神さま、浮足立つ。
いつもご覧下さりありがとうございます。
またいつも誤字報告ありがとうございます!
一回は見直しているハズなのに、なんでミスるんですかね?
申し訳ないです:( ;´꒳`;)
夜の遅い時間だ。
女性を一人歩かせるなんて、言語道断。
街灯の明かりによりメインの道は明るいが、タチの悪い輩が潜んでいて、こんな細身の非力な人だ。
裏路地に引きずり込まれないとも限らない。
一度断られたが、「家に送り届けられるまでがお仕事です」と言って、半ば強引に送迎をする事と相成った。
今は冬だから少なくなってるけど、外部からのお客さんが増えて、住民も増えた。
それ自体は喜ばしい事だけど、その分犯罪も増えているのは大問題だよな。
フリアンくんの資料に、移住者や来訪者の数と、それに伴いケンカや小競り合いの通報件数が増えた事が数字と併せて書いてあった。
今度統計学や、グラフの書き方を教えてやろう。
最初の定住者は、俺とカノンの実力を目の当たりにしている。
良くも悪くも、俺達の恐ろしさを知っているので、街のルールを破ろうとはしない。
と言うか、マジメ過ぎる程に厳守している。
朝から晩まで、滅茶苦茶よく働くしね。
有難い限りだが、自分達の街なのだから、もっと気楽に過ごせば良いのにと思う。
だが、俺達が旅に出た後に移住して来た人や訪れた人達は、当然ソレを知らないワケだ。
‘’賢者‘’の名前も山程ある伝説も有名だ。
しかし語り継がれる際に尾ヒレが付けられて、どうせ脚色されているんだろ? と思う人は多い。
そもそも、有り得ない位に長生きしているせいで、‘’賢者‘’と言う称号を受け継いでいる、全くの別人説まである位だし。
かく言う俺も、カノンの見た目で何百年も生きているとか、ウソだろう? と未だに思っている部分がある。
地球の常識が抜け切って居ないんだよ。
仕方がないじゃない。
霊力と言う、摩訶不思議な万能エネルギーの為せる技だと、頭では理解していても、納得出来ていないと言うか。
霊力が当たり前に存在しているこの世界で生まれ育った人達ですら、非常識な存在だと思うのだ。
俺が現実を受け入れられなくても、致し方の無い事だと思う。
街を一晩で創ったとか、冒険者の間では有名な富を倒して解散させたとか、ウワサ自体はちゃんと出回っているんだけどねぇ。
ウワサはウワサ。
実際は違うと思われているのかな。
冒険者同士の戦いと言ったら、殺し合いに近い物騒な争いに発展しがちだ。
なのに富の面々は、街で普通に五体満足で、しかもかなりの高待遇で働いている。
説得力が低いのだろうな。
街を一晩足らずで創ったのだって、直接目の当たりにしている人は居ないし。
物見塔がニョキニョキと生えていく様子を、ゴルカさんやカノンが遠くから目撃していた位か。
舐められない為の方法って無いかな。
それが街の治安に役立つのなら、多少目立つ程度なら良いと思うのだけど。
主にカノンが矢面に立つのが前提で。
だってカノンなんて今更二つ名や伝説が増えた所で、問題無いだろうしさ。
俺は余生を面白おかしく気楽に過ごしたいから、そう言う目立つ事はしたくない。
「あの……ずっと気になっていたのですが……」
アパートに送る道中、おずおずとヌリアさんが挙手をする。
自分達が今迄常識だと思っていた事柄は、酷く狭い世界の範疇内での事ばかりで、俺やカノンが関わって来る事は、ソレを軽く凌駕する事。
疑問は全て捨て、受け入れるのが一番良いのだと思っている事なんかを、つらつらと並べ立てられた。
そんな、俺達が非常識の塊みたいな言い方をしなくても。
「ですが、どうしても気になってしまうのです。
会議室にもいらっしゃった、そちらの男性、何も無いところから突然、現れましたよね……?
何者なんですか?」
「あぁ、テルモのこと?
紹介誰もして無かったんだ??
コイツはね、地の精霊の親分」
「――親分ってそんな、ヤクザのトップみたいな言い方しないでよ」
「他にも肩に乗ってる鳥は光の精霊……ルーメンには、他の地水火風の精霊みたいに、眷属とか部下はいないんだっけ?」
『――えぇ、アタシと闇の精霊、時の精霊は単一種よ』
地の精霊の非難の声をムシして、いつの間にか肩の上に乗っかっていた光の精霊に問えば、肯定の言葉が返って来た。
そうなると、親分とかカシラとは言えないねぇ。
何て言えば良いんだろ?
単に光の精霊ですって言えば良いのか??
「ひっ!
魔雉がしゃべった!?」
『――アタシをあんなブッサイクな魔鳥と一緒にしないでよ!』
光の精霊は黒鳳雀のオスにアルビノがいるならこんな姿だろうか、と思わせる美しい姿をしている。
光の精霊らしく全身真っ白で、優美に風にそよぐ房状に長く伸びた尾は、街灯の明かりを受けて真珠色に輝いていて、とてもキレイである。
魔雉とやらがどんな魔物なのかは見た事がないのでなんとも言えないが、魔物は結構イカつい見た目をしている事が多い。
なので光の精霊の美的センスからは大きく逸脱しているのは、想像にかたくない。
「ゴメンねぇ、驚かせて。
ヌリアさん達って霊力が増えた分、きっとこの二人含めた、精霊の皆を見ようと思えば見えるようになってると思うんだよね。
きっと今後もアチコチで見かけるだろうから、何か理不尽な事されたら言って。
叱っておくし」
「叱る……?
あの……すごくいまさらなのですが、ジューダス様って、何者なのですか?」
「ただの一般人」
『「「「無茶言うな」」」』
カノンとアルベルト、地の精霊と光の精霊が見事にハモる。
全く同じ言葉を異口同音で唱えるなんて、お前ら、仲良いな。
精霊のトップにまで一般人である事を否定されてしまったら、余程特殊な人だと思われてしまうじゃないか。
辞めろよ!
俺は地球では一般人に凡そなれなかった人間だが、この世界では何の役目も与えられていない、タダの人なのだから。
一般人を名乗ったって良いじゃないか!!
コレ以上立ち入った事を聞いてはいけないと判断したのか、ツッコミを入れる事すらせずに、ヌリアさんはお礼だけ言って頭を下げた。
せめて、ヌリアさん位は一般人である事を肯定してくれても良いと思うんだ。
小さく「それは無理があります」と言ったの、俺は聞き漏らさなかったぞ。
ちくしょうめ。
フリアンくんを預かってくれていたお隣さんに挨拶をして、大所帯にか、後ろに控えている面々の顔面偏差値の高さにか、大層目を丸くされた。
自己紹介を軽くしたら、今度は頭が地面に着くんじゃないかと思う程に深く頭を下げられ大声で御礼を言われた。
そのせいで、ご近所さんが皆顔を出して来たりと、少々騒ぎになってしまった。
ヌリアさんが住んでるアパートは、彼女と共に、名も無い小さな集落から引っ越して来た人達が入居している。
この大陸は東に行けば行く程、魔物が強くなる傾向にある。
そんな中、街から更に東の位置にあった、地図にすら載っていない村の出身者。
常に凶悪な魔物の脅威に晒され続けていたせいで、戦いに敗れて人口が徐々に減っていった為に、俺が訪れた時には、総勢で百人すら居なかった。
今思えば、限界集落と言うものだったのだろう。
カノンが両親から託されたからと、色々施しをしていた以外に、特出した部分がない村だった。
性格も悪いし、その根性の悪さがもてなしの待遇に現れるような人達だった。
だが、なまじカノンが優秀過ぎたせいで、ゆっくりと滅びの道に進みながらも、それが遅々としていたせいで、その事実に気付けなかったのだろう。
茹でガエル現象ってヤツだね。
過去に故郷を捨てた人達が作った集落は、町を興した場所の位置取りが良かったのだろう。
魔物が比較的弱く、王都から近かった事もあり、ゴルカさん達が暮らしていた数百人規模の町にまで発展した。
その事を考えれば、残った人々は先見の明が無かったのか、カノンと言う強大な力を持つ者に全て委ねる安楽から抜け出すだけの根性が無かったのか。
カノンも生かす道具を与えるだけで、知識を与えたり活動的になることを強要したりはしなかったみたいだしね。
どっちが悪い、と言えば村の人達だけど、カノンにももっと別の方法があっただろうな、とは思う。
つまりこのアパートに住んでいるのは、富が村を襲った事件によって、拒否権を与えられる事無く、半ば無理矢理街に連れて来られた人達だ。
住み慣れた土地から引き剥がされたのだし、恨み言の一つや二つ、実はあったりするだろうと思っていたのだが……
実際にされたのは、滂沱の如く涙を流しながら、両手を強く握り締められる事だった。
村にいた頃は、カノンが定期的に与えてくれる魔物の忌避剤頼りだった。
忌避剤が効きにくい雨の日や、忌避剤その物が無くなれば、いつ魔物に襲われるかとビクビクしていた。
どうにかこんな生活から逃げ出したいと思いながらも、魔物の恐怖により行動に移す事が出来ない。
将来のある子供達を見る度に、自分の不甲斐なさに打ちのめされる毎日を送っていた。
そんな生活とは違い、子供が伸び伸びと過ごせる今の日々が、とても有難いのだと、口々にお礼を言われた。
最低限食べられれば良いと、ろくな実りがない理由を土地のせいにして、熱心に作物を育てるようなこともしなかった。
今あるもの以上を欲しがろうとせず、努力も行動せず、ただ死んでいないだけだった生活をしていた。
しかし街では、作る喜びや収穫の楽しみ、またそれを共有する事がどれ程嬉しいかを教えてくれる。
それがいかに尊く有難いことか!
この街での生活を与えてくれた事を、直接感謝したかったのだと、カノン共々揉みくちゃにされた。
そう言う文化を知っていたら、胴上げでもされそうな勢いだ。
ヘタな素人がやったら、落として腰を折って大惨事になるからね。
良かった、されなくて。
何と言うか……自分勝手にやった事なのに、こうして面と向かって褒められると、こそばゆくなると言うか……面映ゆい物だな。
カノンも、村の人達からここまで手放しに、心からの感謝の言葉を告げれた事が無かったのだろう。
あの時のぞんざいな対応を思い返せばね、物凄い手の平返しをするなと思う。
だが、それが本心ならば受け取っておくべきだろう。
えぇと、精霊に霊力を込めて感謝の気持ちを伝えると、精霊の皆の力になるんだったよな。
なら、その真摯な気持ちを祈りに変えて、皆の世界平和の為の助力にして欲しいな。
祈りを捧げるなら、やはり分かりやすく形にするのが大事だよな。
カノンの銅像は断られてしまったけど、街の象徴になるような物は欲しい。
精霊の銅像か石像でも建てるか。
俺やカノンの強さが信じられなくても、精霊様と崇められている皆の力を疑う人は居ないだろう。
せっかくだから、皆の威光を利用してしまえ。
悪さをする人は精霊様が見ているぞー!
精霊様の裁きが下るぞー!!
……って感じの、デッカイ偉そうなヤツを建てよう。
問題の解決策に思い至らせてくれたお礼を言ったら、その場にいる人達に不思議がられた。
まぁまぁ、細かい事は良いじゃない。
早速明日、ゴルカさんに場所を提示して貰って建てよう。