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もと神さま、新世界で気ままに2ndライフを満喫する  作者: 可燃物


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神さま、名分を零す。

 我が子を愛さない親なんて居ない。

 我が子を本気で憎む親なんて居ない。


 そんな言葉は、恵まれた環境で暮らしてきた、頭に花でも咲いてるような人間から吐かれるセリフだ。



 親とて一人の人間である以上、血を分けて居ようが、腹を痛めて産んだ子だろうが、愛情が湧かない人もいるし、環境によっては殺意を抱く程の憎悪を持つものだ。


 親が子を、子が親を、祖父母を、孫を……

 挙げ出したらキリが無いが、大罪として禁じても、いつの世ですら、身内殺しは行われた。


 ソレを考えれば、そんなキレイ事は夢幻の類でしかないと、分かるだろう。



 愛情が憎しみへと変化した場合は、可愛さ余って憎さ百倍、なんて言葉があるくらいだ。

 ヘタに最初から嫌悪していた相手よりも、憎しみが増幅されるので、より一層タチの悪いものとなる。


 ファウノの家族が、そうだったように。



 ファウノの両親とて、最初から朝の挨拶よりも先に罵詈雑言が飛んでくるような夫婦では無かった。

 だがファウノが生まれて、自我が芽生える頃には、ソレが日常になっていた。


 「自分が上手くやらねば、母さんが殴られる」

 ファウノが母親を慮った行動を取っていたのは、果たして、いくつ位の頃までだったのか。



 身体が大きくなって力も相応に付いて来て、ファウノ自身が抵抗出来るようになってきたからなのだろうか。


 ある日、妹が父親に蹴られた場面に遭遇したファウノは、妹に覆いかぶさり、身体を張って守った。

 そのファウノを、母親が身を挺して守った。


 嵐のような暴力が収まった後、母親は妹を助けたファウノを褒めた。

 お兄ちゃんとして、妹を守った事を。


 あの父親の血が流れているが故なのか、日々の暴力からどうにか逃れたいと、思考が歪んでしまっていたが故なのか、ファウノはその言葉を、自分の都合の良いように解釈した。



 弱い立場にある者を守るのは、良い事だ。

 強い立場の者は、弱い者を守るべきである。


 事実世の中は、そうやって成り立っている部分があるのは、間違っていない。


 強者は弱者を守るべきだ。

 しかし同時に、守られる弱者は強者を支えるべきでもある。


 その部分が、ファウノの中には欠けていた。



 相手が母親という甘える対象だったからという理由も、あるのかもしれない。

 ファウノは、自分が殴られそうになった時、すぐに母親の影に隠れるようになった。


 我が子に頼られる行為そのものは、母親にとっても悪い気はしなかっただろう。


 最初のうちは。



 今となっては、ファウノはパラフィリアだったのでは無かろうかと思う。


 家庭環境が暴力に溢れて居たのだから、ソレを是と思い込まなければ、幼い心は正気を保てなかったのかもしれない。

 イヤ、サディズムは完全なる異常状態だから、とてもじゃないが、正気だったとは言えないか。


 そのうちワザと失敗をしたり、父親の不興を買うようなマネをするようになり、その度に母親を人身御供として差し出した。



 自分の陰に隠れる我が子の、ゾッとするような笑顔を見た時の母親の絶望は、計り知れない。

 裏切りなんて言葉じゃ、生易しい。

 

 守らなければと思っていた対象が、自分が傷付くようにワザと父親をけしかけて居たのだもの。

 自己崩壊を起こしても、仕方ない。

 


 元々母親の精神状態は、ギリギリ、狂う一歩手前を何とか保っている状態だった。

 死産や夭逝する子が多かった為、今は二人しかしないが、多産DVもされていた母親は、逃げる事も出来ない程に、心身共に追い詰められていたのだ。


 精霊と化する時に、ある程度相手の経験した事が情報として流れ込んで来るのだが、今際の際の彼女の感情は、やっと解放される事への安堵が、大半を占めていた。


 そんなDV家族の中に一人残される娘に対して、何も考えられない位に、もう、一杯一杯だったのだろう。



 頭と腹の痛みも感じぬ程に、無我の境地へと至った母親は、一人置いて行かれた事に対して、安堵以外に何も思わなかった。

 ソコに漬け込んだのが、瘴気を感じ取ってメリディー街へと入り込んだ悪霊(マイニズ)だ。


 より多くの瘴気を得ようとした悪霊(マイニズ)に唆され、抑圧されていた怨嗟が溢れ出したファウノの母親は、生きている状態にも関わらず身体を明け渡した。


 だから然程時間が経っていないにも関わらず、肉体の一体化が進んで居た上、シンクロ度が高く、生前の記憶を自由に使えたのだろう。

 ファウノ一人が相手だったら、アッサリと本懐を遂げられただろうな。


 そして異常個体の悪霊(マイニズ)が、世に放たれて居た。

 ……そうならなくて、良かったよ。



 そんな経緯があり、ファウノの母親は、ファンチョとファウノの二人を心底憎んで居たのだ。



 母親がそんな状態にあると、知ってか知らずか、ファウノは再び自分の盾にしようと、母親を蘇らせようとしていた。

 あの仄暗い笑みは、利己主義者特有の、他人の都合を一切考慮しないエゴイズムに満ちたものだった。


 そりゃ祟られ呪われ殺されても、致し方ないと思ってしまう。



 三つ子の魂百までなんて言葉が、平安の世から後世まで伝わっているのだ。

 子供と言えど、幼少期に形成された性格は、どれだけ教育を施されても、経験を積んだとしても、根強く残ってしまうのだ。


 ソレを考えると、ファウノが社会に出る前にこういう結末を迎えたのは、ある意味で良かったのかもしれない。


 ……そう思わないと、やってられないと思う部分も、確かにある。



 変わらなきゃと思っていても、今回もなし崩しに、自分の思いは置いておいて、他人の望みを優先させてしまった。

 意識をしていても、根本はなかなか変えられないのだと、突き付けられたようだ。



 悲しみを、雪に喩えた人は、詩人だな。

 見上げた空から降ってくる白い花弁は、地面に落ちれば、やがて積もって辺りを白一色に染めるだろう。


 罪を、悲哀を隠すように。


 積もれば行く手を阻み、自分も他人をも巻き込んで妨害する。

 捕らえて閉じ込め、離してくれない。



 しかし触れれば淡く、溶けていく。

 人と関わる事で、この遣る瀬無い気持ちも、いつか溶けて消えてくれるだろうか。



 生きて行く上で邪魔な感情を、文字通り欠片として棄てたのは、正解だったのかもしれないな。

 記憶を取り戻した事を、後悔してしまいそうなレベルで、今回の事はなかなかにシンドい。



 虐げられていた被害者が母親だったから、少しセンチメンタルになってしまったのかな。

 感傷的になるのは、あまり似合わないから嫌なのだけれど。


 ……ファウノの母親よりも、余程酷い目に遭っていたのに、稜霓(ろうげつ)はよくもまぁ、悪霊にならずに済んだね。

 良い事だけどさ。



『――あたしの場合は、外部からの刺激は殆ど感じなかったからネ。

 聴覚が辛うじて生きていたのが、幸を成したんじゃないかしら?

 ……他人がどれだけモノ扱いしても、カワイイ子供がお見舞いに来てくれていたからね〜』


 ……脳死状態だったと聞いていたから安心していたのに、コイツ、閉じ込め症候群だったのか。


 四肢が動かず発言も出来ない。

 何をされても拒否を示せない。


 認知機能は正常なままだから、思考だけは元気な状態だ。



 脳死と言われていただけあって、彼女は完全閉じ込め症候群というヤツだった。

 なのでいっそ殺してくれと思ったとしても、ソレを伝える手段が無い。


 眼球運動も無く、意思の疎通が一切出来ない。


 痛みに対する逃避反応も一切ないから、身体のケアを粗雑に扱われる事もしばしばあった。


 人工呼吸器を外せば、自発的に何も出来ないのだ。

 なのに意識だけはあるのだから、苦しみながら死ぬ事になる。


 もがくことも、涙を流す事すら出来ずに。



『――アナタがひと思いに殺してくれたお陰で、あたしは苦しまずに済んだのよ?

 お見舞いも、最期の時も、気を使ってくれて、ありがとう』


「……自分を殺した相手に感謝するとか、酔狂なヤツだな」


『――昔はあんなにカワイかったのに。

 反抗期かしら?』


 ハイハイ、お年頃でスンマセンね〜。



 怨霊と化したファウノの母親も含めた三人を、輪廻へと送って貰わなければならない。

 喚び出した精霊の負担にならないように、もう一度魂の浄化を施した。


 恨みを晴らし心残りが無い為か、母親はアッサリと昇天した。

 彼女は悪霊(マイニズ)に乗っ取られたままだったら、魔物として滅ぼされ、来世を得る事も無く消えていた。

 ソレを考えれば、幾分かマシだと思っておこう。



 ファウノはファンチョの被害者でもあるが、母親を生贄のように扱った時点で同罪だ。

 男二人は、死んだのは自業自得と諦めて貰う他無い。


 どうせ野垂れ死ぬか、有翼乙女(ハルピュイア)に襲われて死ぬ運命だったのだ。

 怨霊を一人、救う手助けをしたのだと思えば、生前に積み重ねた業も多少は軽くなるだろう。



 空飛ぶ石版(タブレヴォーラ)に乗っていた人達に、危ないからピスカ街へと避難させると言うと、一連の事が起こる前は、散々不平不満をブーブーと述べていたのに、イヤに聞き分けが良くなっていた。


 目の前で知り合いが惨い殺され方をしたのだ。

 大人しくなるのは、ある意味で当然なのか?



 颯茉そうまに連れて行くようにお願いをしようとしたが、考えてみればカノンの所にいるんだった。

 指輪の効果もあるし、喚べばもちろん来るだろうが、その辺にいる風の精霊(ウェントス)に任せれば良いだろう。



 その後周囲に落ちている、避難の最中に命を落とした人達の遺体も集めて、再びメリディー街へと戻った。


 経過時間が、メリディー街の中と外では違うから、巻き戻す時間が変わってくるが、ソコはまぁ、時の精霊(クロノス)に加減をお任せしよう。

 責任放棄とも言う。


 有翼乙女(ハルピュイア)の死骸は……そのままで良いか。

 集団白昼夢でも見ていたのかと、勘違いされても困るし。


 生き返らせられるのは、死体と魂が揃っている人達だけだ。

 中にはどちらかが欠けている人も居るだろう。


 その確認をイチイチしようだなんて思えない。


 俺がココまでするのは、あくまで、身内を贔屓したいから。

 ソレだけだ。


 慈善行為のつもりなんて、毛頭ない。

 そうじゃなきゃ、こんな心身共に疲れるような事、するワケ無いじゃない。



 ……だって、アルベルトが泣いていたんだもの。


 燼霊(じんれい)に殺されそうになった時に庇ってくれたそのお返しが、コレで一部でも出来たのなら、良いのだけれど。

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