神さま、時を操る。
カノンとアルベルトが何の問題もなく有翼乙女を倒せるのなら、わざわざ挟み撃ちにする必要は無いのだ。
確かに、早く殲滅させるに越したことはない。
とはいえ、急いては事を仕損じるなんて言葉もあるくらいだ。
堅実に確実に、一匹ずつ倒せばソレで充分である。
ならば生存者の有無を確認し、居るのなら保護をするべきだろう。
人の命に勝るものは……まぁ、あるはあるが、今天秤に掛けているのは、あくまで火の精霊を起こしに行くのが遅れるかどうかの話だろ。
皿に乗せなくても、人命が下に傾くのは明白だ。
あとは島嶼群に巣食っている有翼乙女達の掃討も行わなくてはならないが、今の所アチラ方向から魔物が近付いて来る気配は感じられない。
後回しにした所で、問題は無い。
そうでなくても、ピスカに逃げ仰せた人の中に遺族が居るやもしれないのだ。
なるべく救助はしておくべきだろう。
何より、ヘタに後方から俺が攻撃する方が危ないじゃない?
最近は減ったけれど、加減を誤ってしまった場合が怖いじゃない??
有翼乙女による攻撃ではなく、俺の精霊術の流れ弾によって、ピスカ街が破壊されかねないからさ。
カノンもアルベルトも稜霓と契約出来たら、光速移動が出来るのに。
そうすれば、誰もが一長一短ありと言う事で、ジャンケンで救助活動に向かう人を決められたのに。
早く俺の域まで来てくれよ。
出来ない事に対して文句を言っても詮無い。
カノンは一気にカタをつけたいようだし、ココはひとつ、平和的に多数決を取ろうではないか。
「生存者が居るかもしれないのに非道にも見捨てて、有翼乙女の殲滅を優先させるべきだと思う人〜」
「おい、その言い方は辞めろ」
「あらま。
言い出しっぺの賢者様は手を挙げないんですかぁ〜?
それじゃあ、時の精霊の術は解除せず、手堅く少数ずつ倒しつつ、救助活動も同時進行ですべきだと思う人〜」
元気いっぱいに手を挙げる俺と、カノンを見て苦笑いしながら手を上げるアルベルト。
結局カノンは、項垂れて溜息を吐きながらも、力無く手を挙げた。
最初っから、素直にそう言えば良いのに。
「連絡手段に手紙は使えないよね。
保護と回収が終わったら、すぐに術を解除する感じ?
それとも、術の有効範囲外から飛んで、ココに戻って来てから解除するべき??」
「わがままを言っていいなら、戻ってきた後に解除がいいな。
ジューダスの戦いかた、さっきはあまり観れなかったし」
「保護ができた場合に、あまり刺激的な光景を市民に見せるのは、良くないしな」
そういえばアルベルトが街の人々の護衛をほっぽり出してココにいるのは、最後だし少しでも長く一緒に居たいとかなんとか、そんな理由だったっけ。
なのに人命救助を優先させるなんて、お人好しだねぇ。
アルベルトの言い分はともかく、カノンが言うように人に近い見た目の有翼乙女が、目の前でバッタバッタと薙ぎ倒されていく様子は、大人でも直視し難いだろう。
子供ならば、尚更だ。
トラウマを植え付けてしまったら、命は救えても心が助からない。
それに有翼乙女ら下半身は鳥だけど、上半身は裸の魅力的なお姉さんだしね。
色んな意味で、刺激が強い。
……生存者に出会したとして、色ボケした野郎が、有翼乙女の胸元だけ見て特攻かましていたら、見ないフリして良いかな。
流石にそんな愚か者は、助けたくないぞ。
「ヴギャァ……ッ!」
前方向に吹っ飛んでいった首から、相変わらず汚い断末魔が聞こえて来る。
目的地よりも、ほんの数十cmだが、前に移動して来たあの有翼乙女が悪い。
それにしても、今の有翼乙女は器用だったな。
鼻から上が無い状態で、しかも途中で首が引き千切られたのに、悲鳴を上げられるなんて。
カノン達に有翼乙女の弱点は、人間と同じ正中線上にあるよと教えた。
翼を狙って落とすなんて回りくどい事をするくらいなら、ひと思いに魔石を砕くか頭を割るかするのが、手っ取り早く確実な方法であると。
それが出来たら苦労はしない、と肩を竦められつつも別れたのが、ついさっき。
とりあえず緩慢化した空間の中に入り、有翼乙女の気配がする、最も遠い所を指定し光速移動をしたのが今先程の事だ。
調子に乗ったつもりは無いし、制御だってカンペキだった。
しかし獲物を狩る為に翼と趾を大きく広げ、身体をくの字に曲げた有翼乙女が加速して向かった先が、丁度俺が停止する予定位置よりもコチラ側だったのだ。
そのせいで有翼乙女の顔面に激突した空飛ぶ石版は、血と脳漿にまみれてベタベタだ。
ついでに言うなら、俺にも少しかかった。
生臭いから、今すぐにでも洗い流したい。
こういう時に便利だよね、浅葱の力って。
全身丸洗いをしてサッパリした所で、気持ちに余裕が出来たのだろう。
何故突然旋回なんぞしたのだ?
コイツは??
そんな疑問が浮かぶ。
大人しくピスカ街に向かっていれば、もっと穏便かつ穏やかに死なせてあげられたのに。
周囲を見渡しても、有翼乙女の血溜まり以外は何も無い。
頭蓋骨がメリ込んだ形跡のある空飛ぶ石版に、疑問の糸口でも見付けられるかと思った、その時。
ドォンっ!
重量物が落ちる音が、俺のすぐ後ろからした。
俺の気配探知の範囲は基本、球状である。
しかし生存者や保護対象の発見を優先させる為、意識を下に向けていた。
そのせいで、気付くのが遅れてしまったようだ。
有翼乙女の趾に、ガッツリと顔を鷲掴みにされた、瀕死状態の男性に。
うぉあっ!
メッチャ爪くい込んでる!!
え、死んでない?
辛うじて……生きてるよな??
ギリッギリだけど、無事だよな???
それ以上に、どれだけ上空から降って来たのだろうか。
下敷きになった有翼乙女の身体が、クッションの役目を果たしてくれたお陰で衝撃が和らいだようだが、全身のアチコチの骨も折れている。
コレは……一刻の猶予も無いって状態だな。
ソレは勿論分かって居るのだが……この爪、ヘタに抜いたら、血がドビュシャーって吹き出る位置に突き刺さって居るんだよね。
その傷を気にしつつ、この人の体力を奪わないよう、周囲から霊力を掻き集めて治癒術を施して、なおかつ他の有翼乙女が来襲したら、ソレの対処もしなくちゃいけないんでしょ。
どんな無理ゲーだよ。
まぁまぁ、この空間の移動はなんだかんだ言って幾度かしている事になる。
そのお陰で何となくだが、時間操作がされている箇所の感覚は掴めた。
それと同時に、時の精霊の手助けが無くても、その力の一端を借りられれば、時間を操る事も出来るようになった。
……と思う。
この感覚をモノにする為にも、この人には実験台になって貰おう。
そうしなければ、このままではどっちみち死んでしまうのだ。
やるしかあるまい。
ズンと身体が重くなる感覚と同時に、雪が舞い落ちる風景が、ほぼ停止する。
完全に停止させてしまうと、石像にでもなったかのように、周囲の一切合切に干渉が出来なくなる。
術者である俺だけは、この空間内を好きなように移動出来るけどね。
俺が時の精霊術に慣れれば、自分の意のままにアイツは加速、ソッチの空間は減速なんて細かく分割して時間を操る事も可能になるのだろう。
だが今は人命がかかっている以上、確実に出来る事だけに集中するべきだ。
なので時の精霊の力を借りて時間の流れを遅らせる、その有効範囲を徐々に狭めていく。
やはり時の精霊の力は、消費霊力がハンパない。
ただでさえ時の精霊によって時間の流れが遅くなっている所に、同じ術を重ねがけしている状態だ。
そりゃ笑えてくるレベルで消費もするだろうけどさ。
エグいて、時の精霊。
瞬間移動も慣れる頃には消耗する量が減ったので、時間操作も、慣れればそのうち片手間に出来るようになるだろう。
今はこの疲労感に耐えるしかない。
……チッ。
氷の精霊に霊力多めにやらなきゃ良かったな。




