神さま、観察する。
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宝箱に何が入っているかは、完全にランダムだ。
その宝箱は、濃縮した瘴気を時の精霊の術で変換させて作っている。
なので、その時の周辺の瘴気の濃度によっては、空の時もある。
材料が無ければ作れないもの。
哀しいかな。
そんな事象は、一度も確認されていないが。
作りやすさが優先されているため、霊玉が一番出現率が高いかな。
時の精霊が少し手隙の時は彼の趣味が反映されやすいのか、武器や防具が出る。
回復薬作りにハマっていた頃は、回復薬の割合が高かったようだ。
開けられた宝箱は、フロアボスが討伐され、転移陣が起動するとリセットされる。
だがその前に、他のダンジョンにも出る 寄居魔虫が入り込むと、リセット自体は滞りなく行われるのだが、魔物が追い出される事は無い。
そういう宝箱は、中身にありつく前に 寄居魔虫を倒さないといけなくなる。
何かのバグなのかな。
宝箱の中身自体は、滞りなく補充されるんだよね。
寄居魔虫は棲み心地が悪くならないのかな。
お手頃なサイズ感だと思って、宝箱を自分の住処にしたのに、後から無理矢理お宝が入り込むワケでしょ。
霊玉そのものが直接魔物に対して毒になるのなら、「こんなトコ住んでられっかぁ!」と言って出て行きそうだが。
棲み着いたままって事は、多少狭くなっても、特に問題は無いのだろうね。
冒険者にとっては、いい迷惑だ。
その 寄居魔虫だが、宝箱に住処にした時のみ、ミミックと呼ばれている。
寄居魔虫自体は、ヤドカリのように、自分の大きさに合った入れ物に身体を収めているだけなのだが。
期待からのガッカリ感が酷いから、別の魔物だと区別しているのだろうか。
mimicと言うには、開ける方も開けられる方も、命懸けの擬態な気がする。
mimicって、ふざけて真似るとか、からかって擬態するって意味だからねぇ。
地球人が名付けたんだろうな。
落とし穴の奥にあった宝箱の中は、ミミックでは無かったものの、当たりとは言えない代物だった。
ハズレと言う程でも無いが。
ドキドキして開けると、俺の拳大よりも、ふたまわりは小さい霊玉が収められていた。
空っぽよりは、まぁ、マシだろう。
このサイズなら、街周辺に出る魔物から獲れる霊玉の方が大きいから、お宝感は無いが。
だが精霊教徒の五人は、コレだけ高純度で大きな霊玉は初めて見たと、テンションだだ上がりだ。
確かに魔物が体内に宿している霊玉と違って、個体の属性や魔力のような、不純物は混ざっていない。
しかしそんなもの、取り出そうと思えば簡単に除去出来る。
俺ですら特に面倒臭いと感じない、その程度の労力だ。
バンザイして騒いで、ハイファイブをし合うような代物では無い。
なのに俺が居たから獲得出来たのだろうと、ラウディに窘められ、あからさまにテンションが落ちたからね。
その青年三人に「俺は要らない」と伝えたら、三人で円陣組んで踊り出したからね。
それ程の物か……?
しかもその直後、誰に所有権があるのか。
誰がこの重量物を運ぶのかで、ひと悶着が起きた。
まさかのラウディとフィブレスすら挙手をして、その小さな霊玉を欲しがったのが意外だったな。
ムダに時間をかけずに、ジャンケンでもしてサッサと決めてくれ。
もしかしなくても、俺って物の価値観が一般的からズレて居たりするのだろうか。
カノンがどうって事ないって顔で何でも調達して来るから、食料から日用品まで、物価を気にした事が今迄無かった。
イヤ、正確に言うならば、価格自体は気にしたよ。
安く抑えられるなら、そうするべきだと思うし。
殆ど同じクオリティの商品で、値段が安いならそちらを選ぶ。
場所代の問題なのだろうけれど、同じ街の中でも、露店によって値段の開きが凄いんだよね。
品物の勉強をしつつ価格の比較をするのは、施設ではした事が無かったので、なかなか楽しく有意義な時間だった。
施設は基本的に支給品だからね。
物の売買を経験せずに生涯を終える人も居る。
消耗品なんかは申請して、その申請が通れば後日部屋に届く。
通らなかったら、異議申し立てをするか、溜まっている自分の貢献ポイントを支払って、申請が通りやすくなるようにハードルを下げて貰う。
そのポイントが通貨の代わりと言えば、そうなのだろう。
ただポイントは全部、電子機器で管理されている。
この世界みたいに、金貨や銀貨のような、商品交換の際に媒介物を必要としなかった。
だからイマイチ、流通しているモノと数字の尺度が一致しないんだよね。
施設で価値があった物と、この世界で価値がある物は当然違う。
希少だと値が高く付けられる傾向にあるのは同じだけれど、俺の中で貴重な物と、この世界の一般的に重要視される物は違う。
人間の手で作る事が出来なかった自然物が、俺の中では得難いものとなっている。
例えジルコニアだろうと、宝石類は施設内の設備では作れなかったから、宝飾品の類は問答無用で高いという先入観がある。
だがこの世界では、地質作用を経て自然に生成された鉱物以外にも、微精霊を含めた精霊が死んだ時に結晶化し、精霊石と言う名称で宝石が作られる。
その為産出量が多い。
そこら辺の地面を掘ればアッサリ出てくる。
なんなら掘らなくても、そこら辺に落ちている。
しかもその精霊石の活用法がまだ普及していないから、需要が全くない。
つまり、石ころと価値がほぼ同じだ。
アレだ。
シーグラスと似たような位置付けだと思う。
キレイだし好きな人は好きだが、市場価値は加工しないと皆無って感じ。
加工したとしても、宝飾品の類はお貴族様の領分な上、金銀の煌めきを際立たせる為の、添え物程度にしかならない。
人によっては、邪魔物扱いされるだろう。
そのうち、俺が旅の先々で渡している紋様具が広がれば、精霊石の価値も変わって行くだろうけれど。
そんな中で霊玉は、霊力を使う時に効率良く扱えるようになる媒体物になる。
加工の仕方によっては、術の増幅器にもなるし。
精霊術師の必需品だよね。
だから市場価値が高い。
ソレは理解出来る。
俺みたいにバカみたいに霊力がある人間には、霊力を一度に放出し過ぎないために加減調節もしてくれる。
とても有用な物だからね。
大きければ大きい程、強い魔物が持っているし、需要に対しての供給が少ない。
その為価格が高くなりがちだ。
精霊石と霊玉って、どちらも見た目は宝石にしか見えないんだけど。
役割が全然違うせいで、価格は桁違いの差がある。
そこまでは理解している。
だが、俺の想定よりもだいぶ価値に開きがあるようだ。
街を常に蒼天にする為には、毎日大魔熊サイズの霊玉が必要だって話をしていた。
今取り合いが起こった霊玉の、ふたまわりは大きいサイズになる。
だけど俺は、別にどうって事ないだろ、と思っていた。
なにせ街の周囲には大魔熊レベルの魔物がわんさかと居るからね。
必要なら、そこら辺をうろついている個体を倒せば良い。
何なら森の中に入って、一週間分とか調達しても良い。
その程度の考えだった。
なにせカノンの家に居た頃は、もっと上位の珠玉種とばかり戦っていたし。
その珠玉種から獲れる霊玉って、大魔熊よりもかなり大きい――倍近くのサイズがあった。
アレが俺のこの世界の魔物の基準になっているから、大魔熊は弱いし、大魔熊の霊玉は小さい。
概念がそう固まってしまっているのだ。
つまり、カノンが全部悪い。
俺の基準が、アイツとその周囲の環境で固まってしまっているんだよ。
まぁ、だから。
ココまで喜ばれてしまうと、何とも言えない気持ちになる。
四次元ポシェットの中に入っている珠獅子の霊玉を差し出したら、どんな反応を示すのだろうとか、ちょっと気になる。
あげられないから、見せないけど。
だって精霊の皆の素体になる物だし。
見せるだけで渡さないって、流石に性格悪いだろ。
五人を救出して疲れたから、と言い訳をして、その後の戦闘にはほとんど参加せず、フロアボスが居る手前まで来た。
ウソをつくのは心苦しいが、「五人を救出して(その後のクッソ下らないやり取り見せられて心が)疲れた」のは本当なので、決してウソではない。
その代わり最後尾は任せろと言って、前方から襲ってくる魔物にのみ集中するように仕向けた。
お陰で、精霊教徒の実力がよく分かったよ。
馬車の襲撃者とは、直接戦わなかったからね。
精霊術を使えないようにして、傍観していただけだったから。
霊玉の価値ですら、考え方に開きがあったのだ。
一般的に‘’強い‘’と言われる人達の実力がどんなものなのか、どうしても気になったので見させて貰ったのだけど……
アルベルト含めた富の面々が、世間で強くて頼れる存在だ、と言われていたのが事実なのだと、ようやく認識した。
イヤだって、俺にアッサリ負けたんだよ?
アイツら??
集団で襲っておきながら、ものの数分で俺一人に倒されたヤツらが「俺ら強いんだぞ!」って言ったって、何の説得力も持たないじゃない。
カノンは俺に勝ったり負けたりを繰り返しているが、悔しいかな、どっちが強いか問われたら、経験値の差でカノンに軍杯が上がる。
精霊術無しの縛りありなら、俺が大抵は勝つ。
だが精霊術アリにした途端、負けが重なるのだ。
組手ならば、高い技術を施設で習っていた俺に武があるからね。
だが俺にはまだ理解の及ばない精霊術が絡んでくる、実践的な戦いになるとお手上げだ。
緩急の付け方がエグい。
大技を使えるクセに、細かい術を立て続けに放って来て、目眩しをしたり、足を取ったりして、注意力が散漫になった所にトドメを刺してくる。
俺にはそんな繊細な霊力操作は、まだ出来ないからね。
マネすら出来ない。
手加減無用の殺し合いなら、「スキル」を使って瞬殺出来るけど。
そういう話じゃないじゃん。
だから、カノンが強いと言われるのは、理解出来る。
アルベルトも最近は霊力がガッツリ上がって、手数も増えてカノンや俺の戦い方を見て学んで、目まぐるしく成長している。
だが強いと自称していたのは、俺達と旅をする、その前だし。
フカして居やがったな、コノヤロウ。
……そう思って居たんだけどね。
なかなかの連携を見せてくれた五人は、多分、習った型通りの行動は出来るんだ。
だが、ソレしか出来ない。
前から直線的に襲ってきた魔物には、対処出来る。
ラウディとフィブレスの二人がガードし、その間からリュレルが精霊術で作り出した弓矢を射抜き、合間にレイラが回復をしたり強化をして、怯んだ所をトリストが叩く。
だがそのパターンから少しでも外れてしまうと、途端に弱くなる。
交差路で側面から襲われると、挟み撃ちにされると、セオリーから外れてしまってどう対処したら良いのか分からない。
そんな感じでオロオロし出す。
落とし穴にハマった時も、こんな感じだったな。
ラウディとフィブレスは、まだ巡礼の護衛僧兵として戦い慣れて居る。
場数を踏んでいるから、どうにか対応出来るし、他のメンバーに指示を飛ばせる。
だが、それも幾許かの逡巡を経ての事だし、まぁ、ムダが多過ぎる。
大事な司教候補である、貴重な治癒術が使えるレイラを預けるに足ると、教会が判断した二人で、コレだ。
トリストとリュレルは、焦ってしまって手元が狂ったのか、背後から前衛に攻撃当てるし。
死ななくて良かったね。
ココまで‘’普通‘’のラインが低いとなると、もしかしたら街でやっている育成って、謀反を企てていると思われかねないのではないだろうか。
多分、街で一番優秀なフリアンくんは、コイツらよりも余程強いぞ。
多分と言うか、確実に。
このままボス戦に入ったら、コイツら全滅するわ。




