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もと神さま、新世界で気ままに2ndライフを満喫する  作者: 可燃物


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神さま、割出す。

 世の中には、二種類の‘’出来ない事‘’がある。



 ひとつが全くの実現不可能な事。

 どれだけ金を積もうが、どけだけ技術を注ごうが、出来ない事は、残念ながらこの世にはある。


 未来に行く事なら、時の精霊(クロノス)の力を借りずとも、技術的・科学的な方法によって、地球でも一応は可能だった。


 途方も無い金を使い、バカみたいに広大な土地にアホ程デカい装置を作り、人の身を捨てさえすれば、ほんの何分かの未来になら行ける。

 まぁ、現実的な話ではないよね。



 ふたつ目は可能ではあるが、人道的・法律的にしてはいけない事だ。


 一個目と違って、やろうと思えばやれる。

 だが、ソレを自分が、他人が、法が良しとしない。


 故に出来ない。

 そういったアレコレだ。



 その最たるものが、殺人じゃないかな。


 人なんて耳かきや空の注射器が一本あれば、簡単に殺せてしまう程、弱くて脆い生物だ。

 だが大抵の時代、殆どの国で殺人は、法律により禁止されている。



 イスラム教が盛んだった一部の地域では、名誉殺人なんて風習がずっとあったけど。

 家の名誉を守る為に、罰則として罪を犯した者を家長を含めた男性家族が私刑として殺害し処する、というものだ。


 宗教自体は、関係無いそうなんだけどね。


 なにせ教徒の多いトルコやインドでは、名誉殺人であっただろう殺人事件の立件数は著しく少ないし、イスラム教徒が人口の大半を占めるインドネシアやバングラデシュ、セネガルでは、そもそも名誉殺人が無いそうだからね。


 単に統計的に、パキスタンとかイランとか、そういう所で多かったから、そのイメージが固まってしまったのだろう。

 シャリーアというイスラム教の教えにおいて、婚外の性行為がズィナーの罪として禁止されているから、そこら辺の曲解から行われるようになったのかな。

 良い迷惑である。



 二十一世紀に入ろうが、法律上は禁止されていても、その法を定めた国家の支配力が地方にまで及んでいないと、風習、つまりその土地に根付いた決まり事が優先されて、度々起こっていたそうだね。

 年間で五〇〇〇人規模で被害者が出ていたと、記録されている。

 そんな前時代的な、と思うかもしれないが、コレは二〇一〇年の記録だ。


 二〇二〇年以降も、断続的に被害が出ている。

 戦争やパンデミックのせいで、この頃ってその手の被害者の数字が上がって来なかったようなんだよね。

 パキスタンで二〇二三年に三八四件被害が報告された、とか、コレまで全く無かったのに、移民を受け入れた国で名誉殺人が行われるようになった、とか。


 断片的な記録は残されているけれど。



 そういう場所では、人は、特に女性は呆気なく殺される。


 絞殺、火あぶり、自殺の強要が多かったようだね。


 婚前交渉をしたとか、親が決めた相手意外と恋愛をしたとか、そんな理由で人権をガン無視して殺される。

 最も酷いのは、強姦による被害者が、名誉を汚したとして生きたまま火に焼かれる事だ。


 そして片や殺人犯は、家族の名誉を守った英雄だと称えられるそうだ。

 風習とはいえ、俺の感覚からすれば狂っているという他ない。


 日本にも大昔にはあったそうだけどね。

 私刑は法律の整備された国で育つと、理性の無い、野蛮な行為に見えてしまう。



 そういう野蛮さとは正反対の、知的能力が備わって居るからこそ起こるのが「やれるがやってはいけない。故にやらない」そんな心の動き、ようはお気持ちの問題によって‘’出来ない事‘’を生じさせる。



 死者の復活は、魂が精霊によって輪廻へ還っていないのならば、という条件付きではあるが、俺なら可能だ。

 しかし心情的には、ソレはやってはいかん事だろうと、警鐘を鳴らしている。


 有翼乙女(ハルピュイア)の犠牲者は、かなり多い。

 一人生き返らせれば、あの人も、この人も、と願う人が後を絶たなくなるのは、目に見えている。



 ……でも、‘’何でも‘’って言っちゃったしな〜……


 相手が大人なら、「十五歳の子供の戯言だから、言葉尻を取らないで♡」とトリハダを立てながら上目遣いで甘ったれた声を出して懐柔するのだが。

 自分の見目の良さを最大限に活用するのは、こういう時ならば厭わない。


 しかしファウノも男ではあるが、残念ながら子供だ。

 ソレは通用しない。


 通用したらしたで、おマセさんでは説明が付かない程の早熟加減だとドン引きする自信しか無いので、試すのはやめておこう。



 どう説明すれば、良いだろうか。


 親から無償で注がれる愛情を知らない子供は、大人に期待をしなくなる。

 成長後、その‘’大人‘’に自分も含まれるから、タチが悪い。


 特に親の癇癪で暴力を振るわれた場合、顔色を窺うクセがデフォルトになってしまい、親が笑えば笑う、親が悲しめば共に涙を流す。

 そんな親の感情の模倣品に成り下がり、結果、ソレが親以外の他人にも適用され、自他の境界線があやふやになってしまう。


 家庭環境は、境界性パーソナリティ障害の一因とされているものね。


 親に大切にされ愛された記憶が無いと、自分は愛される価値が無いのだと、自暴自棄にもなりやすい。


 ソレらが合わさると、執着心の強いメンヘラDV野郎が爆誕する傾向にある。



 全くの第三者である俺が、その責任を負わねばならないのは非常に遺憾ではある。

 しかしココで大人への不信感を払拭しなければ、せっかく救ったのに、ファウノの人生はお先真っ暗になってしまう。


 ファウノにとって今、俺は自分の命を救い、妹までも助けてくれた‘’親以外の頼れる大人‘’の位置に居る。


 子供にとっての五歳差って、滅茶苦茶デカいからね。

 特に身長や体格を見ても、俺の方が随分大きい。

 彼には俺が大人に見えている事だろう。



 その大人な俺が、口頭のものだろうが約束を反故にしたら、やはり大人は信用出来ないのだと、心に深く刻まれる事となる。

 彼の将来に及ぼす影響は、俺が想像するよりも、恐らく大きい。



 俺とて、ウソを吐くのを良しとはしていない。

 なんと言うか……魂が穢れる感じがするから。


 他者を守る為、(おもんばか)るが故の優しいウソならば、また少し心情としては違って来るのだけれど……

 ソレでも、相手がソレを良しとせずに受け入れてくれなかった場合には、相手の為と思っていたとしても、傷付けてしまう事になるじゃない。


 何よりどう足掻いたって、事実と異なる事を口にすれば、いずれどこかで矛盾が生じる。

 自分を騙し、相手を欺き、結果として残るのは、不信感だけになる。


 悪意をもって吐いた場合は、その関係性は殊更酷くなる。

 良い事何て、何も無い。



 正直者が馬鹿を見る、なんて言葉があるけどさ。

 散々自分にも友人にもウソを吐いて生きて来た俺だからこそ、やり直しのチャンスとばかりに与えられたこの世界の生活では、ウソは吐きたくないなぁ。


 ウソを吐かず、誤魔化さずに、理解して貰うには、どうすれば良いか……



「ファウノ、確かに俺は‘’何でも‘’と言った。

 だがお前が言った願いが、この世の摂理――神様や精霊がこうだと定めた、守らなければならない決まり事、ソレに反する事だとは、理解しているか?」


「守らなきゃいけないこと……

 欲しいものがあったら仕事をするとか、お金を払うとか、そういうこと?」


「そう……だな。

 そういう理解で、一先ずは良いだろう」


 本当は違うけど。

 労働の結果対価を得るとか、売買契約によって権利の譲渡が行われるとか、ソレは人が定めたルールであって、自然の摂理とは異なる。


 だが‘’守らなければならない決まり事‘’とは何かを自分なりに考えた結果、該当するものがソレだったのなら、今はとりあえず良しとしよう。


 だって話が先に進まない。

 ルールという広義では、決して全て間違っているとは言えないし。

 良しとしてしまおう。



「死んだら、水をかけて土にかえす。

 そう習った」


「……なら、何故母親の処遇を、その決まり事から外す?

 そもそも、母親が生きている可能性を少しも考えないのは、どうしてだ??」


 ファウノの中では、母親が既に死んだものだと断定されている。

 そうでなければ、あんな願い事、口にしない。


 この年頃ならば、死とは何かを考えるキッカケが与えられた時、その意味を不足無く理解し、向き合うのを恐れる年齢のハズだ。



 魔物に襲われ、命からがら逃げて来た途中で、母親が目の前で殺されたのか?


 ソレならばファンチョは「邪魔だから置いて行け」とは言わないだろう。

 今まさに襲われている、なんて状況で、そんな言葉を掛ける余裕なんて無い。


 なんか……さっきの会話で、引っ掛かった部分があるんだよな。


 怯えたように、口を噤んでしまったファウノの様子からして、ファンチョ(父親)から、この事で何かしら脅されているのか?



『母さん、生きてる()かな』

 ファウノは、そう言ったよな。


 たった一文字の違いだが、生死が未確定ならば「生きてるかな」と言うんじゃないか?

 最後に見た姿が、生存が絶望的でなければ、こんな言葉は出て来ない。



「ファウノ。

 ……母親に関して、ファンチョから言うなと言われた事があるのなら、頷け。

 口にしていないんだ。

 約束を破った事には、ならないだろ?」


 違うなら、首を横に振れ。

 そう言葉をつづけるつもりだった。


 俺の予想が全くの見当違いならば、いらぬ疑念を向けた罪滅ぼしで、今はほぼ放置状態のファンチョの保護を、待遇を改めシッカリとしようと思っていた。

 だが俺の気遣いは不要だったようだ。



 続いてした質問にも、ファウノは首を、縦に振った。


「ファンチョが、母親を殺したのか?」


 その問いにも。

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