神さま、言葉を失う。
いつもご覧頂き、ありがとうございます。
区切りの関係で、ちょっと今回いつもにも増して短めです。
ご了承ください。
思い返してみれば、ヒントは各所に散らばっていた。
一番の違和感は、何かと理由を付けて同行したがる琥珀が、サルーメン山のマグマの対処をするためにと、別行動を取った事だ。
専門じゃ無いからと理由を付けて直接出向いて以降、マグマ溜まりの始末が終わった報告を貰い、今に至るまで、彼の姿を見ていない。
電波を受信したみたいに『完了した』と、頭の中に声が響いただけだ。
いつもなら、即行で野暮用を終わらせるし、場合によっては、肉体をまとって食事の準備までしてくれるのに。
ソレがココ最近、全く無かった。
そのせいで、ご飯の内容が鍋一辺倒で少々食傷気味である。
限られた調味料でも、ササッと何でも美味しく調理してくれる琥珀と違い、俺は余り工夫の手立てを知らないため、レパートリーが多くない。
「知識」でレシピ検索をしてもさ、‘’妖兎の肉を使った料理‘’なんて調べても、出てこないもの。
イメージから、ミートパイのレシピを調べて再現したが、見た目こそ似ていても、妖兎はウサギの肉よりも余程筋張っているし、肉の味が濃いから、マズくはないのだけれど、イマイチ美味しいとも言えない料理が出来上がった。
そんな失敗談があるから、どうしても無難な鍋になってしまうのだ。
カノンに至っては、料理を美味しくしようなんて、そもそも考えて居ないだろうし。
有翼乙女が通って来た次元の裂け目も、探しはしたのだが、実は見付かっていない。
全ての巣は破壊したし、有翼乙女も根絶やしにした。
だが移動範囲から想定された最初の巣から予想される、次元の裂け目があるであろう場所を探したけれど、見付からなかったのだ。
くまなく探すには時間が掛かりすぎるし、殲滅後、追加で有翼乙女や他の魔物は次元を渡ってコチラには来ていない。
ならば先に火の精霊を起こそうと判断し、現在に至っている。
その次元の裂け目があるかもしれないと予想した範囲には、サルーメン山はギリギリ入っていなかった。
魔精霊の数も、異様な程に多かった。
ココは微精霊が集まる、もしくは誕生しやすい地脈点ではある。
ソレら全てが瘴気によって、魔精霊になってしまったのだろう。
だがその現象が、そもそもおかしいのだ。
だってココは、火の精霊のトップである火の精霊が居る土地なのだから。
精霊は階級が上であればある程、より多くの瘴気を浄化出来る。
霊力のキャパシティが増えるのだから、処理能力が上がるのは、ある意味当然と言える。
瘴気は霊力で中和、あるいは魔力をエネルギー転換して霊力に置き換える事が出来るのだから。
一度に使える霊力が多ければ多い程、瘴気への対処が容易になるのは、至極当然の事なのだ。
眠っているとは言え、火の精霊は大精霊だもの。
余程の事が無い限りは、周囲に発生した瘴気は、意識をせずとも勝手に浄化されていく。
なのにも関わらず、全ての微精霊が魔精霊に変貌してしまっていたのだ。
‘’余程の事‘’があったのだと、その時に気付くべきだった。
その事を知っているカノンが、特にね。
俺は聞いてないから、知らなかったし。
……まぁ、責任の擦り付け合いをしても、意味が無いので言わないけれど。
俺に指摘されずとも、カノン自身が、悔いているだろうから。
火の精霊に対する違和感ならば、そのカノンはもっと強く感じていたはずなのだ。
なのにその結論に思い至らなかったのは、先入観からなのか、起こって欲しくない現実だったから、目を逸らして逃避をしていただけなのか。
例年とは比較にならない程、酷い寒波が世界中を襲っている。
大精霊がただ眠りにつくだけならば、過去に何度もあった。
以前火の精霊が眠りについた年は、今季よりも気温は高かったが、積雪量が多かった。
その程度の差なら、眠る・眠らないに関係なく、幾らでも生じる。
特に今年は氷の精霊が誕生したのだ。
ソレが原因で、天気が酷く荒れているのかもしれない。
そう思い、深くは考えなかったのだと、後に語っている。
実際は、酷くならないよう抑えてくれていたのが、生まれ変わり立てで、器ばかりが大きく、ろくに霊力を操れない氷の精霊だったワケなのだが。
そうじゃなければ、もっと酷い事になって、新生王都が雪で埋もれていたかもしれないね。
カノンは火の精霊が消滅した所を、直接は見ていない。
どのような状況だったのか、説明くらいならしたけれど、その時その場に居なかったのだ。
過不足無く伝わっているとは思えない。
俺、説明するのヘタだし。
だが……そう、俺もあの時から、違和感はあったのだ。
本体となる核が別にあるとは言えど、大半の能力を持っているハズの分体が、なぜあそこまで弱かったのか。
だって、一発だぞ。
燼霊のトップであるアイツが相手とは言え、コチラだって精霊の一角を担う大精霊だ。
たった一発で消滅するなんて、有り得ないだろう。
……実際は、分体に割いていた能力が、さほど多くなかったからなのではないか。
火の精霊はその属性の性質故に、基本四大精霊の中で最も強いとされている。
もちろん相性として水属性の術には弱い傾向にあるのだけれど、その水とて、熱を奪えぬ程の業火に巻かれれば蒸発して終わる。
風属性もヘタなやり方では火の威力を増すだけだし、地属性も溶かされて終わりだ。
術者同士の戦いならば、器の総霊力量や手数の多さ。
術を維持し続ける忍耐力や制御力によって勝敗は決し、優劣が決まる。
だから水や地の属性が火に勝つ事もある。
だが相手が人間ではなく、大精霊同士だったのならば、元の属性が持つ特性で、勝敗が左右されてしまう。
それはもう、自然の摂理と言える。
覆しようがない。
唯一勝てるとすれば、火の精霊が攻撃を仕掛けてくる前に、颯茉を筆頭とした風の精霊達に、酸素をゼロにして貰う方法だけれど……
まぁ、自爆になるからね。
酸素が全く無い状態では、一呼吸しただけで体内の酸素が空気中に吸い取られて卒倒、死亡するから。
昏倒したら、その時点で精霊術の制御が出来なくなり、酸素がゼロの状態を維持出来なくなる。
そうすれば、火の精霊に主導権が移る。
だが酸素が全く無い状態だと、火の精霊は存在出来なくなる。
場外に出たらその時点で負けならば、一応勝てる。
なのでどれだけ頑張っても、ルールによっては勝てるって程度なんだよね。
と言っても、こんなのは勝ったと言って良いのか、分からないレベルだよね。
それくらい、火の精霊は強いって事。
火は生活に欠かせないものだし、人々の信仰心だって厚い。
ソレだけ強いのだから、霊力の器も相当のものだ。
当時地の精霊だった琥珀が『今全力で兄弟喧嘩をしたら、勝てるか分からない』と零すくらいだもの。
認めたら悔しいからそういう言い方をしただけで、恐らく、勝てないんだろうね。
精霊神となった今なら、また違うのだろうけれど。
ソコは火の精霊も精霊神にならないと、フェアじゃないしね。
……そう、考えていたのだけれど。
琥珀を過大評価していたのか、火の精霊を過小評価していたのか。
正直、目の前の光景が信じられない。
『――やぁ。
君が来る前に、どうにかしておきたかったのだけど……ごめんね』
見ててコッチが痛く感じる程、満身創痍になった琥珀が、力無く笑いながら謝った。
見ていて吐き気を催すような、濃密な魔力をまとった火の精霊に、その首を鷲掴みにされながら。




