神さま、観察する。
いつもご覧頂きありがとうございます。
更新遅くなって申し訳ありません。
体調を少し崩してました。
皆様も師走の忙しい時期、天気も気圧も乱高下しておりますが、体調崩さないようお気を付け下さいね!
いつもの誤字報告、ありがとうございました!(*・ω・)*_ _)
油断は、していた。
言い訳をするのであれば、カノンが時の精霊の力を使い、緩慢化した区域を狭めるように言って来たから。
指定された場所まで効果範囲を縮小させても、問題は発生しない。
カノンは俺の保護者を名乗っていて、俺を危険が及ぶような事柄から遠ざけようとする節がある。
だから余計に、タカを括っていた。
しかしカノンとて人の子だ。
間違える事もあれば、ミスをする事だってある。
想定を見誤る事もあれば、ウッカリをする事もある。
しかも区画内の時間の流れには緩急があり、時間の流れが圧縮されている場所もあれば、伸長されているような所もある。
そうなると、術を解除した時の距離感がバグるのは、致し方のない事だ。
……寛大な心で許してやる。
そういう選択肢もあっただろう。
だが五km先まで術を解除した途端、目の前に有翼乙女の三前趾足が現れてみろ!
目ん玉抉られるかと思ったわっ!!
文句の一言くらい、言ってやりたい。
そう思うのは当然だろう。
それくらいの権利は寄越せ。
なにせ猛禽類を彷彿とさせる、あの湾曲した、獲物を掴んで屠る為の立派な爪だ。
掠っただけで、頬肉が削れてしまった。
鍛え上げられた反射神経に感謝だぜ。
あ〜、マジでビビった。
避けて上半身を仰け反った まま、飛び過ぎ去ろうとした有翼乙女の後肢を、身体を捻って鷲掴む。
鳥ならばその反動で、地面に引き摺り下ろす事も出来ただろう。
だが残念ながら、相手は魔物だ。
足に俺がぶら下がったままだと言うのに、上空へと旋回し、急上昇しだした。
空中から叩き付けるつもりだろうか。
確かに普通の人なら自分の体重を支え切れずに力尽きたり、寒さによって手がかじかみ手を離すのだろう。
だけど、お生憎様。
俺は普通じゃない。
中足骨を掴んでいた左手に力を入れ、右手で脛を掴み、その反動でクルリと一回転して、有翼乙女の背中に飛び乗った。
気分は曲芸師である。
コイツにはケガをさせられた、お礼をしなければならない。
申し訳無いが、今後の為にも犠牲になって頂かねばね。
氷の精霊にやったように、霊力で作ったヒモで縛り上げたら、ダメージが入ってしまうか。
ならば、「スキル」で創った疑似魔力で編んだ物を首に付け、手綱にしよう。
暴れ回る有翼乙女を乗りこなしていると、サドル・ブロンコ・ライディングでもしている気分になる。
暴れ馬に乗るよりも、余程危険と隣り合わせだが。
制御する時間は、八秒程度じゃ済まないしね。
ギャアギャアと汚い高音で鳴くあたり、エリアール街にいた、女王の取り巻きみたいな個体なのかな。
ヒトの言葉で騒がれるよりも、若干マシだと思っておこう。
さぁ、何枚風切羽を落としたら、前肢のどの部位を破損したら、この有翼乙女は風を制御出来なくなるのかな?
すぐに墜落されてはつまらない。
頑張って耐えてくれよ。
鳥は翼と呼ばれる前肢を動かして飛んで居るのだが、前肢とは、ようは人間で言う所の腕である。
二の腕に張られた三頭はく筋が収縮すると、羽根がついた腕が開く。
それと同時に上腕骨と掌骨を結ぶ翼膜腱が張ると、翼が開く仕組みになっている。
あとは小胸筋が収縮すると翼が打ち上げられ、大胸筋が収縮されると打ち下ろされる。
その繰り返しで、空を飛べる仕組みになっている。
骨はスカスカで極限まで軽量化され、エネルギーを吸収したら即排泄し、常に身体を軽く保たなければ飛べない鳥は、分厚い二種類の胸筋と、二種類の薄い膜のような繊維、それと左右対称の構造になっている、翼を構成する大小様々で独特な羽根によって大空を羽ばたけるのだ。
結構所か、とっても大変。
人間で例えるなら、鳥が飛んでる間って、全力疾走しているようなものなんじゃないかな。
知らんけど。
有翼乙女は鳥と違い、人型でソコソコの重量があるのに空を飛んでいる。
常に魔力によって風を起こし、浮いているのだろうか。
その割には、魔力特有の粘っこくまとわりつくような雰囲気が無い。
あくまでソッチは補助的な役割で、ホバリングしなくてもその場に浮き続けたい時なんかに使うのかな。
羽根は初列も次列も三列も、漏れなく風切羽を何枚か切ってやったのだが、一瞬バランスを崩しただけで、その後はどこ吹く風といった様子で、気にも止めずに飛び続けている。
イヤ、煩わしそうに、俺を振り落とそうとはしてくるけどね。
だが……そうだな。
気のせい程度の僅かな差ではあるが、魔力の気配が強まった。
補助に魔力を風の力に変換しているのは、間違い無いようだな。
次に手首部分の関節を破壊しようとしたのだが、かなり硬くて弾かれてしまった。
ならば隙間に差し込んでみようと、棒手裏剣を構えたら、今度は風を起こされ叶わなかった。
守ろうとするって事は、一応、関節は弱点になるのかな。
それじゃあ今度は翼膜腱はどうかと、剣で薙いでみるが、コレが意外や、弾力があって弾かれてしまった。
みっちりと詰まった、硬いゴムのような感覚だ。
どう見ても弱点だと思う翼を損なうのに、こんなに苦労するとは思わなかった。
むしろ明らさまな弱点に見えるからこそ、ソコを強化して、敵が手こずっている隙に、返り討ちにしようという事なのかな。
つまり俺が一撃必殺と、致命傷になり得る正中線付近を攻撃したのは、間違いじゃ無かったんだな。
人間が相手ならば本来は、ソコを傷付けるのは躊躇ったり、避けられたりするはずだものね。
人の心理を利用した、有効な生存戦略である。
……俺が規格外だったばっかりに、瞬殺されてしまったんだね。
ゴメンよ。
ある程度実験を終えたので、ひと思いに魔石を背後から貫き、砕く。
溜飲も下がったし、弄ぶ趣味はないからね。
良い勢いで自由落下するが、慌てず騒がず空飛ぶ石版を取り出し下降速度を徐々に緩める。
「大丈夫か!?」
駆け寄ってきたアルベルトの後方には、カノンと有翼乙女の死骸が五匹、転がっていた。
なんだよ、二人とも倒せるんじゃん。
色仕掛けに惑わされて、骨抜きになっている所とか、ちょっと見てみたかったのに。
この有翼乙女達は、俺が連れ去られた後、少し時間を置いて一匹ずつ出現したそうだ。
コチラ側からしてみれば、何分かのタイムラグが発生し、余裕をもって倒せる位に時間の開きがあった。
しかし術の発動範囲から飛んで来た有翼乙女達は、時間を置かずに一気に攻めたハズなのに、気が付けば仲間が次々に倒れている。
何故こんな事になっているのかと、混乱しながら死んでいったのだろうなぁ。
南無三。
「コレさぁ、時の精霊の術を解除しない方が、分散して倒せるし良いんじゃね?」
「だが、時間が掛かるだろう」
「そりゃそうなんだけどさ。
俺とカノンじゃ霊力が全然無い人の探知の精度が、広範囲に及ぶと低いじゃん?
んでアルベルトは探索の速度、そこまで上がって無いんだろ??
なら術を解かないまま、俺が直接中に乗り込んで、救助活動した方が、生存者を救助出来る確率は上がるんじゃない???」
薄く広げた霊力がぶつかった対象の反発力によって、ヒトかモノか魔物かを判断するのが気配察知の基本である。
カノンは海千山千の賢者様だから、俺よりは精度が高い。
しかし時の精霊から権限を渡されて居ない以上、術の効果範囲で好き勝手が出来ない。
アルベルトは元々の霊力が俺達よりだいぶ低かった為、微弱な反発力を繊細に感じ取る事が出来る。
しかしその頃のクセがイマイチ抜けきらず、一瞬で一km先まで気配を読むような芸当は、まだまだ難しい。
時の精霊の権限も以下略。
アインシュタインの相対性の話ではないが、時の精霊が時間を操っている空間って、過重力状態なんじゃないかと思うんだよね。
強い重力が発生している周囲だと、時間の流れが遅くなるってヤツ。
光ですら吸い込んでしまうような過重力を持つブラックホールの周辺では、時間が止まるとすら言われている。
時間を司る精霊がクロノスなワケだが、ソレってつまり、重力操作をしているんじゃないかなと。
イヤ、精霊術なのだからそういう理論とか何もかも関係なく、ただ単純にその区間だけ時間を遅くしているだけだよ。
重力? ナニソレ?? おいしいの???
……って話なのかもしれないけどさ。
どっちみち、ぶっ飛んだ能力には違いないが。
少なくとも、時の精霊の前世はそうだったのだろうし、彼が術を使う際に、生前に思考が引きずられている可能性はあるワケだろ。
そんな過重力空間を、普段と同じように行動出来るのは、時の精霊の能力以上に壊れた「スキル」を持っている俺くらいなものだろう。
色んな意味で、救助作業は俺が適しているのだ。




