神さま、ド突かれる。
いつもご覧頂きありがとうございます。
前話で二〇〇話達成していましたね!
ここまで読んで頂き、恐悦至極に存じます!!
「何なんだよ、アレは!?」
「俺に聞くな」
霊力を半ば暴走させながら逃げて来たので、体力を消耗した。
ゼィゼィと肩で息をしながら悪態を吐くと、律儀にカノンが返答を寄越した。
分からないなら、イチイチ言わんで宜しい。
誰もケガを負う事無く、戦線離脱出来たのは僥倖と言えよう。
カノンの毛束は犠牲になったが、髪なんてすぐ伸びる。
女の髪でもあるまいし、その程度の被害、どうって事ない。
そんな事よりも、今気にすべきなのは、あのチンアナゴだ。
金銀銅で出来ていようが、マグマの温度の前ではチーズのようにトロけると言うのに。
鋼鉄ででも出来てんのかよ、まったく。
ココで思い出されるのは、かつての地球で世界的に流行したという、日本発祥の初オリジナルタイトルRPG。
その中に出てくる、銀色に輝く逃げるのが異様に早い、聖水に弱いとされる、雫状のモンスターだ。
「……あのさ。
この世界って、金属で出来ている魔物って、いるの?」
「ああ、いるな」
おるんかい!
アッサリと肯定しやがって。
動揺しまくった俺が、バカみたいじゃないか。
なるほどね。
だから俺と違って、カノンは慌てる素振りを見せなかったのね。
過去カノンが戦った魔物の中には、金属で出来ていて、火で炙っても倒せないようなヤツが居たという事か。
「お前があのように狼狽えるとは、思わなかった。
探知には、引っ掛からなかったのか?」
「……まさか火山の中にまで魔物が居ると思わなかったから、霊力の無駄遣いしたくなくて、してなかった」
「おい」
テヘペロじゃ誤魔化されてくれなかった。
デコに食らったチョップが、いつもより痛い。
はい、今回は完全に俺の落ち度です。
臨戦態勢を取るように言う前に言いかけたのは、「探知には引っ掛からなかったぞ」ではなく「探知には引っかからなかったのか?」という、俺への疑問だったのか。
確かに今はカノンよりも俺の方が、細やかな索敵が行える。
チームプレイをしているのだ。
カノンが危険を犯して先導する代わりに、俺が周囲の気配に気を配って居なければならなかったんだよな。
俺の中では有り得ないからと、最初からする気ゼロだったわ。
この世界を、甘く見ていた。
常識では測れない事がまだまだあるのだなと、痛感させられましたよ。
カノンが過去対峙した金属系の魔物の対処法としては、魔物が耐えられる温度よりも高温で熱する方法が、最も手っ取り早くムダがないと説明された。
中には灼熱で処理をすると、武器や防具の素材になる魔物も居るから、そういう魔物は積極的に何千度もの高熱でジュッと一撃で倒すのが良いんだって。
その倒し方が、一番採集出来る金属量が多いのだそうだ。
ただ、カノンが使ってきた精霊術でほ、どれだけの温度を出せるのかが分からない。
火山の内部に入った事も、その内部に生息する魔物の耐熱性がどれだけあるのかも分からないとなると、この戦術だけで強行突破しようとすると、心もとない。
なにせ今使える火の精霊術は、火の精霊が眠っているため、火力が劣る。
そしてチンアナゴが放って来た攻撃は、余裕で一五〇〇度を超えるのだ。
本体がそれ以下の温度で、どうこう出来るとは思えない。
随分前、カノンがヒトデっぽい魔物に放った術は、火力も相応に高かったが、何よりも衝撃の威力がデカかったしなぁ。
入江のように砂浜が一部消し飛んでいたけれど、その他は一部焦げてただけで、溶けてはいなかった。
冷静さを失う程に苦手な魔物相手に使った術となると、使い慣れているか、威力がデカいかのどちらか、あるいはその両方を兼ね備えているかだろ。
どう考えても、小さな魔物相手に使うにはオーバーキルだったから、後者だと思う。
砂って基本的に既に酸化されきっているから、燃えないんだよね。
溶けるだけ。
だからあの時焦げていたのは、浜辺に打ち上げられた、海藻や魔物の死骸とかだろ。
対して石や岩が溶ける温度は、一五〇〇度以上は必要と見て良い。
中には低温で溶ける物もあるけれど。
岩を構成している物質にもよるよね。
岩や砂に変化が見られなかったのだから、あの炎はそれ以下の温度だったのだろう。
岩肌がデコボコしていたのが、色んな鉱石が混ざった地質だったからなのか、あるいは、沸騰したからなのかで、あの魔物の耐熱温度がおおよそ分かる。
特殊な場合を除けば、マグマの温度は六〇〇~一三〇〇度。
そんな中で生きて行けるのだ。
更に言うなら、俺の刀は鋼で出来ていた。
たたら製鉄で製錬しているワケでは無いので玉鋼を使用しているとは言えないが、炭素の含有量が少ない、良質の物をイメージして創られている。
鋼はその炭素等の含有量で融点が変わる。
だいたい炭素が〇.〇四~二%含まれているのだが、それに伴い融点も変わり、一五三〇度〜一三七〇度で軟化し始める。
純粋な鉄は一五三八度が融点ね。
ニッケルやクロム、マンガン等も含まれて居たとは言え、一撃食らっただけで、水飴のようにドロリと溶けてしまったのだ。
余裕で鉄の融点は超えている。
さてその見るも無惨な溶けた表面を見てみると、プツプツと泡立ったような箇所が見られる。
分かりやすく、全体的に見られる事から、鉄が瞬間的だとしても沸騰したと考えて良いだろう。
鉄の沸点は、二八六三度である。
……回れ右して、帰って良いかな?
だって仮に沸騰したのがマンガンだとしてもだよ!?
それでも二〇〇〇度はゆうに超えるんだぞ!!?
対して人体に含まれる、動物性油脂の発火点は四〇〇度だ。
そして人体の自然発火に必要な温度は、一〇〇〇度程度で良い。
チンアナゴのあの攻撃が、カノンの髪ではなく、肉体に掠っていたら、いくら体脂肪率の低いカノンでも、今頃燃えて灰になっていた事だろう。
恐ろし過ぎる。
トリートメントなんて、この世界には無いからな。
ケアも何もしていない、パッサパッサな髪の毛だったから、油分が少なく燃え広がる事が無かったんだろう。
運が良いヤツだ。
一撃でも掠ったら死、あるのみ。
そんな魔物が、目に映った範囲だけでも十数匹。
そんな大量の魔物の攻撃を捌き切り、更に対処法も分からないのに、反撃して仕留めなければならないのだ。
無理ゲーが過ぎる。
「では、行こうか」
「何でそんな軽いノリで言えちゃうんだよ!?
自殺希望者か!!?」
「アリアを置いて死ねるか。
対処法なら、先程相対したのだから、分かるだろう?」
「え、一切全く分からんかった。
対処法なんて、あんの?」
あんな常識範疇外の、異世界とんでもモンスター博覧会の目玉みたいな訳の分からん生物に、対処法もクソも無いと思うのだけれど。
逃げの一択じゃない?
命が幾つあっても足りなくない??
火の精霊には、尊い犠牲になって貰おうよ。
初めて見る魔物相手なら、尚更注意深くその行動を観察しろとお説教を受け、その後、カノンが気づいたチンアナゴの対処法を教えて貰った。
まずあの魔物は、光に反応すると言う事。
俺とカノン、二人ほぼ横並びで居たにも関わらず、攻撃を向けられたのはカノンだけだった。
カノンが避けた攻撃の軌道上に俺が居たので、俺も攻撃されたように思えたのだが、そうでは無かったそうだ。
その予測を確信にするため、稜霓が作り出した光球の位置をズラして観察したら、実際幾つかの攻撃は光球の方へと向かった。
天井や壁を溶かした攻撃が、ソレである。
ならば撤退を決めた俺達に向かってきた攻撃は何だったのかと言えば、火口から射し込む光が、俺達の影によって揺らめいたのが、チンアナゴ達からは外敵と判断するモノが動いたように見えたのだろうと言う事だった。
なので光を持ち込まない。
ソレが鉄則だと言われた。
また音には鈍感なようで、いつの間にしていたのか、爆竹のような物を放って反応を確かめたが、ソチラには一切関心を向けなかったという事なので、多少音を立てても大丈夫なのだそうだ。
次にあのチンアナゴは、高温下じゃないと、活動出来ないという事。
霜華紋は霊力の込め方で、周囲の温度を変化させる術になる。
攻撃対象にピンポイントで遠隔操作を行い発動させるか、それとも広範囲を巻き込むか。
カノンは今回、後者を選んだ。
チンアナゴが放って来た攻撃も対処しなければならなかったので、指定した範囲は火道とチンアナゴが生えていたあのホール全体。
攻撃が凍る温度に達した後、チンアナゴの動きもみるみるうちに鈍化していった。
また攻撃は凍った後砕けたので、物質である事も判明した。
高温なのには違いないので、溶岩を吐き出しているイメージだろうか。
そして攻撃が砕けた温度でも、チンアナゴは動きを鈍らせただけで、砕けはしなかった。
また鈍化しただけで、全く停止したワケでもない。
だが追撃が無かった事を鑑みるに、したくても出来なかったと考えて良いだろう。
初手とニ撃目のタイムラグから、攻撃にチャージ時間が必要なのではないかと言ったら、その可能性も視野に入れなければならないと頷かれた。
考えられるのは、俺が言うように蓄めが必要だから。
冷却による鈍化で攻撃が撃てなかった。
敵対認識するだけの光源が既にヤツ等の視界に入って居なかったため、敵はもう居ないと判断し、撃たなかった。
この三つ。
確定しているのは、温度の変化によって動きが鈍る事。
水蒸気が結晶化していた事を考えれば、あの時の気温はマイナス十五度からマイナス二〇度くらいか。
ソレより更に温度を下げれば、あるいは完全に挙動を停止するかもしれない。
俺達が再びあの中に入るのならば、光源の持ち込み禁止。
寒さ対策を十全にした後に、内部をマイナス三〇度以下まで下げて侵入。
チンアナゴの様子を見て、可能なら全滅させた後に先に進む。
帰り道、タイムオーバーでマグマと鬼ごっこをしながら脱出を試みた際に、あんなヤツの相手なんて、してられないもんね。
「お前、一人でもこれくらいのことを判断できる観察眼を見に付けなければ、そのうち野垂れ死ぬぞ」
「良いじゃん、常にカノンと行動すれば。
必要無いでしょ」
ヤレヤレと溜息を吐かれたが、俺の他力本願なセリフに、余程呆れたのだろう。
頭を押さえて絶句してしまった。
フルフルとその頭を振って、更に深〜い溜息を吐いたかと思えば、ヤサグレた顔で嫌味を口にした。
「……いつぞや、俺を置いて一人で先走った奴の言葉とは、到底思えないな」
「アレは若かりし頃の過ちってヤツだよ」
正確に言うならば、あの時はカノンとアルベルトの二人を置いて行ったんだけどね。
ネチネチと、過去の事持ち出しやがって。
イヤなヤツめ。




