神さま、身を捩る。
「せめて立ち位置を交代しろ!」
「俺が初見の魔物を相手に、アドバイスも無しに上手く立ち回れるワケ無いだろ!」
「威張るな!」
言い合いが出来る位に余裕があるなら、まだ大丈夫だろ。
先程までと同じように、癇癪を起こして攻撃して来る魔庭亀をカノンが対応し、俺が魔斑鰻を引っこ抜く作業を続ける。
カノンは代われって言うけどさ、抜くのに結構コツがいるんだよ。
押してダメなら引いてみろ、の逆だ。
引いてダメだから押して、捻って揺らして、その間も微妙かつ絶妙な力加減でもって細かくピストンを重ねて、ようやく抜けるのだ。
慣れた俺と同じ速度で出来ない以上、カノンの申し出は却下する。
それに魔斑鰻の身体って、滅茶苦茶熱いんだもの。
熱への抵抗値が低い付与しかしていないカノンの手袋じゃ、素手も同然だ。
焼肉になりたくなければ、諦めろ。
イマイチ精霊術が効かないようだし、決め手となる要素が何なのか、未だに掴めずにいるからだろう。
焦りが乗じたため、別のアプローチに突破口が見えないか、試したい気持ちは分かる。
なにせ戦闘開始から、十分は経過している。
普段の十倍の時間がかかっているのだから、体力的にはもちろん、精神的にもシンドいんだろうな。
俺とカノンの戦い方は、力にかまけた完全なるゴリ押しが多い。
やり過ぎと言われる程の火力で敵を圧倒し、短時間で決着をつける戦闘スタイルだ。
素材の回収さえしないのならば、大抵の魔物は、ソレで十分なのである。
なにせ二人とも、ムダに霊力が多いからね。
チマチマ考えるくらいなら、サッサと終わらせて、とっとと先に進みたい。
そう思っているが故に、大雑把な戦い方になってしまう。
二人で力を合わせて一匹の魔物を倒す、なんて機会は全然と言って良いくらいに無い。
お互いの距離を測りかねていた、遺跡で倒した巨大ウミウシが、最初で最後じゃなかろうか。
俺が初めて遭遇する魔物が相手だと、何が弱点なのか教えてくれたり、鑑定眼に書かれている事が本当なのか実験したり、と時間をかける事もあるけれど、基本的には弱点となる属性精霊術を使い、一撃で倒してしまう。
複数の魔物の集団に襲われた時は、手分けをして倒すか、ジャンケンで負けた方が一網打尽にするかが多いかな。
戦わない方は、その間周囲に他の魔物が居ないか探索をしたり、戦っている方の戦い方に点数を付けて野次を飛ばしたりする。
そんじょそこらの魔物よりも、圧倒的に強いからこそ出来る事だよな。
魔庭亀はカノンですら初めて見る魔物な上、強い術を使ったら天井が落ちてくるか、地下からマグマが上がってくる危険性が非常に高い、密閉された空間だ。
つまりいつもの戦い方が出来ない。
そうなれば、手こずる事もあるのだろう。
カノンは俺と違って精霊術の扱いに長けているから、力加減を間違えて、うっかり天井に穴を開けるようなマネはするまい。
そういう意味でも、安心して魔庭亀の相手を任せられる。
度々カノンに文句を言われながらも、ひたすら魔斑鰻を抜き続けた。
ようやく、最後の一本だ。
コレを引き抜けば、「まだ終わっていないのか」とカノンをからかいながら、加勢が出来る。
達成感を感じつつ全てを抜き終えると、まるで、スイッチが切れたように、魔庭亀が突然、動かなくなった。
ぐりんとコチラ側を向いていた頭は、力無く甲羅の上に落ちた後、バウンドして、地面にダラリと転がった。
魔斑鰻の頭を片手に持ち上げたままの格好で、カノンと目が合う。
余程マヌケに見えたのか、緊張が解けたせいか、失笑された。
この野郎。
「どうなってんだ?」
「さあな。
倒せたと言うのなら、それでいいではないか」
魔庭亀と戦うのが余程辛かったのか、溜息をひとつ吐くと、カノンはサッサとその背から降りようと、足場を探し始めてしまった。
龍のヒゲを抜くと死ぬ、なんて逸話があるけれど、ソレと同じなのだろうか。
亀は龍ではないし、チンアナゴはヒゲでもないが。
よく、分からない魔物だったな。
そう思いながらも、生命反応が無くなったのは、間違い無いのだ。
火の精霊の所へ向かうため、下へと続く道がどこにあるのかを探そうと、とりあえず魔斑鰻の頭を四次元ポシェットへと押し込んだ。
すると再び、地響きと共に足元が揺れだした。
生命反応が無いのが何故なのかが気になるが、寄生生物が死んだ程度では、やはり、死んではくれないようだ。
魔斑鰻が寄生し開けた穴から、何かが盛り上がったかと思えば、捻れ、ソレはドリルのように先端が尖った。
全ての穴から同じように螺旋状のドリルビットが生えてきたせいで、足場にしていた甲羅は、非常に狭くなってしまった。
一本一本が、俺の背丈近くある。
なんだこりゃ?
第二形態ってヤツですかね。
この後一体、どうするつもりなのだろうか??
落ちた首に再び力が宿り、天井に向かって、先程とは比べ物にならないくらい、大きな声で咆哮をあげた。
その大声にクラクラしていたら、魔庭亀が突如、方向転換をしだす。
当然、足場の甲羅も揺れる。
トゲのせいでカノンの姿は見えないが、落ちた音はしない。
尻もちくらいはついているかもしれないが、まぁ、大したケガはしていないだろう。
魔庭亀が短い足をバタつかせるように動かしたかと思えば、足場が消失した。
イヤ、違う。
魔庭亀が自身の身体で塞いでいたマグマ溜りの、その下へと進み出したのだ。
そのせいで、地面と水平だった甲羅が、ほぼ垂直に変わってしまった。
だから足場が無くなったように、錯覚したのだ。
近くにあったトゲトゲを掴み、更に別のトゲを足場にして、何とか転倒は避けられた。
足場をシッカリと確保し、カノンが向かった付近に視線をズラせば、彼も同様の格好をしていた。
だが……俺と違い、カノンは防御力上昇や各属性の抵抗力を増強する付与をした、手袋をしていない。
そして魔庭亀のトゲは、魔斑鰻と同様、かなりの熱を放出している。
そのせいで、手から煙が出ていた。
痛みには慣れっこなのだろうが、やはり相当痛いらしく、眉間のシワがより一層深くなった。
こんな事になるなら、注意喚起をした上で魔斑鰻を引き抜く作業を、カノンに任せるべきだったか。
そうすれば、サイズが違って不便だとか文句を言いながらも、今頃カノンも俺の手袋を装着して居ただろうに。
判断を誤ってしまった。
今からでも、遅くはない。
指が焼き千切れる前に、渡して装備させよう。
遊具のうんていの要領で移動し、カノンの元へと辿り着く。
すぐさま今も尚焼け続けている手を、治癒した。
このままだと、炭化して手が落ちてしまう。
掴む手が無くなれば、身体を支える事が出来なくなり、バランスを崩せば、マグマ溜りの底へと真っ逆さまだ。
治した分、痛覚が復活してしまったらしい。
くぐもったような声が、漏れ聞こえる。
そんなもん、ガマンしなくて良いのに。
イヤ、「痛いヤダもう帰る!」とか駄々をこねだしたら、ドン引く自信しかないけどさ。
いい歳した大人でも、痛いもんは痛いのだろう。
だけど、歳下の前では少しくらい格好付けろ、と言いたくなる。
「片手でバランス取れる?
取れるなら、片方ずつ俺の手袋はめるから、寄越して」
カノンが元々着けていた手袋は、装着者を守る事なく焼け焦げた。
無事だった部分は、落ちて何処かへ消え去っている。
この状況なら、俺の手袋でも素直に受け取るだろう。
口を開くと、悲鳴や恨み言でも吐きたくなるからなのだろうか。
ムスッとした表情のまま、無言で左手が差し出された。
再度治癒術を掛け、指紋までキレイに修復した後、「スキル」でカノンのサイズに複製した手袋を装着しようと、手を取った。
だが、今も魔庭亀が下に向かって暴走し続けているせいで、揺れて上手くはめられない。
幾度か挑戦してみるが、指の部分が全く入って行かない。
コレはいっその事、ミトンのような形にするべきだろうか。
全く格好がつかなくなるが。
意外とアルベルト並に、格好付けたがりなカノンの事だ。
そんな物をはめようとしたら、手を振りほどきかねない。
……ダメだな。
はめられない。
となると、本人にはめて貰わねばならない。
「カノン、足、もっと開いて。
偉そうに、仁王立ちする感じで」
今も絶賛焼肉中なので、了承の声は出なかったが、ジリジリを足を広げ、十分なスペースが開けられた。
「よ〜いしょ……っとぉ。
ホレ、俺が支えるから。
腰に腕回して、両手フリーなら回復薬使えるだろ?
その後、手袋はめろ」
指示だけ出して、創った手袋を口に咥えた。
四次元ポシェットは俺の手以外が入ると、何も入っていない、見た目通り底の浅い袋になる。
なので四次元ポシェットには入れられない。
カノンのポシェットは、今の角度だと入れ辛い。
無理矢理ポシェットなりポケットなりに突っ込んで、取り出す時に落としてしまったらいけないし。
ソレなら、確実に受け取れる方が良いだろう。
唾液が付いてバッチィとか思われたとしても、はめた後に自分で洗えば問題あるまい。
何なら、俺がずっと支え続けても良いが……
絵面が情けないよね。
縦に長いカノンが、十cm以上背の低い俺に、しがみついている状態になるんだもの。
格好が付かないから、絶対嫌がるな。
カノン程度の体重なら、俺でも支えられる。
一瞬ズシリと全体重がのしかかるが、水の滴る音が聞こえた後、すぐに軽くなる。
腰に回された手がくすぐったいが、ココはガマンだ。
口から引っこ抜かれた手袋は、器用に片手と口とではめられ、逆の手も同じ方法で装着された。
そしてすぐに、カノンは俺が元居たトゲの上へと移動してしまった。
そんな急いで離れなければいけないくらい、俺ってばクサイ?
確かに気温が高くなってきているから、汗ばんで来ては居るけれど。
「……助かった」
「いいえ〜、どいたま〜
……このカメ、どこまで潜るつもりだと思う?」
「底までだとしたら、危ないな。
……火の精霊様の気配は、近いか?」
「確かに近付いてるけど……若干斜めに進んでいるせいなのかな?
なんか、位置が掴みにくい」
グルグルと旋回しながら、下へと進んで居るらしく、火の精霊の気配が近付いたり離れたりと、少々読みにくい。
霜華紋の効果範囲はとうに離れ、颯茉の空気循環もココまで奥には届いていないのか、少々息苦しさを感じる。
文句を伝えたら、魔庭亀がフタをしていたせいで、琥珀がマグマを抜いた火山内部全体の空気交換が出来なかった、その弊害だそうだ。
暫くすれば、新鮮な空気が届けられると言われた。
今すぐやってくれと頼んだら、出来なくはないけれど、風圧によって魔庭亀が足を滑らせて、底まで転げ落ちる事になると言われてしまった。
そんな事になるならば、当然却下だ。
底となると、ヘタをしたらマグマが発生する地点という事だろ。
地下何百kmと移動したら、いくら精霊達に守られていても、圧力でペチャンコになってしまう。
そうならなかったとしても、マグマの中にINして溶けて、第二の人生も終わりだ。
せめて火の精霊を起こさせろ。
マグマ溜りがこんな広さだということに驚きだが、魔庭亀は止まる素振りを一切見せず、まだまだ下へ下へと進んでいく。
一心不乱とは、こういう様子を言うのだろう。
背中に敵である俺達がいる事は分かっているだろうに、構わず無心に進む。
一体、何を目指して居るんだ?




