神さま、企む。
戦争も終わった後の、復興期が最も混乱すると言う。
終戦合意を締結したら、気が緩む人は多いからね。
暗殺に最も警戒しなければならないのは、このタイミングだろう。
とは言え、王宮は外部からの襲撃には強い。
単一国家の為、領土の分配やら産業利権の行方の話し合いのような、机上で行われる争いも必要ない。
加害側への要求内容をミスりさえしなければ、警戒しなければならない事はほぼ無いと言って良い。
相手が国からの独立を宣言している、宗教団体だからね。
解体命令まで出してしまったら、真面目に信仰している人達から反感を食らう。
そうなれば、遠くない未来にソレを心の拠り所にしている人達との、争いが勃発してしまう。
悪手としか言えない要求だ。
宗教戦争は、タチが悪い。
自分の中の正義の為に、命を投げ出す事すら厭わない団体が襲って来るのは、恐怖だ。
精霊達も、モチロン神様も、人が争う事を望んで居ない 。
信仰心自体はバッチコ〜イって感じだけれど。
その信心を守る為、なんて大義名分を掲げて死んでしまう位なら、命を大事にして欲しいと願っている。
だが今は、精霊達の本心が直接聞ける人が、とても少ないからね。
存在を感じ取る事も出来ない。
力の一端を借りる事もままならない。
人間の都合の良いように、実態から掛け離れた虚像を信仰している。
虚像所か、敵対している燼霊を崇めてしまっているのだから、始末に置けない。
何で敢えてソッチに舵を切っちゃったのかね。
それを主導していたのが、試験体一号 達なのは分かるよ。
だけど精霊の御業を披露されたから、程度の理由では、試験体一号 達の言葉を信じるに足りるとは思えない。
なにせ精霊術に関しては、カノンだって相当の手練じゃない。
どうやって取り入ったんだか。
……想像に至る手段は、まぁ、ろくでもないモノしかないな。
「あの燼霊の処遇を、どのようになさるおつもりですか?」
アルベルトと宰相閣下を目線で見送っていたら、羞恥から立ち直ったアリアに問い掛けられた。
その耳は、まだ赤い。
どうせだったら、二人を見送った後に治せば良かったね。
宰相閣下はどうか知らないが、放屁程度、アルベルトもカノンも別に気にしないタチだ。
しかも治療によって出てしまったものなら、余計だろう。
気にする必要は無い。
少なくとも、俺は気にしない。
奇しくも野外になってしまったこの場所なら、臭いが籠ると言う事もないのだから。
そう言ったとしても、気になってしまうのが乙女心というモノだろう。
触れないのが一番だな。
「本来なら即死刑になるんだよね?
燼霊に死刑もクソも無いケド」
「人間では無いので、絞首刑や斬首刑による死刑執行は無理ですね。
その上お兄様や私では、恐らく彼女を滅ぼすだけの力がありません。
その際には、貴方に助力を乞うことになると思います。
……ですが、何か思惑があったから、預けて欲しいと述べた宰相に反論をなさったのでしょう?」
「まぁ……そうだケド」
反論まではしてないでしょ。
事実は突き付けたケド。
確かに燼霊の処遇を王家預かりにしたら、俺が考えていた彼女達へ下す罰を遂行出来なくなる。
ソレでは面白くない。
何より、その懲罰を与えるのが、一番おさまりが良いと思うんだよね。
「通常、司法に則った裁きを下すのであれば、教会と連携を取って、罪人にどのような制裁を与えるのかが決まります。
しかし今回対象となるのが、教会で地位のある者ですから。
全て王家の独断で裁量が決定されます。
お兄様を救って下さった、恩人ですもの。
それ位の融通なら、きかせられますよ。
これでも私は、この世界の王ですから」
言葉とは裏腹に、気高さを感じさせないようなイタズラを企むような顔で、ニッコリと微笑んだ。
宰相閣下としては、最低でも正式に教会へ抗議を申し入れする迄は、燼霊を生かして置きたいと思って居るのだろうな。
頼めば俺が良いように使われてくれるのも、想定済みだろう。
王家に一切の非が無いのだと主張する為に、先方が今回の被害における罪状や補償等の訴えを聞き入れる迄は、大事な重要参考人かつ実行犯だもの。
気持ちは分かる。
だが宰相閣下は、俺が苦戦を強いられている所も、王宮のこの惨状を目の当たりにしている。
その上カノンとアリア、ついでにアルベルトが死にかけているのも目撃している。
だから弱っている今、少しでも回復をする前に、どうにかしてしまうべきなのだという事も、同時に理解している。
燼霊が厄介な存在である事は、過去の経験も踏まえて、重々承知しているだろうからね。
だから余計に、アリアが鶴の一声を上げれば、彼も諦めがつくというものなのだろう。
俺の考えが、天の声を発するに値するか否か。
ソレをはかりたいから、今のうちに思惑を話せと言っているのだ。
つまり、価値無しと判断されたら、国の都合で動くと言う事だよな。
当然だけど。
本来為政者が自分勝手に振舞い、依怙贔屓をする方が間違って居るのだから。
そんな筋の通らない政治をしては、信用を得られず、破綻するのは目に見えている。
意見を聞いてくれるだけでも、有難い話なのだ。
一〇〇%聞き入れて貰えなくても、俺がしたい事、やりたかった事を聞き、知ることによって、アリアの中に「こういう意見もあるのだ」と選択肢が一つ増えるからね。
俺の意見に自分の考えが引っ張られてくれれば、目付物だ。
「……あれ?
ジューダス、さん?」
「ジューダスさまじゃないですかぁ!
え、ここにいるってことは、ぢつはすっごい立場の人だったりするんですぅ?」
縄で拘束された状態なのに、元気だな。
遠目には犯罪者の出で立ちで、憔悴しているように見えたのに。
俺の顔を見た途端、気力が回復していやがる。
心細い所に見知った顔があったから、緊張がほぐれ過ぎたか。
レイラはアルベルトから「自分の立場をわきまえろ」と小突かれた。
まぁ、当然だよね。
アナタ、犯罪者として捕らえられて居るのだから。
不平不満を顔面一杯に書きながらも、とりあえずは黙ったので良いか。
視線が合えば、俺に清々しいまでにわざとらしく媚びた視線を向けてくるせいで、顔の自己主張は相変わらず激しすぎるが。
「アンタ等、精霊教会が何しようとしてたとか、自分達が何させられそうになってたかとか、どんだけ把握してる?」
少しの逡巡の後、アルベルトから顎で促され、レイラにそっぽを向かれたフィブレスが、おずおずと口を開いた。
「国王陛下と賢者様の暗殺、です。
またそれらに関与をしていないと、捜査を誤認・撹乱させるための魔物の捕縛を命令されていたのだと、聞かされています」
「その事実を聞かされて、どう思った?」
チラとレイラの方を見て、言うべきか迷っているようなので、アルベルトに視線を向けて、先を促すように命令して貰った。
昨日から尋問官をしていた彼だ。
偉そうに尊大に振る舞う事を徹底していただろうし、多かれ少なかれ、尋問を受けた人達は彼に恐怖を覚えている。
俺がどうこう言うよりも、そういう対象に喝を入れて貰った方が効果的なのだ。
「ええ……と、あくまで、私個人の意見です。
が……やり過ぎである、と」
精霊の教えは素晴らしいものだ。
その大前提は、生涯覆る事はない。
更にフィブレスは、教会によって衣食住が保証され、その上妹を養えるだけの給金を得る事が出来た。
自分の生きる道を示してくれた上に、導いてくれている事には感謝している。
返しきれない恩があるのも、また事実だ。
しかし最近教会が内々に行っている事、企てていると噂立っている事は、精霊の教えに反している内容のものばかり。
しかも教示を記した聖書までもが改変されている。
大抵の教徒は書かれた文章を諳んじる事が出来る為、わざわざ聖書を開いては見ない。
だが面倒見の良すぎるフィブレスは、新しく入った教徒や、教会を訪れる子供達の為に読み聞かせを行っていた。
その為に、気付いてしまった。
いつの間にか、現御神の項目が追加された事に。
精霊と同等、もしくはそれ以上の存在であると、見方によっては認識されてしまいかねない文言がソコに記載されていた。
異変を感じ取っている者。
王家に確実に叛意を示さない者。
そのメンバーがダンジョンに潜るように命令を下された五人だった。
司教や司祭は、無事に五人が魔物を捕らえて戻って来たのなら、その魔物に襲われた事にして、彼等を始末するつもりだったらしい。
ゲスいね。
真に国王を襲ったのはその五人であると他の教徒が証言すれば、罪を着せられるし、現状の精霊教に不信感を抱いている、異分子を排除出来る。
ダンジョン内で死ぬなら、それもまた良し。
どうせ襲撃場所である‘’喰魔の森‘’付近には、強力な魔物が数多く棲息している。
馬車はその魔物に襲われたのだとすれば良いのだ。
尋問によって、その計画を知ってしまったフィブレス達――特に次期司教だと持ち上げられていたレイラは、かなり落ち込んだそうだ。
俺の目には、そうは見えないが。
少なくとも、フィブレスには見えるのだろう。
しかし、ダンジョンで会った連中が、全員現御神否定派だったとは。
レイラなんかは幼少期に、賢者に助けられた事があるそうだ。
余程の大恩なのだろう。
血みどろで意識なく横たわっているカノンを見て、霊力を暴走させそうになっていた。
コイツ等全員、嘘をついたり怒ったフリが出来る程、頭が良くない。
何より、この場でそんな事をしたらどうなるか位、容易に想像がつく。
流石にそこまでのバカではない。
ならば、コチラに有利になるような証言や説明を教会側にして、とお願いしたらやってくれそうだ。
少なくとも、人智を卓越した惨状が事実起きた事であると、証人にはなってくれるだろう。
ただ教会内部の立ち位置として、現御神否定派であると認識されているのであれば、その効力は薄まるな。
「レイラは王家を崇拝対象としていながらも、貴重な治癒術師のため、この地位におさまっています。
普段は真面目に勤めておりますし、教会内に信奉者も多い。
無碍にはされないでしょう」
そういう事ならと、何で王都がこうなってしまったのかの説明をした。
なるべく俺ではなく、あくまで燼霊が悪いのだと印象付けるように。
実際、俺よりも燼霊が破壊したモノの方が多いし。
カノンを傷付けたのだって、燼霊だもんね。
嘘は付いていない。
俺の説明に宰相閣下が補足をし、更に王家から精霊教会へ、損害賠償の要求をする際の重要参考人になって欲しいと、依頼の言葉を口にした。
流石に重大任務が過ぎると、二人とも断ろうとしたが、アルベルトが無意味に大きな音で剣をガチャガチャ抜き差しした事にビビって、結局了承をしてくれた。
脅すなよと言いたいが、ココで引き受けて貰えなかったら、証人探しをゼロから始めなければならなくなる。
二人が自分の意思で引き受けてくれた以上、俺からは何も言うまい。
「……教会は、どうなってしまうのでしょう」
フィブレスは、教会の中の世界しか知らない、自分一人では生きていけないような人達の事を心配していた。
特に、親に捨てられ教会に引き取られた子供達が、再び路頭に迷う事になる事は避けたいと、情に訴えて来た。
トラウマを刺激されたら、可哀想だと。
こういう時、幼い子供を引き合いに出すのは卑怯だよね。
肯定するしかなくなるじゃない。
まぁ、フィブレスの言葉は関係なく、教会を解体させるつもりなんて毛頭ないケドね。
アリアから許可も貰ったし、ごくごく一部の人間だけは罰を受けて貰う事になるけど、それ以外の人間に関しては、お咎め無しだ。
国王暗殺なんて、余りにも荒唐無稽な計画を遂行してしまう位に、精霊や現御神を盲信している人達でしょ?
きっと、正しい祈りの捧げ方をしてくれたら、精霊の皆の良い力になると思うんだよね
利用しない手は、ないじゃない??




