神さま、翻弄される。
いつもご覧頂きありがとうございます。
誤字報告ありがとうございました!
昨日書く忘れてました、ごめんなさい。
最近句読点のつけ忘れが多いのですよね。
何故なのか。
生き急ぎ過ぎ?(˙˙*)?
人間もそうだが、生物には生来、本能的に‘’不安‘’を感じる能力が備わっている。
危険を回避するために重要な役割を持つ力で、危機的状況が迫る中、‘’不安‘’をいち早く感じ取り、正しく解消して来た生物――危険から逃げられた生物が、長くその種を繁栄させて来た。
どんなに勇猛果敢な人物でも、その‘’不安‘’や‘’恐怖‘’は感じる。
逃げるのではなく、立ち向かう方向に行動をシフト出来ると言うだけだ。
ソレはアドレナリンやドーパミン、コルチゾールのような神経伝達物質により、様々な効果を得た結果、行動に移せる。
瞳孔を大きく広げ物をよく捉えられるようにしたり、気管支を広げて酸素を取り込める量を増やしたり、血流を良くしてブドウ糖と取り込んだ酸素を素早く骨格筋まで運び、思い描いたまま肉体を動かせるようになったり。
生き延びるため、立ち向かうために、肉体にそれらの変化をもたらす。
何よりも、ソレ等の脳内分泌物は、爽快感を伴う。
ある種の高揚感が肉体を支配し、報酬を期待するようになる。
報酬とは、敵の排除によって、恐怖から開放された時の快楽によって更に強まる。
そのため、より強い快感を得ようと、常に危険と隣り合わせになろうとする。
破滅願望と言うのは、本来その快楽を求めた結果である事が多い。
快楽物質は、報酬を期待している間、つまり何の成果を得られずとも放出される。
期待値が上がれば上がるだけ、快楽が得られるために依存性が高まる。
結果が伴えば、尚の事だ。
一部の冒険者が、市民権を得られる金額が貯まっても定住せずに、冒険者稼業から足を洗えないのは、そういう部分があるからだ。
だが火の精霊の場合は、同じ破滅願望と一言で言っても、その根源が違う。
何でもかんでも自分のせいだと思い込んでしまう、自責思考によるもので、ある種の自傷行為に他ならない。
あんなに両親に愛され、家族にも大切に想われ、実際行動でも表現して貰っていたのに、何故そんな思い込みをしてしまっているのかは、分からない。
無表情に見える、何も映し出さない昏い瞳の奥にある、周囲の全てを拒絶している、諦めにも似た感情。
その理由が分かれば、燼霊化を解く事は、可能なのだろうか。
もし火の精霊が、力及ばず瘴気を対処出来ずに燼霊化したのではなく、人知れず抱えた仄暗い気持ちから、その手を伸ばしたのだとしたら。
俺は火の精霊の気持ちを、否定する事になる。
……どうすれば良いのだろうか。
このまま力技で押さえ付けて、浄化する。
ソレで、本当に良いのだろうか。
真面目に悩んだ所で、拘束をする余地すら、今の所無いんだけどね!
突っ込んで来た魔庭亀を避けながら、火の精霊の攻撃にも対応しないといけない。
この状況は、なかなかにシンドい。
なにせ魔庭亀がデカい。
つまり死角が出来やすいのだが、燼霊化した火の精霊の影響で、気配探知が発動出来ない。
味方の場所も把握出来ないから、ヘタに攻撃するワケにもいかない。
火の精霊を無効化出来る程の霊力を込めた術が、万が一カノンに当たってみろ。
テヘペロじゃ済まされない。
だからと言って、火の精霊の攻撃を避け続けるのも悪手だ。
足元を刺激したら、マグマが溢れて来そうだし。
そうじゃなくても、対応し切れなくて避けた攻撃によって壁が溶けて崩れて来たり、足場が溶けて不安定になって、行動範囲が狭くなってしまっている。
避け続けていたら、そのうち崩れた壁の下敷きになって、死んでしまう。
‘’不安‘’のような負の感情が、生来備わっている本能的なものと言う話をしたが、燼霊の力の源となる魔力の素は、負の感情である。
逆に霊力の根源は、喜びや幸福感といったもので、生きて行く上で自分の力や周囲の協力によって得ていく。
発現しやすいのは、圧倒的に負の感情だ。
特に今、少なくとも俺は焦っている。
物凄く不安を感じている。
戦いに集中したくても、ソレ等がジャマをするせいで、更に焦りが加速する。
そのせいで燼霊の力が増してしまう。
そうと分かっているから、理性でどうにかブレーキをかけようとはしているのだが、完全には制御が利かないのが厄介である。
こんな現状で喜んだり多幸感を得たりする程、俺はマゾヒストではない。
もうそうであれたなら、琥珀の力が増すし、とても良かったのだけれどね。
残念ながら違う。
断固として否定する。
視覚を確保するための光源は、ひとつでは余りにも不十分だったため、複数個に増やした。
だが今度は、明る過ぎると火の精霊の攻撃の初動が分かりにくくなるからと、ひとつひとつの光量を落とした。
既に薄明るい程度の暗闇に目は慣れたが、時折目眩しのように生み出される強大な炎によって、目の奥がキンと痛くなる。
しかもそういう攻撃を、魔庭亀の巨体に隠れてして来るものだから、本当にタチが悪い。
無言で淡々と、術を放ってくる様は、なかなかに怖い。
だが決め手には欠ける攻撃しかして来ないあたり、まだ完全に燼霊化していないのかなと、一縷の望みが期待出来る。
ソコは喜ばしい事かな。
確定では無いケドさ。
「連携ができないのが、もどかしいな」
暑さ故か、既に呼吸が荒くなっているカノンと、思いがけず合流した。
遥か格上の燼霊と戦うのは、コレが初めてだそうだ。
しかも滅ぼしたら、色んな意味でダメな相手である。
緊張から変に力が入ってしまい、その結果、体力を必要以上に消耗しているのかもしれない。
遠慮をしたらコッチが危ないが、だからと言って全力で叩きのめしてもいけないとなると、確かに戦うのは難しい。
俺とカノン、琥珀の三人で遠慮無く渾身の力を込めて叩けば、倒す事は可能なのだ。
精霊神となった琥珀は言わずもがな、俺も精霊神となった皆から契約の指輪を貰ったため、人外めいた霊力を持っている。
燼霊化し強化された火の精霊と比較しても、良い勝負が出来るレベルの霊力を有している。
カノンは俺等には届かないものの、ソレをカバーするだけの技術がある。
倒すだけなら出来る。
だがその場合、新たな火の大精霊が誕生するまで、その座が完全に不在になってしまう。
闇と時を除いた各属性に精霊神が誕生した事により、確かに大精霊はどの属性にも居ないのだが、火の属性に関しては、そもそも精霊神すら居ない。
なにせ神となるはずの大精霊は寝ていたハズだったのだし、起きているかと思えば燼霊化してしまっているのだもの。
当然このままトップ不在となれば、確実に世界のバランスが大きく崩れる。
そういう意味でももちろんアウトなのだが、それ以上に、俺個人としては、二度も友人を殺めたくは無い。
琥珀とて、弟を手に掛けるような事はしたくないだろう。
カノンは……どうだろ。
火の精霊の前世こそ血縁だが、割り切れるのかな。
元大精霊とは言え、今は燼霊に堕ちた身だ。
敵と判断して殲滅する事を、厭わないのだろうか。
「魔庭亀がとにかくジャマだよな。
死んでんのにあんな俊敏に動くとか、色々間違ってんだろ」
亀のクセに。
ゾンビみたいなもんなのに。
セオリー通りにノロマだったのなら、細切れにして操れないようにするのに。
「火の気に充ちているせいで、他の精霊が入る余地が無いからな。
地の精霊様も、そのせいで動きが鈍いのだろう」
こういう発言をするって事は、カノンは肉親とか身内とは判断せず、割り切って考えているって事か。
薄情と言えば良いのか、合理的と言えば良いのか。
「琥珀からしてみれば、弟だからね。
どうにかこうにか、元に戻せれば良いのだけれど」
「弟……今世の繋がりではなく、前世の繋がりによる感情に引きずられているのか」
全くその考えが無かったようで、俺の言葉に虚をつかれたように、考え込んでしまった。
そんなヒマ、無いと思うのだけれど。
……ホレ見ろ。
魔庭亀が襲って来た。
口元に手を当てて、黙考し始めたカノンの首根っこを掴んで、身体強化と風精霊術を駆使して大きく跳んだ。
再び魔庭亀の背中に乗るが、その途端、また火の精霊が放つ術の的になってしまい、集中砲火を受ける。
そのせいで、魔庭亀の背中に生えていたトゲはことごとく溶けてしまい、身を隠す場所が無い。
致し方なく、カノンの後頭部を叩いて正気に戻してから、地面へと飛び降りた。




