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もと神さま、新世界で気ままに2ndライフを満喫する  作者: 可燃物


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神さま、脱がす。

 冬なのにも関わらず、街中を埋め尽くす程に咲いた、色とりどりの花々。

 花弁が舞い上がり、視線が誘われるまま遥か上空を見上げれば、見えない壁の向こう側は、今日の天気も、一日吹雪が止まないであろう事が予想される。


 本当に、大丈夫なのだろうか。


 そんな不安を抱いても、聞いた事のない大きな音に、思考は瞬時に他所へと移る。



 事前に仕掛けられた打揚筒から飛び出した花火は、色こそないが、ポンポンと軽快な音を立てては、中に仕掛けられた精霊石が細かく砕け、星が降るように煌めいて地上に降り注ぐ。


 賑わう人々はその様子に目を奪われ、運ばれて来た、見た事のない料理の数々に関心を移す。

 香りに誘われるがまま口へと運び、舌鼓を打ち、不安を感じた事すら忘れ、談笑に興じる。



 忙しなく空いた皿を下げ、新しい料理を運んでいる姿の中に、見慣れない人の姿があった。

 わざわざ手伝いを申し出たのだろうか。


 視線を移せば、主催側の人間以外の人も、結構忙しなく動いている。

 この数日の間に、既に溶け込んだのだろうか。


 もしくは、早く打ち解けようと頑張ってくれているのかな。


 もしそうなら、考えすぎて精神を病むタイプだな。

 チェックを入れておこう。



 子供達は食べたり飲んだりするのに飽きると、アスレチック広場へ駆けて行く。

 まごついている子を引っ張り回す姿は、見方によっては危なっかしい。


 だがソレをきっかけに周囲に馴染んでくれるのなら、子供の無邪気さというものは、とても有難い。


 受け入れるも拒否するも、子供だけに限られた世界の中では、大人が口を出した所で、どうこう出来る話ではないからね。



 (オルトゥス)の住民か王都(ディルクルム)の人間か、ソコに垣根は無いように見える。


 数日前まで避難民として、(オルトゥス)に間借りをしているからと、後ろめたそうにしていた人達も、自分達の新たな住処はココなのだと、馴染んでくれれば良いのだけれど。



 ドレスコードは無いにしても、避難して来た人達が、ずっと着替えられず、着の身着のままでパーティに参加するのは色んな意味で宜しくない。


 居心地が悪いだろうし、周囲だって気を使う。

 失礼な発言になるが、冬とはいえ臭いだって出る。


 せっかくのハレノヒなのだ。

 非日常にドップリ浸かる為、普段は着ないような華やかな服を着るのも悪くなかろう。



 そう思い、この数日は大衆浴場を無料開放し、着替えも無料提供した。

 (オルトゥス)の住民も含め、ソコで手に入れた服を皆今日着てきたようだ。


 昨日までは、殆どの人が自然色の白色の服を着ていたのに。

 恐らく、今日の為に取っておいたのだろう。


 フッ。

 計画通りだ。



 平民は皆、男女関係なくダボッとした、ボタンのない筒型のチュニックのような服を、男性なら紐で、女性なら幅広の布で、ウエストや腰部分で留めた物を普段は着用している。


 布は貴重だからかツギハギだらけではあるが、金銭的な余裕が無い人だと、染めた布を使う事は無い。

 生成色なのか汚れなのか、イマイチ分からないアイボリーに統一されている為、足された布が目立つ事は余りない。


 裁縫の腕が達者な人が縫ったのならば、穴が空いていたと気付かせる事が無い。

 裾や袖が足されていても、そういうデザインだと誤認させられる場合もある。


 普段着ている分には、何の問題もない。


 だが、今日は祝いの日だ。


 是非とも普段とは違う、オシャレをして欲しいじゃないか!

 新品の服に袖を通して、浮き足立つ気持ちを知って欲しいじゃないか!!



 そう思って、夢魔達をこき使わせて貰った。

 見た事すら無いであろう、艶やかな色使いの、見るからに高級そうな服をズラリと並べた前に立たせ、銭湯で営業をさせたのだ。


 湯上りのお客様、コチラから一着、どれでも好きな物をお選び下さい。

 お祭りを開催するにあたりまして、記念として無料提供させて頂いております。

 ココで今着て帰って貰っても、モチロン結構です。

 あ、お客様が着て来た服は洗って置きましたよ。

 なので新品の服は持ち帰って頂いて、お祭りの日におろして頂いても宜しいかもしれませんね〜。


 ……なんて茶番を幾度かさせた。



 そのおかげで、参加者は皆、周囲に咲く花に負けない位に鮮やかな色を身にまとっている。


 

 結婚式が元々メインだったからね。

 バイカラーやホワイトを避け、華やかな色の服を用意した。


 イヤ、淡い色の服も用意はしたんだよ。

 だが濃い色で染めてあればある程、高級品というイメージでもあるのだろうか。

 単に汚れが目立たないと言う理由なのか。


 ワインレッドやモスグリーン、ネイビーやヴァイオレットが人気だったんだよね。


 ピンクやラベンダー色、ライトグリーンやスカイブルーが不人気色なのは、意外だったな。

 パステルカラーって可愛いのにね。



 気兼ねなく着れるように、気慣れているチュニックのようなデザインではあるが、普段着ている物よりも、若干身体にフィットしたラインで、丈や袖も長くしておいた。

 ちょっとした刺繍が入っていたり、絞るための紐が付いていたりと、それぞれ少しずつデザインが違う。


 少しお金に余裕がある、商人が着るような服だね。



 貴族になると、布をたっぷり使って、袖も裾もダラダラと長く、さばくのが大変そうな服になる。


 アリア達は邪魔臭いと言って、そういう服は普段着ていなかったので、俺は司教や司祭が着ている所しか見た事が無い。



 本日の主役第一号である新郎新婦は、俺の偏見から純白コーデにした。

 更に新婦に関しては、髪飾りや靴にウルサくならない程度の差し色に青色を入れた。


 サムシングブルーなんて概念は、この世界にはない。

 だが幸せを願うからこそ、何かしら形として残したいと思ったが故の、俺のワガママだ。


 新郎新婦共に嫌いな色では無いと言ってくれたし、込められた意味の説明もしたら、笑顔で快諾してくれた。



 どちらかと言うと、純白の服を着用する事に忌避感を抱かれた。

 保存が大変だし、維持も出来ないのが理由だそうだが、どうせ「スキル」で創ったものだ。

 結婚披露宴さえ終わったら、盛大にカレーをぶちまけたとしても、何の問題も無い。


 お互いの血糊で染めるような事にさえならなければ、どんな事になっても、俺に文句はない。



 そう遠回しに言ったら「こんな芸術品を蔑ろになんて出来ません!」と怒られてしまった。


 ヴェールもグローブも、繊細なレース織りになっていたので、破ってしまったら怖いと、身に着けるのを最初は拒否されてしまった程に、美しく目に映ったらしい。


 息子のフリアンくんに耳打ちし「キレイな服を着た、キレイな母さんを見たいな」と言って貰い、事なきを得たが。

 創るだけ創って、誰にも着て貰えなかったら、小物達が可哀想でしょ。



 そのフリアンくんは、ヌリアさんが持つブーケとお揃いの花を胸元に挿して、タキシードはライトグレーにしておいた。

 主役はあくまでガルバとヌリアさんだからね。

 一段落ち着いた色にした。


 ベールボーイもリングボーイも不要なのだ。

 フリアンくんが着飾る必要は無いじゃない。


 それでも普段とは違う服を着る事に浮き足立つようで、年相応に頬を赤く染めながら、鏡の前で自分の姿をクルクルと何度も立ち位置を変え、方向を変え眺めていた。



 さて、結婚披露宴のはずだったのだが、主役がもう二組存在する。



 一組はアリアとカノン。


 新たな首都の制定を祝う席にもなった為、かなりインパクトのある服を身にまとわせている。

 本人達は嫌がったんだけどね。


 それぞれに、「いつも以上にカワイイ妹、見たくない?」「いつも以上にカッコイイ兄、見たくない?」と唆して着させた。



 新郎新婦と被るといけないが、インパクトは強くしたかったので、俺の趣味で赤みが少し入っている、暗黒色に金の刺繍がされたお着物を着させた。


 さすが純日本人。

 メッチャ似合う。



 見慣れない形の服に、怪訝そうな顔をされたが、「お前等の両親の故郷の服だぞ」と言ったら絶賛しだしたので、コイツ等親の事好きすぎるだろと遠い目をしたくなった。


 アイツらが子供達に尊敬される姿を見せていたからこその反応だ。

 立派な親をしていたのだなぁ、としみじみしてしまう。



 アリアの髪を結い上げ簪を挿し、カノンに髷を結おうとしたら、怒られた。

 正確に言うならば、伝統的な髪型だからと月代(さかやき)を剃ろうとカミソリを手に取った時点で取り押さえられた。


 本田髷はダメらしい。

 残念。


 お相撲さんの大銀杏でも良いよ?

 髪の長さは十分足りるだろうし。


 だが残念ながらお気に召さなかったようで、癖揉みをした時点で止められた。

 油でベタベタになるのが嫌らしい。



 既に幾らか付けてしまっていたので、責任もって油を落とし、トリートメントとヘアパックまでしてやったら、うるうるのツヤツヤになり、不似合いな程に風になびく絹糸のような緑の黒髪が出来上がってしまった。


 普段どんだけ手入れしてねぇんだよ。


 指を差して笑ったら、その指を行ってはいけない方向に曲げられた。

 超痛ぇ。



 アリアが羨ましそうに見ていたので、同じようにしてやったら、大層喜んでくれた。

 いつの世も、髪は女の命と言う事かねぇ?



 準備室となっている居間の、隅の方に所在なさげに縮こまっているのが、今日の主役のもう一組だ。


「ほれ、フィブレス、レイラ。

 お前等もサッサと着替えろ」


「そう言われましても……」


「怖くて着れないわよ!

 こんな服!」


 魔物の顔が縫い付けられてるとか、血飛沫が飛んでるとか、そう言うグロテスクな見た目をしているなら怖いと形容されても致し方ない。


 だが用意したのは、神官服じゃないか。


 色はシャンパンゴールドだけど。

 下品にならないように、ちゃんと輝きは抑えてあるのに。



 縁取りは金と銀の糸で、祝詞のようなモノを縫うのが習わしだと言う事だったので、ちゃんと司教(囚人)から剥ぎ取った服に書いてあった通りに刺繍を施した。


 なのにどこがいけないのだ。

 こんな服呼ばわりされるのは、甚だ遺憾である。


 文句を言われる位なら、どこぞの上様のようなキンキラキンにすべきだったか。



「既に時間押してんだよ!

 自分で着替えねぇなら、無理矢理着せんぞ!!」


「できるものなら、やってみなさ……きゃあぁぁっ!」


「なぜ私の服を!?

 やれと言ったのはお嬢ですよ!?」


 ハッタリをかましてきたレイラにしたら、セクハラで訴えられかねないからです。


 「破壊」の「スキル」を使って、一瞬でフィブレスの服を全て分解し、「再生」で再構築をした。

 傍から見たら、マジックでも見せられた気分になったかもしれない。



 服を脱ぐのも着替えるのも面倒臭いって時、とっても便利なんだよ、この「スキル」。

 優秀な「スキル」の無駄遣い甚だしいが。

 更に「創造」で任意の服を創ってしまえば、変面や早替わりもビックリな、瞬間お着替えが可能だ。



 他人の身体にフィットした服を創るのは難しいし、そもそも、既に着用する小物から神官服から全て別に用意してある。

 なので今回は脱がすだけにしておいた。


 ……下着を着ていないとは思って居なかったのは誤算だった。

 ゴメンよ、大衆の面前で息子さんを披露してしまって。



 レイラも下着を身に付けていないらしく、次は我が身だと自覚したのか、瞬時に衝立の向こうへと消えた。


 ノーパンで注目浴びるのって、どうなのよ?

 ココでパンツを手渡したら、やっぱりセクハラと訴えられてしまうかしら??

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