神さま、調べる。
大きな亀と言えば、島と間違えて甲羅の上に上陸した船乗り達が、海に引きずり込まれて死んでしまうという神話に出てくる、‘’アスピドケロン‘’や‘’ザラタン‘’がある。
亀ではなく、巨大な魚や蟹の姿で描かれている時もあるが。
他にはインド神話において、天地創造の際に用いられた道具を支えた、‘’アクーパーラ‘’やヴィシュヌの化身である‘’クールマ‘’も、亀の姿で描かれている。
なので空想の中において、大きな亀は珍しくない。
あくまで想像の中のお話だが。
まぁ、ソレ等の話に登場する亀よりは、足元の魔庭亀は小さいと言える。
事実よりも、妄想の方が勝つ事もあるんだな。
焚火が出来る程の広さは無いし、世界を掻き回すための棒の支柱にするだけの頑丈さも、無さそうだもの。
魔斑鰻が寄生した跡なのだろう。
魔庭亀の背負う甲羅には、穴がアチコチに空いていた。
つまりコイツは、熱に弱いのか?
だから霜華紋によって温度が氷点下まで下げられたこの空間でも、何食わぬ顔で動けているとでもいうのだろうか。
だとしたら、マグマの中なんて特殊な環境下で過ごしていた魔物なのに、チンアナゴと亀は、全く弱点が異なることになるんじゃないですかね!?
カノンの嘘つき!!
責任転嫁をしても、魔物は弱体化しない。
潔く向き合うが……
神話の生物より小さいとはいえ、対峙するにはデッカ過ぎて、何処からどう攻撃すれば良いのやら。
スッポンはカメ目だし、亀と共通点も多い。
ならば、スッポンの捌き方を参考にすれば良いのだろうか。
そのためにはまず、甲羅を下にしなければならないのだが。
更に、首を掴んで引きずり出さなければならないのだが。
首を切り落とすにしても、この太さじゃ現実味が無いから、ムリだね。
人間、諦めが肝心だもの。
早々に見切りを付けるのも大事なのだ。
亀の甲羅は、言わば骨である。
正確に言うならば、背骨や肋骨と一体化している骨甲板の上に、角質甲板というケラチンから出来たハニカム構造の、強度が高い鱗のようなものが重なっている。
骨甲板と角質甲板はそれぞれ繋ぎ目が違うため、かなりの衝撃を与えても、割れる事が無い。
ケラチンはタンパク質なので、この亀の甲羅は別の物質で構成されているだろう。
そうじゃなければ、火山の内部では生きていけないもの。
それとも、内部に寄生していた魔斑鰻が、何かしらの作用をもたらしていたとでも言うのだろうか。
だがもしそうなら、‘’寄生‘’ではなく‘’共生‘’が正しい言葉になる。
闇の精霊が適当にソレっぽい言葉を適当かつ無責任に、鑑定眼の説明文に起こしているだけならば、実は共生でした、というオチがあるかもしれないが。
寄生している魔斑鰻が、宿主である魔庭亀の体表、もしくはその近い位置にいる事・栄養資源を取得している事。
この二つの条件が一定期間続いた上で、魔庭亀が魔斑鰻によってハッキリと不利益を被っている場合、寄生と定義される。
ボコボコとアチコチに空いた、穴の内部に手を突っ込んでみる。
手袋がイヤな音と臭いを立てた所を見るに、魔斑鰻は攻撃だけではなく、その身体も滅茶苦茶熱いらしい。
そんなヤツを宿した甲羅の内部はと言うと……おや、引っこ抜こうと思ったのに、なかなか難しいぞ。
抜けにくいように、アンカーでも打たれているのか?
それとも、魔庭亀の角質甲板の下が、そういう構造になっているのか。
魔斑鰻の内部に残った肉体をようやく引き抜けば、その先端にはギザギザの牙が印象的な、頭が付いていた。
つまり、俺達に攻撃をしてきたのは、魔斑鰻のケツという事?
えぇ〜……実はあの攻撃、放屁だったとか言わないだろうな。
途端に嫌悪感が増した。
あの魔物、見た目はチンアナゴだけど、中身はスカンクだったのか。
放屁にしては、余りにも殺傷力が高かったが。
穴の内部を覗き込めば、骨甲板を貫通して内部まで侵入していたようで、奥には血が溜まっていた。
寄生という説明は、あながちウソではなさそうだ。
ただ宿主である魔庭亀が死なないよう、魔斑鰻が率先して外敵を倒すように動いているようだし、共生している部分もあるようだが。
まぁ、もともと寄生という言葉の定義自体が難しいのだし、良いか。
ネチネチと重箱のスミをつつくようなマネをしていたら、時間が勿体ないもんね。
せっかくなので引っこ抜いた魔斑鰻の上半身も、魔庭亀の血液も四次元ポシェットに突っ込んでおこう。
血液と言うには、色が変だが。
暗がりだからなのか、紫っぽい色に見えた気がする。
地球では特定の無脊椎動物の血液中に含まれる、へメリトリンという名の酸素結合タンパク質によって、血液が紫やピンクに見える場合もあるそうだけれど。
この世界の生物に、いちいち地球の常識で反応してはいけないのだろうけれど、ついつい比較してしまう。
実際、ソレが役に立つ時もあるのだし、仕方ないよね。
「おい!
いい加減、観察するのは後にしろ!」
足場が限られたフィールドで一対多数では、戦闘に混乱が生じるかもしれない。
俺なりに気を使って、カノンに戦いを押し付けたのだが。
俺が魔斑鰻を引っこ抜いたり、血液を採集するのに、瓶を穴に突っ込んでグリグリと押し付けたのが痛かったらしく、その度に八つ当たりを受けたのだろう。
遂にカノンの口から文句が出た。
見た目はまんま亀っぽいのに、鋭い牙を持つ魔庭亀は、幾度となくカノンに噛み付こうとし、避けられては地団駄を踏んでその身体を揺さぶる。
亀と一緒で顎が非常に大きく立派なので、噛む力は滅茶苦茶強いだろうなぁ。
腕の一本でも噛まれた時には、すり潰されるか、噛みちぎられるかの違いだし、まぁ、大差は無いよね。
とりあえず、このデッカい亀が、肉食及び雑食だという事は分かった。
「口の中攻撃しても効かないの?」
「生半可な術は通用しないようだな。
……お前が後ろで何かやっていたから、攻撃が効いたのか、お前のせいなのかが判らなかったが」
「そりゃスンマセンねぇ」
嫌味を言う立場から、言われる立場になってしまった。
挽回しなければ。
亀と同じで甲羅が二重構造になっている事や、その二種類の甲板が非常に頑丈な事。
またそれぞれ防御に特化した特性が違う事も判明した。
まず外側の角質甲板は、マグマの高温に耐えられる程の耐熱性に優れており、衝撃にも強い。
面での攻撃をすれば、威力をそのまま弾き返されて、コチラが痛い目を見る。
一点に集中し、身体強化した状態での全力攻撃ならば、表面は多少削れる。
しかし角質甲板が砕けるまで、連続でそんな事をしていたら、腕の骨が砕けそうだ。
削岩機でも用意すればまた違うのだろうが、アレは両手を使う必要があるから、完全な無防備になる。
こんな限定された空間だ。
しかもドーム状の構造内部である。
そんなもの使用したら、マジで鼓膜が破れる。
治癒術で治せるのだろうが、戦闘中に破れて方向感覚を失うと、危ないでは済まない。
角質甲板をどうにか削り終えても、骨甲板が待っている。
その骨甲板はというと、骨なだけあり、ある程度の柔軟性があるようだ。
角質甲板とは違い、耐熱性はさほど高くないが、代わりに保温性が高い構造になっている。
そのお陰でマグマの中でも、氷点下の中でも行動に支障が出なかったのだろう。
起きたのは偶然か、寒さに対しては辛抱強い方では無いのか。
どっちかまでは、分からない。
お口の中が精霊術に対して抵抗力が強いのなら、他の魔斑鰻も引っこ抜いて、ソコを攻撃するのが良さそうかな。
とても地味な作業になりそうだね。




