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もと神さま、新世界で気ままに2ndライフを満喫する  作者: 可燃物


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神さま、労る。

 虫系の素材、特に四階層の魔物は薬の材料になるものが多い。

 毒って言う物は、使い方によってはとても有用なのだ。


 また外皮が非常に頑丈なので、防具の素体としても優秀だ。



 回収すべきなのかな、とは思うけれど……


 辛うじて残っている遺骸をチラリと見る。

 あの残骸から、鑑定眼でジッと見つめることも、重要部位だけ選んでひっぺがす作業もしたくない。


 だって虫のトゲトゲと密集した、あの毛に触らなきゃいけないんだよ!?

 魔物によっては、それにも毒が含まれているから、素手で触れる事は万が一にもしないけれども!!


 気分的にイヤじゃん。



 四次元ポシェットに放り込んで、(オルトゥス)の素材屋に一任するでも良いけれど……


 ジャビルは虫系の魔物は解体しがいがないからと、動物系の魔物、しかも中型種以上の大きさじゃないと請け負ってくれないからね。

 一攫千金のチャンスと、移り住んできた専門業者に一任する他ない。


 だ! け! ど!


 四次元ポシェットには、俺のご飯やオヤツも入っているのだ。


 虫なんて入れたくない。

 ただの気分的な問題である。



 素材回収はせずとも、武器は拾わなきゃね。


 ダンジョンから作った分は土塊に戻して、元々持ってた棒手裏剣は、欠けてないか確認して、洗ってまたホルダーにしまう。


 こんな所では落ち着いて手入れが出来ない。

 丁子油を引き直すのは、(オルトゥス)に戻ってからだな。


「スキル」を使えば元に戻すのは一瞬で済むが、こういうのは様式美としてやっておかないと。

 モチロン愛刀も、定期的に手入れしていますよ。



 脅威が去ったからだろう。

 振り返れば、置物状態だった治癒術師が動いていた。


 断りもせずに後方へと放り投げたラウディは、受身を取り損ねたようで、頭をケガしてしまったようだ。

 押さえている手拭いが、赤く染っていた。


 余程当たり所が悪かったのか、深く切ってしまったかしたようで、治癒術師は治療に難儀しているらしい。

 集中するためかギュッと目を瞑り、難しそうな顔をしてラウディの頭部に手を向けている。


 この様子だと、フィブレスの治療はまだだろうな。

 すぐに終わるとはいえ、武器の回収は後回しにするべきだったか。



 まさか本職の治癒術師が、こんな時間をかけて傷を治すとは思わなかったんだもの。


 普通の治癒術の回復速度って、こんなもんなのかな。

 それか余程タチの悪い毒に侵されたのだろうか。


 だとしても、カノンの回復薬の効き目の方が高くない?

 ……あ、だからアイツの薬は薄めて使われるのか。



 教会で常時販売されている回復薬とは違い、カノンの作る回復薬は、滅多に市場に出ない。

 そのため豪商や貴族といった立場の人が、金にものを言わせて買い占めてしまう。


 そうならないように、そういう人達が立ち入らない、なるべく庶民の小さい店に卸すんだけどね。

 結局小さい店が庶民に売るよりも、更に大きい店に売った方が、お金になるから。


 まだ起きていない、万が一のケガを心配するよりも、切迫した貧困から脱出するのを優先するのは仕方の無い事だ。

 カノンが二束三文で回復薬を卸すのも、ある意味お金が市井の末端から回りやすくするためだし。



 善意で無償の施しをすれば、次を強要される事を、彼は経験で知っている。

 ソコから少しは成長した結果の行動なのだろう。


 だからと言って、叩き売りするにも程があるが。

 バナナかよ。



 水や聖水で薄めて使う人が多い、という話も聞いていた。

 だけど貴重な物だし、ケチってソコソコ程度の効果が得られれば良い、と思っている人が多いのだろうな、と勘違いをしていた。


 単に一般的な治癒術の効果が低いのだ。

 コレを基準に考えたら、そりゃ薄めて使うのも当然だ。


 俺がフリアンくんを回復させた時、とんでもねぇ! みたいな目で見られたのも、頷ける。



 そして俺を保護した時に、カノンが原液を飲ませたのは、ケガの程度を見ていたが故だったのだろう。

 原液なら、貫通した傷口でも塞がるもんね。


「スキル」のせいで、薬を飲んだ時点ではとうに治っていたが。



 価値を知った今、振り返るととても勿体無い事をさせてしまったのだと反省する。


 あの時の回復薬の値段分の働きはしていると自負しているが、それ以上に厄介事を巻き起こして面倒を掛けている自覚もある。

 もう少し、労わってやらねばならないなぁ。


 少しだけね。

 自重し過ぎてつまんない人生なんて、歩みたくないし。



 この階層には、即死性のある毒を持っている魔物はいない。

 だがフィブレスは何種類かの毒を、短時間のうちに重ねて受けてしまったせいか、酷く顔色が悪い。


 向かってくる魔物が少ない方を任せたけれど、実力的に厳しかったか。



 その場限りで組んだパーティだと、お互いを信用しきっていないため、実力以上の魔物が出現する可能性があれば、撤退を申し出る。


 しかし彼等は同じ精霊教という、信仰心を同じにする者同士で、しかも指令を受けて行動する仲間だ。

 志が同じならば、無条件で互いの事を信頼していたのかもしれない。


 その上任務が遂行出来ていない状態では、実力に不相応だとしても、先に進まざるを得なかったのかも。


 蛮勇って言葉がとっても似合うね。



 解毒も回復も、「スキル」を使わないのなら光の精霊(ルーメン)の領分だ。

 パパっと治して、残りの二人を回収してサッサと騎士団の所へ戻ろう。


 さっきの戦闘のせいで、何分かムダにしてしまったし。



 切られて露出している部分を洗い流し、治癒術をかける。


 その方が治りが早いし、肉芽が出来にくく傷痕も残りにくい。

 野郎相手にそこまで考えなくて良いとも思うが、傷痕が増える事で、ウィーレ・ウィース姉妹を不安にさせてはいけないからね。


 離れて暮らすお兄ちゃんと久しぶりに会ったら、傷だらけで元の姿の面影がない、なんて事になったら大変だ。

 兄を語る変質者がいます、と通報されかねない。



 余程シンドいのか、肩で短く息をしていたが、治癒術をかけるとみるみるウチに顔色が良くなり、呼吸も一気に楽になったようだ。

 狐にでもつままれたような顔をして、自分の顔をペタペタ触ったり、ケガを負った場所を確認したりしている。


 何が起こったのか、イマイチ理解出来ていないらしい。


「体調は?」


「先程までの症状が嘘のように、何も……

 何が起こったのだ?」


「治癒術かけただけだよ」


「や……え?

 今のが治癒術?」



 身体に負った傷や病気を完全に治す精霊術なのだから、治癒術で間違いないだろ。

 ちょこ〜っとやり過ぎてしまったみたいで、元々あった頬や額の傷痕まで消えてしまったが。


 見た目のイカつさが無くなったせいで、凄みが消えてしまった。


 妹達と良く似た、きゅるんとしたパッチリお目々の自己主張が、非常に強くなってしまっている。

 巡礼の護衛として、野盗崩れの冒険者達に舐められてしまいそうだな、コレは。



 まぁ、もし不都合があるならね、メイクでも何でもすれば良いじゃない。


 そう言えば、この世界に化粧道具ってあるのか?

 なんか、治癒術とか血行や代謝を促進する術があると、肌年齢の衰えとか早々無さそうだし、必要ない気もするけれど。



 未だにラウディを治し切れていない治癒術師が目を閉じている間に、コッソリこちらにも治癒術をかける。


 完治しても尚目を閉じ続けて居るのを見るに、治った時の霊力の反発力を感じられないのだな。

 一体何を基準に術を掛けているのだろう。


「お嬢、治りましたので、もう大丈夫ですよ」


「あら、本当?

 いつもより調子がよかったのかしら」


「いえ、その……

 ……ありがとうございました」


 ラウディが俺の仕業だと暴露しそうになったので、手を横に振って言う必要は無いとジェスチャーで伝えた。


 事実を知った所で、うるさくなるのは目に見えている。

 新たな厄介事を生む位なら、黙って居るべきだろう。

 これ以上時間を取られたくない。


 それにラウディが侵された毒の進行を食い止めていたのは、間違いなく治癒術師のお陰だ。

 礼を言うのに十分な理由になる。



 教会からの支給品だと言う二人の盾は、見るも無惨な姿に変わり果てていた。

 荷物は少ない方が運ぶ時に楽だから、俺としては助かる。


 しかし先程の大群で、このフロアにいる魔物は全て倒しきってしまったと知らない三人は、居なくなった二人を探して合流したら、先に進もうなんて話をしている。


 前衛の盾が無くなったのに、無謀と言う他ない。

 ココまでいくと、バカだろうと言いたくなる。



「あなた……ジューダスさまは、この後ご用事は?

 精霊の御名において、崇高なる任務の共をする栄誉を与えたいのですが」


 ……すっげぇな、コイツ。

 お礼を言わないどころか、お願いすら出来ないタイプか。


 うわぁ〜、絶対関わり合い持ちたくねぇ〜。



 俺は風の精霊(ウェントス)のお陰で地獄耳レベルで耳聡い。


 この治癒術師が、自分を見捨てて逃げた二人を探さなくても、俺が居れば戦力としては十分だ。

 むしろ貴方達二人も居なくて結構よ、なんて不義理な事を言っているのも含めて、バッチリ聞こえて居るたんだよ。



 フィブレスから俺の名前を耳打ちで教えて貰っても、やはり礼の一言たりとも言いやしない。


 この態度、身内とか他人とか関係ないんだな。

 終始一貫、徹底したその態度。


 クソじゃん。

 人間性が、終わっている。



 それに、崇め奉るまでは皆の力になるから良いとしても、だ。


 勝手に皆の名前を使って、私利私欲の為にやってる事を正当化しようとするのは、辞めて欲しいな。

 迷惑にも程がある。



 そんなんだから、精霊教以外の一般人からの、精霊術師への風当たりが悪くなるんじゃないだろうか。


 坊主憎けりゃ袈裟まで憎いって言うし、こんな調子の人間ばかりなら、精霊そのものを憎悪するような人間が出ても、おかしくないぞ。

 コイツのこの態度が許されるような組織ならば、精霊教の底が知れている。


 まぁ、国王陛下の暗殺を目論むような連中だ。

 頭の悪さはピカイチなのだろう。



「残念ながら、用事があるのでお断りします」


「あら、残念と仰るのでしたら、途中まででもご一緒しませんこと?」


 うわ、何この変なベクトルに突っ走るポジティブ思考。

 単なる社交辞令にすらならない言葉尻取って、自分の都合の良いように解釈すんな。



 改めての断りを入れようとしたら、遠くから気配が走って近付いてくる。

 このフロアに居るのは、教会の関係者五人と、俺だけだ。

 つまりコチラに向かっているのは……


「やっぱり!

 おじょ〜!」


 バカっぽく転びそうになりながら、両手を振って走ってくる影が二つ。


 せめて振るのを片手だけにすれば、まだバランスを崩さずに走れるだろうに。

 なぜどこから魔物が襲ってくるかも分からないダンジョンで、そんな無防備になれるのだろう。


「トリスト! リュレル!」


「無事だったのか!」


「わ〜ぉ、ラウディ殿もフィブレス殿もいるぅ」


「その節はさーせんっしたぁ」


 キキッとブレーキ音でも聞こえそうな勢いで止まって、腰を大袈裟に折って頭を下げている姿は、とても反省しているようには見えない。

 声の調子も、巫山戯ているようにしか聞こえない。



 うわ……俺も人の事言えないケド、この人を舐め腐った態度。

 盾職二人が呼び捨てで、不遜な態度の二人が敬称を付け呼び合ってるって事は、ラウディとフィブレスが上司って事だろ。


 流石にコレは頂けない。


 精霊教ってこんな集団なの?

 チンピラじゃん??

 術師じゃなく、アホを大量生産している組織だろ???



 ドン引きしている俺に気付いた、トリストかリュレルのどっちか知らないが、片方がしおらしそうな態度を一変させて、コチラに向き直った。


「へぇ!?

 お二方はかなり硬派な人だと思ってたンスけど、ダンジョンでナンパっスか!?

 この人、きれいな顔してますもんね!」


「ソロです?

 それともぉ、仲間とハグれたんです?

 良かったらボクたちと一緒に行きませんかぁ?」


 ……途端に騒がしい。


 回収対象が全部揃ったのだから戻りたいが、ココは四階層のスタート地点に近い。

 五人を浮かせるて運ぶには、ちょっと距離があるんだよね。



 タダでさえ大岩から離脱させるのに、短距離とはいえ転移術を立て続けに使ったものだから、自覚出来るレベルで霊力が目減りしている。


 この後何があっても良いように、これ以上は余り消費したくないんだよね。

 無理矢理ダンジョン内から外に転移して、霊力の残量が更に減るのは頂けない。



 治癒術師とトリストにリュレルの三人が口論を始めて、非常に喧しくなったが、もう少しの辛抱だし、ガマンしよう。


 ……とりあえず。


「アンタら二人、大変だったんだね」


「えぇ……」


「まぁ……」


 この三人の手網握りながらのダンジョン攻略は、かなり骨が折れそうだ。

 何の慰めにもならないが、ラウディとフィブレスを労っておいた。

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