神さま、ダラける。
いつもご覧頂きありがとうございます。
昨日更新分の誤字報告を頂きまして、そこから間違った知識を書いてしまった事が判明しました。
活動報告に詳細書いてあるので、良ければご一読ください
(https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/2770900/blogkey/3512200/)
結論だけ言うのなら、善玉菌のエサは食物繊維であり、乳酸菌ではないよ、という事です。
大変失礼致しました。
精霊の守護によってそれぞれの土地にもたらされる恩恵は、その属性によって変化する。
それを恩恵と取るか、自然の脅威と受け取るかは、人によるだろう。
火の精霊の守護する地域は火山が多いとか、光の精霊が守護する土地は日照時間が通年して長いとか、属性ごとに影響の出方が違う。
その為、精霊の守護する土地が変わるとなると、四季や天候の定石が変わってしまう。
育てられる作物が変わるし、魔物の生息域にも変化が現れるだろう。
分かりやすく影響が出るのは、水の精霊の領域かな。
水の精霊が担当しているのは、今居る大陸の北東に位置する海洋だ。
地図には記されて無いが、ソコに三日月のような形をした島がある。
特殊な地形の為か、低潮時と高潮時との海面水位の差が、二十mにも及ぶ場所だ。
特に真新月の日になると、ふたつの月による起潮力と太陽による起潮力とが重り合うため、高低差が更に大きくなる。
年に二度程あるその日には、カノンの海辺の家がある海岸線沿いから、徒歩でその島へと渡れる。
見事に潮が引き、満月状となった島には、希少な植物や魔物が姿を現す。
半年に一度、ほんの数時間しかないが、ソコにしか生えていない、珍しい薬草を採集するチャンスだ。
タイミングの問題で、過去に数回しかその島に行けた事は無いそうだが、カノンもその島の存在自体は把握していた。
ふたつの月の新月が重なる日にのみ道が開かれる事は、幾度目かで気付いたそうだ。
しかしどの時間帯に潮が引くのかまでは、突き止める事が出来なかったんだって。
地球ならば、満潮のタイミングが夏と冬とで約十二時間ズレると言うけれど。
この世界では違うのかな。
一日が二十四時間だし、秋の認識が九十日程だったから、てっきり暦も地球と同じだと思っていた。
この星の自転が二十四時間で一周するからと言って、月の公転やこの星の公転も同じだとは限らないものね。
しかも月がふたつもあるんだもの。
影響を及ぼす要素がひとつ多いのだから、そりゃタイミングも変わるだろう。
その上この世界のあらゆる事象には、霊力が関わって来るのだ。
地球の物理学における法則が、この世界には通用しないのだと、何度認識すれば、俺はこの世界の常識を受け入れられるのだ。
……まだ暫くはムリそうだな。
水の精霊が守護している島の面積の大半は、普段は海の底に沈んでいる。
なのでその半年に一度の特別な日でなければ、採集は出来ない。
船で近付くには海底が浅過ぎるが、泳いだり飛んで渡るには、陸から遠過ぎる。
なのでまず、辿り着く事が出来ない。
辿り着く方法があったとしても、余程潜水が得意な人じゃ無い限りは、手に入れようが無い。
当然のように凶悪な魔魚が居るから、潜水中に無詠唱でソレ等の魔物を仕留められる実力者じゃなきゃいけないし。
とどのつまりは、ほぼムリだと思って貰えれば良いと思う。
カノンですらムリだったのだ。
人類には不可能だろう。
だが運が良い時になら、その希少な植物や魔物を得る事は出来た。
今迄は。
その潮汐が水の精霊の守護する土地が移動し、恩恵が無くなる事で、穏やかになる可能性が高い。
そうなると、干潮時でも海を徒歩で渡れなくなる。
地面が露出しないから、植物の採集だって出来なくなる。
ソレはまぁ、カノンが泣くだけなので良いとしよう。
問題は、魔物達だ。
長時間陸に上げられた魔魚は時間経過と共に弱り、自然の力によって淘汰されていたが、ソレが無くなる。
三日月島周辺に棲んでいる魔魚がどの程度の強さなのかは知らないが、ソレをエサにしていた強い魔物は確実に増える。
カノンの家の近くに出る魔魚って、かなりタチが悪いと言っていた気がする。
あの、カノンが。
わざわざ近寄ってこないように、防護結界を張るレベルだぞ。
三日月島近辺で強い魔魚が増えるとなると、海域としては近いし、恐らく防護結界への負担が大きくなると思うんだよね。
カノンの父親が張ったと言っていたから、ある意味、遺品だろ。
壊されたら溜まったもんじゃない。
そういう局所的かつ個人的な意見理由もあるが、単純に生態系が崩れると、各地の魔物被害が増える危険性が上がる。
また打ち上げられた魔魚をエサにしていた、陸の魔物達にも影響が出る。
その魔魚の死骸を養分にしていた植物にも。
ソレ等がどう言った形で、世界に変化を及ぼすのか、予想すら出来ない。
だが幸いな事に、元素の精霊が生まれた。
力だけは強く、万能性を有する能力を持つ精霊が。
時の精霊が指揮を取り、元素の精霊が世界全体の霊力の流れの微調整をする。
そうすれば、急速的な変化は起きずに済む。
更に精霊の皆の核を少しずつ移動をさせ、加護を与える土地の変更を行えば、更に影響を抑えられるだろう。
長い、永い年月を掛けて生態が変化をするのなら、それは進化や退化でしかない。
人間も、受け入れられる。
だが精霊の言う‘’抑えられる‘’ってどの程度のもんよ?
火の精霊が眠りについた事で起きている、全国的な豪雪・猛暑被害を‘’軽微‘’と言うようなヤツだぞ。
人間にとっての、災害レベルじゃねぇか。
事を急いて、被害が甚大になるよりは良いけどさ。
もし一気にやったら、海が割れたり空が落ちて来たりするのだろうか。
恐ろしや。
細々とした話を詰めるのに、宰相閣下殿を含めた大半の人がリビングに残った。
俺・カノン・アリア、なぜか仲間外れはイヤだと駄々を捏ねたアルベルトの四人は、俺の部屋に移動した。
カノンの部屋は、回復薬の実験道具や方陣の研究道具で溢れかえっていて、足の踏み場が無いからね。
ゆっくり話すなら、俺の部屋の方が都合が良い。
一応来客用の部屋もあるにはあるが、今からちょっと話をする為だけに温めるのは、勿体ないじゃない。
家具も最低限しかないし。
皆疲れているのだから、パウダービーズのクッションに、ダメ人間にされれば良いと思うよ。
一番ダラけたい俺は、真っ先に雫型のソファを陣取る。
身体にフィットして、重力から開放された気分になる、至福の瞬間だ。
あ”ぁ〜、このまま寝たい。
ダメなのは分かってるよ。
カノンは背中や肩にフィットしやすい独得な曲線を描いているクッションがお気に入りだ。
どれ位好きかと言えば、俺の部屋にあったのを、自分の部屋に持って行ってしまう位には気に入っている。
なのにアリアがどうすべきか分からず、手をこまねいて居た為に、ソレを差し出して座らせていた。
シスコンめ。
立てて置いてあった長方形のクッションに座ろうとしたアルベルトは、思っていたよりも身体が沈みこんでしまったようで、バランスを崩して倒れた。
そしてそのまま寝っ転がって、ベッドにしていた。
うん、使い慣れないと体重の掛け方を間違って、イスにならないんだよね、ソレ。
身体を丸ごとスッポリと包み込んでくれるクッションの包容力に抗えなかったようで、アルベルトはそのまま、秒で寝てしまった。
……まぁ、彼も昨日からずっと、働き通して居たものね。
一度、死にかけて居たし。
疲れているのだろう。
「そう言えば、いくら突然の事だったとは言え、カノンがまともに攻撃喰らう所なんて、初めて見たかも」
「時の精霊様の加護が働いたのは、過去に何度かある。
そう、珍しくもない」
「……あの、お兄様?
私、初耳なのですが」
墓穴を掘ってしまったようで、カノンの頬にタラりと汗が伝ったのを、俺は見逃さなかったぞ。
誤魔化そうとしたのだろう。
健やかに眠るアルベルトが寝っ転がっている上に、浮腫防止用に作った筒状のクッションを放り投げ、ソレとアルベルトを背もたれにして、ボスッと勢い良く座った。
当然クッションの下にいるアルベルトも、カノンによって潰される。
「グエッ」と潰れたカエルのような超えを出し悶絶するアルベルトを無視して、「コイツを助けていたら、自分が避ける時間が無くなったのだ」とのたまった。
あの時、同時に現御神に呼び寄せられたように俺からは見えたが、距離の問題なのだろうか。
もしくは霊力による、抵抗力の問題か。
方陣のある部屋から先に消えたのは、アルベルトだった。
数秒の間に、カノンは誰がアルベルトを攫ったのかを、その場に残された魔力を探知する事で把握した。
そしてその魔の手が、自分にも及びそうになっている事も。
暁との戦いでは、戦闘後の落ち着いた状況だったから、重体の状態でも落ち着いて治癒が出来た。
しかし現御神との戦いにおいては、戦闘の真っ只中だった。
万が一瀕死の重症を負っても、誰も回復をさせられない。
その為、無理矢理転移させられた先で、アルベルトの死を回避させねばと、即座に動ける心積りで居た。
実際、動く事も出来た。
誤算だったのは、アリアまで転移させられた事だった。
柄にもなく動揺してしまい、アルベルトは突き飛ばして完全回避させられる所だったのに、中途半端な力で押しただけになり、肩をブチ抜かれてしまった。
そしてカノンは自分が避ける時間を失い、チュドンとド頭を撃ち抜かれてしまった、と。
確かにカノンとアルベルトは、最初から暁に献上する為に狙っていると言っていたので、あの場に喚ばれたのは理解出来る。
確かに俺もあの時は、アリアまで出て来たもんだから、かなり驚いた。
なんか兄妹だと、霊力の質が似ているらしいし。
精霊も燼霊も、基本的に外見的要素よりも、魂の形を見る傾向にある。
ソレで間違えたのかな。
どっちを連れて来れば良いのか迷うし、違うヤツ引っ張って来てしまう位なら、両方攫って来ちゃえ〜って感じだったのだろう。
なにせ元が俺だ。
適当な性格をしているに違いない。
「そうそう。
コレ、時の精霊と俺から」
アリアとカノンに預かっていた品を手渡す。
ソレとカノンの下でピクピクしているアルベルトの手のひらにも、同じ物を置いた。
「こちらは……何です?」
「精霊石の付いた棒、だな。
こんな小さいもの、何に使うのだ?」
「棒て。
もっと別の言い方があるだろうが。
ピアスだよ、装飾具。
俺の耳にも付いてんだろ」
言って、耳に掛かっていた髪を掻き上げた。
元々耳に付いていた、施設の支給品であるイヤーカフの下に、三人に渡した物と同様のピアスが光っている。
イヤーカフは、何となくそのまま付けているだけなので、何の効果もない。
もしかしたら、この世界に転移している施設を利用する時に便利かもしれないな、という程度だ。
個人の識別コードや「スキル」等のデータが入っているチップが埋め込まれて居るが、今も機能しているかは分からないし。
なので今は、タダの微妙なオシャレアイテムになっている。
一応対外的には男だったので、俺は左耳に装着している。
女性は右耳だった。
中世ヨーロッパの慣習を、わざわざ持ち込まなくても良いだろうに。
男女で装着する方向が定められていた。
ワザと遊び相手は同性が良いと、同性愛者をオープンにしていた人なんかは、逆に着けて居たけどね。
どうやって利用するのか分からないと言うので、「耳に針で穴開けて、その棒部分を通すんだよ」と説明をしたら、カノンに「アリアの身体に傷を付けろと言うのか!」と怒られてしまった。
このシスコン、マジで面倒臭ぇな。




