神さま、理解に苦しむ。
今年も宜しくお願い致します!
法治国家で人を殺せば悪として裁かれるのは、当然の事だ。
しかし戦争で人を殺せば、その数が多ければ多い程、英雄と褒めそやされる。
戦であれば、敵対する相手からの恨みを買う。
だがココは分かりやすく、人類が共通して‘’悪‘’と捉える存在、つまり魔物の居る世界だ。
力の振るい方さえ間違えなければ、きっと賞賛の声を浴び、金に苦労せず、周囲に持て囃され、順風満帆な生活を送れただろう。
バカだよなぁ……
悪霊の犠牲となった親子を振り返り、そう独り言ちた。
多少はスッキリしたけれど、完全に心が晴れる事は無かった。
ウジウジしてて仕方が無いから、切り替えるケドね。
ヤレヤレと頭を掻きながら戻れば、頭を抱えたカノンと、口を大きく開けたマヌケ顔のアルベルトが出迎えた。
二人がこういう反応を示すのは、初めてでは無い。
俺はまた、何か非常識な事をしてしまったのだろうか。
ソコソコの距離が開いているのに、良く見えたなと思ったが、考えてみれば二人とも身体強化を使えるんだった。
視力を上げて、盗み見していたな。
「……先程の術は、闇の精霊様のものか?」
「うん、そう。
地味だし霊力食うし、使い勝手の悪い術だったよ。
さすが闇の精霊って感じだよね」
「そうではない……!」
わなわなと震えている握り拳が、ちょっと怖い。
筋肉ダルマなアルベルトならまだしも、もやしっ子なカノンに殴られた所で、別に痛くも痒くもないだろうが。
闇の精霊や光の精霊のような、四大精霊以外の精霊から力を借りられる人は、極々少数に限られて居る。
しかも今の所、闇の精霊の力を借りた術を使える人間は、過去一人も居なかったのだそうだ。
光の精霊の力を借りられるという事は、つまり治癒術を使える人になる。
確かにいつだったか、そんな事を言っていたような気がする。
精霊教会の人と関わる事が多かった為に、少ない印象を持っていなかったんだよね。
だが実際は、精霊術師の中でも何百人に一人という割合でしか、光の精霊の力は借りられないらしい。
現にカノンもアルベルトも、治癒術の類は霊力が増えた今でも使えない。
得意不得意、得手不得手ではなく、単純に素質の問題になり、使えるようになる事は、一生無いのだとか。
少なくとも、三〇〇年とか生きているカノンでも、たまに使えやしないかと詠唱をしてみるが、うんともすんとも言わないそうだ。
二の句が継げないカノンの代わりに、アルベルトが説明をしてくれた。
「ほほぅ。
つまり逆立ちしても自分じゃ出来ない事を、俺がアッサリしてのけてしまったから、嫉妬をしているのだね」
シュート・サインを顎下に持っていってキメッとポージングをしたら、チョップを食らった。
解せぬ。
事実だろうが。
八つ当たりをするなんて、大人気ないヤツめ。
念の為、三人それぞれの方法で周囲の索敵を行う。
闇の精霊の力を借りる 如影従形は、術者が敵と認識したもの――今回の場合は有翼乙女含めた魔物全般を、術者の前に強制的に引きずり出し、その影を闇の精霊の眷属が喰らい、倒す術だ。
あの闇衣も眷属と言うからには生物なのだろうが、俺がすぐに思いつく眷属って、琥珀にとっての樹の妖精だから、落差があり過ぎて困惑する。
生き物と言われても、あんな姿ではピンと来ないし。
眷属って、主人に似るのかな。
あまり他人の容姿を卑下すのは良くないが、闇の眷属ってなんか、陰湿そうな見た目をしているんだもの。
そのうち自分の姿に疑問を持って「そんな主人の下ではやっていけません!」とか言って、家出なんかしちゃったりして。
影にされた攻撃がそのまま肉体に影響を及ぼす、となると、絶対不可避のチートみたいな攻撃のように思える。
だが有効なのは、術者に対して圧倒的に弱い相手に限定される。
霊力で言うなら、最低でも十分の一以下じゃ無ければならない。
総量ではなく残量に対してだ。
今回は数も多かったし、余計にだね。
あとは夜間だと、使い勝手が悪い。
月明かりがあろうと、松明を沢山焚こうと、太陽の光と比べたら弱く、地面に映し出される影の濃度が薄くなる。
そうすると、肉体に及ぼされる影響も薄くなるのだ。
不思議だねぇ。
そんなワケで、有翼乙女達は俺よりも圧倒的に弱弱だったので、漏れなく 如影従形の餌食となった。
脅威は完全に去ったと言える。
それでも念の為と言われれば、断る理由は無い。
魔物が居ないと分かっているので、俺は気配を読む範囲をどこまで広げられるかの実験をする。
落ち着いてやる機会って、意外と無いからね。
索敵するなら魔力を広げるだけで十分だと判明したので、「スキル」によって創り出した疑似魔力を、どれだけ他者に認識されないよう薄められるか。
意識し集中すれば、何百m、何km先まで穴が空く事無く引き伸ばす事が可能なのか。
意識せずとも出来るか。
ソレ等を検証する。
まだ不慣れなのもあるし、「スキル」で創りながらの並行作業となると、何kmも先まで呼吸をするように気配を読めと言われても、流石にムリだな。
魔石に込められた、既存の魔力を使えばまた違うのだろうが、ソレはソレで他人のエネルギーだから、使い勝手が悪そうだ。
魔石の魔力でも検証したかったのに。
闇の精霊が全部悪い。
霊力の性質が、霊力も魔力も反発するから、勝手が悪いんだよなぁ。
便利〜
万能〜
素敵〜、なんて散々言っていたのに、不便が生じるとすぐに文句が出てしまう。
ワガママなヤツだね、俺って人間は。
カノンが敵は居ないとようやく納得したので、二人と別れてから何があったのかを説明する。
不安に震えているだろうし、近隣にいる有翼乙女の殲滅作業が終わったと、ピスカ街の住民に報せる事も考えた。
だがそうなれば、落ち着いて話しが出来なくなりそうなので、後回しにする事になった。
「お前はまた……少し目を離すと、とんでもないことばかりしてくれるな」
「事を荒立てるつもりは微塵も無いんだよ?
なのに、いつの間にか大事になって居るんだよね。
ふっしぎ〜」
敢えて明るく茶化すように言ったのが、バレたのだろう。
再びデコにチョップをされた。
「生存者の保護は、よくやった。
一人も漏らすことなく救助できたのは、お前の功績だ。
その子供の親兄弟に関しては……致し方がないと思うしかない。
被害を内輪だけで完結させられたのだ。
オンドル町の二の舞にならずに済んで、良かった。
魔物の被害による孤児は、珍しくもない。
しかるべき場所には預ければいい。
ただ……」
ラファスを指刺された時に少し身構えたのだが、怒られると思っていたのに、彼女の家族の事に関して、お咎めが一切無かった。
覚悟していたのに肩透かしである。
まぁ、以前立ち寄った町のように、悪霊が冒険者や旅人を次から次へと殺していた時の事を考えれば、今回は犠牲者が少なくて済んだのだ。
しかも母親以外は、完全な自業自得と言える死に様だった。
良かったと思い込もうとしていたが、他人の目から見てもそうだと肯定されると、罪悪感が少し薄れる。
でも……そっか。
珍しくないと、断言されてしまう程に、頑丈な囲いをしてても、鍛冶師が武器を作ろうと、ある一定数は魔物に殺されてしまうんだな。
ソレが当たり前だと言われてしまうのは、少々遣る瀬無い。
ただ、の次の言葉を待つが、カノンは眉間に右手を当てたまま、いつまで経っても続きが出てこない。
どうやら固まってしまったようだ。
何?
バッテリー切れ??
「あー……、ジューダス?
メリディーの住民を蘇生させたって言ってたけど……何人くらい?」
チラチラとカノンの様子を窺いながら、アルベルトが聞いて来る。
カノンが停止するタイミングを見計らって居たのかな?
彼は一時期メリディー街に住んでたのだし、自分の知り合いが生き返った対象なのかどうかが、気になるのだろう。
「メリディーとピスカの間で死んでた人の中には、残念ながら魂が既にこの世に無かった人が、何人か居たんだよね。
そういう人は、生き返らせられないから、保護した人達と一緒にピスカに送り届けた。
何人位かなぁ……十人居ない位だと思うけど。
それ以外、全員」
俺の最後の言葉に、カノンが両手で頭を抱える。
アルベルトも喜ぶ所か、非常に渋い顔をしている。
何百人、ヘタをしたら何千人単位で出ていた被害者の数が大幅に減ったんだよ?
何で二人とも、褒めてくれないのさ??
「お前は加減と言うものを知らないのかっ!?」
挙句の果てにはカノンに思いっ切り怒鳴られた。
何故だ。
解せぬ。




