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もと神さま、新世界で気ままに2ndライフを満喫する  作者: 可燃物


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神さま、駄々をこねる。

 男だから虫が平気とか、女だから爬虫類が苦手とか。

 そういう性差は、実はない。


 どちらかと言うと社会的経験に基づき、得手不得手が形成されていく。

 つまり虫に対する嫌悪感は、後天的に植え付けられたものになる。


 虫食を当たり前のようにする地域の人間は、老若男女関係無く、虫を見れば「美味しそう」って言うものね。



 俺は施設で、虫と対峙した事がない。

 故に未知数だったので、不得手な存在として認識していた。


 理解出来ない物って、何となく苦手意識を持つじゃない。


 しかも「知識」で大昔虫が人間の祖先を捕食していたとか聞くと、余計だよね。

 二mの巨大なムカデが地を這い、翼長七〇cmのトンボが空を飛んでいたような時代の話だ。

 地球にも、そんな時代が大昔にあった。



 そしてこの世界では、ソレがデフォルトになっている。


 二mの魔蜈蚣(ミレペダ)が地を這い、翼長一mの魔蜻蛉(リベルーラ)が空を飛ぶ。


 そっか、この世界って地球で言う所の石炭紀だったんだ〜。

 酸素濃度はそこまで変わらないのに、おかしいな〜。


 ……まぁ、霊力や魔力みたいな、摩訶不思議なエネルギーに満ちた世界だからこそ、この大きさに進化したのだろう。



 クモに着目するなら、地球のサイズを軽く凌駕するデカさの種類ばかりだもんね。


 地球では、脚を除いた体長が十三cm程で、脚を広げたら三十cm程の、タランチュラが最大種だった。


 因みに今ダンジョンの奥から向かってくる魔蜘蛛(アラネア)は、余裕で片脚だけで三十cmはある。

 頭胸部と腹部を併せたら、どれ位の大きさになるのだろう。


 デカ過ぎだろ。


 しかも当然のように、この階層に出るだけあって、鋏角に毒腺を持ってるし、八つある眼からは毒を含んだビームを出す。

 吐き出す糸にも、全身を覆っている毛にも、漏れなく人間にとって毒となる成分が含まれている。



 妖黒隠(セリスパイダー)とは大違いだな。


 アレは家畜化出来ないかと本気で思う位に、とても利便性が高い魔物だからね。


 ヤツが吐く糸で作られる裁縫用の糸は、強度が高く霊力の通りが良いから防具作りにとても適している。


 しかもその糸を紡いで布に加工すれば、シルクのような手触りになるそうだよ。


 麻や綿のような植物系の衣服が主流だからね。

 是非ともその柔らかな肌触りの布で作った、寝間着が欲しい。


 実物を見た事がないから、巡り会えた時にはきっと無害化してみせようじゃないか。

 そして誰か雇って、(オルトゥス)で家畜として飼うんだ。



 俺は世話しないよ。

 何故って……俺、虫、ダメそうだから。


 イヤ、もうね、グロい!

 キモイ!!


 何あの手足何本も付いてる見た目!!?


 しかも節が沢山あるから不規則に動きやがるし!

 妙にカラフルでまとまりの無い色をしてるし!!

 中には益虫みたいな存在もいるのかもしれないけどさ!!!

 ココに居るのって猛毒持ってるヤツばっかだし!!!!!



 もう、狭い限られた空間じゃないのなら、瞬時に焼いて滅殺してしまいたい。


 幸い大きいが故に、一気に何十匹も相手にしなければならない、なんて事にはならずに済んでいる。

 だがフロア中の魔物が集まっているせいで、ひっきりなしに襲いかかってくる。



 前から来る魔物を、風の精霊(ウェントス)の力を借りて速度を増した棒手裏剣で遠くから射抜く。

 流石にこの距離だと、魔石部分を狙っても避けられてしまう。

 手足がもがれても、頭と胴が離れても向かって来る当たり、虫ってホント、気色悪い。


 その合間を縫って、魔物の攻撃を防いでいるラウディとフィブレスの盾の隙間からも投擲して倒す。


 ちょっと忙しいな。



 治癒術師はその俺達の間で、オロオロと狼狽えている。

 そんなヒマがあるのなら、時折盾の隙間からの攻撃でケガを負ってる二人を回復してやれよ。


 役たたずにも程がある。



 手持ちの棒手裏剣が無くなったので、ダンジョンの壁から生成した苦無を今度は投げる。


 あんまり凝った形にする必要はないからね。

 投げやすくて魔物を貫けるなら、何でも良いのだ。


 「スキル」で創り出して、後で何かツッコミを喰らっても、説明するのが面倒臭いからね。

 ソコソコ程度の精霊術師が使える術の範囲で戦おう。



 やりにくいなぁなんて思いながら、俺が前から来た魔物を殲滅し終える頃。

 背後から襲って来た魔物の攻撃を防いでいた、ラウディとフィブレスはと言うと……だ。



 魔物を倒すには至っていない。

 一匹たりとも、トドメをさせていないのだ。


 まさかの成果。

 コレには驚きである。



 剣やメイスを持っていたが、治癒術師を護るべく、防御に重きを置き過ぎて、火力に欠けてしまっているのだろうか。


 精霊教に所属しているだけあり、攻撃系の精霊術は一応使えるようなのだが。

 防御に徹しているせいか、威力はイマイチだ。



 治癒術師は言わば後方支援だろうに、精霊の加護を与えて精霊術の強化を図るでも、縦の隙間を縫って攻撃してくる魔物によって負った傷を治すでもない。


 せめて治癒術師らしく、治癒術を使ってやれよ。

 出し惜しみするようなモノでもあるまいに。


 何のために居るんだ? コイツ??

 実績を持つ作るためと言うのなら、別にダンジョンの中にまで一緒に来なくても、出入口で待っていれば良かったのに。



 治癒術師を飛び越し、跳躍した勢いをそのままに、身体をクルリと反転させ天井を踏台にし、二人の前衛を攻撃し続ける魔物すらも飛び越えた。

 大量の魔物の上空を通過しながら、天井の土を変形させて、杭の雨を降らせる。


 血に毒が含まれている魔物がいたらちょっと大変だけれど、今度は的確に魔石を穿いている。

 そのため血飛沫が周囲に飛ぶ前に、塵となって消えていく。



 とはいえこの量なので、やはり仕留め損ねてしまった魔物というのが、割合的には低いものの、中にはいる。


 特に魔蜈蚣(ミレペダ)――バカみたいにデカいムカデ――は外皮が堅い。


 大抵の魔物は心臓近くに魔石があるが、昆虫系の魔物の場合は心臓がない。

 無いというか、構造も昆虫に似ているようで、背脈管と同様、背中に沿った長細い形状をしている為か、その付近に魔石がない。


 ならばどこにあるのかと言えば、頭にある。

 だがその頭部は急所となるため、胴部よりもかなり硬い。


 それ自体は力技でどうとでもなるのだが、その頭部と尻の形状が、非常に良く似ている。


 そのせいで、杭を撃ち込んだのが尻の方だったのだろう。

 潰れた箇所をものともせず、元気に動き回っている。


 虫博士じゃないのだ。

 パッと見で判断なんて出来ない。



 そして撃ち損じたヤツに限って、攻撃も厄介だ。


 長く伸びる触覚は、良くしなる糸鋸のようになっている。

 余程強度が高い盾でもない限りは……あぁやって、表面に付いた傷を目敏く見付け、ソコから引っ掻き削るように切断してくれる。


 このままだと、ものの数秒で盾は取っ手だけになってしまう。

 盾がひとつになれば、攻撃を防ぐ事が非常に困難になる。



 三人の装備は酷く頼りない。

 魔物の前では全裸も同然だ。


 魔鼬貂(ネオバイソン)のコートを大人しく受け取っていれば、治癒術師だけはどうにかなっただろうが。

 前衛二人は、細切れにされてしまうだろうな。



 ラウディもフィブレスも、全国津々浦々巡礼する際の護衛として、優秀だって話じゃなかったっけ?

 なのに何で防具も含めて、そんな弱いのさ。



 面積の減った盾を取り回して、何とか触覚の攻撃を跳ね返そうとするが、ムチのように縦横無尽に暴れ回る、切れ味の非常に良い刃が大量についた触覚だぞ。


 一刀両断こそされなかったが、触覚は盾の中ほどまで突き刺さった。

 そしてソレを取ろうともがく魔蜈蚣(ミレペダ)と、コンパクトになろうが無いよりマシだから奪われまいと、踏ん張ってしまったラウディ。


 大人しく、離していれば良かったのに。


 触覚の根元にあるのは、頭か尻のどちらかだ。


 頭ならば、抱えて噛まれて毒を注入される。

 尻ならば、ガス状の毒を噴霧される。

 オナラかよ。



 人の顔面で放屁をかますなとツッコミたくなるが、コレがふざけている場合じゃなく、シャレにならない。


 牙から注入される毒は麻痺毒に分類される。

 美味しくムシャムシャしやすくするために、相手を動けなくするための物だね。


 後者は魔蜈蚣(ミレペダ)が撤退する時に、確実に逃げられるように、相手を死に至らしめる為の猛毒だ。

 細胞の壊死を引き起こす、ネクロトキシンのような物だと思えば良い。


 そのどちらかが、ラウディの身を襲う。


 どっちだ!?


 離れているせいで、防ぐ事は不可能だ。

 ヘタに武器を投擲して防ごうとしても、もし避けられたら、奥にいるラウディか治癒術師に当たってしまう。


 他の撃ち損じた魔物を倒すのを後回しにしても、魔蜈蚣(ミレペダ)の攻撃の方が早い。



 転移した瞬間に毒を放たれて、俺まで喰らうのはイヤだし。


 イヤという気分的な物もモチロンあるが、治癒術師が解毒出来なかったら全滅確定しちゃうじゃない。

 ソレはダメだろ。



 ……イヤ、俺は死なないけど。

 これでもかって位に装備品が高性能だからね!


 まぁ、俺のミスでもあるからな。

 イヤイヤ言ってても仕方ない。


 子供じゃないのだ。

 ここは責任、取っておこうか。



 ラウディの背後に転移し、力任せに後方へぶん投げる。

 装備品で筋力の底上げをしているので、一〇〇kg超えていようが、片手でもそれ位の重量なら、余裕で投げられる。


 注視したくはないが、よくよく見れば、大口が開いているため、三角形の大顎までバッチリ観察出来る。

 つまりコッチは頭部なのね。


 毒霧を噴霧されたら、隣にいるフィブレスが危うかったので助かった。



 毒牙が肉に届く前に、苦無でその口を強制的に閉じる。

 残念ながら魔石は背面側にあるので、苦無の長さでは届かなかったようだ。


 頭が持ち上げられたままでは、大量に空を搔くように蠢いている脚が、非常に気持ち悪い。

 それに手持ちの武器では、腹面側からでは魔石が破壊出来ない事が分かった。


 だからといって、もたついていたら、毒屁を噴射されてしまう。



 最適解はフィブレスの盾を奪い、魔蜈蚣(ミレペダ)を殴り付けて地面に延し、魔石を破壊する。

 コレしかないね!



 だって素手――手袋はしてるけれども――で直接殴るのは、どうやったってイヤなんだもん!!

 愛刀でぶっ刺せば魔石だって破壊出来るだろうって話もあるけど、虫の体液が一瞬でも付着するのが耐えられない!!!

 だって、ソレの手入れする時、イヤでも触らなきゃじゃん?????


 ぜってぇイヤ。



 ……ってワケでガーンってやって、ドーンッと転がしグサーッ! で一丁終わり〜。


 一対一で戦えば、ほぼ瞬殺だよね。

 この程度の魔物。



 魔石破壊で魔物を倒すと、死屍累々って絵面にならないのは有難いね。

 なにせ大量の魔物との戦闘後って、死臭が酷いから。


 脚が落ちてたり、遠くの方に、正に虫の息ってレベルで辛うじて生きている魔物なんかは居るけれど、その程度だ。

 


 余程欲しい素材が無い限りは、今度から魔石を積極的に壊そうか。

 イヤ、魔石自体が有用だからソレは辞めておくべきか?


 カノンに要相談だな。

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