神さま、引っ攫われる。
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途中下車するのは、足場となるような開けた場所が全く無いから危ない。
まるで岩壁を颯爽と走るヤギのように、魔庭亀はゴツゴツした壁を器用に降りて行くが、俺の目には、どこに足を掛けているのかが全く分からない。
なぜ転がり落ちないのか、不思議で仕方がない。
そんな、ほぼ垂直に下へと向かっている壁だ。
降りるのと落ちるのと、ほぼ同義になるに違いない。
なので終点がどこかは不明だが、マグマの中や、魔物の群れに突っ込みでもしない限りは、魔庭亀に乗っておこうという事になった。
礼こそ言われたが、たかが手袋に付与を乗せ過ぎだと苦言を漏らされた。
ひとつお礼を言う毎に、文句を言わねば気が済まんのか、この男は。
破れたら魔王の特徴と言われるキズが見えてしまうから、念入りにしているのだけれど。
そうじゃなくても、今回のような不意打ちされる場面もあるだろうし。
咄嗟の時って、つい手が出てしまうものじゃない。
理由を述べたら納得はしたが、彼が言いたいのはソコでは無かったようだ。
コレでなぜ安定しているのか、カノンには不思議で堪らないらしい。
ソレが責めたような口調になってしまったようだ。
あとは、照れ隠しだろうな。
不器用な男である。
今は追加で氷と元素の精霊がいるので、全属性とは言えなくなってしまったが、製作時当時の感覚では全属性が付与されていた。
更に耐熱・耐寒に防刃・防弾の規格まで加わり、正によりどりみどりの性能が、この手袋には備わっている。
あと、ソレ等の機能は一〇〇%防げるものではないから、傷が付いたり損なわれたりしたら、勝手に修復されるようになっている。
防げるのはおおよそ、九〇〜九五%くらいかな。
カノンが言葉の選び方をミスっただけなのは理解しているが、たかが手袋に、過度だと言われるのも、我ながら頷いてしまう。
バランス良く上手に付与出来たから、マントにも同様の方法で付与してあるけど、滅茶苦茶性能良いもんね。
水と火みたいに、相反する属性をひとつの道具に付与しようと思っても、大抵は失敗をする。
だから優先順位を決めて、手袋、マント、上着、パンツ、ベルト……それぞれの装備品に、別の付与をするのが一般的だ。
俺もカノンからそう習ったし、最初は属性ならば一〜二種類、他に防御力を上げる付与をしたものを使っていた。
だが時の精霊に貰った服が、全属性の付与がされていたんだよね。
ソレを鑑定眼を通して、どうやって付与をすれば良いのかを学び、結果、要塞のような防御力を誇る装備品達が完成したというワケだ。
自分では思いつかない素材の組み合わせだったから、とても勉強になったよ。
カノンにも当時、もちろん教えようとはしたんだよ。
なんだけど、そういう所のプライドが高い人だから。
生徒であり、歳下の俺の言葉を素直に聞く姿勢には、なかなかなれないようだ。
長生きしていると、そういう所が不便だね。
カラクリとしてはとっても単純な事で、クッション材と言うか、緩衝材になる無属性の素材を、それぞれの属性を付与する度に、間に挟めば良いだけなんだけどね。
その無属性の素材を集めるのは、一般的には確かに難しいとされている。
大抵の素材……というか魔物は、その土地の守護精霊から影響を受ける。
フェニエス大陸なら琥珀が守護をしている土地だから、同系の地属性になるか、相反する風の属性を帯びている事が多い。
だが、俺やカノンなら、力技でどんな素材も、属性無しの状態に出来るんだよね。
言葉するだけならば非常に簡単だ。
一旦自分の霊力で素材を満たして、抜くだけである。
聖水によって浄化された魔物素材は、元々も魔物の属性に加えて、聖水の霊力が少し入っている。
雑多で余計な物が入ってしまっている状態だね。
ソレでは、良質の素材とは言えない。
一般的にそう呼ばれるのは、霊力で満ちた状態の素材を指す。
なので素材に霊力を注ぎ込む事には、俺も慣れている。
大変なのは、その加減だ。
なにせ霊力が飽和状態になると、素材は形が崩れてしまう。
なので、その一歩手前で辞めなければならない。
その加減が、なかなか難しいのだ。
何度素材を砂にしてしまった事か。
ソレはソレで、利用価値があるのでムダにはならないけどさ。
あとちょっと、あとちょっと……って所でドバっと霊力が入り込んで、手の中から素材が消え去る時のあの感覚程、落胆させられるものってないよ。
カノンから教わった注ぎ方は、中心から徐々に霊力を広げて、染めていく方法だった。
だがそうではなく、端から霊力を注ぎ、元々素材が持っている特性や霊力を、全部追い出すイメージですれば良いのだと気付いてからは、失敗は減った。
その後、自分の霊力のみが入った素材から、霊力を取り除く。
空っぽにすれば良いだけだから、コッチは簡単。
ソレが俺がやった中で、一番簡単な方法だ。
霊力の細かな力加減の特訓にもなったし、良い勉強になったよ。
欠点は、その自分の霊力に染めた素材を沢山使って付与をすると、付与した道具が、自分専用になってしまう事かな。
貸し借り譲渡をしても、性能が一段落ちてしまう。
霊力の反発が起きるのかな?
原理はよく分からない。
今カノンに渡したのは、ソコの弱点をカバーするように「創造」したものだし、問題は無い。
実際、多少の煙は出ているが、自動修復機能付きだから、劣化しているスピードよりも、直る方が早いし、元々装備していた手袋とは違い、焼肉の臭いも漂って来ない。
カノンならば器用だし、いちいち霊力で満たさずとも、素材の属性や性能だけを抜き取る事も出来る。
その抜き取った性能を、別の物に付与している所を、何度も見た事がある。
だが、その空っぽになった素材は、今まで捨ててきた。
勿体ない事をしてしまったと、今更惜しんでしまう。
もしくは、非常に面倒臭いし手間も掛かるが、全属性の霊力を込めた素材を付与に使う方法もある。
コチラなら、属性攻撃を九十九%防げる。
自分よりも圧倒的に強い相手の攻撃は、残念ながら全ては防げない。
だから残念だが、一〇〇%とは言えない。
‘’家庭用合成洗剤・石けんの表示に関する公正競争規約‘’のようだ。
消費者に過度な期待を持たせないように、‘’完全‘’とか‘’万能‘’とか、誤認されやすい言葉は使っちゃダメだよってヤツね。
だから除菌スプレーなんかは、除菌率九九.九九%と表記してあるのだよ。
俺やカノンを相手にして強者の立場に居れるヤツなんて、早々居ないけどね。
早々居ないってだけで、竜種とか燼霊みたいなのがいるから、やっぱり一〇〇%とは言えない。
あとはものによっては、ニブルヘイム産の魔物が該当するくらいかな。
相性の悪さや、得手不得手によって手こずる魔物も、中には居る。
魔庭亀のような魔物も、相性が悪いと言えば、悪いか。
俺達人間からしてみれば、絶対的な質量が大き過ぎるのだ。
一体何tあるんだよ、この巨体。
いくら攻撃を防げても、押し潰されたら一溜りもないからね。
ヘタにダメージを軽くしてくれる分、ジワジワと圧死させられる恐怖と戦わなければいけなくなって、ソッチの方が大変そうだ。
イヤ、即死しなければ、ある程度の対応は出来るから、死なずには済むだろうけどさ。
単体で襲って来るならザコでも、物量で攻められたら厳しい戦いになる事もあるだろうな。
特にこういう動きや使える術が限られた空間だと、全力を出せないからね。
性能の良さを体験してしまうと、前の物には戻れなくなるなんて、よくある事だ。
遂に欲望に負けたカノンに、どうやって全属性付与をするのかを教え、防刃機能に関しては、俺が使った魔物よりも、違う素材の方が適していると教えて貰ったりした。
魔庭亀の移動は相変わらず続いているので、時折聞き取れない部分もあったが。
だってメッチャ揺れてるし。
いい加減、腕を上げている格好がシンドくなって来た。
おじいちゃんは、肩が痛いとか無いですかねぇ。
そんな心配をしていたら、壁面の様相が変わってきた。
炭鉱のように、横道が幾つか伸びている。
木材で補強するような事はされていないのだが、どれも一定の大きさの穴になっているのだ。
明らかに人工物である。
琥珀が、俺達が火山の内部に侵入出来るようにと、マグマ溜りからマグマを抜く時に使用したものかな。
寄生火山を作って、溜まっていたマグマ自体の量も減らすと言っていたけれど、天井に火道以外の穴が見当たらなかったんだよね。
わざわざマグマ溜りの下の方から、地表への通り道を引っ張ったのだろうか。
出口を山の中腹辺りに作って噴火させるならまだしも、何も無い平野で、割れ目噴火とか起こしてないよね。
もしそうなら、周辺の森が全部燃えて大変な事になってしまうじゃないか。
……全部終わって火口から顔を出したら、一面火の海でした、なんて事、無いだろうな。
精霊になった皆の感覚って、人間とはズレている時があるから、ちょっと怖い。
より一層強くなる火の精霊の気配と、マグマの熱気。
コレだけ暑いのだから、火山内部に溜まっていたマグマは全て抜いたとしても、新たに生成された分は、底に溜まって居ることだろう。
ウッカリ踏まないように、気を付けなければ。
そろそろ魔庭亀から飛び降りる準備をしよう。
そう声を掛けると、一度は頷いたカノンが、何かを見付けたようだ。
表情を引き締めた後、即座に俺の身体を力任せに掻っ攫う。
足場にしていた魔庭亀に生えるトゲは、周囲を見渡しやすいので、弓なりになっている丁度テッペン付近だったのだが、甲羅の縁ギリギリの場所まで一気に移動した。
勢い良くボディに腕がめり込んだせいで、肺の空気が一気に抜けて「ぐぇ」とカエルの潰れたような音が口から漏れ出た。
なかなかに痛い。
俺はウッカリする事は多々あれど、ちゃんと学習をするヤツだ。
魔庭亀に運ばれている間も、範囲こそ狭いがシッカリ気配探知を怠らずにしていた。
カノンが身構えるような、魔物の気配なんて何もなかったぞ。
だが実際、俺達がさっきまで居たトゲは、熱されたチョコレートのように、デロリと溶けていた。
あれだけ熱いトゲを溶かすって、どんだけの温度が必要なんだ。
ゾッとする所の話ではない。
未だ認識出来ていない敵の攻撃によって一気に高くなった室温に、思わず顔をしかめる。
「お前は、見るのが初めてか」
「何を?」
「魔精霊と呼ばれている、瘴気を溜め込んで、霊力が無くなった微精霊だ。
……と言われている。
気配を消すのが上手いから、探知に引っかからなかったろう?」
白樺の森に生息していた悪妖に性質が似ていて、他の魔物と手を組んで、その力を増強させる役割を担う事が多いそうだ。
物凄く身体が小さい上、元精霊と言うだけあって、人畜無害ですと言わんばかりな見た目と気配をしている。
そのせいで、精霊の姿を見た事がない人々が、よく騙されて酷い目に遭うのだとか。
その‘’酷い目‘’の具体的な例えが挙げられないのが怖いな。
悪妖に似ているという事はつまり、魔精霊の他にも、俺が認識出来ていない魔物が居るってことか。
魔力による索敵には、まだ不慣れなせいで穴があるのかもしれない。
霊力での索敵に切り替え、集中しようとする。
「おい、いい加減自分の足で立て」
だがカノンの脇に抱えられたままの状態だったため、ツッコミが入り、一時中断となった。
俺程度すら、持ち上げ続ける事が出来ないのか。
最近は鍛えてるとは言っても、所詮モヤシはモヤシか。




