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もと神さま、新世界で気ままに2ndライフを満喫する  作者: 可燃物


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神さま、血の気が引く。

 地球の先入観のせいもあるだろうが、不思議な造りをしている教会だ。


 外扉を開けてすぐ目の前に現れた、椅子が立ち並ぶ礼拝堂を抜けると、その奥に簡素と言うよりは質素とすら言っても良いような、待合室があった。

 回復薬を売る、カウンターも併設されている。



 こう言う「宗教には興味無いけど、施しは受けたい人」向けの受付って、なるべく出入口に近い所でやるものじゃないのかな。

 人手を取られると、日常のお勤めに支障が出るじゃない。


 場合によっては、回復薬を今すぐ飲みたい本人が来たり、一刻の猶予もないような重傷者に薬を届けたくて訪れる人も訪れたりするでしょ。

 普段教会を利用しない縁遠い人が、そういう緊急事態の時に、頼りに来たのに販売所が建物の奥にあるのって、不便過ぎる。


 一分一秒を争う状態の人が、この通路を抜けなければならないのは、なかなかに酷である。



 あぁ、良いパフォーマンスにはなるか。


 建物の作りからして、教会が希望者に行っている教育は、礼拝堂で行われるのだろう。

 他に大人数を収容出来そうな部屋が無いからね。


 どれだけの人数が受講しているかは知らないけれど、非日常感を覚える静かな場所で、突如「助けてください!」なんて大声を出して、扉をバーンっと乱暴に開けて入ってくる人が居れば、嫌でも目立つし印象に残る。


 怪我人なら早く助けて欲しくて、血をダラダラ流していようが周囲の様子なんて気にせず中に入ってくるし、教徒は怪我人に駆け寄る事となる。

 治癒術なり回復薬なりで治療を施すのは、生徒達の目の前で行われる事になるだろう。



 外に治療を求める本人が居たとしても、切迫した雰囲気でその仲間が助けを求めて来たら、その場は騒然となる。

 慌ただしく回復役が中央のこの通路を走り去って行く様子は、印象に残るに違いない。


 一般的には‘’精霊様の奇跡‘’や‘’精霊様の恩恵‘’と呼ばれる、治癒術や回復薬の効力を目の当たりにしたら、刺激に飢えている市井は興奮するだろうね。

「精霊教は凄い!」と噂話という名の宣伝を、惜しみなくしてくれるだろう。



 レイラが施していた治癒術が普通のレベルだと、ちょっとインパクトに欠ける気もするが。


 なにせカノン印の回復薬なら、もげかけた腕でもくっつくし。

 俺が遠慮なく治癒術掛けると、条件が揃えば死者すら蘇生するし。



 そのカノンが作る回復薬は、鑑定眼で視ると‘’最高品質 優‘’と表示される。

 コレ以上無いって位に効果がバツグンのお薬である。


 片や棚に並んでいる回復薬は‘’高品質 良‘’となっている。

 なかなか悪くないのでは無いかと一瞬思うが、空の瓶と品質の悪い聖水も一緒に置いてある所を見ると、コレを薄めて売っているのだろうな。


 カノンの薬に劣る物を、更に劣化させて高値で売っているのだから、ボロ儲けも良い所だ。

 


 そこら辺に生えてる草で作れるのだから、ケチケチせずに原液を渡してやれよと思う。

 俺が金に困ったら、その時には原液の回復薬を売り付けよう。


 精霊術を使えない人には、塀の外の世界はかなりの脅威だ。

 しかし教会の連中は、精霊術を漏れなく使えるんだろ。


 なら、自分達で採りに行けば良いだけなのに。


 もしくは、カノンみたいに自家栽培したり。

 ……お墓に隣接した土地だと、気分的に嫌か。



 懺悔室にトイレに掃除道具入れ。

 ふたつだけ並んでいるベッドがある部屋は、イマイチなんの用途か分からない。

 厨房、食堂、中庭に出る為の扉……大人数が相部屋になっている、ベッドがズラっと並ぶお部屋が幾つもあって、その隣にまたトイレ、二人部屋、一人部屋と並んでいる。


 階級によって部屋の豪華さが変わる感じなのだろう。

 そしてそれを目標に、教徒の皆様は頑張っているのだね。


 何を頑張るのかは知らないが。

 ……ゴマすりとか?



 いかにも特別待遇を受けている様子の部屋は、司教の物かな。

 大司教は王都(ディルクルム)には居ないそうだし。


 事務仕事のような物もこなしているのか、木札が机の上に留まらず、床の上にも山積みになっている。


 紙の量産が出来ないのなら、木札は繰り返し使えるし便利だよね。

 場所を取るのが難点だが。



 この木札には、今回の一連の事件に関わる重要な証拠は無いだろうな。


 司教も手紙(シルフィード)を使えたし。

 重要な事は、証拠が残りにくい媒体で遣り取りしていただろう。


 誰と、かは不明だが。


 アルベルト達が上手く聞き出せていると良いのだけれど。



 気配感知に引っ掛かる違和感はナシ。

 目視で確認する分にも……イヤ。


 今、何かが引っかかった。



 ぐるりともう一度、視線を巡らせる。


 机の上、壁、窓、書棚……と指差し確認するが、違和感の正体に気付けない。


 部屋の中を歩き視点を変えてみる。

 もう一度、それぞれの方向に指を差し……あった。



 違和感の正体。


 祭壇だ。



 礼拝堂にすらない、小さいながらも祭壇が、書棚の隅――ちょうど椅子に座ったら、いつでも見られるような位置に設置してある。


 厨子、と言うよりも、チベットなんかではメジャーだった、ガウに近いイメージだ。



 ガウは手のひらサイズで、持ち歩きが出来る仏具である。

 いつでもどこでもお祈りが出来る携帯祭壇で、災厄を退けるとされている。


 日本の御守と、キリスト教の十字架の、間の子のようなものだね。



 アレは首から下げるための紐がついていたけれど、コレは見る限り据え置き型らしい。

 厚みがあり過ぎて、持ち運ぶには難儀しそうだ。


 手に取ると、想像通りズッシリと重い。

 あ、手袋は手の傷を隠す為に、常にしているから。

 指紋が付く心配は、しなくても大丈夫。



 シュリーヴァスタのような文様が施されている事からも、宗教的な意味合いが強い物だと分かる。


 永遠の連続性――誕生、死、再生の無限を表現しているのか、三英雄の能力「創造」「破壊」「再生」を象っているのか。

 メビウスの輪のような模様は、どの時代でも世界でも、神を彷彿とさせるのだな。



 宗教施設と言えば、曼荼羅やフラスコ壁画を思い浮かべる。


 だと言うのに、祀るものを象徴するような物が、この部屋に来るまで何も無かったので、本当にココは教会なのか? と疑問を抱かずには居られなかった。


 その違和感だらけの中で、突如宗教的な物を見付けたら、そりゃ引っ掛かるよね。



 御神体には何がおさめられているのだろう。


 正面に取り付けられた小窓を開けると、ビックリ。

 玉手箱になっているとか、びっくり箱になっているとかではなく。


 本気で驚いた。

 ちゃんと、中身があったのだ。


 イヤ、コレはあったと言って良いのか?

 むしろこんなモノなら、あって欲しくなかったのだけど。



 精霊と対を成す、世界の滅亡を目論む燼霊(じんれい)と呼ばれる存在がいる。

 俺は燼霊に対して、悪魔とか、魔族とか、そんなイメージを持っている。



 その燼霊がこの世界に干渉しないように、ヘルヘイムなる世界に精霊の皆で封じ込めたのが……三〇〇年程前の事だったかな。

 精霊も燼霊も、その戦いでお互いかなりの数を減らされたのだが、それでも悪さをしようとして来る燼霊が未だに居る。


 襲ってくるタイミングが分からずとも、場所さえ分かって居れば対処が出来る。


 そういう事で、ヘルヘイムとコチラの世界を繋ぎ目が作られた。

 作ったと言うと語弊があるか。


 出来た時空の裂け目のうち、ソコだけ塞がずに取っておいたのだ。


 ソレが灼熱の大地にあるとされる‘’ギンヌンガの裂け目‘’だ。

 そこで門番みたいな役目を押し付けられたのが、闇の精霊(テネブラエ)である。



 精霊の中でもかなり強い力を持つ闇の精霊(テネブラエ)が常に監視しているお陰で、燼霊は出てこようとする度にヘルヘイムへと追い返される。


 たまにヘルヘイム特有の魔物が、コッチの世界に来てしまう事は稀にあるようだけど。

 その魔物が結構強い。


 実体が無いのか何なのか、物理攻撃が殆ど効かない。

 霊力を伴う攻撃でも、半端な攻撃だと意味を成さない。



 それもあって、俺は精霊術を使える人口を増やしたいと考えているのだ。


 なにせ近年、ギンヌンガの裂け目以外からも、燼霊が出てくる事象が確認されてしまったから。


 戦力を増やしたいと考えるのは、至極当然の事でしょ。

 せめて、自衛位は出来るようになって欲しい。



 世界の霊力の流れが滞り、瘴気が溢れると、自然とギンヌンガの裂け目のような、時空の綻びが生じる。


 それは昔からある事なので、特別視はしていない。

 大抵は瘴気が溢れている場所に出来るから、そういう場所はカノンが世界中を巡回する時に潰していくからね。


 たまに防げなくて、魔物が出て来てしまう事は、過去にもあった。

 その度に村や街が滅びる事となる為、カノンも必死だよね。



 そんな中でも、燼霊が裂け目から出てくる事は、ギンヌンガの裂け目の監視を初めて以降は、一度も無かった。

 つい最近までは。



 そんな燼霊すらも通れるような、人工的に擬似裂け目を作ろうとしているのが、精霊教会の一部の人間だ。


 近隣の村人を虐殺し、大量の瘴気を集め、燼霊がコチラの世界に長時間留まれるように、顕現するための肉体を生贄に捧げた。

 その目論見通り、燼霊がこの世界に現れたのが……ニヶ月程前か。


 かなり高位の燼霊が来てしまったが為に、生贄になった精霊教の信者達の肉体では、長時間顕現し続ける事が出来なかった。


 そのお陰で遭遇した俺達は誰一人として欠ける事なく生還が叶った。



 その人工的に作られた裂け目なのだが、気配察知で捕捉する事が、何故か出来ない。

 瘴気をキッカケに発生するモノではあるが、別に瘴気そのモノで形作られているワケじゃないからね。



 そしてその裂け目の元となるのは、よく分からない、正体不明の球体だ。


 鑑定眼を通すと何もないように見える、闇の精霊(テネブラエ)でも把握出来ないその球体は、ソコだけ空間が切り取られたように、光を一切通さない暗黒色をしている。


 その球体と、サイズこそ小さいが同じものが、ガウのフタを開けた所に、ポツンと浮いていた。

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