神さま、背ける。
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そんな万能な適役が居るなら、最初から頼っているよ。
地理がバッチリで、国の中枢に在籍していない、その上俺やカノン並の実力者なんて、居ないでしょ。
前ふたつの条件だけなら、そこら辺に居る冒険者を捕まえれば、結構な確率で当たる。
冒険者は基本的に、一箇所に留まらない。
街や村の住民から嫌厭されるからね。
粗野で知性がなく、集団行動が出来ない。
和を乱し、秩序を軽んじる。
そんなイメージがあるからだ。
実際、そういう人は多い。
なにせ幼い頃に、親から捨てられた人が多いからね。
人との繋がりが如何に儚いものかを、嫌という程知っている。
人格形成期に、甘えや油断が死に直結する世界で生きて来たのだもの。
それを重んじる社会の構造や制度が理解出来ないのは、ある意味仕方の無い事だ。
俺は別に悲観主義ではないが、性悪説を推している。
なにせ善悪という曖昧な概念は、その時代の社会性によって左右されるからだ。
戦争真っ只中の社会情勢では敵国に所属している人間を殺せば殺すだけ英雄として持て囃される。
争いとは無縁な社会では、例え対立した立場にいる人間だろうと、殴るだけで悪とされてしまうのに。
何より、人の欲には限りがない。
自然に任せて放っておけば、欲望のまま奪い、衝動の導くままに破壊し続けてしまう。
だから教育によって道徳心を与え、善性をのばす必要があると思うのだ。
その機会を、軒並み奪われた冒険者達が、悪とされてしまうのは致し方が無い。
仕方が無いと諦めきれず、足掻きもがいて、街に辿り着いた者達には、教育の機会を与えている。
何気に富の面々が冒険者の間で有名かつ、人気者でね。
アイツらが居る街だからと、冒険者は街では結構大人しく過ごしているのだ。
要所要所に富のメンバーが居るから、余計にね。
ガルバに窓口になって貰って、ギルドのロビーで依頼も受けずにヒマそうにしている連中に、学校を紹介しているのだ。
子供達は冒険譚や武勇伝を聞きたがるし、冒険者は学びつつ子供達のお陰で自尊心を回復出来るし、とても良い関係を結んでいるように思う。
学校に通う子供達は、何気に英才教育を受けているから、何か諍いが起きても、鎮圧出来るだけの術を持っている。
武術はモチロン、精霊術もね。
日々少しずつだが形にはなってきているから。
子供達にイスに身動ぎせずに座り続ける忍耐力を鍛えられ、知性を身に付け、更にアスレチックや鍛錬場で肉体を鍛え、依頼をこなして実戦を学ぶ。
今街にいる冒険者達のレベルは、かなり水準としては高いと思う。
あくまで、一般的に見れば、の話だけど。
俺とカノンが規格外だからなぁ……
アルベルトでも、まだ足りない。
そうなると思い浮かぶのは……
適任となると、若干一名、居るなぁ。
ヒト換算して良いのかが微妙だけど。
…………子供同士のケンカに、親を召喚したような気持ちになるから、躊躇するのだが。
今頃は街で、お料理に精を出しているだろう。
趣味の時間をジャマするのは心苦しいが、連絡を取ってみるか。
俺の考えを見透かしたのだろう。
カノンが慌てた様子で制止にかかる。
首根っこを持ち上げられても、胸ぐらを掴まれても、気にせず脳内で相手に呼び掛けた。
アリアも宰相閣下殿も、適任が居るのに何を躊躇う事があるのだろうと、不思議な様子だ。
そう言えば、アリアは鳥の姿をした光の精霊しか見た事が無かったか。
カノンが止めるのをムシして、相手にカクカクしかじかと説明をしたら、「少し待ってて」と返された。
料理中ならば、手が離せない状況なのかもしれない。
キリが良い所まで終わらせたいのかもしれない。
了承を告げ「ちょっと待ってって言ってるわ」と三人に言えば、カノンは頭を抱え、その様子を残りの二人が不思議そうに見つめている。
俺とカノンと同等、もしくはそれ以上の実力者と聞けば、誰なのか想像出来そうだと思うのだけど。
だが彼らは俺がどれだけ気安く、軽々しく、この世界で神様と同等に思われている皆を頼っているのかを知らない。
まさか呼んだ相手が、精霊だなんて思いもしなかったのだろう。
区切りがついたらしく、転移してきた彼を「地の精霊の総大将、テルモさんで〜す」と紹介したら、宰相閣下殿が泡を吹いて倒れてしまった。
「ひきつけとか起こしてない?」
「――てんかん発作じゃないんだから……」
瞬時に宰相閣下殿の背後に周り、頭を打たないように保護したテルモに、呆れられてしまった。
白目を剥いて意識がないものの、やはり顔の造形が似ているなぁ。
肉体ONの状態だと、生前の姿形そのまんまだもんね。
是非とも火の精霊を起こして、この間に並べたい。
そんな衝動に駆られる。
あぁ、だけどこの場合、先程の自分よりも歳上の自分の子供だとか、そういう複雑な関係性になるし、当事者は嫌がるか。
地の精霊はまだ宰相閣下やカノンと同じ位の外見年齢をしているが、火の精霊の見てくれは、十歳程度の子供だからね。
自分よりあからさまに歳上の弟と甥っ子となると、複雑な気持ちになりそうだ。
「――かしずくべきかな?」
「いえっ!
とんでもありません!」
宰相閣下殿の抱えた頭をゆっくりと床に下ろし、いつもの柔和な笑みを浮かべて、テルモはアリアに問い掛けた。
アリアは整えられた頭をブンブンと凄い勢いで振って、逆に胸の前で手を交差させて跪いた。
本来は、こうやって王様ですら頭を垂れるような相手なんだよねぇ。
精霊の皆は俺にとっては友達や仲間のような、身内意識が強過ぎるから、やらないけれど。
この場にいる、俺だけが血縁関係に無いんだけどね!
何故血的に近しいヤツらがこんなにも他人行儀に、演技めいた行動をわざとらしくしているのだろう。
寝っ転がって、せんべいでもバリボリ食べてしまいそうになる。
寸隙を見るなら、鬼嫁ポーズがテッパンだろう。
もち米がないからまだ作れていないんだよね。
お気持ち表明に、お茶だけ啜っておくか。
「――へぇ。
精霊教のメインストリームが私たちから逸れているのは知っていたけれど、そんなことになっているんだ」
「エラい他人事のように言うね」
「――実際、ヒトゴトだから。
キミが祠を立てて、熱心に祈りを捧げてくれる人たちを増やしてくれているだろう?
真摯に向き合って心からの願いを霊力に乗せた祈りなら、私たちに届くけどね。
形だけの教義だけを広めて、欲望や願望だけを込めた願いごとばかりを祈っても、私たちには届かない。
今の主流になっている精霊教が台頭するよりも前からある、精霊信仰宗教からの祈りは変わらず届いているし、気にしたことが無かったんだ」
「んで放置していたら、精霊教がのさばって燼霊を召喚しちゃったんだ?」
俺の言葉に、テルモは視線を泳がせた。
そういう立場に無いので、咎めるつもりはないのだ。
そんな顔をしないで欲しい。
だが欲望まみれで神様に願い乞うヒマがあるならば、自分達の力で解決しろやと言いたくなる、怨念にも似たお祈りをしていたとしても、その人達は、精霊達を崇拝している人間には変わりない。
本人達は手段を間違えただけで、一生懸命なのだ。
報われなければイジけて他宗派に鞍替えしてしまうのは、人間だもの。
仕方ない。
精霊の声が聞こえないし、祈りが届いていないから無関係だと、放置していなければ、今のような状況にはなっていなかったかもしれない。
タラレバを言っても仕方無いし、大切なのは、あくまでこの先どうするかだ。
時間のムダなので、非難なんてしませんよ。
精霊教に所属している大半の人々は、善良で慎ましやかな、ただ日々を大切に生きているだけの一般人だ。
先導者を間違えてしまったが、愚直なまでに他人を疑う事を知らない、善き隣人である。
今回の騒動が落ち着き、今精霊教に蔓延っている、燼霊崇拝者という異端者を排除して、組織をマルっと乗っ取ってしまえば、精霊の皆にとっても好ましい存在になる。
霊力を体内に取り込む方法や扱い方とか、教える事こそ多々とあるけど。
後々の影響を考えれば、その手間を惜しむ理由は無い。
やはり、燼霊の存在を知らない今回の襲撃者を、全て殺してしまうのは惜しい。
問題を問題として捉えず、注視もせずに放ったらかしにしていた精霊の責任を取るのに、その代表としてテルモが顕現状態で同行する事が確定した。
精霊が特定の人間に肩入れするのは、やはり好ましいとは言えない。
しかし今回の件に関しては、これ以上放置をすると、遠からず戦争になる。
しかも起こるとしたら、多数の精霊術師対王国軍の大規模な争いになる。
その前に介入するのは、問題無いと判断された。
大戦になれば、ヒトはモチロンだな、精霊、特に微精霊や下位精霊が多く犠牲になる。
弱い精霊は、人の命令に反する事が出来ない。
キャパオーバーな事でも、見境のない人間は精霊に命令して、アッサリとその命を散らせるだろう。
俺が襲撃者にやったように、上位の精霊から力の使用を禁止されれば命令に背ける。
微精霊からしてみれば、人間は取引先、地の精霊達は社長のようなものだからね。
人間の指示や命令、要望なんかよりも、精霊の皆の意向を優先するのは、至極当然の事なのである。
とは言え、戦争になった場合、精霊の皆はそんな命令は下せなくなる。
なにせ精霊の矜恃に反する状況になるからね。
互いの正義や主義がぶつかり合って、戦争というものは起きるのだ。
精霊教の行動の先にあるのが燼霊復活だとしても、彼らの信仰心を無碍にしてしまえば、彼らの幸せを奪う事になる。
届いていなくて無意味なものだったとしても、日々祈りを捧げた人々はそんな事実を知らない。
なのにその対象が、自分達ではなく敵対している方に付いたら、酷く裏切られた気持ちになる。
そうなれば、絶望や悲哀といった、燼霊の好む感情で場が充たされる。
戦争を止めようと精霊がヘタに動けば、燼霊顕現の手助けをしてしまう事になる。
だからといって教会側につけば、当然国王軍は圧倒的な戦力差で蹂躙されてしまう。
どちらについても、最悪な結末しかやって来ない。
戦争が始まってしまえば、精霊達は動けなくなるのだ。
イヤ、精霊が動こうが動くまいが、戦争というものは、一度開戦してしまえば、何処が勝とうが、短期だろうが長期だろうが、最悪な結果しか待っていないんだけどね。
だから開戦前の今、止めなければならない。
表面上はなに食わぬ顔をしておきながら、脳内会話でテルモにお願いをして、地精霊の名において、此度の件に関与する事で、一切の殺生を禁じると、命令を下して貰った。
地の精霊にわざわざ出張って貰うのだ。
死者を出すワケにはいかんだろう。
教会に乗り込むのに、テルモ以上の適任者は居ない。
俺の性格を分かっていて、暴走した時に止められるだけの力もある。
その上地理に明るいなんて言葉では、到底片付けられないレベルの専門家だ。
隆起した海岸線があればリアルタイムで把握出来、土砂崩れの予兆まで報せてくれる。
地面の上で起きている事は、全てテルモの手のひらの上で起きているも同義。
例え精霊教の本部がインフェルヌスから移動したとしとも、その移転先を突き止められる。
だがカノンは、それでも眉間にシワを寄せたままだ。
納得いかない事が、まだあるらしい。
「地の精霊様が同行して下さるのは心強い。
だが、俺が行かない理由にはならないだろう」
「お・ま・え・が! 狙われてる可能性が高ぇから留守番してろって言ってんだよ!!」
「ならば俺も地の精霊様と共に居たほうが安全だろう」
「護衛は居ないけど敵の総本山から遠い王都と、強力な助っ人は居るけど敵の陣地真っ只中!
どっちの方がマシかって言えば前者だろうが!!
後者だと、一瞬気ぃ緩めただけで拐かされんぞ!!!」
「そもそも、俺は守って欲しいなんて一言も言っていない。
奴らが俺を狙っている理由に心当たりもないし、確証のない状況証拠だけで、俺の行動を制限するな」
「なんだと、テメェ?」
再び互いにメンチをバチバチに切り合う。
おデコがぶつかりそうな間合いに入った時、後頭部を掴まれ、少し後ろに引かれる。
そのままゴンッ! と勢い良く叩き付けられた。
煙でも出て来そうな痛み……っ!
涙が滲んで来たぞ。
カノンの石頭!!
「――ハイハイ。
ケンカは辞めようね」
こんな事が出来るのは、当然この場には一人しか居ない。
窘められ着席を促され、渋々ながら俺もカノンも大人しく座った。
「――お互い心配なのは分かるけど、その感情の出し方を間違えてはいけないよ。
カノンもキミも、自分に力があるからと、率先して相手を庇い、自ら傷つこうとするのは辞めなさい」
「俺は、別に……」
「――キミの、悪いクセだ」
真っ直ぐ、人では無くなった証拠が色濃く出ている、琥珀がはめ込まれたような瞳で見詰められる。
責めて居るのではないと分かっていても、次の言葉が出て来ない。
実際俺は、他人とは比較出来ない程の、絶対的に優れた力がある。
そう考えて、誰に相談する事もなく、自分一人が罪を被れば良いと、地球で皆を殺したのだ。
被害者本人に指摘されてしまうと、反論出来ない。
「……ゴメン」
「――謝るのは、私にではないでしょう?
それにその、アヒルみたいな口は辞めなさい」
唇を尖らせ不平不満を表現したら、窘められた。
次に頬を膨らませたら、指でつついて空気を抜かれた。
「――大人ぶってはいるけれど、まだ、子供なんだ。
許してあげて欲しい」
俺がまだ一桁の年齢だった頃にしたように、膝の上に乗せ、ヨシヨシと頭を撫でながら、カノンに許しを乞うテルモ。
別に、許して頂く必要なんて、無いんですケドね!
「いえ……
俺も、大人げなかったです」
そう言ってそっぽを向いていた俺の正面に来て顔を覗き込み「済まなかった」と、言い訳も文句も言わずに、カノンは一言だけ告げた。
逆側にぷいっと更に顔を背けようとする俺を、頭を撫でていたテルモの手がガッチリとホールドしてくる。
おぉう、いててテテ……っ
「しゃーねぇから、許してやらぁ」
不遜な態度で、鼻を鳴らして、いけしゃあしゃあと宣う俺のデコを、カノンの指の背が軽く小突いた。




