神さま、絶望する。
いつもご覧頂きありがとうございます。
イッキ読みして下さったお方、少しでも楽しんで頂けたのであれば幸いです。
いつも最新話を追ってご覧頂いている方々、心より深く御礼申し上げます。
あと、申し訳ないことに恒例となってしまっている誤字報告、いつも有難う御座います!
「はい、もう一人追加〜」
「わ、わわっ!
だから、投げるな!」
その言葉に下瞼を引き下げて、んベッと舌を出して返事をする。
聞く耳なんて、持ちませ〜ん。
そして再び、人の気配がある場所、もしくは魂の片鱗の遺る場所へパッと瞬間移動をした。
微弱すぎる霊力しか持っていない一般人は、肉体があろうがなかろうが、その気配にあまり差が無い。
よくよく集中すれば生死の差を判断出来るのだが、そんな時間があるなら、一秒でも早く、一人でも多くの生存者を救う方が、余程有意義だ。
霊力の総量が増えた事による、分かりやすい弊害だよなぁ。
前はもう少し、霊力のほぼ無い人の気配でも読めたのに。
次に転移した先に居たのは、小さな子供だった。
初めての遺体かと身構えたのだが……お、生きてる。
水分不足によるものか、低体温によるものか。
意識は無く横たわり、縮こまっては居るけれど、ちゃんと呼吸はしている。
流石にコレを放り投げるのは、気が引けるな。
今まで救助したのは良い年をした大人だったし、一番最初に助けた男以上の重傷者も居ない。
そういう人達は、ヘタに回復をさせるとウルサそうだったので、とりあえず空飛ぶ石版の上に保護をした。
そして有翼乙女の趾がノドに喰い込んでいた所を助けたファンチョに、その世話を押し付けた。
さっき文句を行ってきた、アイツね。
死にかけてた所を助けたにも関わらず、出てくるのが文句ばかりだったので、「あ、ココの地域はそういうヤツが多いのだろうな」と早々に判断した。
そしてなるべく命だけは助けて最低限の事しかせずに居ようと決めたのは、コイツのせいだ。
そうじゃなければ、もっと丁寧に扱ってたよ。
保護した時に、すぐにお礼を言って来る人が居たのなら、もっと違う待遇をしたのだけれど。
お生憎様。
今のところ、その数はゼロだ。
空飛ぶ石版の上ならば、琥珀と颯茉の二人の力を借りて作り、飛んでる物だからなのだろう。
意識をせずとも加護が勝手に付くんだよね。
守護結界を張らなくて良いので、とっても楽チン。
水とごくごく一般的な携帯食だけドサッと渡して、休むように言ってある。
既に救助した十数名に、食い尽くし系のオッサンが居ない事を祈ろう。
その恐れがあったので、少々無理矢理にはなるが、今回発見した少年は、叩き起して回復薬を飲ませた。
原因が脱水でも体力低下でも、コレで一安心と言える。
だがむせた後にゲェと吐いてしまった。
濃すぎたのかな。
回復薬の青臭ささが周囲に立ち込める。
「殺す気かよ!?」
「生かす気だから、回復薬を飲ませたんだけど?」
助けて貰っておきながら、第一声がソレか。
子供ですらコレかよ。
エリアール街とかの犠牲者を思って悼んだ、俺の繊細な心を返せ。
ファンチョといい、このガキといい、王都周辺の人達の謙虚さを見習って欲しいものである。
……まぁ、意識が朦朧としている中、こんな濃縮還元青汁みたいな味の物を飲まされたら、毒殺されると勘違いするのも致し方ない、かも?
凶悪な味だもんね。
でも樹の妖精の実が入っている、不味くはないお味の回復薬を渡すワケにはいかない。
アレは一般流通していないから、あの味を基本だと思われたら大変だ。
何より、俺が飲む分が無くなったら困るではないか。
自分の状態が良くなっている事、俺が回復薬と口にした事から、助けて貰ったのだと自覚したのだろう。
目を丸くしてとぼけた顔をした後、今度こそお礼を口にした。
おぉ、口の利き方はなっていないが、ちゃんと礼儀は弁えているのか。
子供は偉いね、大人と違って。
周囲に丁寧な言葉を喋る人間がいないなら、口調は学びようがない。
だが生活の中で、よくよく観察していれば身につく作法を伴った行動が出来るのは、偉いの一言に尽きる。
十歳にも満たない年齢でこうなるのがこの世界では普通だと言うのなら、早熟せざるを得ない環境である、と言うことになる。
社会においてなのか、魔物という危険に常に晒されているからなのか。
大人の顔色を常に窺わなければならないのは、気が休まらずに大変だろう。
なにせその大人連中がろくに相手を労らず、礼を尽くさない横暴なヤツらばかりなのだ。
子供の苦労が目に浮かぶ。
とりあえず施しをせねばと、カロリーが一気に摂れるナッツとドライフルーツが入ったチョコレートバーを渡した。
冬だから溶ける心配をしなくて良いからと、琥珀が作ってくれたものだ。
俺のお気に入りだが、仕方ない。
労ってやろうではないか。
チョコレートに媚薬効果がある、なんて地球の歴史上扱われていた時代はあった。
しかしカカオに含まれている、脳下垂体から分泌される向精神作用のあるフェニルエチルアミンの濃度は低く、行動に影響を及ぼすような事はない。
それよりもカカオポリフェノールのお陰で、脳の血液循環が良くなり、記憶力や認知機能が高まる効果や、γ-アミノ酪酸――GABAによって脳代謝が促進され、ストレスに強くなったり自律神経が整う効果が得られる方が、多くの人にとって有用なんじゃないかな。
マイナスよりも、プラスが多いのだから、摂取しない手はないよね。
フェニルエチルアミンは、別名恋愛ホルモンなんて呼ばれている。
ぶっちゃけ、媚薬を一服盛って不法に人権までムシしてお相手と結ばれようなんて思うくらいなら、自分磨きを徹底して惚れさせた方が、余程お互いのためになるというものだ。
……どうしても、と言うのなら、大人な人なら赤ワインと一緒にチーズを食べる雰囲気まで持って行けたなら、まだ可能性はあるかもね。
一応、赤ワインにも微量のPEAが含まれているし、チーズにはチョコレートの十倍の濃度のPEAが含まれているから。
ま、チーズはなんて言ったって発酵食品だ。
いざキスしようとしたタイミングでお相手の息が臭かったら、興醒めするだろうし、やはり正攻法でいくべきだと思うよ。
そんな大人の駆け引きとは無縁な少年は、手渡された茶色い物体を、シゲシゲと眺めてなかなか口に入れない。
初めて食べる人には、衝撃的なビジュアルをしているもんね。
かりんとうを渡さなかっただけ、良いと思うんだ。
俺が同じものを取り出し食べたら、ちゃんと食べ物なのだと、ようやく信じたようで、恐る恐る一口かじった。
チョコレートには果物の甘みもあるけれど、当然、砂糖もふんだんに使われている。
血糖値の急上昇、その後の急降下とインスリンの過剰分泌による中毒性が少々心配になる。
だが極限状態だったのだし、後の事はまた後程考えれば良いさ。
あまりの美味しさに驚いたようで、ろくに咀嚼をせずに飲み下してしまった少年は、目を輝かせて二口目をかぶりつこうとして、ハタと止まった。
「あ!
ラファス……妹、見なかったか!?」
「妹?
一緒にいたのか??」
どうしようと慌てふためきながらも、シッカリとチョコバーを離さないあたり、欲に忠実だな。
そんな握り締めていたら、溶けちゃうよ?
単語をあまり知らない子供の説明というのは、なかなか理解に苦しむ。
一応理解出来た範囲で言うなら、家族で逃げて来たが、途中で妹と一緒に親に置いていかれた。
おんぶをしてなんとか歩いたのだが、少年は途中で転んで倒れて、その後の記憶が無い。
そういう事らしい。
倒れた位置が枯れ草の茂る場所だった為に、足を取られて転倒し、疲れてそのまま寝てしまったのかな。
抱き上げていた妹は、兄のお陰で体力が回復し、助けを呼ぶ為にこの場から離れた。
……もしくは、有翼乙女に連れて行かれたか。
ヤダなぁ、子供が犠牲になってるのを目の当たりにするのは。
イヤ、大人なら良いって話でも無いんだけどさ。
「お前の名前、そういえば聞いて無かったな」
「ファウノ」
「ファウノ、お前の血を少し寄越せ。
えぇっと……ラファス? を探すのに要る」
嫌そうな顔をしていたが、妹を探すのに要ると言った途端、「ンっ!」と元気いっぱいに左手を差し出して来た。
もちろん、チョコバーを持っているのは右手だ。
ピッと指先を少し切って拭い取り、直ぐに治癒をしてやる。
ファウノは一瞬感じた痛みの原因が見当たらず、不思議そうに自分の左手を色んな方向から見ている。
親指と中指の腹でイジってみるが、血液をもってしても、霊力が殆ど感じられない。
位置的に有翼乙女に見付からなかった事が不思議だったのだが、こりゃ発見されて居たとしても、倒れていたら死んでると勘違いするわな。
それこそラファスも、ファウノと一緒にココで大人しく留まってくれていたら苦労せずに済んだだろうに。
子供と言うのは、無鉄砲なものだし、仕方ないか。
声を掛けて来ようとするファウノに、血の着いていない人差し指を口元に持って行き、シーッと黙るように指示をする。
子供特有の、呂律の微妙に回らない言葉は集中力を乱す。
黙ってろ。
水が波紋を描くように、徐々に周囲に伸ばした霊力を上げて、微弱な反応も逃さないように意識を凝らす。
まだ有翼乙女に捕まって居ないのならば、子供の足だ。
そう遠くへは行けないはず。
「……居た」
「えっ……、……え?!
ラファス!」
ファウノの血とよく似た霊力を持つ反応が、近くに二つ、遠くに一つあった。
その内のひとつは知っているヤツだったので、閉じていた目を開け、言葉と共にもう片方に瞬間移動し、回収。
即行ファウノの所に戻って来たので、彼を混乱させてしまったようだ。
だが俺の手の中で、グッタリと傷だらけで力無く四肢を下げている妹を見て、青ざめた顔をして直ぐに正気を取り戻し、駆け寄って来た。
「一応、生きてる。
ファウノ、お前はメリディーから逃げて来たのか?」
「よかった……
うん、そう」
半ベソをかきながらも安心している所、非常に申し訳無いのだが、俺はこんな小さ過ぎる子供には、投薬が出来ない。
加減が分からないのだ。
回復薬はその名の通り、薬である。
投薬量をミスると、ヘタをすればソレが原因で殺してしまう。
特に俺が持っている薬は、カノンのレシピをトレスして作られている。
その為、効果が強過ぎるのだ。
自分で状況を判断して行動出来る年齢だから、もう少し大きいと思っていたのだが……
なにせ見たところ、三歳かそこらの幼児である。
この年齢と体重では、大人用の回復薬は飲ませられない。
ファウノは十歳以上だと判断して、少量なら問題無しと飲ませたが。
本来ならば指示を仰いで、キチンと計ってから投与すべきだったのだ。
ファウノは結果的に余剰分を吐き出してくれたので、適量となったので良かった。
単に回復薬を薄めれば良いと言うのなら、浅葱に言って聖水を出して貰っていくらでも薄めるのだが、残念ながらそんな単純なものではない。
カノンならば経験の豊富さから、対処が出来るのだろうが。
ちなみに治癒術は、先程から掛けている。
ちゃんと周囲の霊力を使い、体力の底上げを優先して、本人の気力はなるべく使わない方向で行っている。
しかし時間の経過が遅い、この空間のせいなのだろうか。
イヤ、それは無いな。
余程タチの悪い毒でも喰らったのだろうか。
理由は不明だが、傷の治りが非常に遅い。
先程ファウノから血液を採取する為に付けた指先の傷は、直ぐに治ったのに。
あぁ〜……
人に使うのイヤだけど、仕方ないか。
鑑定眼で視ると、腹に寄生虫のような魔物が居り、ソイツが内臓を食い散らかしているせいで、表面の傷が全く治らない事が判明した。
拾い食いでもしたのか?
こうなると回復薬を飲ませたとしても、治癒すると同時に片っ端からその魔物が体内で悪さをしてしまう。
そうなると、先ずは摘出か。
え、また手術しなきゃいけないとか言う?
しかも今回はお外でですか??
マジっすか???




