神さま、疼く。
ガオケレナと交雑した各薬草が、現生種と効果が違うのかを試したいという事で、まだ時間もあるしと他の島へも足を伸ばして、採集作業をした。
薬効以外にも、他の植物と混ざった事で、何か変化が生じたかもしれない。
何せ異世界の植物だ。
予想すらしていないような事が起こるかもしれない。
何せ途中で遭遇した魔物ですら、ガオケレナとの交雑種であったのだから。
植物と魔物が混ざるって、どんな状況だよ。
有り得ない。
だが現実に起こっているのだから、受け入れるほか無い。
この世界の魔物や植物も不思議の塊だと思ったが、夢魔がいた世界は、ここ以上に奇妙奇天烈だったに違いない。
せっかくなので倒したガオケレナが混ざった魔物を、今日の夕飯にする事にした。
もちろん、毒の類は無いと確認したよ。
解剖の側面もあるため、いつも以上によく観察をしながらの解体となった。
魔石が独特の色味を帯びているが、この辺の魔物特有の物らしいので、ソコはスルーした。
毛皮の色艶が良いのは、火山活動の影響で食べる物に不自由せずに済んでいるからだろうと、予測が立てられた。
今の季節は冬だけど、火の精霊が眠っている火山周辺は、ヘタをすれば真夏よりも余程暑い。
火山灰の影響で草木の元気が無かったが、この辺まで来れば、その熱波は落ち着いている。
南の温暖な地域だからか、暑い方が元気な植物も魔物も多いのだろう。
確かに肉付きも良く、食べごたえがありそうだ。
内臓も、特に異常は見られない。
ガオケレナ自体は、異世界産の植物だからなのか、鑑定眼がほとんど機能しない。
名前とか夢魔の秘宝と呼ばれているとか、俺でも知っている情報しか表示されなかったのだ。
ちっ、役立たずめ。
そのせいで、一通り解体し終えた魔物に、特におかしな点は、見受けられなかった。
いつも通り、魔物肉と薬草・野草を適当に放り込んだ、ごった煮の鍋を作っているワケなのだが……
なんか、変な感じがする。
身体が疼くというか、むずむずゾワゾワする感じ。
そうは言っても、むずむず脚症候群ではない。
確かに日が暮れる前の、今の時間帯に症状が多いとされているし、他にも身体が火照ったり、腰や臀部にもむずむずするような症状が現れている。
だが魔物食のおかげで、鉄分不足とは縁遠い生活をしている。
ならばガオケレナを生成するのに「知識」を酷使した副作用で、ドーパミンの機能低下でも起きているのだろうか。
だとしたら、もっと早く症状が出ても良いと思うのだが。
足を揉んだりさすったりしても、特に症状が和らぐ事も無いし、レストレスレッグス症候群では無いだろう。
得も言われぬ不快感を覚えながらも、料理を続ける。
熱いのは、周囲の気温のせいなのか、それとも、体調不良のせいなのか。
イヤに汗をかくな。
身体の熱を取るのに良いとされている夏野菜の類は、採集したものの中には無かった。
唐辛子がナスと同系種だし、発汗作用もあるから、足すべきだろうか。
辛い物ってあんま得意じゃ無いのだけれど。
あ、 女無天が熱冷ましに良いんだっけ?
食後に淹れ方を聞いて、お茶でも入れるか。
そんなことをボーッとする頭で考えていたら、いつもなら料理中は採集してきた薬草の処理をするカノンが、その手を止めて、瞑想をしているかのように、微動だにせず目を瞑っているのが視界に入った。
彼も熱があるのか、顔が赤い。
二人揃って熱中症になったのだろうか。
この暑さだ、仕方ない。
気を付けて水分は摂っていたけれど、そもそも気温が高いのだ。
どうにもならない。
「カノン」
冷たい水でも飲ませようと声を掛けたら、思いの外驚かせてしまったらしい。
この前の妖猫よりも、余程高く飛び上がったんじゃないかと思うレベルで、垂直に地面から浮かび上がった。
お前、そんな大臀筋立派だったっけ?
「な、なんだ?!」
珍しくどもっているし、何だか挙動不審に見える。
視線をうろつかせる目元は潤んでいるし、吐息も荒い。
コレは……
絶滅危惧種に指定されていた、貝と昆布が好きな、見た目が愛らしい海獣を思い出す。
それとその肉にまつわる、とある民族の俗信も。
颯茉は今、火山に居るのか。
ならば適当な風精霊に頼めむとしよう。
事は一刻を争う。
「風の精霊」
名前を呼べば、ソレだけで俺の意を汲んで、風が巻き起こる。
既に吸い込んでしまった分はどうにもならないが、鍋から放たれる臭気は全て、上空へと運んで貰った。
周囲に散らして、魔物が発情し始めても困るし。
最悪、襲われかねない。
獣姦はヤだよ。
……つまりは、そういう事である。
ある意味、夢魔らしいと言うべきか。
そんな夢魔が、秘宝として手中に収めようと戦争までしたのも、らしいと言えば良いのか、そんなモン巡って争うなよと、呆れるべきなのか。
ガオケレナには、誘淫作用がある植物なのだろう。
そしてどんな植物でも魔物でも……何なら、生物全般が対象ならば、人間に対しても効果があるのかもしれない。
混ざると、周囲に誘淫作用をもたらすようになるようだ。
なんて十八禁な植物なのか。
俺が持たなくて、良かったね。
あの二、三年経たないと、持っちゃダメな植物じゃん。
今回の食事は手持ちの食材を一切使わず、人体実験と称して、ガオケレナの遺伝子が含まれているものばかりを使用している。
水溶性ならば、煮込んで立ち上る湯気にも、その成分が溶け込んでいたのだろう。
食べてしまっていたらと思うと、恐ろしい。
イヤだよ、一晩中パンツ一丁で、汗だくになりながら、くんずほぐれつ相撲を取ることになるなんて。
俺もカノンも、安全確保がされているからと、野宿の準備を始めた時点で、状態異常を防ぐ付与がされている装備を解いている。
全て解いて居ないのでこの程度で済んでいるのだろう。
そう思うと、就寝する際に防具を全て外すのは危険なのだと再確認させられるな。
「カノン……マント――外套、羽織れ」
カノンも自分の体調不良を認識しては居たようで、ノソノソと言われるがまま、畳んで横に置いてあったマントを肩にかけた。
分かりやすく、顔の赤みがスっと引いていく。
不快感が分かりやすく消えたのだろう。
ペタペタ触って、自分の状態を触診している。
海獣鍋は、一人でいると気絶し、挙句の果てには死んでしまう程に猛烈な欲情に駆られると言う。
ガオケレナの場合は、どうなんだろうな。
好奇心はあるけれど、己が身で試したくはない。
誰からともなく吐かれた、深い溜息が場を支配する。
……何で肉体を持たない、浅葱まで溜息吐くんだよ。
『――コレ、夢魔の連中のものだったか?
精霊も惑わす作用があるな。
全て燃やした方が、世のためになるぞ』
あぁ、そう言えば夢魔は、精霊と同様、高次元の存在だって言っていたっけ。
イヤ、肉体を持たない者という意味では、精霊と同分類になるけれど、立場的には微精霊の足元にも及ばないんだったかな。
上位種に悪影響を及ぼすとか、どんだけタチが悪いんだよ。
ここら辺周辺の島には現在、幸い人間が住んでいない。
火を使うような魔物はいないし、催淫作用による被害を無差別に被るような事は無い。
だが今ここで根絶しておかなければ、将来的にこの島に上陸した人達が、悪夢を見る事になるだろう。
しかし今、根絶する為に燃やしてしまったら、俺達の貞操が危ない。
今更守るものでも無いけれど、だからといって蔑ろにして良いものでもないし。
青姦なんて前時代的で野蛮な行為、俺は絶対にしたくないし、されたくもない。
そうなると取れる手段は、地中深くに埋める事くらいか。
ただ繁殖力が異様に強い 女無天が、既にガオケレナに侵食されてしまってるんだよねぇ。
ソレを言い出したら、他の植物も、 女無天と勢力争いを互角にしている植物達だ。
埋めた程度じゃ、また生えてくるだろう。
……見なかった事にしちゃ、ダメだろうか。
「火山の件や地球の生物育成も含めて、アリアにトルリダ諸島周辺は、暫く全面的に立入禁止と勧告して貰おう」
「ソレだ!」
問題の先送りにしかならないが、目下の目的は火の精霊を起こす事だ。
他の問題を抱えていては、キリが無い。
俺達の身体は、それぞれひとつずつ、腕だって二本しかないのだから。
夢魔なら対処方法を知っているかもしれないのだし、とりあえず今は、現状維持に留めておこう。
……問題は、俺達の夕飯、だよなぁ。
ひもじぃよぅ。
携帯食ならあるにはあるが、せっかく料理したものを食べずに捨てるなんて、もったいない。
空腹なのは勿論辛いが、またシンドくなるのはイヤだ。
予備で四次元ポシェットの中に突っ込んである、状態異常を防ぐ御守りや装飾品を総動員し、ジャラジャラとけたたましい音を立てながら食事をする事にした。
悔しい事に、塩しか足していないのに、すこぶる味が良くて腹が立った。




