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もと神さま、新世界で気ままに2ndライフを満喫する  作者: 可燃物


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神さま、画策する。

 カノンのお迎えでなければイヤ。


 ……などというブラコン特有のワガママではなく、(オルトゥス)からの招待を利用して、最近動きがどうもキナ臭い精霊教会の、反乱分子を炙り出す予定を組んでいるそうだ。



 シスコン(カノン)にバレればとんでもない事になるのは目に見えている。

 しかし幸い、カノンは遥か西を旅している最中。


 ゆっくりノンビリと馬車に揺られながら、我が身を囮にして不届き者共を一掃しよう。


 そう思っていた。



 しかし残念。

 その大陸端に近い西の土地から、ちょっと前に戻って来ているんだな、コレが。


 アリアは俺がさっきココを訪れるまで、俺やカノンが(オルトゥス)に戻っていると知らなかったようである。


 確かに、わざわざそんな報告カノンがするとは思えない。

 知らなくて当然だ。



「居て欲しい時には居ないクセに、長い人生の中で数少ない、心底居て欲しく無い時に限って居るとはどういう事なのですか!?」と怒りを露わにしている。


 まぁ、人生なんてままならない物だ。

 致し方ない。



 いつ出発するのか。

 何日後に戻って来る予定なのか。


 日程も公表してある。



 その直後から、‘’喰魔の森‘’に奇襲や暗殺を目論む人達が向かっているのを、既に確認していると言う。


 全て芋づる式に捕える事は難しかったとしても、ある程度でも排除出来るならやる価値があると見込んでいるようだ。



 アリアは雪深くなる前にウォラス村とルボル村の、全村民殺害の報せを受け取ったそうだ。

 その報告を受け、野放しにしておけないと思ったらしい。


 何の罪もない、精霊教とも関わりのないような国民に、実害が及んでいるとなれば、確かに国は動くべきだろう。


 人間五十名程の生贄があれば、世界の破滅を目論む、精霊とは正反対の存在である燼霊を召喚出来る。

 その事実は、かなり衝撃的だったようだ。


 あの時は精霊術師も生贄の中に居たから、一般人だけだと、もっと単位は大きくないといけないと思う。


 つまり、また燼霊の召喚や顕現を実行しようとすれば、そしてその時の犠牲者を精霊術師ではなく、一般人のみに絞れば、被害はかなり大きくなる。



 市民は精霊教会の一部不穏分子が、燼霊という人類の敵を崇めている、なんて事実は知らない。

 精霊教会は基本的に、お金にはがめついけれど、慈善事業をして、薬を提供して治癒術を施してくれる団体だ。


 言っても信じて貰えないだろう。


 そもそも言った所で「燼霊って何?」ってなるだけだしね。



 説明したら、変に不安にさせるだけだ。



 一連の騒動の生き残りがいる、ノワナ村やパルム村の住民から、もしかしたら話は漏れるかもしれない。


 ならば、次の犠牲が出る前に、そしてその情報により混乱や騒動が起こる前に、対処をして置きたい。

 そう思うのは当然だ。



 なので辞めるつもりはないから、カノンには黙っていて欲しいと言うけれど……


 流石に俺もそんな話を聞いてしまっては、中止まではしなくとも、別の安全な手段を取って欲しいと思ってしまう。


 親友二人の忘れ形見だ。

 危険な目にはあわせたくない。



「影武者立てるとかはダメなの?」


(わたくし)の外見年齢に見合う子供を?」


 そうだね、愚問だったわ。

 髪はまぁ、カツラでも作れば良いとして、流石に背格好は誤魔化せない。



 十五歳前後の背の低い女児に、「暗殺者が襲ってくる道中の替え玉になって」なんて言って了承されるとも思えないしね。


 もしされたとしても、万が一捕らえられた時の命の保証は出来ないし、何か情報が漏れても困る。

 そもそもら一般人を巻き込む事を、アリアは良しとしない性分なのだ。


 ムリがある。



 アリアもカノンと同様、「スキル」によるものなのか何なのかは判断付かないが、特殊能力を持っている。

 精霊術もそこそこ使えるし、時の精霊(クロノス)と契約しているから自分以外の者の時間制止の術も使える。


 保有霊力が少ないからテレポートは出来ないみたいだけどね。


 少ないって言っても、一般人よりは余程多い。

 俺とかカノンと比べると、どうしても劣ってしまうだけで。


 そうなれば自分で解決するのが一番、と思うのは当然か。

 ヘタな冒険者や警護に当たっている兵士よりも強いのだから。



「私は充分過ぎる程生きておりますし、世界に悪影響を及ぼす諸悪の根源を断てるのならば、何かあったとしても、悪くない最期と思い受け入れられます。


 なので未来ある若者が犠牲になるような案は、一考の余地もなく却下します」


「未来ある若者じゃなければ良いって事?」


「……その上で襲撃者を返り討ちに出来るような者であれば。

 そのような人が居るとは、到底思えません」


 そうね、人なら居ないね。


 ニコーと笑うと、若干引かれてしまったが、(オルトゥス)に来る時の思い付いた段取りを話す。



 やはり俺が馬車の護衛に付くのは必須だろう。

 見えない場所に潜んで居ようが、どのような実力者だろうが、俺には関係無い。


 気配感知の精度は日に日に増している。

 ‘’喰魔の森‘’程度の広さなら、隅々まで認識出来る。


 木が何本生えているか。

 魔物の巣が、ソコに卵が幾つあるかまで把握可能だ。


 石ころがどれだけの大きさの物が何個あるか、となったら数えるのが面倒臭いのでしたくないが、ヤレと言われればソレも出来る。



 カノンにイタズラがバレて発動した強制イベントの、命懸けの全力かくれんぼに勝利した人間だぞ、俺は。


 気配を絶つのも読むのも、人類最強である‘’賢者様‘’の上を行くのだ。


 ちょこっと精霊術を扱える程度の人間、見つけるのなんざ朝飯前だってぇの。



 もし手紙(シルフィード)のような霊力を伴う通信手段を使ってくれれば、辿って行く先も把握出来る。


 芋づる式はムリ、とアリアは言ったが、泳がす期間が長ければ長い程、連絡を取る機会は増すだろう。


 手紙(シルフィード)の送り主も受取人も調べられるし、それ所か、会話の内容まで押収出来るぞ。



 こういう時、精霊のトップが味方に居るって強いよねぇ。


 手紙(シルフィード)は低位の精霊術だから、詠唱を覚えさえすれば、霊力が低くても割と扱える人は多い。

 証拠が残らないし、悪巧みをしている連中は好んで使いそうだ。


 そういう力に頼り切ってるヤツらは、どう思うかなぁ。

 残らないと思っていた音声が、実は復元出来るなんて知ったら。



 一回コッキリ使い切りの、ボイスレコーダーを使っているようなつもりなのだろう。


 実際は、そこら辺にたまたまいた通りすがりの風の精霊が、霊力を対価に音を記録し届けている原理だ。


 精霊は人間から徴収した霊力を循環させる事で、世界のエネルギーが滞らないようにしている。

 だから自分達の興味関心の無い事でも、言葉を届けてくれている。


 そして何度も再生させる理由も、記憶しておく理由もないから、一度きりしか声を届けない。


 だが、その理由と、相応の霊力をあらかじめ与えておけば、会話を全て記録しておいてくれる。



 つまり、風の精霊(ウェントス)に伝令を頼んでおけば、後日精霊にどんな会話を届けたのかを聞く事が出来るのだ。


 本人の声で記録してくれるからね〜。

 国王暗殺計画の筋書きを独白してくれるようなバカが引っかかってくれねぇかなぁ!



 流石にそんな仕事、風の精霊(ウェントス)自身にさせるワケにはいかないからね。

 通達を頼むだけにしておこう。


 本人はお祭りに興味があるから、当日は結婚式を観たいだろうし。


 顕現する為の肉体の用意が、出来れば良かったんだろうけどね。

 手持ちの素材じゃムリだ。


 眺めるだけで勘弁して貰おう。



 宰相閣下殿も(オルトゥス)に来るそうだ。


 王宮内を手薄にして信頼出来る強者に、城内に侵入して来る無頼者の捕縛をお願いするそうだが……

 数で襲って来られたら対処出来ないし、かと言って警備を増やし過ぎたら襲撃は見送られてしまう。



 時の精霊(クロノス)レベルのヤツが出張ってくると言うのなら、任せても良いと俺も判断するし、カノンもOKを出してくれるだろう。


 ソコソコ程度の実力では、カノンは自分の家まで荒らされるかもしれないからね。

 そうなれば、余程の実力者でなければならない。


 丁度良い人って居るかな。


 オレが分裂出来れば良かったのに。

 そうすれば王宮の留守番と、馬車の護衛と手分けしてやったんだけどな。



 話し合いをしている間に、二の鐘が鳴った。


 鐘の位置が近いのだろう。

 物凄く大きな音で、ちょっとビックリした。


「んじゃ、いい時間だし失礼するわ。

 なるべくカノンには怒られないように伝えるけど……まぁ、期待しないで待ってて」


「そこは大舟に乗ったつもりで、と仰って下さいな。


 八の鐘で表向きの公務は終了します。

 その後、手が空き次第この家に戻りますので、その時間を目掛けて訪ねて下さい」


「りょ〜かい」



 この後アリアが家を出るのだから、結界の張り直しを俺がする必要はない。

 なのでカノンの家を出て、そのまま(オルトゥス)へと転移して戻った。



 そして俺が(オルトゥス)に着いてすぐに向かったのは、カノンが待つ自宅ではない。

 出来ればもう近寄りたくねぇなぁと、心の底から思っていた、筋肉ムキムキの石像が出迎えてくれる‘’スファンクス‘’だ。


 まさか、昨日の今日で来る事になるとは思わなんだ。


「た〜のも〜」


 言いながらゴテゴテした扉を開ける。

 接客用の顔を引き攣らせて出迎えてくれたのは、イシュクだ。


 前回は聴取のために来たから支配人自ら出張って来たのだろうと思っていたのだが、普段から客を招き入れる役目は彼がしているのか。



 騒動のお咎めでも申し渡しに来たと思われたのか、褐色の肌でも分かる位に、顔から血の気が引いている。

 口角も上げすぎと言える程にVの字になっている。


 そんな緊張しなくても、取って食いはしないよ。


「仕事の話しに来ただけだよ。

 イヤだったら拒否してくれて構わないし」


「まさか、ジューダス様がお買いに……?」


「しない、しない」


「では、売りに?

 正直、売れないと思いますが」


「売らないよ、何言ってんの」


 ってか、価値を付けられても困るけど、「売れない」と真っ向から言われると、ちょっとショックだな。

 そっか、俺の見た目って市場価値が無いのか。


 マッチョでもボインでもないもんね。

 この世界のニーズには合わないようだ。


「? では、どのようなお仕事を?」


「出張サービスってさ、してくれる?」


「……詳しく伺いましょう」


 言ってイシュクは、前回と同じ部屋に俺を招き入れた。



 ってかさ、風営法が無いとは言え、この店、一体何時から何時までの営業なんだ?

 朝っぱらからやってるとは思わなかったわ。

 有難いけどさ。


 元が生物じゃないから、寝なくても良いのか。

 羨ましいな〜。

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