神さま、ドン引く。
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時間なくて、今日も誤字まみれかと思います。
すみません。
いつも助かってます(*´▽`人)
太陽と月が上下に配置された歯車の中に、地水火風を表した紋様が印された国章。
ソレを背負う事が許されるのは、王家に連なる者のみ。
どんな地味な馬車だろうと、どれだけ伴う騎士が少なかろうと、その意匠が施されれば国王、もしくはそれに準ずる者が乗っていると、誰もが考える。
考えに及ばなかったなど、言い逃れは許されない。
戦闘要員が減ろうが、馬車の進む先と最後尾に旗手が国旗をはためかせるのは、そんな間違いを、例えならず者であろうとさせない為の、国王のある意味での慈悲である。
一行を襲えば、国王への反逆の意思ありと、どんな方便を語ろうが金を積もうが、即刻死罪が言い渡されるからだ。
例外は無い。
恐怖政治をしているワケではないが、世界を丸ごと統治するには、ある程度は武力で立場を示す必要がある。
しかも男尊女卑の思考が強い世の中だ。
女王という肩書きは、舐められる隙を与えたら終わりなのだろう。
アリアはイタズラに人が死ぬ事を、良しとしない人間だ。
間違いが起きる可能性を、少しでも減らしたいが故の処置だ。
旗手が旗を風になびかせる様子は、威厳があるように見える。
ちゃんと国王然とした行動を取っていると、民衆から判断されるだろう。
建国祭のパレード以外ではなかなか活躍の場が無い国旗も、虫干し出来るし、とても良いと思う。
馬車を取り囲むようにして進む街に向かう一行は、いかにもな騎士服を着て、立派な鎧も身に付けている。
そして極めつけは国章の刻まれた旗と、意匠が施された馬車。
箱にも刻まれているし、なんなら箱を引く馬の背からも垂れ幕のように下がっている。
「見落としました」なんて言い訳は通用しない。
しかも騎士の中には、何度も王宮を出入りしている為に、顔見知りもいる。
「襲う人物を間違えました」とすら、言えないだろう。
騎士とは国王を護るために居るのだから。
そしてその騎士は、貴族の子息がなるものだ。
箱の中身がアリアじゃなかったとしても、お貴族様を襲った事実は覆らない。
教会が治外法権だったとしても、この強襲は流石に教会外で起きた事だ。
過去の簒奪者と同様、関係者は全て捕らえられ、相応の報いを受ける事になる。
拷問によって死に至るか。
弁明の余地なく即行首を落とされるか。
その程度の差でしかない。
だからその前に‘’悪魔‘’に関して話を聞いておきたいな、と思っただけだったのに……
どうして、俺は神様扱いを受けているのだろう。
もう、カミサマ業は引退してるよ。
頼むから、そのバッチィ顔をコッチに向けないで。
航行中の屈強な海賊をも惑わす魅魔鳥の如き美声に、暴走魔眼象ですら落ち着きを取り戻してしまうような芳香だと、鼻を膨らませて言うものだから、唾も鼻水も勢い良く空を舞う。
頼むから黙って。
魔物の名前を使った慣用句を出されても、俺には微塵も通じないから。
ってかさ、見目に関してはその人の感性の問題だし、「大袈裟に言ってんなぁ」程度で済むけど、匂いを嗅ぐな。
気色悪ぃ。
状況が分かっていないのだろうか。
ヘタな事をすれば、即切り捨てられてもおかしくない立場にあるのに。
分かってるから狂ったパターンなのか?
確かに目が血走ってて、とても正気とは思えないが。
「カノン公の街まで、残りどれ程の距離が御座いますか?」
「街までなら大体一〇〇km位かな。
……さっきまでの速度だと、一日半は最低掛かる」
犯罪者とは言え、教会内で立場のある人となると、相応の対応をしなければならない。
現行犯なので言い逃れは出来ないから死刑が確定しているとは言え、背後関係を洗う為にも、生かして連行する必要がある。
そうなると、街まで行って収容施設を借りるか、王都まで戻って尋問をするか。
どちらか選ぶ必要がある。
一応、この位置なら街へ向かった方が近い。
襲われやすいように、わざとゆっくり進んでいた部分もあるのだ。
これ以上の伏兵は居ないので、遠慮なく進める。
馬には負担をかけるが、騎馬に歩兵を乗せて貰えれば、かなり時間短縮が出来る。
なので、一日は掛からないだろう。
だが問題がひとつある。
俺は街に、牢屋を創っていない。
護送されても、収容する施設が無いのだ。
イヤ、創ろうと思えば一瞬で出来るよ。
図面さえあれば。
施設にあったような監獄棟ならパッと作れるけれど、さすがにソレじゃダメだと思うんだよね。
快適すぎる。
トイレ風呂ベッドが、小さいけれどそれぞれの個室についているのだ。
この世界の生活水準で言うと、かなり豪勢な造りになってしまう。
VIP待遇だと勘違いされて増長したら困る。
特にこの司祭。
「自分は選ばれた人間だから、このような高待遇なのだ」とか言い出しそうだ。
流石にカノンでも、牢屋の図面なんて引けないよねぇ……
アルベルトはどうだろうか。
彼もお貴族様だったのだ。
自分の領地に牢屋のひとつやふたつ、あったかもしれない。
……あるはあっただろうが、そんな図面を引ける程詳細を知っていたら、逆に「何で?」って話になるか。
俺みたいに折檻部屋として使われていたと言っても、全体を把握は出来ないだろう。
適任ではあるが、アリアに聞くのはナシだろ。
今は結界に護られたカノンの家、というか部屋というかの中で過ごしているハズだ。
その中に居れば、侵入者に見つかる事は無い。
カノンの結界に俺の物も重ねがけしたから、鉄壁と言える。
だがもし、俺みたいに手紙を探知出来る術者が居たら、目に見えなくてもソコに誰かが居るとバレる。
自分達が把握出来ない、何者かも分からない存在が潜んで居るとなれば、余程無謀な人間で無い限りは撤退を選ぶ。
そうなれば、せっかく襲撃者側は全員生かして捕縛出来たのに、王宮内への侵入者を捕らえられなくなってしまう。
こう言うのは、一網打尽にするに限る。
トカゲの尻尾切りをされたら、面倒臭い事になるからね。
首を切られる犠牲者ばかりが増えてしまう。
逃亡し難くて個室ごとに鍵が掛けられる、となると‘’スファンクス‘’が真っ先に思い浮かぶ。
部屋の中の様子は扉が嵌め込まれているので伺えない。
だが元々女性客をターゲットとした宿屋のつもりで建てた。
そのため外部からの侵入防止の為、窓は個室にはない。
廊下や天井にはあったけど、それも後から塞がれている。
トコトン音漏れ防止の改築がされていた。
多種多様なプレイが出来るようにと、床も水洗い出来るし、ガチで拷問も余裕で出来るな。
見た目が派手だから、連行する時の絵面が最悪だが。
聖職に就いている人にとっては、あの外装はある意味の拷問になりそうだよね。
精神的に痛め付ける意味でも、適当かもしれないな。
……見たくないのに、あのマッチョ像を何度見る事になるんだ?
俺は??
もし場所を提供してくれるのなら、イシュクには今回の諸々の協力費として、街の中で好きな場所に好きな建物を創ってやるか。
なんなら、王都に出店予定の二号店も創ってやってもいい。
ケチがついた建物で商売するのってイヤだろうし。
断られたら、一足先に街に戻ってカノンと相談かな。
団長殿も伴って、コッソリ馬車に入ってこの後の相談をする。
一五〇人もの人数を収容するとなると、どう足掻いてもひとつの建物では足りない。
すし詰め状態にするなら、‘’スファンクス‘’で何とか足りるかもしれないが。
「‘’スファンクス‘’はあくまでワタクシが経営している娼館の総称です。
他に三棟あります。
先程提示して頂いた条件を間違いなく遂行して下さるのであれば、あの一般向けの建物だけなら、仕事に支障はきたしません。
喜んで提供致しますよ」
「お、マジで?
出来れば尋問も手伝って貰えると助かるんだけど」
「ワレワレの力をもってすれば、口を割るのは簡単でしょうしね。
王都の分も、となると貰い過ぎでフェアじゃない。
オプションとして、引き受けましょう」
「よっしゃ、交渉成立!」
アッサリと受諾されたので固い握手を交わし、即書面におこす。
甲やら乙やら回りくどい書き方をしても面倒臭いだけだ。
契約者は俺とイシュクで良いだろう。
さらさらっと走り書きをして、互いの認識に齟齬がないかを確認し、一部訂正して二枚清書をした。
両方の文章に間違いが無いか、最終確認をして、証人に団長殿とスナンも巻き込み、拇印をそれぞれ押させて互いに持つ。
「国の問題なのに、民間人にここまでさせて良いものか疑問なのですが……」
「アリアに関する事だろ?
俺からしてみりゃ身内の問題みたいなもんだし、大した手間じゃないし、良いんじゃない??」
「ワタクシは、賢者や賢王から一族の保証を約束して頂けただけで十分です。
なのに更に、店を二軒も建てて頂けるのです。
むしろ儲け話に乗せて貰えて、嬉しいです」
「オレは頭の意向に沿うだけです」
全員肯定的なので、何の問題もないね。
イシュク達は街に戻るまでは今まで通り馬車の中で待機。
街に着いたら、先触れによって住民が出迎えてくれるハズだ。
馬車に取り付けてあるカーテンだけ開けて、顔を出す必要なないので手だけ振るようにお願いをする。
指先を揃えて、ブンブン振り回すような感じではなくお上品に、おっとりと左右に振るように指導しておいた。
アリアは国王としての冠を付けた状態では市井に顔を出さない。
女だし、見た目はただの女の子だ。
つまり、暴力で簡単に屈服させられそうな見た目をしている。
統治も正直上手くいっているとは言えないし、その判断は正しいと言える。
コッソリと抜け出して、調査がてらラフな格好で、城下町をうろつく事が、ごく稀にある程度だ。
息抜きにもなるし、そのお陰で住民の問題を直接把握し、身体的に問題がある人々を街へ移住させる事が出来たのだから、今後もアリアの外見は秘匿しておくべきだろう。
だからアリアの見た目で、目立つ行動をさせるワケにはいかないのだ。
縛り付けた教会関係者は、眠らせて大きく作った空飛ぶ石版に乗せて運ぶ事にした。
引きずり回したら死んじゃうからねぇ。
意識があるままだとうるさそうだし。
どうせ俺が操作して運ぶのだ。
誰かが起きる気配を感じたら、その度に即行寝かせる。
そうすれば、一晩は野宿する事になるが、予定より随分早く到着出来るだろう。
カノンには、あと一日も掛からずに街に着く事と、強襲して来た教会関係者、約一五〇人を生け捕りにした事、またイシュクの店にソイツら全員コッソリ運び込むから、俺は国王御一行様とは途中から別れて行動する事。
その三つだけ、手紙で報せた。




