神さま、混乱する。
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カノンは風精霊術を使って浮上し、閉ざされた門を乗り越えて行った。
だがアルベルトは地属性の精霊術を得意とする為、相反する属性の風精霊術が不得手である。
つまり、同じ手段は使えない。
どうやって乗り越えるつもりだろうか。
俺が空飛ぶ石版に乗せて向こう側まで運んでも勿論良いのだが、何か対抗策があるのなら、是非とも見てみたい。
ワクワクしながら、アルベルトよりも数歩遅れる形を取って着いて行く。
精霊術は想像力が大事だと教えたのは、カノンである。
詠唱を諳んじれるように覚えるのも大切だが、最も重要なのは、精霊に自分がどうして欲しいのか伝える事。
それとソレを成して貰う為に、必要な霊力を不足なく精霊に渡す事。
その二つさえどうにか出来れば、何とかなる。
そして霊力が爆発的に増えた今、アルベルトに必要なのは想像力だけだ。
そんなアドバイスを貰っても、想像力をどうやって鍛えれば良いのか。
全く分からないと言って、半泣き状態でヘルプを求められた事があった。
良い歳した大人が、その程度の事で泣くなよと言いたい。
とにかく沢山の事を経験し、山程知識を得る事。
あとは想像する物と実物にどれだけ差があるか、その開きを狭める訓練をするように伝えた。
目を閉じ思い描いた物が、そのまま寸分違わず、目を開いたらソコにある。
そのレベルになれば、かなり想像力が鍛えられたと言える。
手っ取り早く、絵を描く事を薦めたよ。
インプットとアウトプットはセットでしなきゃ、意味が無いからね。
まず見て、触って、嗅いで、舐めて。
それらの情報を整理して、紙に落とし込む。
実物を見ずに、どれだけ本物に似せられるか。
想像の解像度が高くなれば高くなる程、より精密に描けるようになる。
俺の「スキル」みたいに、想像したモノをそのまま出力するなら、絵を描いて鍛える必要まで無いのだけれど、精霊術は精霊という第三者に明確に明瞭に、自分が考えたモノを伝えなければならない。
その手段は文字でも良いのだが、その場合は語彙力が必要になる。
絵の方が、感覚的に出来るからね。
どれだけ成果が出たのかは知らないが、画板と絵の具のセットを持って、アチコチ彷徨いては子供達に絡まれる姿が、街や新生王都で目撃されている。
頑張っては居たと思うよ。
その努力の結晶が、漸くお披露目される。
今までのように精霊に乞い願うような言葉は一切言わず、アルベルトは門の手前で立ち止まり、目を瞑って大きく息を吐いた。
やったのは、ただソレだけだ。
パントマイムでもするのだろうか。
そう錯覚する位、自然な動作でアルベルトは空中へ一歩、足を進めた。
よくよく見てみると、アルベルトの進む先に薄く作られた石の踏み台が段々に並んでいる。
まるで空へと延びる、階段のように。
しかも進んだ先から、蹴り進んだ下段が消えていく。
維持する霊力を無くす事で、消費量を減らしたのだろう。
よく出来ている。
門の上に辿り着き、全ての階段が消えると、安心したのか大きく肩を下げた。
そしてすぐにコチラに向かって手を振る。
お見事と、思わず拍手を送ってしまった。
空中を歩くなんて、なかなか面白い事を考える。
こんなパフォーマンスを見せられたら、ただ空飛ぶ石版で飛んで行くのも、風精霊術で浮くのも、芸が無くて詰まらないな。
地面に踏み板付きのバネを作り出し、その上に飛び乗る。
ビックリ箱みたいな、飛び出すオモチャのイメージだね。
バネの復元力を利用して、上空へと跳ぶ。
角度なんて、なんとなくで良いんだよ。
風精霊が調節してくれるから。
アルベルトの横にシュタッと華麗に着地すると、「楽しそ〜!」と目を輝かせていた。
一〇.〇の点数カードが表示されそうな雰囲気である。
一瞬で終わるし、アルベルトのような地味派手さは無いが、確かに、ちょっと楽しかった。
トランポリンに近いが、アレは反発力を利用して高く跳ぶものだ。
身体への負荷は確かに似ているが、繰り返し跳躍する事によって着地点を見誤るようなリスクは無い。
まぁ、開放感という点では似ているか。
アスレチックに追加したいが、大人はまだしも子供には危険だよな。
体幹を鍛えるのに向いているのだが。
まぁ、そういう細かい事はおいおい考えれば良いさ。
結果としてちょっとのワクワクと、アルベルトからの熱っぽい眼差しを貰えた。
その胃もたれしそうな事実だけで十分だ。
門の外側を覗くと、まだ交戦していないカノンが、変なポーズで立っていた。
「何してんの?」
「ああ、其方は終わったのか。
此方はまだ到着すらしていなくてな。
気配を探っている所だ」
時間の流れが違うと、索敵は出来ないんじゃないのか?
ソレとも、カノンは既に出来るようになったという事か!?
チクショウ!!
先を越された!!!
「時間の流れが変化する、境目が見えるか?
杖をその先に入れる事で、探知を可能にした」
あぁ、だからその、ホームラン宣言をするようなポージングをしているのね。
言われて見てみると、確かに杖の先端がボヤけている。
目を凝らすと、まるで蜃気楼のように、不確かで淡い幻のように霞がかった景色がその向こうに広がっていた。
どうやら時間の流れが遅くなっている、と一言で言っても、場所によってムラがあるようで、一分が一〇分程に延ばされている場所もあれば、外界の一日に相当する区域もあるそうだ。
適当過ぎやしないだろうか。
過ぎていく時間の感覚を狂わせる為に、わざとそうしているのか、考える余裕があるならとりあえず遅らせておこうと適当にした設定を、そのままにしてあるのか。
そんな滅茶苦茶に時間が過ぎていく空間では、残念ながら距離が掴めない。
何匹居るかは分かったそうだけど。
聞けばコレが、なかなかに量が多い。
俺が倒して来た有翼乙女の倍では済まない量が居る。
どっから湧いて出て来たんだ、そんな量。
メリディー街を襲い、エサとして捕獲した人間をエリアールに届けた部隊以外の兵士と、分蜂し娘にエリアール街を譲りピスカ街に向かった先代の女王とそのツバメさん達御一行が一緒にコチラへ向かったのだと思っていたのだが、ソレだけでは説明が付かない多さだ。
それにエリアール街に居た有翼乙女の女王とは、比べ物にならない位強いらしい。
俺がさっき倒した女王と比べたら、どんなもんだろう?
あの女王を見る限りでは、ニブルヘイムからやって来た初代の有翼乙女が上陸した島嶼群には、人が居なかったらしい。
そのため食糧にした生物の見た目が反映されるであろう所、虫っぽい見た目になったのだと予想される。
エリアール街に居た女王は、メリディー街にいた人達の見た目に非常によく似ていたのだから、メリディー街から攫った人達をエサにして……その後に生まれた個体になるんだよな?
時系列が、こんがらがりそうだ。
あれ?
でも有翼乙女って、人間っぽい見た目をしているのがデフォルトなんだよな??
なにせ俺へ注意喚起する時に、真っ先に出てきたのが魅惑のボディに色仕掛けされないように、だもんね。
問えばニブルヘイムからコチラの世界に来たばかりの有翼乙女は、間違いなく人間の姿形に近いと首を傾げられた。
先程の女王の見た目の話をすると、島嶼は幾つかあり、人間がとてもじゃないが生きていけないような、凶悪な魔物ばかりが跋扈している島もあるから、そういう場所で生まれた有翼乙女は、見た目が変わるのかもしれないと言われた。
女王が取り込んだ因子が反映されるなら、ソレはあくまで次の世代になる。
全く違う見た目の要素を取り入れた場合でも、一気に変貌する事はなく、徐々に変わっていく。
元々人っぽい見た目だった有翼乙女が昆虫めいた見た目になるのだから、その時点で何代か経ている事になるよな。
なにせ女王ですらアップで見たくない複眼が双眸に付いていた。
次世代のオスは、唇があるべき所が口器に変わっていたし、触角も生えており、だいぶ虫に見た目が近かった。
既に三〜四代は経ているという事か。
美醜の感覚があって、昆虫化するのを良しとしなかった初代の有翼乙女が、島嶼群に作った巣を娘女王に譲り、即フェニエス大陸へと渡って居たとして……
今コチラに向かって居るのは、果たして何代目になるのだろう。
ぶっちゃけ、魔力が少ないこの世界では、世代を経る毎に有翼乙女は弱体化していると思うんだよね。
エリアール街に居た女王は、アルベルトの知り合いのバネサさんに似ていた。
つまりバネサさんを食糧にして生まれた女王に巣を譲渡した母女王が、確実に居るでしょ。
まず島嶼から飛び立った初代は、川沿いにあったエリアール街を占拠。
住民や近隣の村の人達も食べて巣を作り子供を産み、二代目が誕生した。
この二代目は、バネサさんの見た目をした、あの女王ではない。
最初は順風満帆に、エサも豊富に確保出来たが、時の精霊の影響により共喰いをしていた、あのバネサさんの見た目をした女王、ソレ以前に生まれた女王達は、どこに行ったんだ?
「……あのさぁ、個体数が多いって言ってたけど、もしかして、全部が全部、かなり強かったりする?」
「そうだな」
アッサリ肯定されてしまった。
あぁ、やっぱり。
エリアール街からメリディー街の間にも、村くらいの規模の集落が幾つかある。
なんなら、メリディー街からピスカ街の間にもだ。
そしてエリアール街の北にあった廃村なんかにも、今は他の魔物が占拠している為に、その片鱗は見つけられ無かったが、有翼乙女の巣があったのだろう。
時の精霊が時間を超速再生させたせいで、飢えて女王も死に、付近の魔物達に喰われたか。
共喰いしてなんとか女王だけ生き延びて、別の巣を形成しようと放棄したか。
いずれにせよ、北は危ないと、女王同士の間で情報共有はされただろう。
そして南下して、メリディー街に辿り着きエサである人間の奪い合いをし、満腹になれた女王がエリアール街の巣を再利用し、あのバネサさん達に似た子供達を産み落とした後、ピスカ街に向かった。
メリディー街からピスカ街にかけては、時間の流れが所々で違うそうだし、途中で女王達が合流したのかな。
エサの奪い合いやら共喰いやらするのだから、共倒れになってくれれば良かったのに。
ピスカ街に向かっているのは、生き残った兵士と、ツバメと、何体かの女王。
その中には恐らく、初代の女王も含まれる。
ハチによく似た生態をしているのなら、三代目を出産したタイミングでくたばってくれれば良かったのに。
そんな所はスズメバチではなくミツバチ寄りなのか。
ミツバチの女王は、勿論環境にもよるが、八年程生きるそうだからねぇ。
あの半分にした有翼乙女の女王が末っ子なら、アレを強さの基準にしてはいけないな。
虫型の有翼乙女は、だいたい初代からは四代程経過していると考えて良いし、アレよりも女王は全員強いと考えて置けば良いか。
「数が、だいぶ多い。
……アルも戦うのか?」
「邪魔にならないなら、もちろん」
もう気持ちは切り替えたし大丈夫だと、胸を叩いた。
頼もしそうには見えないが、彼も長年冒険者をしているのだ。
自分の感情との折り合いの付け方は、熟知しているのだろう。
「どんな感じで戦う?
この位置だと街が近過ぎるし、ハデな術は使えないんじゃね??」
「時の精霊様に頼んで、範囲を変更することはできないのか?」
「あぁ〜……
……この辺一帯の権限貰ったし、いつでも好きなように変えられるぞ」
伝書鳩扱いされるのはイヤだいと、時の精霊に文句を混ぜて尋ねたら、勝手にしろと言われてしまった。
つまり、勝手にして良いって事だよね!
こういう時は自分に都合の良いように、額面通りに受け取るよ、俺は。
「……では、ピスカから何kmか離れた位置まで術の範囲を狭めてくれ。
そこで改めて索敵を行う。
群れによっては、まだだいぶ遠方にいる。
長期戦になることを覚悟しておけ」
「ちなみになんだが……人の気配は?」
問われたカノンは、直接答えなかったが、まぁ、その逸らされた目線がある意味で答えだろう。
だが魔力による索敵しかしていないのなら、まだ一応希望はある。
霊力と魔力って質が全然違うから、同時に気配を探れないもの。
時の流れが減速している魔物が多く生息しているこの空間の中で、どれだけの一般人が生き残れるか、と問われれば、それはもう、運でしかない。
「生存者が居た時の為に、前進する準備して良いなら、術の解除と同時に空飛ぶ石版で有翼乙女の群れの最後尾迄移動するけど」
その場合、カノンとアルベルトの二人で多数の有翼乙女と戦う事になる。
居るかも分からない数人の為に戦力を分散させ、背後に控えるピスカ街の住民達を危険にさらすという事だ。
カノンがソレを良しとするか。
アルベルトが気負わずに善戦出来るのか。
「大丈夫。
俺だって、強くなっているから」
「大丈夫だ。
俺もアルも、そこまで弱くない」
異口同音に言われたら、信じる他無いね。
「んじゃ、サッサと倒してお魚パーティーしないとね!」
「おい、待て。
なんだ、それは。
聞いていないぞ」
カノンのツッコミはムシして、大手を振って術の範囲を狭めた。




