神さま、闇を纏う。
死者の蘇生なんて大掛かりな事をしたので、部外者の俺がいつまでもココに居たら、目立って仕方が無い。
ラファスだけが生き残ってしまった状態になるが、空飛ぶ石版でピスカ街へと送った面々の様子からして、周囲の人間はファンチョが家族に暴力を振るっていると知りながら放置していた。
見て見ぬふりを罪とは言わないが、そんなご近所さんばかりだったのならば、この街に置いておいても、彼女の将来は暗いものになるだろう。
ただでさえメリディー街は、有翼乙女にアチコチ壊されているから、復興が優先で孤児に対する扱いが粗雑になる可能性が高い。
教会はあるようだけれど、基盤となる建物が無ければ、孤児の受け入れなんて、とてもじゃないが出来ない。
そもそも、年単位で時間の流れが外界とズレて居るのだから、教徒達は新たな教帝が誕生した事や、教会の方針が変わった事も知らないだろう。
ラファスの家族を奪った原因を作ったのは俺だ。
彼女に対する責任は、俺が取らなければ。
権力は俺には無いけれど、王都にコネならある。
新教帝であるレイラに預けるか、今や王都直属の政務機関で重役を任されるようになっているゴルカさんに頼むかすれば、悪いようにはしないだろう。
この年齢なら、周囲が何も言わなければ、血縁者がどうなったのか、知る事は無い。
ココに置いていく位なら、一旦保護して、新天地で新たな家族を得る方が良い。
雪が散らつく中、付与も何もされていない薄着では寒いだろう。
風邪をひいてもいけないし、予備のマントに包む。
一瞥した後、喧騒が大きくなるメリディー街を後にした。
「遅いっ!」
「無事だったか!?」
文句と心配の声を同時に言われると、どっちに先に答えるべきか、悩むよね。
とはいえ、カノンのお怒りの言葉も、想定より時間が掛かったから何か問題事が起きたのではないかと、不安にさせたからこそのものだ。
どちらも俺の身を案じてくれたのだから、「大丈夫」と一言言えば良い。
「大丈夫そうには、見えないのだがな」
流石カノンは老齢なだけあって、平静を装っていても看破されてしまう。
少し疲れただけとか、思ったよりも手こずってとか、ウソじゃないけど事実でもない言い訳をしたら、ソレが直接的な原因では無い事も見抜かれてしまうのだろう。
チッ。
コレだから経験豊富なジジイは。
「説明するよりも先に、有翼乙女をどうにかすべきでしょ。
俺に策があるからさ、やっても良い?」
「許可を出さずともやるだろうが、お前は。
……何をするのだ?」
一言余計な気もするけれど、話が早くて助かるね。
今現在メリディー街からピスカ街の間は、時の精霊によって時間の流れが狂わされている。
その影響で時の精霊の術範囲に入らないと、気配探知がろくに出来なかった。
元々俺もカノンも、精霊術を使えない、保持霊力量が少ない相手だと遠くから認識しにくい。
俺達との霊力の差が開き過ぎていて、人間なのかその辺に生えている木や草なのか、ぶっちゃけ区別が付かないのだ。
ヘタな薬草の方が、霊力を保有している場合もある位だし。
だからわざわざ術範囲の中に入って、一人一人救助作業をするハメになった。
その途中で気付いたのだ。
霊力を探知しようとするから、いけないのだと。
「どういうことだ?」
「霊力はさ、霊力同士でも他人のものと触れると、反発するじゃん?
なんだけど、魔力って引き合うんだよね。
んで、霊力は魔力と反発するの」
「霊力ではなく魔力による探知をすれば、ニブルヘイムの魔物も含めて、人と魔物、一度に索敵が可能なのは俺も知っている。
だが結局は、人か否かの区別が付かないだろう?」
「イヤ、つくよ。
反発した対象に、追加で魔力を注いだ時に、反発が強くなれば人間。
そのまま魔力を受け入れたら、植物の類になる。
そのまま注ぎ続けたら魔木とか……魔草、とでも言えば良いの?
まぁ、変質しちゃうから、チョコっとだけね」
「ほう」
その方法が有効だと分かったからこそ、死にかけていたファウノを見付ける事が出来たのだ。
肉体と精神の両方が死を受け入れていたら、反発は起こらず、見付けられなかっただろう。
そうなれば、分裂した悪霊の餌食になっていただろうし、やはり今回の事は、最善……とは言えなくても、悪くない結果に落ち着いたのだと思う。
死んで魂が輪廻へ還った後でも、体内には霊力が残っている。
本能的に行われる魔力抵抗の反発は起こらないものの、魔物を探知した時のように魔力は吸い上げられない。
打ち消し合うというよりも、混ざって中和される感覚かな。
その反応の違いにより、死後何日も経過し、土と一体化した死体でも無い限り――つまりは、今回の有翼乙女による襲撃の犠牲者を除けば、全ての遺体が収容されたのだ。
その仏さん達はというと、空飛ぶ石版の同乗者にドン引きされたが、保護した人達と一緒に、ひと足早くピスカ街へと送り届けられている。
なので今、メリディー街とピスカ街の間には、俺達三人以外には魔物しかいない状態になっている。
今回は助けたのに文句を言われたり、助けたのに徒労に終わったり、報われない事が余りにも多過ぎた。
そのせいで鬱憤が溜まってるので、晴らさせて欲しいのだ。
策と言うには余りにも大雑把過ぎるのだが、有翼乙女の位置はある程度掴んでいる。
なのでメリディー街とピスカ街を巻き込まない方向から、強力な精霊術を一発かまして、一網打尽にする。
そして気分爽快させたい!
そうじゃないと、なんか、こう……どこまでも気分が落ちて行ってしまいそうな気がするから、ここら辺で気分転換と言うか、リセットをしないと、良くないと思うんだよね。
気持ちの切り替えって、大事でしょ??
火の精霊だって、目覚めて最初に見るのが不機嫌な俺の顔だったら、イヤだろうしさ。
そのせいで二度寝されても困るし。
「万が一のことがあってはならない。
視認可能な範囲を対象とした術にしろ」
「それじゃあスッキリしないじゃん!」
アリを足で踏み潰すように、トンボの羽を千切るように。
俺は一歩間違えれば人間に向かってしまいそうな、この加虐的な気持ちを消化し、カタルシスを得たいのだ。
なのにチマチマと目に見える魔物しか倒してはダメなんて制限を課せられては、余計にヤキモキしてしまいそうだ。
ソレではいけない。
だがカノンはどれだけ不平を述べても、首を縦に振ってくれない。
その間にも、時折有翼乙女が顔を覗かせ、その度に的確に三者三様の一撃によって屠られていく。
数的にまだまだ有翼乙女は居るけれど、死屍累々の圧倒的勝利を目の当たりにしないと、気晴らしにならないだろう。
……仕方が無い。
ココは俺が折れてやろうじゃあないか!
「……目に見えれば、良いんだな?」
何匹目かの有翼乙女は、群れで次から次へと然程時間を置かずに、時の狭間から出現した。
言い合いを続けていては、アルベルトの負担が大きくなる。
なにせ強くはなっていても、ニブルヘイムの魔物を一撃で倒せるような高出力の精霊術を繰り出す事に、まだ慣れていないからね。
そのせいでアルベルトの周りだけ、徐々に有翼乙女の数が増えてしまうのだ。
「それならいい」と上から目線で偉そうに言う、カノンのこの口調!
なんて不遜な態度なのだ!!
普段なら気にならないような事が気に掛かって仕方が無い。
些細な事がイチイチ気になるのは、俺の心が荒んでいるからだろう。
自己分析出来る余裕があるうちに、サッサと発散したい。
「およそ一〇秒後に、時の精霊の術を解除する」
宣言をして、分散している有翼乙女達の、丁度真ん中ら辺に転移する。
大体残っている有翼乙女は四八〇程。
俺から見て左右に二四〇ずつ居るイメージだ。
オッサンに苛立たせられたので、オッサンでも有用なヤツも居るのだと改めて認識をしなければ、アレコレ理由をつけて、闇の精霊に一生会いに行かなそうな気がする。
なので、ここら辺で鑑定眼以外にも、オッサンを利用しておかなければ。
杖を取り出し、時の精霊の術を解除する。
その時の精霊と、生前の闇の精霊は同年代じゃなかったか? と精霊神の誰かしらからツッコミが入ったが、時の精霊はいわゆるイケオジというヤツだから、オッサンじゃない。
クソでも無いし。
なので一緒にしては失礼だろうが。
完全に俺の主観による差別である。
「 如影従形」
術の名前を唱えると、ズズ……と杖が指し示した地面に、黒い影が何かに引き寄せられるように、次から次へと集まってくる。
ソコに数秒遅れて、その影の主――有翼乙女達が、抵抗する事も許されずに蝟集する。
その数おおよそ、四八〇。
探知をした時にマーキングはしてあったから、闇の精霊の力を借りれば一箇所に集めるなんて、朝飯前だ。
闇の精霊の精霊術は、影に作用するものが多い。
鑑定眼も、影を通してその持ち主の情報を読み取る術だ。
あとは影の間を行き来する事も出来るが、その上位互換に時の精霊の転移術があるし。
気配を隠したり目眩しなんかも出来るけど、ソレは自力でどうにかなるし。
見た目がまず地味だし、陰険な感じがする。
使い勝手の悪い術も多過ぎるし、今まで使う機会が微塵も無かった。
やはりこの術も見た目は地味だが、多数の相手を一気に殲滅させるのには有用なので、今回は使った。
……磁石に引き寄せられた砂鉄のように密集していて、地味を通り越して、見た目がとても気持ちが悪い。
そしてふと思った。
コレ、雷の精霊が誕生したら、ソッチの力を借りた方が楽かもしれないな、と。
やはりあのオッサンは、色んな精霊の下位互換でしかないのか。
立場的には、稜霓と同じだったハズなのに。
ヤレヤレと思いながら、更に霊力を込めて杖をかざすと、影が集められた中心から、触手のように蠢きながら、薄衣の闇が現れた。
ソレは地の底から響き渡るような、怨嗟の咆哮を上げながら、影に縛られ身動きの取れない有翼乙女の影を次から次へと飲み込んで行く。
コレが神様と同列のように崇められている、精霊による術と言うのだから驚きだ。
呪術のようにしか見えない。
連鎖するように、影の羽を喰われた有翼乙女は羽を、頭を飲まれたものは頭を失う。
闇の衣は口を開けた蛇のように、その術の範囲を拡大させていく。
完全に、一方的な虐殺状態だ。
直接肉体にダメージを与えられたのならば抵抗も出来るだろうに、術が作用するのは、あくまで地面に映り込んだ影が相手だ。
絶対不可避の攻撃に、逃げる事は愚か、抵抗する事も出来ない。
喰い散らかすような無作法な真似はせず、術が終息する頃には、血の一滴すら残らず有翼乙女は全滅した。
ふむ、この真っさらな光景に免じて、溜飲を下げようじゃないか。
……あ。
カノンとアルベルトに、さっき話していた気配探知のやり方を実践で教えたかったのに。
本当キレイさっぱり、何も無くなっている。
魔石の一欠片すら残らない。
浄化する手間が省けるのは良いけれど、やっぱ闇の精霊の術は、使い勝手が悪いね。
キリが良い所まで行けなかったー!
無計画な人間で申し訳ありませぬ!!
本年のお付き合い、心より感謝申し上げます。
来年もどうぞ、よろしくお願いします。
良い年末年始をお迎え下さい。




