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もと神さま、新世界で気ままに2ndライフを満喫する  作者: 可燃物


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神さま、助ける。

 行き止まりであるハズの通路の奥から、すすり泣きが聞こえる。

 コレはなかなかに、ホラーな展開だ。


 しかし気配を読むに、行き止まりの壁と、いかにもな宝箱が見える、その少し手前……の地面の中。

 人が落とし穴に落ちている。


 そしてソコから声が聞こえるだけだ。


 決してオバケやモノノ怪の類ではない。



 いつ落ちたのだろうか。

 覗き込めば、土まみれの野郎が二人、メソメソと泣いていた。


 イヤ、悄然としているのかと思ったが、泣き言を呟いているのではない。

 怨嗟の言葉を呪いの如く、とくとくと口から漏らしているだけだ。


 ある意味で、妖怪よりも怖いかもしれない。


 落とし穴の壁に書いているのは、辞世の句か、呪詛の類か。

 関わり合いたくないないなぁ。



「えぇっと……手ぇ貸しましょうか?」


 俺に微塵も気付いて居なかったようで、二人とも声を掛けた途端、バッとコチラを仰ぎ見た。

 信じ難い物でも見たかのように、その両目は驚きに満ちている。


「精霊様のお導きだ……!」

「神々に感謝をっ!」


 神様や精霊様に感謝するのも良いけれど、まず俺に礼を言えよ。


 さっきまで「神なんてこの世に居ないんだ」と散々言っていたのに、現金なものだ。

 ある意味、人間らしいが。



 引き上げて貰おうと手を伸ばして来るが、何度も上に上がろうとチャレンジしたからだろう。

 二人共、爪の中まで土で汚れている。


 余程辛い思いをしたのだろう。

 このままココで飢えて死ぬのかと、絶望したのだろう。


 爪が剥がれようと、ガムシャラになって、何とか脱出しようとしたんだよな。


 だけどな、ゴメン。

 ばっちいから触りたくない。



 ダンジョンの核を持ち歩く事は流石に出来ないが、核の権限を一部、書き換えてきた。

 このフロアに限り「スキル」を通して、俺の思うままに作り替えられるようにしておいたのだ。


 そのため精霊術によってダンジョンが破壊されないように、余程強く干渉しなければ変えられない地形も、難なく変化させられる。


 落とし穴の底部分をせり上げて、通路の高さとフラットにした。



 どうせ助けるなら、女の子が良かったなぁ。

 ムサ苦しいのは勘弁して貰いたい。


 喜びのあまり抱きつこうとしてくる、教徒二人を難なく躱し、そんな事を考えてしまった。



 落とし穴という位だから、簡単に登れる高さじゃ意味が無いよね、と思ったのだけど、深過ぎたのかな。

 

 そんな事ないと思うんだけど。


 死亡率を低くするため、ストンと直角に落ちるタイプにはしなかった。

 横から見ればU字を描くような形にしたし、抜け出しやすいと思うんだけどな。


 また底に杭や撒菱の類も置かなかったし水も張っていない。



 下の階に行けば、そう言う罠も勿論ある。

 宝箱を開けた途端に作動する、えげつないのも当然ある。



 なのにこんな上層の、殺傷能力が限りなく低い罠に掛かって、死にかけている教徒達。

 少なくとも、冒険者稼業は向いていないから、もう二度と、ダンジョンには潜るべきじゃないと思う。



「助かりました、ありがとうございます」


 私はラウディ。

 こっちはフィブレスです」


「他にも三名、同行者がいたのですが、我々を踏み台にしたあと、先に進んでしまったようで……

 本当に助かりました」


「……それこそ、体格のいいラウディが踏み台になって、フィブレスが登った後に、ラウディを引き上げれば良かったんじゃない?」


 俺の言葉にハッと二人、顔を見合わせる。

 その顔は雄弁に「その手があったか!」と言っていた。


 置いていかれたの、コイツらがバカだからじゃなかろうか。



 二人で居たから気が狂う事もなく、こうして無事に脱出出来たのだ。

 ある意味、バカで良かったね。


 孤独は辛いからねぇ。



 落ちてからどれ位時間が経過したのか尋ねても、腕時計をしているワケでもないので、流石に分からないと返された。

 外なら太陽の位置である程度分かるけど、ダンジョンにはないからね。


 ただ、何度も上に上がる事を挑戦し、心折れかけても、自分達には大義があるのだと奮い立ち、ソレでもダメで、魔物に喰われる位なら、いっそ自死でもした方が楽なのだろうか。

 そんな話をするには十分過ぎる程の時間は経ったと言うので、丸一日以上は経過していそうだ。



 目の下にクマが出来ているし、やつれてもいる。

 それに正直、色々とクサイ。


 生理現象なのだから致し方ないのは理解出来るけど。


 壁の土を掘って埋めたブツごと底上げしてしまったので、臭いが漏れ出てしまったようだ。

 そこまで気が回らなかった、俺の責任だな。



 水の精霊(アクア)の力を借りて二人を水球に閉じ込めて丸洗いし、せり上げた落とし穴の底は、再度地中深くに追いやり、上から地の精霊(テルモ)の力で土を生み出し埋めた。


 臭いの原因を取り払ったので、風の精霊(ウェントス)にお願いをして風を起こして臭気を散らす。

 コレで臭いは消えたな。



 ダンジョンにトイレって、作るべきかな。

 結構コレは、シンドいぞ。


 トイレまではいかなくても……この世界の衛生観念のレベルなら、ぶっちゃけ人目をはばかれるような、ちょっとした安全圏にツボを置くだけでも違うだろう。


 イヤ、でもそれだと、そのツボの中身を誰が掃除するんだよって話になるもんな。

 水洗にすると人間に優しすぎて、ダンジョンらしからぬ空間が出来てしまう。



 ただでさえボスを設置してある区域周辺が、他の魔物が出ない設定にしてある事に「そこまでする必要はあるのか?」と疑問視されているのだ。


 普通のダンジョンに潜った事が無いせいで、一般的なダンジョンがどんなものか分からない。

 そのせいでこのダンジョンがどれだけ普通から乖離しているのかも判断出来ない。



 だが、しかし。

 俺のダンジョンが汚物まみれになるのは、度し難い……!



 冒険者ギルドで意見を集めて貰おうかな。

 冬の間に収入が減っている冒険者を集めて、酒を振る舞いがてら話を聞いたら、現場の声が沢山聞けそうだよね。



 俺はなるべく冒険者が死なない程度の、だけどドキドキハラハラが楽しめるダンジョンを目指したいのだよ。

 あとは一攫千金を狙えるワクワク感満載だと尚良いよね。


 あくまでココは、周辺区域の瘴気を消耗するための施設だからさ。


 (オルトゥス)付近の魔物が弱くなってくれないと、遠い所からはなかなか来てくれないじゃない。

 ただでさえ王都(ディルクルム)が魅力に乏しい城下町だし。


 なので(オルトゥス)のウワサが広がると同時に、「魔物弱くなったし行きやすくなったよ」と同時に言って欲しいのだよ。

 いくら魅力に溢れてても、道中辿り着くまでに死んじゃったら意味ないじゃん?

 そう感じさせてしまったら、誰も来ないままになる。


 腕に自信がある冒険者ばかりになると、治安が悪くなりそうだしさ。



 ラウディとフィブレスの連れは、あと三人いるそうだ。

 男が二人、女が一人。


 その三人組となると、なんか、女の人大丈夫そ? と心配になる。



 下世話な話をしたせいで二人の眉間にシワが寄るが、女は治癒術師だそうだ。

 だから無体なマネはされない。


 深呼吸して冷静さを保ちながら、ラウディがそう言った。


 そもそも聖職者に対して、そのような俗っぽい誤解をされるのは侮蔑にも近い行為だから辞めろとも、フィブレスに言われたが。


 命の恩人だからガマンしてくれたそうだよ。

 ありがとうございますぅ。



 二人は聖職者という割には、ガタイが良い。


 その重さのせいで、落とし穴から出られなかったレベルだ。

 格好が精霊教徒が共通して着用している修道服がベースになっていなかったら、ただの冒険者だと勘違いしていたと思う。


 その上から、魔物の革で作られた胸当てと兜、それと脛当てを身に付けている。

 とても堂に入っているので、元々がウォリアーモンクや、僧兵のような役割なのかな。



 実際、よく魔物討伐の任を命じられる事が多い。

 そのため今回、このダンジョンに用事があるからと、上司に申し付けられて潜ったそうだ。


 若い男二人には経験を積ませる為。

 女の治癒術師は保険として同行する事となった。



 その三人は若いが、優れた精霊術師だ。


 上司から命じられた大義を遂行すべく、勇み足になってしまったのだろうが、まさか己が掛かった罠から助けようとした自分達を置いていくとは思わなかった。

 しかしそれによって、命令を遂行出来ているのなら、自分達はこうして助かっているのだし、問題はない、とすべきなのだろう。


 そう、怒れば良いのか悲しめば良いのか。

 なんとも複雑な表情で腕を組んだ。


 心情的には許したくないが、仲間を切り捨てる事で任務をこなせるのなら、良しとする。

 なんとも軍人らしい考えである。



 その三人だが、ボスが居た以上は、この階層を踏破していない。

 なので地上に戻ったという事は無い。



 俺が司祭を含めた潜伏者も襲撃者も、全部見事に捕らえているので、任務は大元から失敗している。

 残念ながら、五人が命じられた通り魔物を捕縛し地上に戻っても、意味は無い。


 ダンジョンに入る前に聞いた分では、王宮への侵入者も結構な数を捕縛したそうだ。

 つまり、王都(ディルクルム)にある教会に所属する大半は、反逆者として処刑される事が既に決定している。


 そんな説明をしてやる義理は無いが。



「あの子たちはどこへ行ったのだろうか」


 あの子達、と来たもんだ。

 完全に保護者目線か。



 俺が来た道には誰も居なかったから、別の道に行こうと指を差した方向は、四階の入口に向かう道だ。


 道中に一人、更に離れた場所に二人分の気配がある。

 つまり死んではいなさそうだ。

 回収が楽で助かる。



 一人は罠に掛かったのだろう。

 全く動く様子がない。


 二人は地味に移動し続けているんだよね。

 スタート地点に行っても、何も無いのに。

 転移陣があると勘違いしているのかな。



 もしそうだとしたら、転移後に周囲の様子をシッカリ確認していない事になる。


 転移直後やダンジョンの出入口付近は、特に警戒が必要なエリアだ。

 ちょっと賢い魔物がいる、難易度の高いダンジョンだと特にね。


 ヘタにダンジョンの中を彷徨うよりも、そういう場所に留まった方が、獲物を確実に捕らえられると学習するからだ。


 冒険者の中では当たり前になっている、共通認識である。

 やはり三人は、絶対的な経験値が少ないのだろう。



 罠に長い時間囚われていた二人は、おっかなビックリといった様子で俺の後を着いてくる。


 そんな警戒しなくても、見れば分かる罠しか無いのに。

 そして罠が多い分、魔物との遭遇率は下げてあるのに。



 ……とか考えてたら、魔蛇(セルゲス)が降ってきた。


「ヒッ……ぃ?」


 フィブレスが落ちてきた影に叫び声を上げようとしたが、空中で俺が真っ二つにしたので、魔物はコチラを襲う事もなく、絶命した。


 そのせいで、タダでさえ情けない様子だったのに、更に情けない、恥ずかしい悲鳴になってしまった。



 魔蛇(セルゲス)はアナコンダみたいにデッカイ蛇だが、かなり強力な毒がある。


 牙も注意しなければならないが、身体の模様の一部が尖っていて、ソコからも毒が分泌される。


 獲物に巻きついて締め付ける上、ウロコを刺して出血毒を注入して来るんだよ。

 そして噛み付いた牙からは、神経毒を注入するのだ。


 凶悪だよね。

 絶対獲物を逃がさない、という固い意思を感じる。


 だから巻き付いて来る前に、サッサと倒すのが正解だ。



 特に出血毒は、後遺症を残しやすい。

 

 俺は平気でも、ラウディとフィブレスはムリだろう。

 わざわざ連れの女の子を治癒術師だと紹介したのだ。


 この二人は治癒術が使えない。

 回復薬位は持っているかもしれないが。


 残念ながらその回復薬では、魔蛇(セルゲス)に襲われたら、ろくに効かないだろうな。



 魔蛇(セルゲス)の毒は、結構特殊な薬草が無いと解毒出来なくて厄介なのだと、カノンがボヤいていた事がある。


 赤血球の破壊とフィブリンの分解を促進する毒素を、同時に中和してくれるような薬草がある時点で異世界スゲェって話なのだが。



 処理をするのも手間がかかるし、そもそも触りたくない。


 落とし穴が作動する仕掛けを足を伸ばして踏み付け、魔蛇(セルゲス)を落とした。


 足を離すと地面が元に戻るタイプの罠だったようだ。

 地面を埋めなくて良いから楽だね。



「ソコ、踏むとまた罠が作動するから気を付けて」


「あ、はい、承知しました……」


「貴殿は、随分とこのダンジョンに詳しそうですね?」


 おっと、怪しまれてしまったか?


 別に良いけど。

 面倒臭い展開になったら、眠らせて引きずって行くだけだし。



「もしかして……新しく出来た(オルトゥス)の住民の方でしょうか!?


 妹達が移住したと連絡を寄越した後、なんの音沙汰もないので、もしご存知ならお話を伺いたいのです」



 教会に所属すると、あまり外部と交流を持つ事が難しくなる。

 外泊は任務が関係しなければ許可が出ないし、手紙も検閲が入る。


 そもそも、手紙を出す事自体、金銭的に厳しい。

 無事に届くかすらも危うい。


 文字を書ける人自体が少ないし。


 (オルトゥス)では希望者には教育を施しているし、教会も教徒にはある程度の読み書き算術を教えているそうだし。


 フィブレス自身は文字を書けるし読めるが、その妹達は霊力を持たなかった為に、教会に所属する事が叶わなかった。

 そのため、給金を外に出られた時に渡す位の、短い時間の交流しか出来なかった。



 それがある日突然、妹達の連盟で教会に手紙が届いて、大層驚いたそうだ。


 教会が役目を担っている教育の分野に対して、何かイチャモンを付けられないか心配だったが、どうやらそう言う話ではないらしい。

 ちょっと安心した。



「全員と知り合いってワケじゃないから、どうだろうな」


「ウィーレとウィースと言うのですが……」


 ……その名前なら、よく知ってるわ。

 俺がお産を助けた妹と、その姉じゃない?

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