神さま、萎える。
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ヤケにテンションの高すぎるアルベルトも同席しての、早めの昼飯。
それがイヤだったのか、カノンが離脱した。
中座するなんて珍しい。
器に盛られたスープは、食べ切る事なく中途半端に残っている。
余程アルベルトがウザかったのだろう。
……と思ったら、すぐに戻ってきた。
紙の束を手にして。
ソレを俺とアルベルト、双方手が届く場所に置いた。
何か色んな文字や記号、図形が書き殴ってある。
なにこのラクガキ。
「雪かきが面倒臭い、一日だけでも雪を止ませやれないか。
そう言ってきたのは、貴様等だろう」
「あぁ〜、コレ、雪を降らせないための術式?」
「違う。
悪戯に天候を左右させるような術は、禁止されている。
これは王都にあった結界の、改良版だ」
王都で常時展開している、精霊術による防護壁は、雨や雪のような自然物は通す。
しかし霊力が一定以上含まれている精霊術や、殺傷能力が高そうな攻撃なんかは弾くように出来ている。
何重にも張られた防護壁は、俺の手が加わった事により、かなり堅牢なものになった。
俺やカノンが精霊術をブッ放さない限り、破られることはないだろう。
城下町は王都だとは思えない位に寂れているけれど、住民は多い。
何よりカノンの妹である現国王が住んでいるからね。
過保護と言われるレベルで守りを固めるに越したことはない。
その防護壁――結界を改良して、雨や雪のような自然物のみを通さないようにしたのが、ココに書いてある術式になるそうだ。
攻撃を仕掛けられたとか、魔物の大群が襲ってきたとか。
そういう非常事態に陥れば、俺の「スキル」で建てた鐘楼や石塔に備え付けられたレーザー砲が火を噴くことになる。
わざわざ王都のような防護壁は不要だ。
そのため街を結界で覆えば雪の心配をしなくて済む、という単純な事に気付かなかった。
つまりは、大きく透明な傘をさそうと言うことだ。
術式を見る限り、オンオフの切り替えが出来るようになっている。
大きなイベントの時に限り発動させようと言うことか。
いつも起動していたら、貯水池から水が消えるし、畑の水やりも大変になるからね。
この術式を街の中央広場の噴水辺りにでも刻む。
どうしてもこの日は晴れじゃなきゃダメ! って時だけ、霊力を注ぐなり、精霊石を嵌め込むなりして起動させる仕様にしようと言うことだ。
起動させている間は、半径二km位の範囲で効果が得られる。
そう言うけれど、それなら小型化して、移動させられる方がいいんじゃないか。
イタズラ防止のためにもさ。
それに半径二キロなんて中途半端な事をする位なら、どうせ一時的なものなら、街全体晴れさせたい。
使う時は、お祭りや今回のようにお披露目をする時になる。
晴れやかな気持ちでいたのに、帰り道に雨や吹雪に見舞われたら、せっかくの思い出が台無しになるだろう。
どうせ一日、もしくは半日程度のことならば、作物への影響もあるまい。
範囲は街全体にすべきだ。
人間悲しい事に、イヤな思い出の方が、より根深く心に刻み込まれてしまうものだ。
どれだけ楽しい思い出を作っても、帰り道に散々な目に遭ったら意味が無い。
イヤ、無いとまでは言わなくて良いか。
良いんだけど、後日思い返した時に「雨に濡れて風邪ひいた」「吹雪で遭難しかけた」と言った悪い記憶までくっついて思い出してしまう事になる。
イヤじゃん、そんなの。
カノンは気が利くクセに、詰めが甘いんだよなぁ。
基本引きこもりのボッチ気質だから仕方ないんだろうけど。
人と人が関わりを持った時に、どうすべきなのかがイマイチ分からないらしい。
そのせいで、優しさが中途半端になりがちだ。
気が利くし、思いやりもあるんだけどね。
勿体ない。
タレ目が気にならない人なら、身長は高いし顔も整っている。
肉体も健康的。
金も地位もあって、この世界ではかなり重要な項目になる純粋な強さも持っている。
実年齢は三〇〇歳近い爺さんだとしても、見た目は若造なのだし、気にはならないだろう。
なんでパートナーの一人や二人、いないのかねぇ。
過去には居たのかな。
長生きしてるんだし。
……まさかの童貞だったりするのかしら!?
精霊術師だけど!!
そういう意味でも術師なの!!?
三十年なんてとうに過ぎてるし、サクラン坊のまま三〇〇年経過したら賢者になるのかしら。
あ、既にコイツ、賢者の二つ名持ってたわ。
なるとしたらなんだろ。
精霊に生まれ変わる条件だったりするのかな。
イヤ、若くても、非処女・非童貞でも、精霊に生まれ変わってるヤツがいたな。
年齢も純潔も関係ないか。
「……何か間違っている所でもあったか?」
「あぁ、イヤ。
お前の下の事情考えてただけ」
術式や方陣が書かれている紙を眺めながら考えていたから、不安にさせてしまったらしい。
素直に申告したら、おデコにチョップを喰らった。
コイツの手刀、骨張ってるせいか、ムダに痛いんだよね。
久しぶりにまともに喰らったわ。
いってぇ。
「……実の所さ、カノンとレイ……ジューダスの関係って、どうなの?
ジューダスってこれだけ整った顔してるじゃないか。
一緒にいて、こう、ムラムラと衝動が湧き上がってきたりとか、しないのか?」
思春期の男子か、オマエは。
そう言えば、俺をカノンの御稚児だと思っていたって言ってたな。
旅の道中も、そう言う目で見られた事があったし。
むしろ手を出されかけたし。
カノンが止めてくれたけど。
定期的に発散させないといけない時期は、とうに過ぎた年齢だろうに。
枯れるどころか、特に魔物と戦った後って、興奮しているせいかその頻度が高くなる傾向にあるようだ。
俺に不寝番をさせなかったのは、俺が成長期だと言うのも勿論あるのだろうが、そう言う発散をしている現場を見せないためって理由も、あるのかもしれない。
魔物の死体を使うとか言ってたよな。
見たくねぇ。
ってか、衛生的にどうなの?
変な病気うつったりしない??
……ウッカリそんな発言をして、気にするようになって、また手を出されそうになったら困る。
黙っておこう。
それでも万が一襲われた時には、殴って止めよう。
最悪、蹴り上げよう。
潰れようがめり込もうが、知ったことか。
致し方なくチゥまではしたが、それ以上はさせん。
中性的な顔立ちのせいか、旅の道中、アルベルト以外にもそう言う対象として声を掛けられたことが何度かあるんだよね。
いわゆる、ナンパというやつか。
イヤ、一晩の肉体関係を結ぶだけの契約を持ちかけられたのだ。
ナンパですらないだろう。
魔王を彷彿とさせるから、と言って普段外に出る時は髪を染めるか、フードを目深に被っている。
顔もシッカリ、隠すべきだろうか。
髪だって傷むといけないから、本当は染めたくない。
目深な帽子をかぶって、マスクとメガネをするとか?
花粉症がない世界なのにそんな格好でいたら、変質者目撃情報が寄せられて逮捕されてしまいかねない。
隠しても隠さなくても、トラブルの元になる予感がヒシヒシとする。
アルベルトくらいガタイが良かったら、フルアーマーを装備する方法も取れたけれど。
俺だと格好つかないしな。
重くて動けなくなりそうだし。
結局旅の道中、大きめの街に立ち寄ることになれば、身元確認の際に素顔を晒すことになる。
犯罪者の人相書なんかが出回っているからね。
写真ではないので、精度は低い。
しかしホクロや目の形、唇の厚みのように、それなりに特徴を押さえてあるため、書いてある本人が目の前に現れたら「アイツだ!」と言える。
それ位のレベルのものだ。
なので顔の確認は必ずされるんだよ。
……いっそのこと、丸坊主にするか。
ちょこっと生えてきた時が面倒臭いか。
バリカンなんてないし、剃る時にケガをしそうだ。
何より、泣いて止めるヤツ等が若干名いるし。
今も何人か、脳内で喚き散らしている。
精霊の皆には思考が筒抜けなのが頂けない。
プライバシーが侵害されているどころか、存在していないも同然だ。
ラジオの周波数みたいなものみたいだし、少しズラす事さえ出来れば、どうにかなるのだけど。
無意識にボケ〜っと考えている分には、向こうが合わせて来るのだから、どうしても筒抜けになってしまうのだ。
呆ける時間を作らなきゃいいだけの話なんだけどね。
ムリです。
気をそんな常に張っていたら、頭おかしくなっちゃうもの。
「子供相手に何を言っている。
発散したいなら、自慰でも、買うでもすればいいだけではないか」
「え、あ、無いとは言わないんだ?」
「…………」
無言で肯定された。
目を逸らす所か、顔も身体も背けられた。
へぇ〜。
約三〇〇歳って爺ちゃんでも、枯れないんだ。
女性は赤ん坊が出来たら、守って産んで育てる身体の仕組み的に、ある程度そういう事に対する年齢の制限がある。
性欲も排卵の関係で左右されるし、閉経したら無くなったり、物凄く淡白になったりするそうだ。
だけど男は、突っ込んで出すだけだもんな。
女性の不妊治療や生理不順を治す薬よりも、勃起不全の治療薬の方が種類は多いし、研究も進んでいた。
そこから想像にかたくないか。
男はいつまでも、現役で居たいってことだ。
そう考えると、施設の人間って基本的に性欲が薄かったんだな。
性犯罪を犯したら一発でお陀仏にさせられるから、ツガイがいない場合、コッソリ自分で処理するしかない。
故に表向きは皆性欲なんてありません、ってポーズを取ってただけかもしれないけど。
それこそ、かなりプライベートなことだからね。
大っぴらに言うことではないもんな。
約半年か。
カノンと一緒に旅をして、そう言う雰囲気になった事が無かったけれど、そっか。
我慢させていたのか。
そりゃ申し訳ないことをした。
コレからもどうぞ、我慢してくれたまえ。
えぇ〜、でもさ。
一緒に風呂も入った仲だよ。
特に俺、両性具有って言ったって、女の身体の部分はパッと見分からないワケじゃん。
生理の前後は胸も多少は膨らむし、息子も萎むから女の子っぽい身体付きにはなるけど、そんなのこの半年の間の、ほんの一週間から二週間程度の期間の事じゃん。
……まさか、カノンは野郎に欲情するタチだったか。
それは今後の付き合い方を考えねばならないかもしれない。
アルベルトにもまた襲われてしまった時の為に、蹴り技の練習でもしておくべきだろうか。
「それこそジューダスなんて、十五……六? だろ。
そういうことに興味ある年齢じゃないのか?
この街にも娼館出来てたし、カノンと行って来いよ。
いい所、教えるぞ」
あ、いい所聞いておこうか、ではなく教えようか、なんだ。
既に利用しているんだ。
うわぁ、ケダモノ〜。
ホント性欲強いな、コイツ。
カルバとかもそうだったし、大きな街には必ずそう言う大人向けの店があった。
意外と、性欲が強いのか?
この世界の住民は??
……カノンは表立ってそう言う話をしないよな。
それは彼の血が完全に地球人の物だからなのだろうか。
性格も含めた素質って、結構遺伝子情報で左右されるし。
鬱火病なんかが有名かな。
カノンは両親共に日本人だから、衝動的に性欲を発散させようなどという蛮行に至らないのかもしれない。
日本って、一番性交渉の少ない国だったし。
世界的に見ても異常と言うレベルで少なかったハズだ。
その上でアジアンは一度にかける時間が短いデータもあったはず。
早漏な上で草食系が多いとか。
良くもまぁ、地球滅亡の瞬間まで国が存続していたものだと感心する。
あくまで性行為は子供を作るための義務的なもの、と考えて居たからそうなったのかな。
実際、施設ではその考えがまんま残っていたワケだし。
因みに一番多いのはギリシャだよ。
なにせ性交渉に関して、色々と法律で決められていた国だからね。
この世界は基本的に物欲や性欲といった物が少ない傾向にある、と言う話だったんだけどな。
アルベルトや冒険者が特別絶倫なだけなのだろうか。
イヤ、アルベルトの発言から察するに、新しく出来たばかりのこの街でさえ、娼館が複数件あるのだ。
決して冒険者だけが特別強いのではないだろう。
ところで、何で朝っぱらからこんな話してるんだよ。
……俺のせいか。