粉砕
どうにか間に合ったようだ。シーダは拘束されてはいるが無事だった。
ここに来るまでなかなか大変だったけれど、カタリナの索敵と感知能力により場所を探り当てることができたんだ。
でも、思った以上に遠くまで来ちゃったなぁ。
場所はバルドール領地の南東にある森の、さらに奥にひっそりと佇む廃屋だった。
普通に探してたんじゃ、絶対にわかりっこない場所である。道中でグローヴァ家のみんなと会えたけど、めちゃくちゃ焦って捜索してたっけ。
「……ガイ?」
「やあ、助けにきたよ」
金髪の少女が椅子に拘束されている。マジでヤバいことになってたじゃん。優秀メイドのおかげだわホント。
「カタリナ、シーダを頼む。俺はアレをぶっ飛ばす」
「はい」
とりあえず廃屋近くにあった岩を四つほどぶん投げて、奇妙な魔族達をほとんど倒している。
でも、肝心のボスっぽいのが残っていた。黒いフード付きローブを身につけており、ここからじゃ顔が見えない。
「ほほほ。随分と息の良い小僧が迷いこんだこと。どれ、遊んでやるとするかい」
そいつはゆらりと体を宙に浮かし、杖の先端から緑かかった光を生み出した。
「受けてみよ。我が風の刃」
「ん? それは——」
いうより早く、謎の黒フードが魔法を放つ。厄介なことに、暗い中じゃ見えづらい風魔法の類だった。
しかし、最初の光り方で大体どんな魔法かは予測がついていた。これはゲーム内と同じ演出だ。
風刃と呼ばれる魔法で、名前のとおり風で敵を切り裂く魔法である。
こういった魔法を防ぐには回避するか、または盾などで凌ぐか、はたまた魔法の壁を発動させるか。まあいろんな対処がある。
「ガイ! 逃げて!」
シーダが叫ぶ。当たれば切断必至の刃……そう思うに充分な勢いだ。
俺はさっき挙げた対処方法はいずれも取らなかった。ただ走り、地面とほぼ水平に飛んだだけ。
そして両足を伸ばして、足を真っ直ぐにして揃える。つまりドロップキックの体勢に入っていた。
「愚かなり小僧」
失望したかのような呟き。敵は自分の魔法に絶対の自信があるらしい。
しかし、俺もまたこの対処には自信がある。何しろこの勢いは、ただのドロップキックじゃない。
筋トレしまくった脚力を活かした、マッスルドロップキックだ!
風の刃は触れた瞬間に効力をなくし、そのまま貫通を許していく。そして標的であるフード野郎めがけてまっしぐら。
「なに……ぉおおおおーー!?」
黒いローブのど真ん中に蹴りがめり込み、そのままぶっ飛ばしていく。廃屋の壁を突き破り、森を抜けてどこまでも行ってしまった。
(あ……こいつ知ってる奴だ)
蹴りをぶち当てている間に、シワだらけの顔が顕になっていた。原作でも出てきた敵キャラで間違いない。
着地した俺は、とりあえず破壊することはできたと確信する。だが、まだ終わっていないことも分かっていた。
「ほほう。小僧のわりにはやるな。ワシの知らぬ妖術でも使いおるか」
森の中で気味の悪い声が響く。顔を少しだけ上にあげてみると、黒いフード付きローブだけが空に浮かんでいた。
シワだらけの顔もちゃんと残ってるが、多分生首状態になってる。
「妖術じゃない。これは筋トレの成果だ」
「ん? よう分からぬが、どうせ惚けたことを抜かしておるな。ちなみにここに来たのは、お主とあの女だけか」
「そうだ」
「ほほ……では問題ないのう」
何が問題ないのだろうか。この余裕が、俺にはよく分からなかった。
「二人を消し、小娘さえ残せば良い。小僧よ……なまじ半端に強い者ほど、残酷な目に遭うこともある。それを今から教えてしんぜよう」
黒いフードに変化が起ころうとしている。周囲の木々が揺らぎ、やがて周囲に風刃が巻き起こった。
すると、細かく切断された木々や草や土、あらゆるものが黒いフードの中に吸い込まれていく。
やがて胴体や腕、足が出来上がり、空を浮かぶ存在は両手を広げて健在であることを主張してきた。
「見よ。我が体はこうして、いくらでも復活することができるのだ」
「知ってるよ。でも頭を潰したら終わりだろ? ドールさん」
「おや? 何処かで会ったかの?」
「会ってないけど知ってる」
こいつの色違いモンスターとか、原作にいっぱい出てくるもんなぁ。
「ぼっちゃま! その相手は……」
背後からカタリナの叫びが聞こえた。俺は手を振って応える。
「シーダと一緒に下がってていいよ。大した相手じゃないから」
本人に聞こえちゃうけど、まあいいか。敬意を示すような相手じゃない。
「ほーう。我を前にして、随分と勇ましい口を叩けたものよの。後悔するぞ……小僧ぉ!」
周囲にあった木の枝が、ありえないくらい他の枝と繋がっては伸びてきて、こちらに飛んできた。同化した草木を思うままに操れる、というスキルだ。
あっという間に両手に巻きついてきた。これだけ見るとめっちゃ凄い奴に感じる……初見ではだけど。
「これは……」
「ほっほ! さあ、命乞いでもするか」
ドールは両手に風の魔法を作り上げている。さっきと同じ風刃で間違いないさそう。っていうか、奴はそれくらいしか使えない。
「いい負荷になるかもしれないな」
それより俺は、新たな筋トレの発見をしたかも、という全く別の興奮を覚えていた。ドールは一瞬だが無表情になり、続いてクワッと目を広げた。
「バカが!」
「ぼ、ぼっちゃま!」
カタリナが叫びながらこっちに来そうな予感。それは彼女の身が危ないので、様子見はこれで終わりにする。
俺はすぐに木の枝で作られた鎖をぶち切り、奴に向かって真っ直ぐに走る。
で、さっき一生懸命に作った風の刃を裏拳で弾き飛ばした。
「……な!?」
爺さんモンスターがめっちゃビビってる。すぐに俺は奴の胴体を掴んだ。
「く! 舐めるでない。小僧」
すると、周囲にふわあっという奇妙な霧が噴出した。スリープという眠りを誘う魔法だ。ネーミング的にそのまんま。
まあ、パワーファンタジーは開発陣も脳筋で有名だったからなぁ……などということを思い出しながら、垂直にジャンプした。
「な、なぜだ? 魔法が……」
「この筋量を見くびるなよ。全然足りない」
鍛え抜かれた肉体に、あの程度の魔法は通じない。
実はパワーファンタジーにはバグがあって、力をある一定以上に鍛えていくと、他の能力や耐性も上がるようになっている。
この世界は、ゲームの設定とまんま同じになってるんだ。
「あ……ああああ! 何をする気だ貴様ぁ!」
「パイルドライバーだ」
「ぱ……い、る?」
あ、そっか分かんないか。そりゃ分からんよな。かつてテレビで見たプロレス技を試そうとしてるんだけど。
「まあ、喰らえば分かる!」
そう言いながら技の姿勢に入ってみる。でもこいつ結構縦長になったから、なんか想像していたのと違う感じだけど、頭を下にできたから問題ないだろう。
とにかく、俺はそのまま落下していった。それにしても打点が高いというか、周囲を飛んでいた鳥が驚いて鳴き声を上げてる。
そこからは、なんというか爽快な体験だった。ジェットコースターでもこんなに垂直に落ち続けるのは無理だし、風があまりにも気持ちいい。
「ふ……ファアアアアアアアーーー!?」
魔物が断末魔をあげている。なんとかもがいて脱出を試みているようだが、しっかり掴んでいるので不可能だ。
やがてその時は訪れた。大地に結構な穴が空き、奴の顔面が砕け散って胴体がバラバラになった。
これで復活はできない。俺は初めて試みたプロレス技が、だいたい成功したことに満足していた。
でも、カタリナとシーダがビビりまくってるので、やり過ぎちゃったみたい。
◇
「ガイ……本当に、なんてお礼したらいいか。その」
「いいんだよ。助けるのが普通だろ」
グローヴァ家の馬車が停まっている場所まで、シーダを送り届けた。彼女は泣きながらお礼を言ってくれて、みんなからも感謝されてる。
「君は誠に素晴らしい男だ。今回のお礼は、日を改めてさせてほしい」
「あはは、そんな」
カイフォン公爵や奥さんも、おいおい泣いてしまってた。よほど娘が心配でたまらなかったんだろう。
シーダは涙を拭きながら、今度は微笑を浮かべて俺の手を握ってきた。
「ありがとう。私……強くなる。今度は私が、あなたを助けられるように」
「うん。強くなってくれ。とにかく、筋トレとパワーを上げる。これだよ」
「え?」
なぜかキョトンとされたので、俺はまたレクチャーが必要かもしれないと、筋トレについて改めて語り始めた。
すると、いつの間にかみんなが笑っていた。あんまりパワーの重要さは伝わってないみたいだけど、今日はこんなところでいいだろう。
再会した時、シーダはきっと成長している。
「ぼっちゃま。そろそろ、お戻りになられたほうが……」
「あ、やべ!」
未来の勇者に期待していると、メイドの囁きが。
そういえば家にずっと戻ってなかったことを思い出し、冷や汗が出てしまう俺だった。




