神さま、働く。
カノンもアリアも、普段は相応に大人然としている。
責任ある立場にいる事を自覚し、己を律した行動を取っている。
だと言うのに、何故俺に対してはワガママになるのだろうか。
俺に対して、と言うよりは、それぞれシスコンとブラコンだから、互いが関わってくる事柄に関しては譲れなくて、たまたま俺がソコに関わっている事が多いだけ、なのかもしれないが。
イヤ、もうね、殺人的スケジュールとは正にこの事って感じ。
俺じゃなきゃムリだよ、こんなの。
とてもじゃないが、普通の人ではこなせない。
普通じゃない人でもこなせない。
こなせたとしても拒否するって。
俺の場合は二人と、二人の親に返せない位の多大な恩がある。
やってやれない事は無い。
そうなれば、断れない立場にあるのだ。
だから頑張るけどさぁ……
めげそうだ。
明後日の結婚式当日には、絶対暴飲暴食してやる。
まず、カノンが街に到着した時のお出迎えをするのに、「エスコートするならアリア相手じゃなきゃイヤ」と言い出した。
もっと迂遠とした言い方ではあったが、間違いなくそんな意味を孕んでいる言葉だった。
アリアに化けたイシュクの出迎えは、街の代表であるゴルカさんにさせるつもりだったようだ。
しかし、ゴルカさんは接待準備の指揮で忙しい。
その上平民だ。
街に暮らしている者の中で、国王のエスコートをして許される立場に居るのは、カノンしか居ない。
だって皆平民だもの。
むしろ人頭税を収めず、平民ですら無かったヤツが多い。
そんな連中に国王のお出迎え、なんてさせられるハズがない。
宰相閣下殿なら、立場としては可能だ。
しかし馬車に乗っている国王も宰相も、二人とも影武者である。
イシュクとスナンに御作法の心得はあるのか聞いたら、当然だが、あるワケがないと返された。
夢魔からしてみれば、人間は食物だからね。
俺達人間が牛や豚の考えやマナーを知り得ないように、夢魔がそんな事を知るはずがないし、機会があっても学ぶ様なことは無いのだ。
貴族限定でお食事を摂る夢魔ならば、そういう事も率先して学んでいるかもしれないが。
残念ながら街に居る夢魔は、漏れなく悪食だ。
そう言うお上品な人達は食の好みに合わないので、誰一人として作法は理解していない。
貴族然とした振る舞いは、付け焼き刃で挑める程簡単な分野ではない。
指先から髪の毛一本に至るまで、全てに気品をまとい神経を集中させなければならないものだ。
言葉として品位が何なのか知っていても、本質を理解出来ない夢魔では、大衆の視線が集まるような場ではボロを出しかねない。
国王の評判に関わるからね。
だからカノンならば、イシュク達が失敗してもフォローが出来ると思ったから任せようとしたのだ。
なのに、イヤと来たもんだ。
捕らえた教会の連中を収容する場所を確保するのに、イシュク達には先に街に戻って貰い、アリアと宰相閣下殿を街に着く手前で迎えに行き、馬車の中に放り込む方法はある。
だが馬車の中身が途中で軽くなったり重くなったりすれば、御者が疑問に思う。
馬の足取りが変わるからね。
何かあったのかと箱の中を覗かれては大変だ。
だからと言って今迎えに行くとなると、早過ぎるだろ。
明日の夕方、街に到着した後、「もう遅い時間だから挨拶は明日改めて」と言って、俺とカノンの住む家に直接招く予定だったのだ。
丸一日前倒しになると、向こうの予定が狂う。
アリアは早くカノンに会えて嬉しいだろうが。
時間の調節をする宰相閣下殿が大変だ。
それに風の精霊曰く、ただいま絶賛侵入者を捕縛している最中だそうだから、ヘタに俺が王宮をうろついていたら、勘違いされて捕まってしまう。
どうしたもんかな。
侵入者を捕まえる手伝いをするのは吝かではない。
俺なら精霊術師の気配が読めるし、騒ぎを起こす前に、侵入しようと一歩王城の敷地に足を踏み入れた、その時点で片っ端から捕らえられる。
早く終われば城に詰めている人達は、気を張り続ける必要が無くなる。
尋問の時間も長く取れるし、良い事は多い。
だがその間、コチラの人達が先に進めなくなるのが大問題だ。
空飛ぶ石版を浮かせて、大人数を運べるような人が、騎士には居ないからね。
霊力操作に長けた人は居るのだけれど。
身体強化とか、騎士らしい使い方に全振りしていて、精霊術を使える人は少ない。
その極小数の人は、水を出せるとか、そよ風を起こせるとか、その程度だ。
飲水を持ち歩かなくて良いのも、鎧の中が蒸れた時に風を通せるのも、確かに便利だ。
だけどさぁ、もっと鍛錬しようよ。
霊力の総量は決して低くないのに、勿体ない。
長所を伸ばそうと思わなかったのだろうか。
なので俺が王都や街に行けるのは、休憩時間の短い間か、夜の野営時間の間だけ。
休めないし寝不足になるし、とても、とても大変だ。
こんな短時間にアッチ行ってコッチ行ってとしていたら、その内転移ミスをして、どこぞに装備品を忘れてしまったり、ウッカリ転移範囲を間違えて周囲の物までゴッソリ運んでしまいそうだ。
霊力切れの心配が要らないのが救いだな。
慣れてきたせいか、コツを掴んだからなのか、最初の頃よりも霊力が減る感覚が鈍い。
総量が増えたのもあるだろうけどね。
とりあえず一度目の休憩時間の間に、イシュクとスナンを街に転移させた。
二人は‘’スファンクス‘’に教会の連中を押し込むための準備に奔走して貰う。
従業員の割り振りとか、部屋に置きっぱなしの道具の撤去とか、色々と。
襲われる危険がほぼ無くなったので、アリアと宰相閣下殿の身代わりに、戦闘力は不要になった。
変化するだけの余力が残っている夢魔の二人に、イシュク達の姿を参考に変化して貰って、また馬車に戻る。
本人を直接見ていないせいか、イシュク達が変化した時よりも、見た目に違和感があるが。
目の色は仕方ないが、なんと言うか、目鼻立ちの位置が微妙に違うんだよな……
その微妙な差で、ココまで違和感を抱かせるのだ。
見分けがつかない一卵性双生児って凄いよね。
まぁ、明日アリア達を迎えに行くまで、この二人は馬車の中に居続けるのだ。
人目に触れる事はほぼないし、あったとしても、遠目に見る程度。
別人だとは バレる事は無いだろう。
本人を見ていない分、模倣の精度がコレだけ下がるのだ。
声なんてもっての外。
絶対喋ってくれるなよ、とイシュクに念押しをして貰った。
俺から言っても聞かないだろうし。
最初こそアリアに似た姿でふざけた顔をしたりポーズを取ったりして遊んでいたが、無事に事が済んだら、自分達の望む店を建てて貰える上、王都に店を構える事が出来るのだと報酬の内容を言われたら、不必要なまでにキリッと真面目な態度に変わった。
現金なヤツである。
馬車に二人の夢魔と転移したタイミングで、騎士達は丁度、出発前の点呼を取っていた。
馬車が動き出す前に戻って来られて良かった。
休憩中に起きた捕虜は居なかったようで、コチラも安心した。
睡眠薬から目覚めた後、ボーッとする程度なら何の問題も無い。
しかし譫妄状態に陥り、暴れたりパニックを起こす場合が稀にある。
そうなれば鎮圧するのに時間と労力がかかるし、場合によっては捨てて行こうなんて意見が出かねない。
なるべく俺の目が届く所で死人は出したくないからね。
何事もなくて良かったよ。
移動時は平和なもので、冬でもキチンと魔物避け対策の効果がある事に安堵した。
道に魔物のフンも落ちていないし、足跡もない。
唐辛子以外の対策方法もちゃんと効果があるのだと立証された。
そう考えて良いだろう。
カノンが幾つか挙げた内の、どれに効果があったのかが分からないけれど。
だって全部試したし。
乱雑に適当に配置しないで、区画毎に分けるべきだったかな。
被害を出さないのを最優先にしてしまった弊害だ。
どれかには、もしくは相乗作用によって効果が得られる事は分かったのだから、今度森の中で実験してみよう。
次の休息所では、短い時間休憩を取って、次の休息所で野営をするか、早めにココで野営をして、明日の出立を早めるかの話し合いがされた。
冬だし日が落ちるのが早い。
暗くなれば、魔物の動きは活性化する。
日中一度も襲われなかったからと言って、油断しないのは偉いねぇ。
いざとなれば、俺が魔物の忌避剤になれるのだし、安心して見張りもせずに皆寝こけてくれて良いんだけどな。
俺は以前、意識しないと霊力が常に垂れ流しの状態になっていた。
そのオンオフが出来なかった時、何百mも離れていても、魔物が逃げて行くような状態だったのだ。
自分の意思で調節が出来るようになってからは、なるべく漏れ出さないよう、気を付けている。
その日のご飯分の魔物も狩れないし、素材集めも出来ないし、良い事が基本的に無いからね。
王都からの道中ももちろん、霊力を撒き散らしてなんか居なかった。
それでも街道に魔物の姿は一度たりとも見られなかったのだ。
だから安心して寝てくれて良いのよ?
むしろ寝て??
その方が暗躍しやすいし。




