎた後、彼は高らかに笑った。それが了承の意味であることに、室内にいた誰もが気づいている。


「良かろう。お前の道筋とやらを話してみよ。面白そうなら、乗ってやっても構わんぞ」

「心より、お礼申し上げます。ただ、その前に一つだけ……片付けねばならないことがございまして」

「ん? なんだ?」


 新たな世話係となった貴族は、先ほどまでとは打って変わり、困惑が顔に出ていた。


「光の紋章を持つ者について、アーソン様はご存知でしょうか。かの者が、覇者たる道への大きな障害になるという、にわかには信じ難い事実がございまして……」

「な、なんだと? どういうことだ?」


 なぜユーガスト大陸に伝わる英雄の伝承が、今回の話に登場するのか。


 王子はいつの間にか話にのめり込んでいた。


 欲に塗れた権力者は、自らの障害を排除することを躊躇しない。たとえどんな相手であろうとも。


 パペッティアは強欲な人間の浅ましさを、誰よりも理解していた。

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