神さま、後悔する。
魔物手帖書いてたら、コッチ短くなってしまいました(>ω<;)
ぷろとすにかす?
ワケの分からん名前で俺を呼んだ燼霊は、刀に首を押し切られるのも構わず、手を伸ばすだけでは足りなかったのか、ずずいと上体を起こそうとする。
いやいや、マジで首が落ちるぞ!
介錯人みたいな超絶技巧が無くても、この刀なら首と胴体が生き別れになってしまうからね!!?
チョンパはアカン!!!
死に急ぐんじゃありません!!!!!
痛みを感じないのだろうか。
血が流れているのに。
刃が肉にめり込んで、こんなにも痛々しいのに。
意に介さない燼霊の様子に薄気味悪さを感じて、つい、刀を引いてしまった。
阻む物が無くなった途端、このスキにと言わんばかりの勢いを付けて、燼霊は身体を起こした。
その勢いに気圧され、身体を支えようとした手を滑らせてしまい、今度は俺が組み敷かれる形になってしまう。
自分と同じ顔に押し倒されるなんて、悪夢のようだ。
先程までの猛攻が嘘だったかのように、俺を害そうと今は思っていないらしい。
殺そうと思えば、今この瞬間に幾らでも出来ただろう。
だが燼霊はその代わりに、無防備な状態になった俺の、顔をペタペタと触ってきた。
手つきに遠慮が無ぇ。
害がないなら、気が済むまで触らせて、落ち着いたら質問タイムにするか。
した所で、答えてくれるかは分からないが。
少なくとも、刀の刃は燼霊の方を向いている。
敵意を向けられたら、即座に対応できる。
血が出るって事は恐らく、内臓も詰まっているだろう。
とってもスプラッタな状態になってしまうので、そうならない事を切に祈る。
ぼーっとした顔を下から見上げていると、首の傷が既に塞がっていた。
コロリと落ちてしまう心配をしてしまう程度には、深い傷だったのだが。
血液で首の周辺は汚れてはいるものの、抉れた肉が盛り上がる事もなく、綺麗さっぱり、跡形すらない。
「絶対再生」の「スキル」に近しい能力を持っているのだろうか。
それとも、髪の毛を操ったように、皮膚や血管をイジって塞いだのだろうか。
無遠慮に触っていた燼霊と、目が合った。
目の色は、俺とは全然違うな。
「そのいろ……」
「っ……!?」
短い言葉と共にゴリっと、何の躊躇いもなく、目玉を二本の指で掴まれた。
イヤ、正確には目を閉じようとしたので、まぶた越しにである。
だが、摘み出そうと指に結構な力が入っていたようだ。
眼の表面が傷付いたのか、景色がボヤける。
「試験体一号じゃ、ない……?
あなた、だぁれ?」
「お前こそ、誰だ」
突き飛ばされて呆然としているとは言え、教会で見た燼霊は、もっと理知的だったように思える。
少なくとも、こんな幼い印象では無かった。
気になった物があれば、自分の身に危険が及ぶとか、相手がケガをするとか、全く後先考えていない行動をみると、好奇心が旺盛な、人生経験の少ない乳幼児を彷彿とさせる。
ヒトは様々な失敗を含めた経験を積んで「コレをこうしたらどうなる」と予測をし、危険を回避出来るようになる。
だいたい、五歳程度ならある程度は学習能力が身に付いているだろう。
だが目の前の燼霊は、なんというか……ソレらが空っぽな印象だ。
ボーッとしているように見えるのも、思考をするクセがついておらず、周囲に見える物が何なのか、脳が判断し処理するだけで手一杯だからな気がする。
そのうち、グズって寝たりして。
「あたしは、試験体三号。
あなたは、レプリカじゃないの?」
「……レプリカじゃない。
ジューダスだよ」
「試験体二号もちがう。
じゅーだす……ゆだ?
うらぎりもの……?」
言葉をひとつ口にする度に、首を左右にコテンと傾げる様子は、正しく幼子そのものだ。
見てくれが俺の年齢と大差ないせいで、頭がオカシイ人にしか見えない。
俺の見た目でそんな事をしないでくれ。
俺まで頭が狂いそうになる。
とりあえず分かったのは、コイツ以外にも複数体、燼霊がいること。
目の前の燼霊も含めて、少なくとも三体。
そのどれもが、俺と同じ、もしくは似たような見た目をしているのだろう。
そうでなければ、さっきのセリフは出てこない。
いよいよ胤冑棟の存在が、確かなものになってきたな。
それと英語の知識――と言うよりは、地球の情報も細かな所まで持っている。
Judasと聞いて、ユダと裏切り者という言葉が即座に出てくるのだ。
正直言って、有り得ないレベルの知識と言える。
燼霊は莫大な後悔や怨念を抱えて地球で亡くなった人が、肉体を喪ってもなお、姿形を変えてこの世界に来たのだと思っていた。
しかし施設の人間は宗教に関して、ほぼほぼ無知である。
施設で暮らす上で、信仰は不要の長物だったからね。
そういうものが過去にあった事実は知っていても、詳細を知らない人ばかりだった。
キリスト教はイエスをメシアとして信仰しているとか、イスラム教はアッラーを唯一神としているとか、仏教は釈迦が創始者であるとか。
その程度の知識ですら、知らない人が大半だった。
世界三大〇〇と聞いて、ふたつしか名前が出て来ないもどかしさを、世界三大宗教で経験出来る程である。
興味もなければ、聞いた事がある程度のうろ覚えの知識でしかない。
イエスの十二人の使徒である、イスカリオテのユダが裏切り者で、その綴りを英語読みするとジューダスになるなんて、知っている人が居たとは到底思えない。
俺だって、「知識」に自由にアクセス出来なければ、知るはずの無かった情報だ。
……もしかしてこの燼霊は、「知識」についても、何か知っているのだろうか。
メイン棟の在処を知っていて、利用した事があるとか。
もしそうなら、所在を是非聞き出したい。
今も尚ブツブツと、あぁでもない、こぅでもないと、首を傾げながら自問自答を繰り返してる。
思考の海から浮上して来るのを待っていたら、明日になってしまいそうだ。
こんなのに付き合っているヒマがあるなら、サッサと街に戻って、実験の続きをしたい。
声をかけようとしたら、ピタッと、その動きが止まった。
え、電池切れた?
「ハァ……」
ため息と共に、イヤな予感が脳天を走り抜ける。
押し倒された格好のままだったが、本能の警告に従って立ち上がり、距離を取った。
俺が先程までいた場所には、魔術によるものだろう。
暗い闇色の斧がめり込んでいた。
一切の容赦がない攻撃である。
プロトストリアと名乗った人物の攻撃とは、印象が全く異なる。
「……アンタの名前は?」
「無礼者ですね。
名を求めるのなら、先に己が手本を見せるものではないのかしら?」
攻撃をした時に伸び放題になっていた髪を、煩わしそうに掻き上げ、見下すような視線を向けて来る。
見た目は全く同じなのに、口調や雰囲気が全く違う。
俺が昨日見た燼霊は、コイツだ。
よくよく注意をして見てみると、プロトストリアと目の色が違う。
新緑を思わせる、金を散りばめたような瞳は、透き通るような飴色に変わっていた。
昨日は暗がりだったから分からなかったが、確かにこの色なら、俺の金眼と見間違えるのも、頷ける。
肉体はひとつなのに、まるでスイッチを切り替えるかのように、中身が入れ替わってしまった。
多重人格とも、違うよな。
アレは精神疾患の一種で、さすがに見た目は変わらない。
性格が変化するので、受ける印象は変わるそうだけど、目の色が変わるような事は無い。
「まぁ、名乗らなくても宜しいですよ。
どうせ、短い付き合いにしか、なりませんから。
あなたが、オリジナルでしょう?
……初めまして、さようなら。
私たちのために、どうぞ、死んでくださいませ」
嘘みたいにキレイな、緻密に描かれた絵画のような笑みを浮かべ、丁寧なカーテシーをした燼霊は、空中にドス黒い無数の刃を出現させた。
どう見ても、一発当たったら、即The・ENDって感じの、不気味な雰囲気を醸し出している。
アレはアカン。
興味本位で触れたら、つついた指先から腐って溶けて跡形もなく消えてしまいそうな予感しかない。
うっわ、逃げてぇ〜……
プロトストリアと名乗っていた間に、さっさと決着を付けておくんだった。




