神さま、突きつけられる。
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……――違和感は、確かにあった。
しかしその違和感と向き合うと、都合が悪い。
だから、見ないふりをした。
記憶の欠落こそ無い。
しかし自分の中に、ポッカリと穴が空いている。
そんな感覚を、常に感じていた。
強烈にソレを感じたのは、アイツ――燼霊となった、暁と対峙した時だった。
カノンの両親――基未と徹は勿論、大切な友人であり、仲間である。
しかしそのカテゴリーには、精霊となった皆の前世も、当然含まれる。
……若干名該当しないのも居るけれど。
そういう、例外は置いておこう。
基本的に俺は、博愛主義者だ。
嫌悪したり、差別をしたりする相手は殆ど居ないのだから。
生存競争の激しい、明日をも知れぬ日常を送る中で、同じ境遇に置かれた、苦楽を共有する同志だった。
彼らだって、生かせるなら生かしたかった。
だけど、その時々の俺が未熟だったが故に、出来なかった。
基未と徹は、「スキル」を奪う順番が後回しにされた。
その間の犠牲者のお陰で、殺さずに「スキル」を奪える方法が確立出来た。
そう。
たまたま、生き残れただけだ。
もし必要だったなら、俺はアノ時、迷う事なく彼等も殺していただろう。
ソレは全て、暁に生きていて欲しかったから。
その一言に尽きる。
ある種の狂気にも似た、思慕の念。
多数の友人と一人を天秤にかける、その傲慢さ。
どれだけ恋い慕っても、タイムリミットがある。
どれだけ望んでも、別れる悲劇が待っている。
それなら、そこに俺は居なくても、いつか自分を忘れて他の誰かと結ばれたとしても、未来を生きていて欲しい。
募る焦燥感の中、己の身すら捧げて、ただ一人を生かす未来を選んだ。
それを与えられるのが自分だった事に、喜びすら感じた。
世界すらも巻き込むような、狂愛と愛執だ。
この世界で目が覚めて、再びまた巡り会えたならと、考えた事なら幾度もある。
精霊として転生した、皆に会えたのだ。
友人の子供にまで会えた。
ならどんな形だったとしても、再会はいつかきっと、イヤ、必ず出来る。
信じて、願って、本当にその機会が巡って来た瞬間の、自分の中の空虚に気付く。
嬉しかったよ、心から。
記憶にあるままの姿形そのままに、声も喋り方のクセも、何も変わったように感じなかった。
変わってしまったのは俺の方だなんて、気付きたくなかった。
縋り付いて泣き出したくなるような、誰にも見せたくなかった、不甲斐ないまでの脆弱さ。
感情の発露するままに癇癪を起こすような、理性で制御し切れないような、子供めいた衝動。
何より、執着心も恋慕も、思い浮かべただけで激しく焦がれるような、狂気にも似た激情。
自分でも持て余していた感情の一切が、俺の中から消えていた事実を、再会によって突き付けられた。
燼霊となった暁は、殺さなくてはいけない。
その事実を、容易く飲み込めてしまった。
燼霊について考える度に、その結論に至った。
どんな時でも頭の中で、アッサリとシュミレートが出来てしまった。
世界の敵だから、仕方がないのだと、受け入れてしまえた。
名前を思い浮かべるだけで、自分の名前を呼ぶ声を思い起こすだけで、ソレだけで多幸感に包まれた、恋の熱の一切が喪われている。
何の罪もない人達を殺すに至った狂気の沙汰は、俺を構成する上で、最も重要な感情では無かったのか。
理性では制御し切れない程の熱にうかされていたから、行動に至ったのでは無かったのか。
俺の恋愛感情は、喪われても特に問題のない程度のモノだったとでもいうのか。
ソレを自覚したくなくて、名前を思い浮かべる事すら、自分に禁じた。
全てを投げ打ってでも生かしたいと願った相手への気持ちが、欠落している今の俺は、一体、何なのだろう。
ソレが全てだったハズなのに。
何故損なわれても、こうして生きていられるのかが、分からない。
何故、平気でいられるのか。
何故、楽しく生きれるのか。
何故、考えずにいられるのか。
何故、淡々としてられるのか。
何故、何故、何故……
疑問ばかりだ。
だけど考えても答えは出ず、誰かから正解を与えられる事も無い。
日常生活を送る上で、不便は無いのだ。
関わりさえ持たなければ、思い出す事も無い。
空虚な穴は見ないフリをして、常に何かをしていれば、忙殺されて、余計な事を考える余裕も無くなる。
そう思っていた。
なのに唐突に、望んでもいないのに、答えを叩き付けられた。
目の前の、燼霊から。
俺は、捨てたのだ。
自分の手に負えない、厄介な感情の一切を。
「スキル」が正しく発動するように、生きたいと願う生存本能が働かないように、生への執着心に関わる、全てを棄てた。
そしてソレらは、魂の情報の一部に過ぎず、脆弱で華奢なものだった。
この世界の神様に招かれていない負の感情を伴う魂は、時空を超え次元を渡る段階で燃え尽き、この世界に来るはずが無いものだった。
本来ならば。
……俺が死の淵に立たされた、ほんの一瞬。
あの死を感じ取り、目を閉じた刹那の間に思ってしまった。
生きたいと。
そのせいで、この世界へと渡る力を得て、魂だけの存在――燃えさしの霊魂、燼霊へと変貌した。
燼霊が喚きながら語る俺への事情説明。
怒鳴りながらも、情報を伝えてくれるあたり、優秀だなぁなんてどこか他人事のように考えてしまう。
感情に任せた言葉なので、情報の時系列はバラバラだし、燼霊に至る際の経緯や説明も、抜け落ちている。
だから全ての燼霊が、俺が棄てた心の一部だなんて事は無い。
暁や氷の精霊なんかは、まんま本人だもの。
だが……俺の前で怒りに震えている彼女は、間違いなく、俺自身である。
俺の心の、落しものだ。
よくもまぁ、あんな凶行に至ったクソデカ感情を棄てて、違和感こそあったにせよ、今迄普通に過ごせて来られたよな。
喜怒哀楽の中で、怒哀の感情の働き全てが損なわれなのではなく、あくまで乏しくなっただけだから、どうにかなったのだろうか。
コレが逆に、何かにつけて怒りやすく落ち込みやすい、不安定な方に舵を切られていたら、カノンを筆頭とした人達との関係性の構築は、難しかっただろう。
少なくとも、目の前の彼女はそうみたいだ。
全てひとつの身体に収まっていた時は、何の問題もなく過ごせて居たけれど、断片的な、俺が必要無いと切り離した感情のみで、構成されているのだ。
社会性は著しく欠如している。
暁への恋心に、自分の理不尽な境遇を怨む怒りの気持ちと、不遇を嘆く情感のみっつとなれば、そりゃあ周囲には煙たがれたに違いない。
理性でもって表面に出して居なかった、仄暗い感情達だもの。
ソレらが受け入れられ難いモノであると、他でもない俺が一番よく知っている。
だが……表面化したら好ましくないから隠されるべきモノなのに、ソレだけで構成された剥き出しの感情のみで魂が構築されたこの燼霊には、それが分からない。
元々はそれぞれ別の存在として、燼霊となっていたようだ。
しけし自分の存在意義とも言える暁に拒否され、自分の中に足りないモノがあるのだと、他の感情を次々と取り込み、統合もされずに歪になって、今に至る。
この世界の神様みたいな暴走のしかたをするな。
しかし……暁に拒否された?
って事は、コイツも元々はニブルヘイムの住民だったのは、間違いないのか。
俺が最近この世界に来たから、この燼霊もそうなのかなと、話を聞いている最中は思ったのだが。
どうやら違うらしい。
大半の燼霊は、滅ぼされたか、ニブルヘイムに封印されたが、全てではないと聞いていた。
もしかしたら封印しそびれた燼霊で、こちらの世界を渡り歩いているうちに、肉体を獲得したのかもしれないと思ったのだが。
元々ニブルヘイムに居たのに、今コッチの世界に来ているって事は、肉体を与え召喚した人物が居るのか。
ソレが教帝なのかな。
だから逆らえないとか、そういう感じ?
「私たちの存在理由である、暁から拒否をされれば、私たちは形を保っていられなくなります。
そこに在るのだと定義されなければ、精神体である燼霊は、いとも容易く消滅してしまう。
ですから私が存在し続けるため、また暁に認められるために、‘’暁つ御神‘’を名乗り、世界を燼霊のものとするべく、信仰心を集めました」
あ、現御神って名乗ってるけど、アレ、漢字で書くなら‘’暁つ御神‘’なのか!
‘’つ‘’は格助詞で、暁のために存在している神様って名乗りたかったのね。
なぁるほどぉ。
神様が実在している世界で、神様を自称しちゃうとか、ウケる。
しかし、面白いように自白してくれるな。
そっか。
存在の定義をされなければ、燼霊って弱体化・消滅するんだ。
良い情報を聞いた。
暁が桁違いに強い理由は、そのせいか。
なにせ世界中で、英雄様として語り継がれているんだもの。
ソレを言い出したら、この燼霊は魔王として語り継がれている割には、弱いよね。
「プロトストリアとか、ヴィニーとかって通称は何なの?」
その質問には、ビクリと身体を震わせるだけで、答えてくれない。
なんだよ、さっきまでベラベラと喋っていたのに。
独白ってそんなモンか。
自分が語りたい事を言うだけ言ったら、満足して一切話さなくなる。
でも……そっか。
コイツ、燼霊なんだよな……
自分で自分を殺すって言うのは、なかなか後味が悪いな。
だからって、片や仮初の身体に憑依しているだけの精神体で、俺はキチンと肉体のある身だし。
超合体! とかロボじゃねぇんだし、出来ないよな。
万が一にでも出来たとしても、だ。
今更暁への恋心なんてオトメな部分を取り戻した所で、困惑するだけである。
敵対している時点で、相手に情けをかけてしまう要素なんて、あったって邪魔なだけだ。
この約半年間、無くても特に問題無かったのだし。
ぶっちゃけ、いらん。
俺の質問に答えない燼霊は、カタカタと震えたままだ。
もしかして俺、恐怖の感情まで放ってしまった、なんて事はないよな。
イヤ、全く感じないって事は無いんだけどさ。
バカみたいにデカイ魔物を相手にしても、割と平気な顔をして倒しちゃうじゃん。
自分の力を過信しているからなのかな〜、と思ってたんだけど、過度な恐怖は要らないからって、ポイ捨てしてしまったのかと。
それでこの燼霊が、ムダに感受性が高くなってしまっているのかとか、考えたりしてみたり。
全く恐怖を感じないか、と言ったらそんな事は全然ない。
燼霊を前にすれば、胃袋の中身を全部吐き出してしまいそうになる程のプレッシャーを感じるし、敵前逃亡したくなる衝動に駆られる時もある。
ただ欠落している感情や記憶が他にもあるとしたら、何だろなって考えただけ。
自分の中からゴッソリと失われていたら、気付きようもないのだが。
ヤレヤレどうしたものかと燼霊に伸ばした手が、彼女に触れようとしたら、首の後ろがチリッとザワつくような、本能的な警告がその手を引っ込めさせた。
全身総毛立つような、この感覚。
そうだよな。
最初に表面に出ていた人格は、三人分の名前を挙げたのだ。
もう一人居て、当然だ。
狂ったようにわめいていた、橙色の瞳は赤味を強めて、据わったような鋭い目付きで、俺に視線を向けていた。




