神さま、狼狽える。
街は地図で言うなら、世界で最も東に位置する街になる。
ちょっと前までは、王都が正式に人が住んでいると認められていた集落の中で、一番端っこだったんだけど。
俺が更に東の開けた土地にドーンッと創ったので、最東端は街になった。
実は人が住んでいる、と認識されていなくても、街から更にずーっと東。
谷を登り森を越えた海岸線沿いに、実際はカノンの家がある。
地図にすら載っていない小島があって、ソコに人が住んでいるかもしれない。
そう言う可能性を排除するのなら、人が住んでいる最東端はソコになる。
まぁ、カノンが世界中を飛び回っているせいで、余り利用される事の無い家だ。
誰かが訪れたとしても、居住者がいる、とは思われないだろうけどね。
そんな元最東端の王都から南東へ下り、‘’喰魔の森‘’の中を突っ切るように走る、真新しい街道をひたすら道なりに進む。
ダンジョンへと続く横道を無視して森を抜け、暫くするとぶつかる幅広の川に掛かった立派な橋を渡る。
その頃には、街を囲う城郭や、どうやって建てたのか疑問に思う程馬鹿デカい門が見えるだろう。
あんな大きな跳ね橋、上げ下げ出来るのか? なんて疑問も多く聞く。
ソレらは全部「スキル」で、システムまで含めてパッと創った。
人件費ゼロ、建築費すらゼロである。
街をぐるっと囲むように創られた奥行のある深い堀には、橋が二段階に別れて掛けられている。
外側の橋は閉門時間になると通行禁止になり、渡れなくなる。
橋と橋を繋ぐ中間地点の所には、魔物の買取所と、街に入るための手続きをする、関所のような物が設けられている。
ジャビルが普段居るのはココ。
王都から移住して来た解体屋のオッチャンも、ココに詰めてくれている。
解体せずに運び込まれた魔物は、彼等が余す事なくムダもなく捌いてくれる。
自分達を基準に肉や素材の状態をランク付けして、買取価格を査定する。
厳し過ぎると批判が出ているので、改善を要望したら、仕事がヒマな時に限定されるが、そこら辺にいる魔物をジャビルが捕って来て、トニさんが解体ショーをしたり冒険者に手ほどきをしたりしてくれるようになったらしい。
トニさんはその道一筋ン十年のベテランだからね。
査定の審査は厳しいままだが、それ以降は文句は来なくなったそうだ。
手ほどきを受けた事により、今まで余り考えずに適当に解体や素材剥ぎをしていた冒険者は、魔物の肉体構造を理解し、的確に急所を狙って攻撃出来るようになった。
そのお陰でケガをする率も減ったし、素材収集も上手になった。
その技術はこの街を離れても、失われる事はない。
大きな財産を得たと、皆喜んでいる。
手が空いている時は、なんと街に住んでる奥様方も学びに訪れる。
子どもと一緒に来れば、解体ショーを娯楽として楽しんでくれるから、子守りが楽になる。
そんな理由もあるが、肉の扱い方の勉強になるし、自分達に出来ることを増やしたいと思っているからなんだとか。
「スキル」で創った街だから、街は基本的に家賃をほぼ徴収しない。
国に納める人頭税分のお金と、街の運営をしてくれている人達の給料の確保が出来れば何の問題もないからね。
俺は別に要らないし。
カノンも同様。
なのでほぼタダで暮らしている。
提供された肥沃な畑もタダ。
自分達が食べていく為のものを育てる、ついで程度の世話しかしていないのに、勝手にスクスクと大きく立派に実る美味しい野菜も果物は、街が買取ってくれるので、金銭に余裕がある。
恩義ばかりが積み重なって心苦しいと、ジッとしていられない人達ばかりのようだ。
ぐうたら過ごせば良いのに。
真面目だね。
そうやって育てられた作物は、遠路はるばる訪れた商人達が喜んで争奪戦を繰り広げてくれる為に、日々買取価格が値上がりしている。
お金の概念がイマイチまだよく分かって居なくても、贅沢をしなければ溜まる一方の金貨の山に、動揺しているのだとか。
冬場の保存食の作り方も、奥様方にバッチリ教えておいたから、飢える心配もしなくて済むしね。
むしろ冬の間でも穫れる野菜があるから、やはりコチラも争奪戦が。
そして更にお金ばかりが溜まっていく。
経済とお金は回してナンボだから、使って欲しいんだけどな。
もっとアミューズメント・レジャーを充実させるべきだろうか。
とは言え、街道に消雪パイプを設置したりしていなかったからね。
根性と体力のある大きな魔馬を所有しているような裕福な商人しか、冬の間は街に来れていないそうだよ。
馬車の荷台部分が通れるような雪の量じゃないからね。
ココまで雪深い土地だとは知らなかったのだもの。
街滞在中に、どうにかしたいね。
街は人の行き来を制限したくなかったので、関税や入国税は導入していない。
‘’騒ぎを起こしたら、罰金取りますよ。
立ち入りを禁止しますよ。
街は‘’王の権能‘’の縄張りですよ。
くれぐれも間違いを起こさないようにね。‘’
って内容の書面を読んで貰って、もしくは読み上げて、サインや拇印を押して貰うだけ。
コレで街への出入りは自由に出来る。
今の所、永久追放になった人はいない。
自主的に来なくなった人ならいるけど。
街の中で商売をした行商人には、売上の何%か場所代として納めて貰っているのだが、欲を出して、ソレを誤魔化そうとした人がいたんだって。
マニュアル通りに対応したら、逃げるように居なくなったのだとか。
一度目はウッカリもあるだろうから、軽い口頭注意だけして見逃した。
でも二回立て続けにやりやがったので、追加徴税と罰則金の請求書、また個人情報の開示をさせて頂くと言う厳重注意を、納税に訪れた、同業者の多い役所の窓口で、少々声を大きめにして説明させた。
心臓に毛でも生えていたのか、それでも次の日も露店の出店申請に朝から訪れたそうなのだが……商売人達の間に一気に広まった、悪いウワサ話に居心地を悪くしたのだろう。
街から出て行ったっきり、その後は姿を見せないそうだ。
実際は新興の街だからと舐めてかかって信用問題を損ねたその商人は、他の商人達の信用をも失墜させたとして、同業者にリンチされたそうだよ。
怖いねぇ。
野蛮だねぇ。
ちなみにゴルカさん達は、この事実を知らない。
つまり、新興の街で、街中に繋がりがある人なんて殆ど居ないだろうに、自分達がやったという証拠を全て消すだけの事を、商人達はして退けた。
警邏している人達の目に、一切触れる事無く。
ちょっと怖いよね。
暗殺者の方が、職業の適正があるんじゃないのか?
裏路地に捨てられてたのを、スライムとフリアンくんが発見して適正に処理をしたと、報告書には書いてあった。
どう言う経緯でそうなったのか、俺は街の至る箇所に防犯カメラを設置してあるから、確認がてらその時の事を見返して事実を知った訳なのだが。
フリアンくんは驚いたろうね。
要注意人物だと思っていた人が、次の日突然ゴミ箱の中から出て来たんだもの。
スライムが食べなくて良かった。
処理って言っても、死んでたから埋めたとか物騒な話しではない。
虫の息だったから、街の子供達が実習で作った、売れない粗悪な質の回復薬の実験がてら適当に傷を治して、宿に届けた。
しかし礼も言わずに逃げるように街から出て行った、と門番から報告があったと記載されていた。
フリアンくんの文面が、ちょっと怒っていた。
お礼を言えない大人はダメだよね。
カノンの名前を出しても、効果がない相手がいるのは驚きだ。
勝手に威光を利用していると思って、信じていないのかな。
だからって、俺の物も含めて銅像を街の入口に建てようだなんて立案は、しないで欲しい。
俺を巻き込むな。
俺の顔なんざ見たって、皆が疑問符浮かべるだけで終わるよ。
カノンの位は建てても良いと思うけどね。
既に街を創ってすぐに却下されてるから。
そんなカンタン過ぎる手続きを終えて、門をくぐったらすぐにあるのが、冒険者区域だ。
冒険者ギルドに、大衆向けの食堂、安くて狭い寝るだけの宿屋や、他の住民に迷惑をかけずに早朝鍛錬が出来る広場何かが、広く取られた主線沿いにある。
裏道に入れば、武器や防具の工房なんかが建てられている。
残念ながら、まだ利用者は少ないようだけれど。
王都で声を掛けた工房の人達で、親方の許可が出た人や、次世代に自分の工房を譲った人なんかが、ごくごく少数、移住してきたようだ。
次の区画は商業区。
お値段がちょっと高めの飲食店が並んでいたり、露店や行商人が商いが出来るような大きな広場があったり。
服や細工物何かの、生活に密着した工房はコチラの区画になる。
女性が多いからね。
荒くれ者が多い冒険者区画には置けませんよ。
ココの区画は、まだまだ空き家・空き店舗が多い。
行商をしている人や、露店を出していた人の中で、決心が付いた人の内、何かがチラホラいる程度。
物が集まらないことには、人が集まらず街は発展しない。
もっと積極的に店を出して欲しいんだけどな。
まぁまぁ、まだ半年程度だものね。
焦ってはいけない。
次に居住区があって、公園やらアスレチックやら、遊べる場所と、アパートが立ち並ぶ。
ココもまだ空き部屋が多い。
創り過ぎちゃったかな? と焦る位には空いている。
普通の家は人が住まないと傷んで朽ちると言うけれど、「スキル」で創ったのだし、大丈夫、だよね……?
……冬の滞在中に、メンテナンスも兼ねて見ておいた方が良いよね。
水周りとか、いざ入居者が来たのに水が出ません、むしろ止まらなくなりました、何て言ったらシャレにならん。
居住区の更に奥に、役所や学校のような公共設備がデデン! と大きくそびえ立っている。
精霊教会の人達と話し合いが済んだら、教会を建てるのはこの区画になるだろう。
まだ土地も沢山余ってるし。
体育館も創ろうかなと思っていたけれど、雨や強風を防ぐ方陣を稼働させるのならば、特に必要ないだろう。
同じ運動施設で創るのなら、やはりプールだろうか。
大きな川が近くに流れているし、堀に落ちてしまわないとも限らない。
水難事故に備えておく意味でも、全身の筋肉を関節への負荷なく鍛えるためにも、プールはかなり重宝するだろう。
なにせ聖水を使えば塩素による消毒もいらないし。
水の精霊石があれば、カンタンに誰でも水を足せるし。
更に奥の奥に行くと、俺達の家がある。
ホント、端っこ。
カノンの家に行きやすいように、普段は隠してあるが、コッソリ城郭に扉が設置されている。
その扉を利用するには、俺かカノンの霊力を流さないといけないので、実質、無いも同然だけどね。
さてさて、今説明した中には娼館がない。
公衆浴場が商業区の居住区寄りにあるから、商業区にあるのだろうか。
それとも、商売する相手が冒険者になるから、冒険者区域になるのだろうか。
答えとしては、商業区の冒険者区域寄りだった。
しかし、裏道を通り過ぎた奥まったような場所ではない。
ちょっと高い宿屋に隣接しているのだが、その、音漏れ的な意味も含めて、文句は出ないのだろうか。
店の内装は、どんな店だろうと店長が拘りを持って飾り付けたいだろうと思い、大抵の店舗は箱しか用意していない。
そのため、間取りは滅茶苦茶シンプルにしてあった。
それが二階建てか三階建てか。
宿やならば部屋の大きさや数はどんなものか。
幾つか種類を用意して、俺が街に滞在している間であれば、内装や間取りの変更や要望を受け付けますよ、としていた。
だが娼館のオーナーは、自力で業者を手配し内装を自分好みに仕上げたらしい。
俺が知っている外観も内観も、面影を微塵すら感じさせない程に煌びやかな空間がソコには広がっていた。
コレは非現実感があって、冬場でも客足が途絶えないというのも、理解出来るな。
思わず開いた口が塞がらない。
普段そう言う店を使わないカノンも、立ち入った事のないヌリアさんも、同じ顔をしていた。
唯一利用した事のある、むしろ常連だと言うアルベルトだけが、躊躇う事もなくドアを潜ろうとしていた。
コレは、入店するのに勇気が居るって。
だって、ムキムキまっちょのハゲ頭のオッサンの石像が、左右対称に扉の前に並べられてて、しかもキレッキレのマッスルポーズをキメているんだよ?
しかもハゲ頭には、灯り用の松明が突き刺さってるんだよ??
どんなセンスしてるの???
大人のお店らしい、と言っていいのだろうか。
石像は真っ裸で、石像の股間には、それはそれは見事なブツがぶら下げられている。
ココ娼館、だよね?
アレ??
ココ、女性向けの店だった???