神さま、祈る。
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すっかり忘れ去られていた記憶喪失の設定を引きずり出し、俺がこの世界で魔王と呼ばれている存在である事は隠して、事の顛末を説明した。
カノンに保護をされた始まりから、記憶が無い為、一人で生活するのは難しいだろうからと保護者になって貰った事。
好きなようにさせて貰い、色んな出来事に巻き込まれながら、時には首を突っ込みながら旅をした事。
街を創ったのは、カノンの庇護下に居た村人達の住処が無くなってしまったから。
その時の加害者がアルベルト達率いる富の連中で、貸しがあるから監視の意味も含めて街で暮らさせている。
首に巻かれている、冒険者証にもなっている装飾品は、俺の意に背く事をすれば爆発して首と胴体が離れるのだと説明をしたら、ドン引かれた。
イヤ、罪人なんだからそれ位しなきゃデショ。
アリアの元へ度々足を運んでいるのは、俺がやらかしている事が余りにも多過ぎるから。
国の諜報機関ではとてもじゃないが追い切れず、情報を共有しなければならないのだ。
カノンに負担は掛けられないと、アリアも人員を増やして対処に当たって居るようなのだけど、諜報機関に属するならば、最低手紙が使えなければならない。
そうなると、精霊術師でなければ務まらない役職になる。
国防を疎かにするワケにはいかない。
なので今は人材教育の最中だ。
街で良い術師が育ったら、その人の意向によっては派遣すると、既に約束が交わされている。
まだまだ遠い話になるが。
地慣らしだけはされたが被害の見えない魔物の大暴走は、被害者をその日のうちに埋葬したからだ。
被害が無かったワケではない。
遊牧民とその家畜が、相当数犠牲になっている。
ソコの訂正は強くさせて貰った。
情報収集を生業としているのなら、事実は知っておくべきだろう。
そうじゃなければ、亡くなった人達が浮かばれない。
海岸線沿いにあるトルモ町に生還者がいるから、必要ならば話を聞けば良い。
そう言ったら、精霊の皆と脳内で会話する時のような感覚がした。
チャンネルが違う為か、どんな会話をしたのかは分からなかったが、夢魔特有のネットワークがあるのだろう。
調節する前に会話が終わってしまったので、詳細は不明だが、誰かしら送り込んだようだ。
それなら、手土産を持たせたのに。
その時世話になった人達に渡して欲しかったな。
毀魔馬はそんな危険な魔物だと説明を受けず、カノンからはただのデッカイ魔馬だと言われていた。
なので倒して食った。
美味しかったよと言ったら、夢魔二人は顔を引き攣らせた。
そんな簡単に倒せるものではないし、そもそも未知のモノを食べる発想になるのが恐ろしいらしい。
なんだかんだ言って、俺も日本人の血が入っているからね。
日本人の食に対する熱量が受け継がれたのだろう。
他にも成り行きで人助けをしたら、燼霊と戦う事になったり、遺跡探掘する事になったり……
今回の暗殺騒動だって、本来俺達が関わる事は無かったのだ。
しかしアリアがガルバとヌリアさんの結婚式に出席すると聞いてから、あれよあれよという間に関係者のド真ん中に位置する事となった。
しかも会いたくないと思っていた燼霊と、またニアミスしたし。
俺だって、平穏に日々を過ごしたいと思っている。
美味しい物を食べて、ソコソコの労働をして社会貢献をして、気の置けない友人や仲間と駄弁って、趣味を見付けて充実した余生を楽しく生きたい。
俺は平和主義なのだ。
そんな俺が、騒動を起こすワケが無い。
心外な事に、向こうが勝手に寄ってくるだけ。
つまり、俺も被害者だ。
カノンからしてみれば、そんな俺に巻き込まれる彼こそが、最大の被害者になるのだろうが。
「肉体を持った燼霊が、現存しているのですか?」
「現御神って精霊教徒に呼ばれているのが、燼霊だった」
イシュク夢魔は、流石情報通なだけあり、現御神と呼ばれる存在が居る事を認識していた。
そして精霊教が崇める対象が、燼霊に変わって行っている事も知っていた。
だが噂にしか聞かない‘’現御神様‘’が燼霊だとは知らなかった。
直接目にする機会は外部の者では一切なく、ちょっと前から気が付けばいつの間にか居た、という認識らしい。
夢魔は不老不死なせいか、時間の感覚が少々おかしい。
数日以内の何時頃、と指定すれば問題無く待ち合わせは出来る。
しかし「近日中に対処しておいて」と言っても、数日以内に着手される事はない。
一両日中とか、二、三日以内にとか具体的な数字を言えば、スペックは優秀なのでその通りにして来てくれる。
だがしかし、負担の少ない時を見計らってやって欲しいと、コチラが変に気を使って曖昧に日付を指定をしなかったが為に、事故というものが起きるのだと学んだ。
カノンにも言える事なのだが、一昔前、なんて言葉を使うと、齟齬は確実に生じる。
‘’十年一昔‘’なんて言葉もあるように、また干支の概念があるなら、だいたい十年から十二年程前まで遡る出来事をさして、一昔と口にする。
だが、長生きしていると一昔前が、ヒトの一生分程の時間をさす言葉になる。
もしくは、話題によっては区切りよく一〇〇年なんて事もある。
そんな彼らの‘’ちょっと前‘’なんて曖昧な言葉を人間の感覚で捉えてはいけない。
文脈からして、数日前程度の話ではないのは確実。
さて、二、三年前の話か、二、三十年前の話か……
最初の燼霊がこの世界に現れたのは、地球人が来る数年前の出来事だそうだ。
その時から破壊衝動の塊のような存在だった燼霊は、近年顕現した燼霊のような強さは持って居なかったらしい。
イシュクの予想では、封印されたニブルヘイムに、力が増強するような要素があるのだろうと言う事だ。
それでもヒトと比較すれば圧倒的に強かったし、瘴気を振り撒き、魔物を異形のモノへと変質させ凶悪な生物に変える、今でも危険視されている能力は当時から持っていた。
当時のヒトは、精霊と共に生活をする術は今よりも長けていたけれど、精霊術のような、他者を傷つけるための術は持って居なかった。
そのため、生活圏は徐々に減っていき、孤立していく事となる。
その間に屠ったヒトや魔物の霊玉から肉体を生成し、この世界への影響力を強めた燼霊は、相当な数だった。
ソレを減らしたのが、見た事のない建物から出現した新たな種族・地球人である。
施設では体育の時間の如く、毎日一時間程度ではあるが、戦う訓練もしていたからね。
場合によっては実戦形式で、半日掛けて対抗戦もさせられた。
他の施設から略奪者が襲撃して来た際の、模擬訓練の名目だった。
限られた武器と物資を使い、ペイント弾の付着面積によって生存の可否を判断し、どれだけ相手を殺せたか、仲間を助けたかを競うものだった。
俺はその成績、滅茶苦茶悪かったよ。
誰も殺さなかったし、助けようともしなかったから。
だって、実力がバレたら悪さをする時に真っ先に疑われるじゃない。
能ある鷹は爪を隠すとも言うじゃない?
普段は手を抜きまくって生きていたのよ。
処分対象を決めるテストでは、全力を出したけど。
普段との成績の差がエグ過ぎて、要らん誤解をされたり、ウワサが立てられたりしたなぁ。
今となっては懐かしい。
地球人は鍛えられて居ただけあり、身体能力が基本的に高い。
その上恐らくこの世界、地球よりも重力に引かれる力が弱い……とも違うんだよな。
自由落下のスピード自体は、約九.八一m毎秒毎秒で万有引力定数は一Gと、地球と何ら変わらない。
地球と同じで、高度や緯度が違うと、多少の差異が生まれるのは前提としてあるが。
そのお陰で違和感なく過ごせて居る。
しかしバフの付与だとか精霊術による補助だとかが無くても、無意識にだが霊力を消費して、自分への負荷を軽減したり、身体能力を上げる事が出来るみたいなんだよね。
重力を無視したアクロバティックな動きが出来るのも、大型の魔物が関節痛を発症する事なく移動出来るのも、不思議エネルギーを普段から無意識に使えるお陰なのだろう。
地球人は霊玉こそないが、「スキル」を生まれながら使っている為に、自然界に溢れている霊力を消費して、意識せずとも、誰に教わらずとも使えたのだろう。
その為、過去の燼霊戦においても、「スキル」の使用と自然の霊力消費による身体能力強化によって戦ったのだと予想出来る。
どのエリアにも銃火器類はあったし、そういう道具も使ったかもね。
殺傷能力は高いから、燼霊から肉体を奪うのは、結構簡単だったと思う。
……当たれば、の話だけど。
当時の燼霊はさほど程強くなかったと言うし、 ちゃんと当たって、ニブルヘイムに閉じ込められた結果が今に繋がるのだろう。
だが沢山のヒトを殺した、主戦力と言えるべき燼霊はマークされていた事もあり、漏れなく倒すかギンヌンガの裂け目に確実に追いやった。
だが、取り零した者も居るらしい。
カノンや、その両親。
点在する地球人達が、大戦の終了宣言が成された後も、残った燼霊の対処をし続けた。
そのお陰で、新たな裂け目が出現しない限り、コチラの世界からは居なくなったと思われていた。
一〇〇年程は、どの地域でも観測されていないそうだ。
だが現に、俺によく似た燼霊は居た。
格好を似せてマネをして見せたら、司教は俺を見て‘’現御神様‘’と呼んでいた。
あの狼狽っぷりからして、演技では無いだろう。
だからこそ、尋問がサクサク進んだんだし。
今回の騒動で国は、教会に何らかの補償を求めるつもりではある。
けれど、争いになれば最も犠牲になるのは、本来無関係な民草だ。
それをよく知っているから、アリア自身は戦いを避ける方向で、話し合いによる解決を望んでいる。
イシュク達が懸念する、全面戦争には至らないと思うのだが。
「国王陛下がそのつもりでも、教会の事実上最高権威が燼霊な時点で、無理じゃありませんか?
やつらは破壊をするのが生きがいみたいな連中ですよ」
「俺が見た燼霊は、ちょっと違う感じだったけどなぁ……」
理性的、理知的とも違う。
かつて対峙した燼霊のように、あの燼霊も破壊衝動の塊のような存在だったなら、俺が居る居ないに関わらず、侵入者が居るかもしれない。
そう思った時点で、淵窩とやらの回収だけして、教会を吹き飛ばしていれば良かった。
ソコまでしなかったとしても、思わせぶりな態度を取る必要だってない。
カマをかけるような言葉をかけずに、部屋に火でも放てば俺を文字通り炙り出せた。
それをしなかったのだ。
少なくとも、何でも壊して解決、なんて短絡的な思考はしていないと言える。
肉体があるので行動の制限こそあるが、地の精霊だって出来るのだから、あの燼霊だって身体のON/OFFは任意で可能だろう。
精神体に切り替えれば、扉の開け閉めなんて不要だし、俺に気取られる事無く部屋に入れた。
ソレをしなかったと言う事は、普段から人間のように振舞っているからか、出来ないかのどちらか。
あるいはその両方か。
滅多に人前に姿を表さないとしても、日々の生活で根付いた習慣は、どうやったって咄嗟の時につい出てしまうものだ。
しかも侵入者が居ないと納得した後ならば、尚更だろう。
装う必要が無いのだから。
気配こそ燼霊だったが、実は過去の戦いで弱体化して、色々と制約が多いヤツなのかもしれない。
人間でも衝動的に破壊工作をしたり、突発的に暴れだしたりする人はいる。
そういう本能を抑えて、人間と共生する意思があるのなら、あの燼霊はそのまま放置して置いても良い気がするんだよね。
燼霊と関わりたくないって理由もある。
ぶっちゃけ、自分と瓜二つの人間が自分の生活圏に居るのって、正直落ち着かない。
だから精霊教なら関わりを持つ心配が要らないし、棲み分けしてくれるなら、有難いな〜と思ってみたり。
あぁ、でも淵窩のような物騒なモノを作って、人工的にギンヌンガの裂け目を発生させようとしているのだ。
やはり放置は出来ないか。
燼霊を含めた、過度な争いに発展しそうになった時には、即離脱する事。
それと、なるべく戦争を避ける事。
その二つを条件に、コレから王都の監獄塔へ輸送する一五〇人と、昨日捕縛したうち、まだ口を割っていない三七人の尋問をイシュクを初めとした夢魔達が請け負ってくれた。
モチロン、最初に交わした約束通り、街の好きな所にイシュク達が望む規模と間取りの‘’スファンクス‘’を新たに建て、王都で二番目に大きな酒場からほど近い場所にも、アリアから許可が降りた設計図に限り、‘’スファンクス‘’王都支店を建造する。
コッチは成功報酬なので、捕虜を脳破壊しない程度に頑張って欲しいものである。
ところで地球の宗教って、結構古くからあるものだと、禁欲が修行項目に含まれていたり、姦淫が御法度だったりしたけれど、精霊教ってどうなんだろう。
……サクラン坊の皆様の性癖が、歪まない事を祈っておこう。
ゴメンね。
漫画に描いてあって気になるからって言われて、電動マッサージ器まで渡してしまった俺を、許してくれ。




