神さま、登庁する。
街は俺が勝手に作った街になる。
そのため、領主はいない。
王政だし、荘園制度もお貴族様の階級もあるようなのだが。
敢えて言うなら、俺の保護者会扱いになっている、カノンが領主になるのだろうか。
現在国王の座に就いているアリアは、カノンの実妹だ。
本来ならカノンがそこに座らねばならないのだが、本人は逃げ回っている。
世界中を旅して回り、直接問題を解決していく、現場仕事の方が性に合っているのだと言って、報告義務すら放棄して王宮に近寄ろうとしない。
見つかったら、連れ戻されてしまうからだ。
適材適所と言うのであれば、確かにアリアよりもカノンの方がフットワークが軽いし、霊力も多く名が通っている。
そのため、その土地の問題を直接解決するために、全国津々浦々旅して回るというのなら、カノンの方が適している。
何より、男だし。
「男? 女?? どっち???」と二度見されるのが常な俺ですら、油断すると裏路地に連れていかれそうになる街だってある世の中だ。
小動物系のアリアでは、あれよあれよという間に奴隷商に売られかねない。
なので今の状態がベストだと、俺も思っている。
まぁ、アリアの場合は、音信不通気味な数少ない身内に、もう少し息災かどうかの連絡位寄越せと言いたい部分があるのだろう。
カノンは小言を聞きたくないからと、滅多に連絡を出さないし。
すれ違いって残酷だね。
そのためアリアは‘’賢者‘’に関する風の噂を、報奨付きで集めまくることになっているので、もう少しどうにかならないものかとは思う。
税金の無駄遣いだし。
俺が把握しているやり取りなんて、俺を拾った時の報告に、その後一度王宮に顔を出すと言った連絡、実際に王宮に登城した時の三回だけだ。
イヤ、拾った時の報告は、後から聞いただけだけど。
約半年で三回。
しかも俺に関する一連の流れで致し方なく、全て短期間に行われている。
そりゃアリアだって文句も言いたくなるだろ。
せっかく風の精霊の力を借りて、距離も場所も関係なく出せる手紙があるのだから、もっとこまめに連絡を取れば良いのに。
その登城をした時に、事後報告にはなったが街の事は伝えた。
ヘタをすれば王都よりも大きく立派な街だし、物騒なレーザー砲なんかも設置されてはある。
だがしかし、叛意は微塵も無いのだと併せて言った。
単に男のロマンだから創っただけなのだと。
女の子なのに理解してくれたアリアは、見どころがあるよね。
その後は街からも王都からも離れるように、大陸を横断し旅をした。
なので、つい先日帰って来るまで、この街がどう言う状況になっているのか知らなかった。
てっきり、その間にお貴族様が派遣されてやって来るのだと思っていたのだが……未だに来てないね。
‘’王の権能‘’と名高いカノンが作ったとウワサされている街だし、好き勝手出来ないから旨みが少ないと、誰も統治を名乗り出なかったのかな。
イヤ、王命があれば、逆らうことは出来ないか。
そもそも王都以東は魔物が強すぎて、人が住んでいないとまで思われていたような場所だし。
そんな酔狂な場所に、一晩でおおきな街が出来ましたが、なんて言われても、誰も本気にしなかったのかもしれない。
あとは「そんな辺境なんてイヤだい」と泣いて駄々をこねて、指名された人が断固拒否をしたとか。
そうなると、やはり表向きはカノンが治めていることになっているのかな。
実際に業務を行っているのは、ゴルカさんだけどね。
移住希望者や取引希望の商人の出入りが増え、店舗も増えたし露店や屋台が広場に並ぶ数も、だいぶ増えたそうだ。
今は雪のせいで、残念ながらその様子は直接見れていないけどね。
そのため、事務処理をする人を、新たに何人か雇ったと報告を受けている。
ゴルカさんとヌリアさんの下で働く人だ。
俺達がどうこう口を出すのはおかしいので、「そっか、ガンバレ」の一言で終わらせた。
欲を言うなら赤字を出して欲しくないなぁ、程度は思うけれど。
まぁ、俺もカノンも、ついでにアルベルトも冒険者稼業をしていれば、勝手に財布は重くなっていくから。
金なら問題ない。
作った者の責任として、また気が向いた時にいつでも街で遊べるように、例え真っ赤になったとしても、どうにかするつもりだ。
「遠慮なく言ってね」と言ったら、二人には「これだけ潤沢な資源のある所で、黒字にならない方がおかしいです」と返されてしまったが。
順調そうで何よりである。
街の土地は売り出しはしていないので、農民は皆小作人になるし、住居は賃貸になる。
そこに不平不満を抱く人が出てこないかな、と心配していたのだが。
農地に関しては霊力が豊潤なため蒔けば芽が出て、ポンプと水道のお陰で水やりも楽。
樹の妖精が手伝ってくれるし、アドバイスもしてくれる。
他の街と違って城郭の中に農地があるから、魔物に襲われる心配も要らない。
地球の農作物をベースに創り出した品種だから、見慣れるまでは大変だけれど、病気に強いし、収穫量も多い。
規格外品は格安で買えるし味も美味しい。
住居は雨風が入ってくる煩わしさから解放され、雪で潰れる不安も要らない。
井戸で水を汲んで来なくても、蛇口を捻れば水が出てくる。
水洗トイレで衛生的だし、風邪をひかなくなった。
防音もされているし、近隣に迷惑を掛けるような心配もしなくて良い。
文句の付け所がないんだって。
農家さんって卸せないB級品は自分達で消費するイメージがあったんだけど、貸し出してる土地で作っているものだから、全て買い上げられるんだ。
それでも文句が出ないとか、余程王都はブラック企業が多いらしい。
農村に限らず、建築技術が余り発展していないらしく、床は土かその上に麦わらを敷き詰めただけ。
壁は土壁が基本で土台は無し。
二階建て、三階建てになると当然傾くし、嵐の日には風で煽られて壁が吹き飛ぶ。
住居の意味とは? と問いたくなるクオリティだ。
他の地域が酷過ぎて、比較するとこの街はこの大陸の中で最も天国に近いと言われているらしい。
と言うのも、移住者は大抵王都出身だから。
地方の農村から移住してきた人が多く集まる王都と比べても、この街の設備は異次元レベルで高いそうだ。
まぁ、「万物創造」で創った物だし、この世界には無い技術と知識の集大成だもの。
そう評価されるのも当然か。
まだ他の地域までは、ウワサが広がっている途中らしい。
なにせ試しに住んでみた人は、そのまま定住してしまうから。
ウワサを広げてくれる人が、他の町村に住んでてソコに家族がいるような人達しか居ないのだ。
泣く泣く自分の家に帰る道すがら、街の話をしてくれる、限られた人数だけとなると、情報が広がりにくいのは仕方ない。
旅の道中、冒険者には‘’ギルド‘’のシステムも含めて街の宣伝をして回ったけれど、冒険者って言う存在は、この世界では余り誇れる職業ではない。
大抵が、元捨て子が生きて行くために、そうならざるを得なかっただけの人達だからね。
生まれながらにして霊力を宿していて、その力を上手く扱えず、癇癪を起こして物を壊し人を傷つけ、手に負えないと家族から捨てられるパターンが多い。
ガルバ達もそうだ。
世界をまたにかけて冒険をしている人で、そう言う出自じゃない人は、俺が知っている中だとカノンとアルベルト位だな。
引退した騎士が、自分の死に場所を求めて旅をする、なんて場合もあるそうだけれど、今の所俺は会ったことがない。
そのせいで、一箇所に定住することを夢見ながらも、一つの街に留まり続ける事が出来ないのが、冒険者達の性質らしい。
ちゃんとアパートに、まだまだ空き部屋はあると言うのに、冒険者連中は、ギルドの雑魚寝部屋か宿屋を借りて滞在している。
アパートはそう言う冒険者に向けて短期契約をさせると、備え付けの設備や備品を壊される可能性があるため、永住契約以外は行っていない。
収入が不安定だから、支払いの面も心配だしね。
住民は放っておいても、移住希望者で勝手に増えていくと言うのだから、わざわざ冒険者に売り込む必要はないしね。
定住したそうな人を見掛けたら、それとなく、話を振ることがあるとガルバは言っていたけれど。
今の所、実際に住み始めた人はいない。
定住するにあたって、この街独自の法律と言うか、決まり事に了承して契約を交わさせて貰っている。
ソレを了承しない限り、転居許可を一切出さないように、ゴルカさんには言い含めて置いたから、そのせいもあるかもだけど。
イヤ、俺からしたら最低限の事だし、わざわざ言う程の事でも無いような内容なんだよ。
だけど口減らしのため、自分が気に食わないからと、十歳にも満たない子供を無責任に魔物が跋扈しているような場所に捨てるのが、当たり前になっているような世界だよ!?
追い剥ぎは当たり前、恫喝・恐喝なんて日常茶飯事。
そんな畜生宜しくな人達を相手にするなら、俺の常識は一切通用しない世界なのだと思っておかなくちゃいけないでしょ。
社会に迷惑をかけない。
家族に迷惑をかけない。
そんな曖昧な表現だとダメなのだ。
「自分は迷惑だと思わないから」なんて幼児じみた言い訳をして、実際には被害者側に回るつもりなんて毛頭ないクセに、平気で加害者になるような輩ばかりなのだから。
ゴミはゴミ箱へ。
ポイ捨てしてはいけません。
ゴミを踏んだ人が不快な思いをします。
ゴミで足を滑らせた人がケガをしてしまいます。
ゴミ箱の位置が分からないなら、他の人に聞きましょう。
そこまで書かなければならない。
言わなくても何でしてはいけないのかが、分からないのだ。
知能指数ピテカントロプスかよと言いたくなるレベルで、倫理観やモラルが欠如しているんだよ。
シッカリ契約を交わしても、正直、心配が尽きない。
地球人はこの世界でよくやってこられましたよね!?
と本気で言いたい。
常識のすれ違いによるストレスは無かったのだろうか。
まぁ、地球人だとか、この世界の先住民だとか、そう言う枠組みから逸脱して好き勝手やらせて貰っている俺が、文句を言うのもおかしな話なのだろうが。
うるせぇ、ココは俺が作った街だ。
文句言うなら出ていけ。
完全に暴君である。
イヤ、だって、思い入れのある町だもの。
物理的にも内部構造的にも、壊されたらたまったもんじゃない。
無法地帯になんて、させませんよ。
そんなワガママに振り回されて、いつの間にか影と共にその身体まで随分とヒョロッとしてしまったゴルカさんに、雨避けの方陣を設置する事を伝えるべく、役所に赴いたワケだ。
最初は代表のゴルカさん、秘書のヌリアさんとその息子のフリアンくんの三人しか居なかった。
しかし今では都市参事会として、行政・裁判及び仲裁・教育・福祉・工業・農業・商業・医療……様々な窓口が作られていた。
今は冬だから、人も物も出入りが少ない。
そのためお茶挽きでもしているだろうと思ったのだが、そうでもなかった。
まだ出来て半年程度の街だし、アドバイスしてくれる人もいない。
そうなると全部、手探りでやらなければならない。
ヒマな時に備えられることは備えておこう。
今夏を振り返って、もっと効率的に人をさばくにはどうすれば良かったか。
そんな事を熱心に話し合い、意見を出し改善案をまとめる会議をしていた。
何この人たち。
偉すぎない?
いくら家畜小屋同然の、隙間風吹きまくる家での暮らしに戻りたくないからって、こんなマジメに取り組んでくれているなんて。
監視する人なんて居ないんだよ!?
つまり、率先して自分達の住む街を良くしようとしてくれている。
えぇ……、マジでエラいな。
お給料が良いからとか、待遇が良いから志望しましたって言われても理解納得するのに、本気で「街をより良くするため」に働いてくれているんだ。
嬉しくて涙がちょちょぎれそうだよ。
同調圧力が掛かりやすい人達だとは思ったけれど、良い方向に使われるなら、こう言う一致団結して一つの問題に取り組む姿勢って素晴らしいね。
申し訳程度でも、手土産を持ってきて良かった。
是非皆で食べて下さい。