神さま、クマを作る。
祝☆一〇〇話!
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古代遺跡を観光資源として栄えた交易都市・ルイーナ。
ソコの長を務めている地球からの移民者が、今部屋に入って来た柴灯だ。
カノンとアリアの、母方の叔父である。
雷の「スキル」を持っている、発電機要らずのとっても便利な男だ。
施設に居た頃は俺よりも歳下の、クソガキ盛りな齢十歳程だった。
しかしこの世界で過ごして、四〇〇年余り。
すっかりくたびれたオッサンになってしまっている。
自分の使命を全うする為、なるべく長生きをしたいからと、数年から十数年眠り続け、たまに起きては仕事をする、変な生活をしている。
そのため本人曰く、まだ三〇〇歳を超えては居ないそうだが。
何故、ココに居るのだろうか。
「主要都市には招待状をお送りしましたから。
まさか、‘’遺跡都市の眠れる王子‘’が来るとは思いませんでしたが」
「ぶはっ!
サイトー、お前、そんな二つ名名乗ってんの!!?」
「姉ちゃんが王妃をしていた大昔に、周囲が勝手に呼んでいたんだ!
ボクは断じて一度も名乗ったことはない!」
余程恥ずかしいのか、俺の‘’サイトー‘’呼びを訂正する事を忘れ、顔を真っ赤にして王子を自称している誤解を否定した。
余程不名誉だと思っているのだろう。
地団駄を踏みながら語気を荒らげている。
子供の頃は可愛げもあったが、良い歳したオッサンがやってると痛いだけだ。
早急に辞めさせねば。
「何か用があって来たんだろ?
要件を言え、要件を」
ヌリアさんの有能っぷりにお礼を言った後、どうせ後で会う事もあるだろうに、わざわざ案内をさせてまでココまで来た理由を話すように促した。
「普段引きこもっている甥と姪が公式の場に出てくるのだ。
叔父として勇姿を見たいと思うのは、当然のことだろう。
どんなイベントなのか、イマイチ要領を得ない催しではあるけれど、国王として立つならば、ボクの滞在期間中に時間が取れるか判断つかなかったからな。
ちょうどアルベルトさんがいたから、案内をして貰った。
……それと、コックの中に、見知った顔がいたような気がしたから、どういうことか聞きに来た」
「元々はソコの二人の結婚式をハデにやろうぜってだけだったんだけどね。
精霊教会とかくかくしかじかあって、首都の移動の周知とお披露目。
それと新しい教帝と、その皇婿のお披露目も兼用する事になった」
「その……っ!
おまえが関わると、何でこうも規模が大きくなるんだ!?」
「俺が聞きたいよ!
少なくとも、首都の移動は俺が決めた事じゃないし、新教帝爆誕に関してはサイトーの義弟が優秀過ぎたからだぞ。
俺の所為じゃない」
握り拳をワナワナと震わせながら静かに怒鳴っているが、ここまで大規模な催しになったのは、重ねて言うが、決して俺の所為では無い。
街の規模が大きくなったのは、街周辺の土地だけでは少々心許ないとアリアが言い出したからだ。
だからと言って、後方に大きく面積を取ってしまっては、‘’エルフの墓所‘’や‘’水晶球の白滝‘’の森が広がる崖に近くなり過ぎる。
土砂崩れの心配が常に付きまとう王都なんて、イヤだろう。
それにここら辺の魔物とは比べ物にならない位に、一般的には強いとされる魔物が出る。
それならば前方に広げようとしても、大きな川が流れているので物理的に不可能だ。
だが川の向こう側に街を作っては、‘’喰魔の森‘’に近過ぎる。
横広にするにも丘もあれば森もあるから、どうしたって限りがある。
それじゃあどうしようか、と頭を抱えていたら「面倒臭いから、もういっその事、大陸の形を変えてしまえばいいじゃない」と言われたんだよ。
何言ってるか分かんないよね〜。
あっはっは〜。
……俺も分かんない。
だって地の精霊が言って、実行してくれたんだもの。
元々ここら近辺を守護していたのが地の精霊だった事と、属性が地だった事で、「煩わしい事を考える位だったら、いっその事土地を増やしてしまおう」と言って、軽く足を上げ、大地を踏みしめた。
動作としては、ソレだけだ。
軽い立ち居振る舞いとは裏腹に、霊力の奔流は凄まじいものだった。
地面を走るように高密度の霊力が横切ったかと思えば、地響きと揺れを伴い、街が割れた。
いつの間にアリアの希望する城下町の想像図を見ていたのか、区画ごとに区切りを設けて、増設するのに十分過ぎる程に広く拓けた土地を用意してしまったのだ。
俺達の驚きなんてそっちのけで、新作の料理の味見をして欲しいと言われたが、その時に食べた物が何だったのか
どんな味をしていたのか。
勿体ない事に、何も覚えていない。
それ位、衝撃的だったのだ。
居住区の人達は、地震に驚き外へ飛び出て見れば、先程まで隣にあった建物が遥か彼方に遠ざかっていたり、ちょっと歩けば出勤可能だった農場が見当たらなくなってしまい、大いに混乱をした。
俺も同じ位、戸惑った。
こんな非常識な事をする人では無かったのだが、やはり何百年も精霊をやっていると、人の感性から遠ざかった所に行ってしまうらしい。
モチロン、開いた口が塞がらない人達を代表して、お礼は言っておいた。
本人はお礼よりも、料理の感想を欲しがったが。
だが相手はこの世界の神様となった人物だ。
礼は最低限言わねばならんだろう。
それにどんな形であれ願い事を叶えてくれたのだ。
不平不満を口にしたら、どんな災いを起こされるか、分かったもんじゃない。
そのお陰で、周辺の地形はすっかり変わってしまった。
アレコレ考えなくて良くなったのは有難いけれど、魔物の生態がどれだけ変わるかは未知数だ。
霊力によって生み出された土地なので、瘴気が発生する余地は無いし、悪影響は無いだろう。
ただ結婚式が行われる日までに、街を見られる形にまでは、最低でも整えなければならなくなった。
スッカスカの中身の無い街に呼ばれては、ゲストは戸惑うだけだろう。
しかも、付け足すのではなく、区画を埋めるように調整しながら建物を創らなければならない手間が掛かる。
コレがなかなか大変だった。
そういうワケで、俺とアリアがどの区画にどんな建物が必要か頭を悩ませている間。
時間が出来たからと言って、目を離している隙に転位方陣を使って、カノンと宰相閣下が精霊教の総本山であるインフェルヌスに、カチコミに行ってしまった。
司教と司祭、騎士にフィブレス・レイラを伴って。
俺が回収した司教達のアリア暗殺計画のやり取りをしていた手紙の音源と、参考人が居れば証拠としては十分過ぎる。
関わった者達全員の命と、教会のトップである教帝の首ひとつ、どちらを差し出すかと交渉をしたそうだ。
交渉と言うか、ソレ、脅しだよね。
関わった者、となれば王都支部の連中以外にも、インフェルヌスに在籍している一部の枢機卿や、教帝本人も含まれる。
その何百という命と、教帝一人、どちらの天秤を傾かせるのか、という質問だ。
ソレを何も知らない人達も含めた、大衆の前で教帝本人に問うた。
現御神への忠誠心と言うか、信仰心は確かなものだったようで、「現御神の命令でやったことだー! 私は悪くないー!!」なんて醜い言い逃れはしなかった。
だが、現御神の声を拝受出来るのは己だけだと言って、この先の精霊教に必要なのは、掃いて捨てる程居る有象無象ではなく、この私だ! とかなんとか言って、多数の顰蹙を買って勝手に自滅をして、教帝の座を物理的な意味でも引きずり下ろされていた。
因みにリンチはされたが、殺されはしていない。
霊力は確かに他の人よりも頭ひとつ抜けんでており、有効活用が出来るからと、その後は教会の地下牢に閉じ込められた。
って言っても、一般よりは多いだけで、アリアやアルベルトよりも、全然少ない霊力だそうだけどね。
空席の教帝の座は、現御神の企てていた燼霊召喚や国王暗殺に一切関わっていない人物でなければならない。
王家も教会も共通認識を持っており、槍玉に上げられたのが、レイラだった。
王都支部に所属をしていたにも関わらず、別行動を取っており、暗殺計画には直接関わって居なかった。
それに加え、上に立つ者として必須条件である治癒術が使える者の数がかなり少ないようで、その少数の中で身の潔白を直ぐに証明出来るのが、レイラしか居なかったのだ。
拒否権を与えられる間もなく、女帝が誕生した瞬間である。
だがレイラがまだ年若い事もあり、補佐が必要だとして、教会から信頼の深いフィブレスがその役職に指名された。
しかし補佐とするには、地位が足りない。
なにせただの役職の無い、実戦経験だけは豊富な僧兵だもの。
枢機卿団の中から誰かを選ぶにしても、無実を証明出来る材料が、それぞれ欠けている。
「ならば皇配となれば、人事の権限が無くても問題無かろう」
歳を重ねた枢機卿団のオッサン連中がそう言い出し、その場でレイラとフィブレスの結婚が確定した。
女帝就任後、五分経過後の事である。
逆玉ラッキー、と言えないのは、レイラがワガママである事や、教会の一僧兵でしかなかったのに、突如ナンバー二に指名されてしまった事等、色々とあるが……
俺やカノンを含め、イヤと言う程、王家側に居る人間の実力を見せ付けられているのだ。
教会に所属している以上、組織を裏切る事は出来ないが、王家に逆らったらどうなるか、容易に想像が出来る。
両板挟み状態になる胃袋の痛みが主な原因で、出世を喜べないのだろう。
逃げ場のない、着替えている今ですら、顔が少し青いもの。
大変だぁね。
宰相閣下か優秀過ぎるせいで、解決がずっと先になると思っていた精霊教会との交渉は、即日終了。
淵窩調査や、他にも国家反逆の証拠が無いか調べる為、インフェルヌスは閉鎖。
本部に所属していた人間は、世界各地にある教会支部に散り散りになった。
教帝や王都支部の司教達のような、重要参考人は今もインフェルヌスの地下牢に囚われて居るけどね。
霊力を吸い取る方陣が刻まれている為、悪さが出来ないから調度良いんだって。
全国に散るとなれば、当然王都支部にも何百人か移動して来る。
そうなると、城下町で暮らす事になる人間が更に増える。
カノンと宰相閣下が居ない間に決めた建造物の一部の話し合いが、白紙に戻った。
インフェルヌスが閉鎖されたと言う事は、代わりとなる教会本部が必要になる。
それならいっその事、教会がまた悪い事が出来ないように、見張る意味も込めて王都に併設してしまおう!
……とアリアがご乱心した事により、俺の仕事が見事に増えた。
結婚式の招待状は、世界各地に送られていた。
来る来ないは別として、お披露目の場としては最適だろうと言う事で、急ピッチで全ての準備を徹夜でして、今日、この日を無事に迎えられた。
もう最後の方にはね、自重なんてしてらんねぇよ! とヤケクソになって、隠す事も惜しむ事もせずに「スキル」でバンバン王城も教会も建設したのだが、ソレを見たアルベルトが「そもそも、ジューダスと自分を比べる事自体間違ってた」と言って、悟りを拓いたような顔をしていた。
イヤ、どちらかと言うと、遠い目か?
カノンが「落ち込むにはまだ早いと言っただろう?」と聞くと、深〜く頷いていた。
地の精霊が地形を変えていた時と同じような表情をしていたのだが、流石にあそこまで非常識では無いぞ。
多分。
「……その、テルモと言うのは、地の精霊様の事か」
「そう。
お前の義兄」
「さっきから、その義弟やら義兄やらとは、一体なんなんだ?
義兄さんの兄弟は……亡くなっているだろう」
「……アレ?
地の精霊や火の精霊に会った事ないの?」
「あるわけがないだろう。
地球人は精霊様に嫌われているんだ」
「あ〜……
火の精霊には合わせられないけど、地の精霊には会って行く?
見たんでしょ?
さっき」
「なんのことだ?」
「察しが悪いなぁ。
義弟って言ったのが、カノンの父親の弟。
宰相閣下殿の事。
んで、義兄って言ったのが、今この世界で地の精霊になったテルモの事。
アリアの父親の兄ちゃん。
施設の元料理長。
火の精霊は、その弟。
皆この世界に来てるんだよ。
この前話さなかったっけ?」
「……記憶にない」
アリアとカノンが甥姪だと認識しているのだから、宰相閣下の事も、姉の旦那の弟だと知っているとばかり思っていた。
ただカノンが知らなかったように、アリアも宰相閣下も、ルイーナの街長が身内だとは知らなかったようだ。
皆、混乱した顔をしている。
何でガルバやヌリアさん、着替え終えたフィブレスやレイラまで動揺しているのかが分からないが。
「あの……ジューダスさんって、地球人だったのですか?
精霊術、使っていましたよね?」
「そうだねぇ。
使えるねぇ。
でもソレを言ったら、カノンだって地球人だし、精霊術を使えるぞ」
トボスの言うように、地球からの移民者は精霊から嫌われており、精霊術を使えないとされているが、俺もカノンもアリアも、当たり前のように使える。
宰相閣下は「スキル」が使えるけど、精霊術はどうなんだろ。
アリア程ではないけど治癒術が使えるって言っていたから、精霊術も使えるのだろう。
地球人が精霊術を使えない、というのは間違いだと思うんだよね。
だって俺の周りの地球人は使っているもの。
トボスも、覚えれば使えるんじゃなかろうか。
「地球人は迫害の対象とされているのに、あなた、よくそんなあけすけに言えるわね」
「……迫害?」
燼霊を退け世界を救った英雄様達の伝説は、全て地球人によるものだぞ。
迫害って、弱い立場の者を追い詰め、苦しめる事を言うだろ。
なのに、なんで迫害??
「地球人は死ぬと、身体が崩れると言っただろう?
アレが酷く不気味に見えるらしくてな。
いくら世界を救ったと言えど、精霊様に嫌われ、世界から爪弾きにされている者達を、受け入れられなかったんだよ」
「国王であるアリアだって、地球人じゃん」
「えぇ、なので、私たちが地球人である事は伏せられております……」
「…………記憶消されるのと、絶対他言しないと俺に誓うの、どっちがいい?」
自分のやらかしにやっと気付き、責任を取るべく四人に尋ねる。
記憶の抹消は怖いと言う事で、絶対に誰にも話さない。
墓まで持っていくと約束してくれたので、特に何をするでもなく、この会話は強制終了となった。




