神さま、潜る。
いつもご覧頂きありがとうございます。
カムチャツカ半島地震を起因とする津波により、避難を余儀なくされた方々にお見舞い申し上げます。
また、市役所や交通の関係者等、対応して下さった方々に、心より御礼申し上げます。
まだ余震も含めて油断は出来ませんが、心穏やかに過ごせるよう、お祈り申し上げます。
そうだよ!
皆を寝かせてしまえば良いんじゃん!?
野営準備が着々と進む中、俺はコッソリとその場を離れ、まずダンジョンに向かった。
アリア達は魔物に襲われ全滅したのだ。
そう証言し、自分達の所業の証拠を消すために、強い魔物を連れて来ようとダンジョンに潜った人達を回収するためだ。
連中の予定では、昨日の時点で合流しているハズだった。
何せ司祭達よりも先んじて、王都から出発しているのだから。
余程奥まで行ってしまったのだろうか。
正直、ココのダンジョンは他の物とは違う。
勝手が違い過ぎて、手こずっている可能性が極めて高い。
なにせ時の精霊が俺の遊び場としてくれた物なので、この世界の常識が通用しない。
瘴気や魔力によって形成されているのは、他のダンジョンと同じだ。
しかし最深部にあるダンジョンの核が、俺と時の精霊の手によって書き換えられている。
その為細々とした所が違うらしいんだよね。
天然のダンジョンは、生き物だ。
人を誘き寄せて自分のエサにする為に、人が望む物を宝箱に忍ばせる。
上層部には、手に入れたらチョコっと嬉しい程度の金貨や銀貨が入っている場合が多いかな。
魔物はダンジョン入口付近に生息している魔物を模倣している為、似たような強さか、少しソレよりも強い程度。
一階から五階までなら、外の魔物に対応出来る人なら苦労せずに行って帰ってとして来れる。
奥に行くと、途中から突然魔物が強くなるのも、天然ダンジョンの特性だ。
「この程度なら余裕ッショ」と油断している侵入者を、エサとして取り込もうとするからだ。
逃げられないように、退路を塞ぐようにトラップも増える。
命を取りに来ているので、そりゃあもう、えげつないヤツが満載だ。
ソレでもダンジョンにチャレンジする人が後を絶たないのは、相応の理由がある。
強力な武具や、この先一生暮らしていけるだけの、一攫千金が狙えるレベルの財宝が、奥には眠っていたりするからだ。
なのでソレを獲得する事を夢見て、冒険者はダンジョンに潜るのだ。
生きて帰れさえすれば、もう二度とそんな場所に行く必要は無いからね。
食う物に困る事も、眠る場所の確保に悩む事も無くなる。
命を賭けるだけの価値がある。
そう思わせるだけの魅力がある。
その日の暮らしさえ保証されない冒険者稼業をしている人には、安全とは命を賭けるに値する程に価値があるものなのだ。
ダンジョンは取り込んだ人間の知識を学習するらしい。
取り込まれた者が想像した、望む報酬も、出てくる魔物も、どんな罠が仕掛けられて居るかも、全てを学び、取り入れる。
取り込まれた人間が多ければ多い程、より的確に成長して行く。
無念の死は瘴気を多く生むからね。
そりゃあ成長速度も早いだろう。
弱い魔物しか出ない、トラップもない。
だけど金銀財宝ザックザク! なんて考えて潜る人ばかりなら、攻略も楽だろうに。
何か手に入れるのならば、相応の苦労が伴うものだ、なんて先入観のせいで、そうはならないんだよね。
一方で俺と時の精霊のダンジョンはとっても良心的だぞ。
魔物は階層ごとに徐々に強くなるし、宝物も相応に良い感じの物が出て来る。
たまに階層に見合わない――質の善し悪し、どちらにも振り幅が出るような、運試し的な要素が含まれる宝箱が出現する事によって、中毒性が生まれる。
転移陣が各階層の最深部には必ずあり、その手前にはフロアボスがいる。
そのボスの強さが、次の階層のザコ敵と大体同じ強さに設定してある。
ボスを倒せば次の階層に行くか、出入口に戻るか。
二つの転移陣が出現するので選ぶ事が出来る。
ギリギリボスが倒せたって場合、戻る時に殺られてしまう可能性があるじゃん。
せっかくそのフロアはクリア出来たと言うのに、満身創痍なせいで無事に帰れなかったら、可哀想でしょ。
何より、街の金ヅルが減るじゃない。
だから出入口まで戻る転移陣も作動する。
青が戻るヤツで、赤が先に進むヤツ。
何度も潜れば、どっちがどんな意味を持つのか分かるでしょ。
だから敢えて説明書きはしていない。
まんまゲームの世界の、コレぞダンジョン! ってイメージで作った。
死ぬ確率は限りなく低い。
一階層の魔物はこの辺の魔物と同じ、もしくは単体で出る分弱いと感じる魔物ばかりだし。
少しずつ強くなっていくから、身体が慣れていくし。
対処がしやすいと思う。
人が死なない分、ダンジョンを維持し続ける為の瘴気が確保しにくい。
瘴気が無ければ、宝箱の中身を創れなくなる。
だがソコは、周辺地域から瘴気を掻き集める事でどうにかなってしまっている。
街道に敷き詰めたブロックには、瘴気を吸い取る効果があるからね。
通常の魔物は瘴気を取り込む事によって強くなるが、飼い慣らされた魔馬なんかは、瘴気が無くても生きていける。
限りなく瘴気が薄い人間の街で育てられるのだから、逆に瘴気が濃い所に行ったら、調子を崩してしまったり、野生の本能が目覚めて暴れ馬になってしまったりしてしまう。
なので、荷車を引く馬や騎馬は多分、街道を進むと調子が良くなると想定している。
だから予定よりも早く街から王都への行き来が可能になっているのかなと思う。
人間も当然、体調不良の原因になり得る瘴気が無い分、身体が軽くなる。
逆に魔物は自分の力の源が吸い取られるのだ。
嫌がって街道に近寄らなくなるだろう。
魔物が一匹も出なかったのは、その仕様のお陰なのかな。
もしそうなら、魔物にとって瘴気はとても重要な役割を持っているって事だよな。
ちょっとダルいとか、力が抜ける程度のものだと思っていたのだが。
実際は酸欠状態に陥るような感覚なのかもしれない。
一歩間違えたら死ぬ! って本能的に分かる感じ。
あと魔物の間には、意外とコミュニティが形成されているのかもしれないと感じた。
情報交換が行われなければ、初めてこの森に訪れた魔物や、新たに生まれた魔物は、知らずに街道のブロックを踏んで、体内に取り込んでいる瘴気を吸われる事になるだろう。
衰弱している弱い魔物なら、ソレだけで絶命すると思う。
なのに死骸も骨も見当たらないのだ。
どっちだったとしても、両方だとしても、もしこのブロックだけで魔物を寄せ付けずに済むのなら、街道にももちろんだが、街の外壁なんかに使っても良さそう。
唐辛子を利用した忌避剤では、完全には防げないし、季節によっては全く効果が得られない。
それでは安心して人も物も移動出来ないじゃないか。
結界のように、空飛ぶ魔物に対して効果は得られない。
だが圧倒的に多い地を這う魔物に対して、ココまで顕著に作用するのなら、是非とも普及を推し進めたい。
この世に存在している物なら、例え俺が「スキル」で創り出した物だったとしても、鑑定眼を通して視れば、どんな素材を使っているのか、材料と作るための手順が分かる。
俺が分からない名前の素材でも、大抵はカノンが把握している。
伊達に世界中回っていないものね。
カノンの知識量はすんげぇぞ。
もしカノンが知らなかったとしても、例えばこの鑑定眼を使っている間に表示されるウィンドウの、魔除草って部分をタップすれば、どんな素材なのか、何に使われるのか、生息域はどの辺なのか、全部書かれる。
辞書みたいな役割も果たしてくれるから、とっても便利だ。
物質としては存在しないのに、操作性はそのまんまタブレットPCと同じだからね。
とても使いやすい。
この鑑定眼が闇の精霊の力なのが、癪に障るんだよなぁ。
あの野郎、クソジジイのクセに便利な物提供してくんなよ。
ウッカリ過去の事を許してしまいそうになるじゃねぇか。
……とか何とか言いながら、許すも何も、過去に起きた事は変えられないし、最終的に行動をしたのは俺自身だ。
ヤツを恨んだり憎んだり、そう言った感情は持っていない。
ただただ、ヤツの存在を認識したくないだけだ。
洗脳めいた教育によって、それ以外の選択肢を奪われていたから、と言って逃げる事も出来る。
しかしソレをしたら、せっかくこの世界に来て俺の行動を許してくれた皆への裏切りに繋がる。
そもそも、そんな無責任な人間にはなりたくない。
ソレに逃げるって、俺の行動の幅が減るじゃん。
負けた気分にさせられるのも腹立つし。
結局あの野郎も俺が手にかけているのだし、許しを請わなければならないのは、むしろ俺の方だったりするのかもしれない。
そう思うと、なんと言うか、どうでも良い。
もう会いたくないが、率直な意見だ。
顔も見たくないと思っているのに、都合良くあの野郎の能力だけは借りている今の現状が、少々気になるが。
だが地球では散々利用されたのだ。
この世界で俺が利用した所で、お互い様だろう。
借りが増えてしまってどうしても嫌になった時には、「スキル」でそう言う装飾品を創れば良いだけだしね。
今は貸しを返して貰っている最中って事で、遠慮なく使わせて貰ってる。
街に帰ったら、早速カノンと相談して、結婚式のイベントが終わり次第、手作り出来ないか試してみようっと。
ダンジョンの入口は、岩肌にベッタリと黒いペンキを塗ったような見た目をしている。
光を一切通さないその穴は、違う世界に繋がっているように見える。
実際、この世界とはちょっとズレた位置にあるみたいなんだよね。
このダンジョンが特殊なのか、他の物も含めて、ダンジョンの存在自体が特殊なのか……
この世界の人々は、当たり前にそういうものだと受け入れているから、ダンジョンに関しては研究や考察はあまりされていないらしい。
カノンも興味が無いから潜る事も滅多にしないそうだし。
金持ちだからね、あの人。
珍しい薬草がある、なんて噂があれば即行赴くだろうが。
ダンジョンの性質を考えたら、宝箱の中に薬草が入ってる、なんて事は無いだろうね。
死なない程度のケガをする人が多いダンジョンなら、それも有り得るかも?
そんな中途半端な状態のダンジョンがあれば、の話だが。
若いダンジョンなら、ワンチャンあるかもね。
黒い穴に入り、外との様相から空気から、ガラッと変わるこの瞬間は慣れないなぁ。
入ってすぐ、クルリと後ろを振り向く。
どういう理屈なのか、入ってきたハズの穴は見当たらない。
奥まで行って、フロアボスを倒さないと出られない。
「やっぱ辞〜めた」が出来ないココだけ、他のダンジョンよりも鬼畜な仕様と言える。
洞窟の岩肌の一部に触れ霊力を流すと、操作パネルが出現する。
パスワードを入力すると、足元に転移陣が浮かび上がった
ソレを起動させ、俺はダンジョンの最深部へと移動した。




