神さま、
騎士と言うからにはどれだけ強いのかと思ったが……正直、期待ハズレだな。
コレならガルバの方が余程強い。
料理人一筋になったサージよりは強いが。
常日頃から魔物を相手にし、その上腑分けが得意――筋肉や骨の構造をよく理解している、ジャビルには劣る。
その程度の力量だ。
ヤル気はあるようだけど、教育の仕方が悪いのだろう。
団長さん達は決して悪くなかったのにな。
何でだろ。
教えるのがヘタクソなのだろうか。
単純に栄養状態が良くないのかな。
皆一様に線が細いもんな。
騎士ならば貴族階級だろうに。
貴族ですら食うのに困っているのか、この国。
馬具や武器を揃えるのに、金を使い過ぎているのはありそうだ。
魔物の素材がもっと安く出回るようになれば、装備も充実させやすくなる。
その為には魔物を楽にリスク少なく倒せるようにならなければならない。
そのためには訓練をし、強い武器を揃え……とまぁ、何かしらキッカケを与えないと、堂々巡りになるんだよな。
そのキッカケに、街がなれば良いなぁ。
遥か上空から、統率だけはシッカリと取れた動きで馬車の警護をする騎士達を見て、溜息を吐いた。
統率が取れているという事は、やる気もあるし、指揮官が尊敬されていて、命令を忠実にこなす土台が確立されているという証拠だ。
それだけに勿体ない。
カノンもアリアの事が心配だと思うのなら、支援でも何でもすれば良いのに。
剣や槍は自分は門外漢だからと、中途半端に関わる位なら何もしない、と言うのは流石に無責任が過ぎるだろう。
金で解決する事は結構ある。
腐らせる程金があるのだ。
有効利用してくれるヤツらに投資しろよ。
この御一行様には騎士団長も同行している。
何かしら気になる物が街にあったなら、取り入れるための手筈を整えよう。
アスレチックとか、冒険者には好評らしいんだよね。
遊びながら鍛えられる、そのスタンスが不謹慎だとか言わないのなら、訓練場に創ってあげても良いよ。
……それにしても、ヒマだ。
‘’喰魔の森‘’に潜んでいる連中は、王都からだいぶ離れた位置で待機している。
国王御一行様を奇襲して、王都に救助を求められたら厄介だと考えたのだろう。
襲撃者の特徴から、精霊教会が関わっている、なんて伝令を飛ばされたら事だしね。
大抵の精霊術師は、教会に所属しているか、冒険者になっているという話だから。
統率の取れた動き、しかも団体に襲われたとなれば、教会関係者が犯人だ、と考える者は多い。
ちゃんとそうなった時の対処はしているだろうけど。
疑いの目をかけられたら、面倒な事になるのは目に見えている。
ならば、なるべくそのリスクは減らしておくべきだ。
そう考えての、‘’喰魔の森‘’中腹での襲撃予定を組んだのだ。
特に街へ向かう道の途中、分かれ道の先にはダンジョンがある。
通常のダンジョンだったのならば、証拠の隠滅用の魔物をソコから調達出来る。
ダンジョン内の魔物って、外の森に居る魔物よりも幾段か強いと言われてるから。
ツガイで連れてこなければ、繁殖の危険性はないし、捕縛出来る程度の強さの魔物ならば、万が一近辺で暴れ回ったとしても、教会に危険が及ぶ前に対処出来る。
それに怪我人にしても、墓の用意にしても、被害が出た所で、教会への寄進が増えるだけ。
教会からしてみれば、古代の英雄の血縁者だか何だか知らないが、目の上のたんこぶである国王と宰相を一気に葬れる機会だ。
ある程度の犠牲者を出すような無茶をするに値する。
そう考えた。
ホント、こう言う悪人ってヒトを駒のようにしか扱わないよね。
何?
悪人になる為には、って手引書でもあるの??
ろくでもねぇなぁ。
その下らない計画の実行犯は、ダンジョンに入って行ったっきり戻って来ない。
時の精霊が足止めしているのか、単にダンジョン内で迷ったか。
強い魔物を求めて奥に入り過ぎて、帰って来れなくなったパターンもあるかもね。
森の入口に待機していた伝令係は、王都の司祭と、森の中で待機している仲間に手紙を送った。
今森に入った事。
それとおおよその、ポイント到達時刻の概算を報せていた。
王都の門を潜った時間から逆算したのかな。
一度森の手前で休憩を挟んだから、約四時間後、休憩をするべくポイント付近の休息所で、無防備な状態になると予測を付けたようだ。
森の入口手前では装備の点検や、道中の注意事項等を副将させられ気合いを入れ直されていたが、それまでの間、何事も無かったら、多少気を弛める人が出るのは事実だろう。
団長殿は問題ないだろうが、果たして他の騎士団の人達はどうなるだろうねぇ。
まぁ、何かあっても、空飛ぶ石版に乗って上空から見張っている俺と、アリアと宰相閣下殿に扮して馬車の中に居る夢魔が対応するから、問題は無いケドね。
国王御一行様の護衛を任された騎士団のうち、騎士団長と、王宮で留守番をしている副団長の二人は、俺やイシュク達と顔合わせまで済ませてある。
二人ともカノンとも面識がある。
アリアから直接「お兄様以上の実力者です」と俺を紹介された時、訝しむ事なく「ならば演習と思い警護に勤めます」と返してくれた。
アリアは良い部下を持ったね。
練習は本番のように、本番は練習のように取り組むのが良いとされている。
脳は反復作業を行うと、その行動を行うための神経が繋がり、繰り返す事でその回路が強化される特性がある。
国王の警護等と言う、失敗を許されない任務に就く事で、緊張し過ぎてパフォーマンスを落としては、本末転倒だ。
繰り返し行われてきた演習と思い、ある程度の力を抜いて実力者を発揮すべき。
そう思っての言葉だったのだろう。
彼らは脳科学なんて言葉は知らないが、実践で感覚的に、そのベストな状態を習得している。
それだけ熱心に仕事をしているという事だ。
素晴らしいね。
カノン以上に強いという言葉を信じてくれたかは分からない。
本当だろうが嘘だろうが、自分達の上司がそう言うのだから、疑う必要がないと思って受け入れたのかな。
流石に夢魔を紹介した時には、少々表情筋が動いたけれど。
騎士だし魔物の勉強をした時にでも、名前を見た事があるのかな。
魔物と思われている上、絶滅したとされていたのだ。
しかもその特性を知っているのなら尚のこと、嫌な顔をされても仕方あるまい。
だが目の前でアリアの姿に変身した時には、その有用性が高いとシッカリ認識してくれた。
言葉を交わせるし意思疎通も出来る。
ただの魔物ではないと納得した。
対価も分かりやすく請求したし、強さも俺が保証した。
お互いの利害関係が一致したが故の助力だと理解したため、協力を受け入れてくれた。
騎士団長殿も、やはり国王本人が出張るのは嫌だったようだ。
そりゃそうか。
何かあったら自分の首だけでは済まないもんね。
忠誠心が強いのならば、道中の休憩時に葉っぱで指先を切ることすら厭うだろう。
夢魔は見た目を変える事に特化している。
普段魅力的でお色気ムンムンな姿に変身しなれているから、ツルペタでちんちくりんな姿に変身するのは少々抵抗があったようだが、ジックリと見なければ別人だとは分からない程度に、よく似せてくれた。
夢魔の特性である、目の色だけは変えられないという事なので、なるべく伏し目がちで過ごして貰う事になった。
夏ならヴェールでも被らせるんだけどね。
そういう文化もないのに、陽射しの届かない真冬に顔を隠していたら、怪しさ満点だからね。
アリアの目の色まで認識している人がどれだけいるか、という話なので、そこまで気にしなくて良いとは思うが。
そんな近くで対面した事があるような奇襲者は居ないだろう。
街に居住している夢魔中で、一番強いのがイシュクとの事だったので、アリアの身代わりはイシュクが担う。
宰相閣下殿はその次点の実力者であるスナン――娼館勤めの人間の女性を一番弱らせた困ったヤツが、その時の罪滅ぼしも含めて代役に名乗りを上げてくれた。
二人共試しに街の外で手合わせをしたのだけれど、肉体が自由にいじれるって良いね!
なかなかに有意義な時間を過ごせたよ。
無手と思いきや、腕から刃物を生やしたり、腕そのものを硬質化させたりと、なかなかユニークな戦い方をして楽しませてくれた。
紙一重で躱すと追撃が来るんだよ。
事前情報が無ければ初見では苦戦していたかもしれない。
流石にロケットパンチは無かった。
あくまで肉体の変化だからね。
ゴムゴムのぉっ! って感じで伸ばす事は可能だそうだよ。
ゴムという素材がこの世界には無いから、想像しにくいと言われたが。
なのでやってみて貰ったら、どちらかと言うと緑色の皮膚をした、ナメクジ星人みたいになった。
腕の太さも、上腕と前腕の比率もそのままに、結構な長さまで伸びた。
途中で腕の重さに耐えられなくなって消してしまったけど。
世界一周は流石に出来ないらしい。
中身を伴わない、風船のような状態にするのなら、もう少し遠くまでいけるとイシュクが言い出して、途中からどのような形状にすれば何メートルまで伸ばせるか、二人で競っていたな。
霊力も一応は扱えるので、精霊術も使えるし、夢魔特有のエネルギーを使う事も出来る。
カノンが言っていた、相手を魅了状態にしたり、催淫作用をもたらしたりとか、そういう、いかにも夢魔って感じの術だね。
戦い方が多彩で素晴らしい。
好奇心の赴くままにコツを聞いて、どう言う原理で誘淫するのか再現してみたら、やり過ぎてしまったようで襲われかけた。
無論、返り討ちにしたが。
夢魔はその手の薬や術は効きにくい体質だ。
なのにも関わらず理性が飛んでしまったので、「人間には絶対使ってはいけません。元に戻せなくなります」と真顔で忠告された。
感度三〇〇〇倍とか男のロマンだろうに。
そっか、ダメか。
そんなやり取りがあり、目出度く影武者として合格した夢魔二人は、念願の王都への出店権利と引き換えに、只今おすまし顔でアリアと宰相閣下殿の代わりに馬車の中に座っている。
骨格をマネているから、声も非常に似ている。
しかし流石に口調や言い回しを習得する時間は無かったし、二人が知っていて当然の知識を学ぶヒマも無かった。
なので襲撃を警戒しているため馬車からは降りないを基本にして貰っている。
夢魔だから、トイレの休憩は要らないし、ロングドライブ症候群やエコノミークラス症候群のリスクもない。
だからと言って全く馬車から出ないと、逆に「本当に標的が乗っているのか?」と疑われかねないので、休憩時間には団長さんを護衛に伴った状態で馬車の外に出るようにして貰っている。
長生きをしていても、ヒマな時間はどうしても流れるのが遅く感じる。
息が詰まってボロが出てもいけないので、休憩は大事だよね。
俺は空飛ぶ石版の上から不穏な気配をマッピングしてはイシュクと情報共有したり、結婚式当日まで王宮内でコッソリ待機しているアリアに、襲撃者達から出された王都にいる手紙の受取人の顔や内容を報せたりと、意外とやる事はある。
自分の手足を動かす忙しさがないので、何となくヒマな気持ちにはなるが。
時間自体は潰せている。
他にも‘’喰魔の森‘’に敷いた街道の劣化具合や、時間の経過によって生じている不具合がないかのチェックなんかもしている。
冒険者ギルドで利用者の声なんかを集めて貰って居るが、自分の目で見た気になる点もまとめて置きたい。
こうやって賓客が通るとなると、ちょっと道幅狭かったかな、とか。
冒険者以外も使うのだから、簡単な休憩所やガゼボだけではなく、小屋も用意しておくべきだったな、とか。
他の街道にも応用が効くような発見は、ドンドン取り入れたい。
アリアが精霊教会の悪巧みを潰してくれれば、人との行き来が盛んになっても、戦争が起こる可能性が減ってくれる。
この世界の幸福度を上げる為に、やれる事はなんでもしなきゃね。




