神さま、仕分ける。
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誤字報告ありがとうございました。
ルビを振る任意の文字って、長いと反映されないのですね。
勉強になりました。
本日訂正させて頂きました。
男性優位のこの世界では、結婚相手は父親が決める。
もしくは、集落の族長だな。
ようは、偉い人だ。
特に長男の相手となれば、世継ぎの問題が出てくる。
家と家の結び付きが強固になれば、その分何かあった時に互いに助けて貰える安心感を得られる。
そのため長子じゃなくても、親の勧めによって結婚相手が選ばれたり、許可を得なければ結婚出来ないパターンも多い。
好いた者同士で駆け落ちをしようにも、魔物が蔓延るこの世界だ。
余程の覚悟と腕っ節が無ければ、集落の外へ飛び出せば、死ぬのがオチである。
完全な自由恋愛は無いと断言しても良い。
一晩のお遊びなんかは、そういうお店も含めてあるみたいだけど。
男女共に、相手に純潔は求めていないらしい。
むしろ男性は、経験が多いだけ誇るようなステータスになるようだ。
だから娼館が結構どの街にある。
アルベルトから夜の店に連れて行ってやろうか? と冗談で誘われた事はあったけど。
金を払ってまでヤリたいかねぇ。
大人の世界なので、よく分からない。
施設では男女間での性交渉が管理されていたので、余計にそう思う。
恋愛は自由だけれど、適齢の内に、遺伝子的に優れた子供が生まれる可能性が高いお相手と子作りをしなければならない決まりがあった。
恋をし愛した人と、子作りしなければならない人が、同じ事もあるけれど、勿論そうじゃないパターンも多々とある。
そう言うツガイに対しては執着心がないので、相手に他の人との間の子供が居ようが特に関係ない。
義務を果たすだけ。
そんな夫婦が多かったみたい。
だけどその義務で作られた子供以外だと、特殊能力である、通称「スキル」の能力が低い事が多い。
そうなれば、資源が限られている施設内なので、まぁ、生かして貰えない場合が多かったらしい。
生産能力が低いと、どうしてもね。
そんな過去の統計があるからか、俺の世代では恋愛対象との性行為では、避妊具を着けるのが当然だった。
もしくは、好きな人と程性交はしないか。
愛の結晶と言う人だっている位だもの。
好きな人との間に出来た子供が、殺処分行きなんて、とてもじゃないけど耐えられない人が多かったのだろう。
同時にその処分決定に、異を唱えた親共々、なんて事もあったらしい。
施設の歴史も長いからね。
本当かどうか分からないけれど、と言った感じでウワサされていた。
何より、性病予防って観点でも、避妊具は大切だしね。
病気になったら、余程の事が無い限り殺処分行きだから。
生産性が低くなるもの。
なのに余計な経費は掛かるじゃない。
損切りは大切だから。
この世界の家畜と一緒だね。
だからフリアンくんがまとめてくれた資料に、『娼館の従業員が健康相談の窓口を利用する割合が高い』と言う趣旨の文言があった事に、非常に驚いた。
街を作った時、避妊に関する話しはしてあったのだ。
それこそ、執拗いくらいにしたのだ。
望まぬ妊娠による母胎への負担や、収入に見合わない数の子供を生産することによる貧困の拡大。
それとモチロン性病の蔓延を防ぐために。
フランス病や花柳病という名で、地球の歴史上でも世間を度々騒がせていたのだ。
膣・肛門・口腔性交、他にも手淫を含めた粘膜の接触を伴わない性行為においても、他人との接触は感染病のリスクを多かれ少なかれ負うことになる。
特にこの世界ってハンドクリームが高級品だから、手に赤切れがあるような人が多いのよ。
そう言う小さな傷口もそうだし、歯磨きして出血した後とか、歯周病でそもそも血が出やすい状況にあったりとかしたら、ソコから感染してしまう場合もあるワケなのだ。
HIVがこの世界にあるかは知らないけれど、血液と精液に多く含まれているからね。
オーラルセックスは口腔癌の罹患率を上げるし。
病気になると、QOLが下がるじゃない。
精霊の皆と一緒に生活向上と幸福度の増幅を計画している身としてはさ、予防が大事だと思うのよ。
誰だって、シンドいのは嫌じゃん。
だから見た目の年齢にそぐわず、そういう店を利用した事が無いと言うのにも関わらず、ムダに知識が豊富すぎる俺だ。
どれだけ怪訝な視線が向けられようと、頑張って講習会を開いたのだよ。
無茶な事をしたら傷が付くし、性病に限らなくても、雑菌が入ったら白血球さんが頑張っている間は発熱するだろ。
お仕事としてやっている側は、ある程度の理不尽も飲み込める覚悟があるかもしれないが、この街でそんな道理の通らない事を、許容する必要なんてない。
首絞めが好きだと言うのなら、そう言う行為が好きな人を相手にしなければならないし、当然、合意をした上でしなければならない。
体調いかんによっては、普段平気でもその日はムリ、なんて場合もあるのだから。
アブノーマルな性癖嗜好を否定するつもりはないが、迷惑をかけるな。
そう言うワケで棲み分けをさせた結果、色んな娼館が出来てしまったようなのだが……
まぁ、ソレはいいよ。
ちょっとアブノーマルの中でも、更に特殊な分類のお店の売り上げがイマイチで、他のお店と合併するべきか否かの相談なんてされても、俺には何とも言えないし。
そういうお店のオーナー同士で話し合いをしてくれとしかお返事は出来ない。
だが、どの店にも避妊具の使い方を教え、この世界に元々ある避妊用の薬も時には併用するように、重々申し伝えるようにお願いをしてあった。
あくまで避妊具は毎回使い捨てるようにと注意したし、裏表の確認の仕方とかコンドームの場合は空気の抜き方のような使用上の注意だって、文字が読めない人のために図解もしておいた。
基本的に女性側がサービスするお店が多いから、女性があらかじめ腟内部に入れておく女性用コンドームの使用がメインになるだろうけれど、ほら、後ろを使いたいという人も中にはいるワケじゃん。
そう言う人には、男性側に装着させる事になるから。
男女どっちのコンドームも使い方を図説しておいた。
併用すると破れやすくなるからダメってことも書いておいたよな。
中身を零さないために、横になったままリング部分を捻って引き出すように、と抜き方のコツも書いたし、結んで燃えるゴミに捨てるよう、始末の仕方だって書いた。
なのに何故、HIV感染症のような症状を訴える人が多いのだろうか。
倦怠感、発熱に筋肉痛。
しかもソレらを訴えていた人達は、数週間もするとケロッとしていると言う。
しかし中には、一度治ったと思ったら症状がぶり返した人もごく一部ではあるがいるそうだ。
インフルエンザのような感染初期症状に、無症状期間を経ての、エイズ発症に思えてならない。
幸い、と言って良いのか微妙だが、そう言うお仕事をしている人達は、店に併設された寮で暮らしている。
外部の人と接触する機会は非常に少なく、今の所は花街の人達以外にそう言う症状を訴えて来る人は居ないらしい。
あ、それこそ、風邪やインフルエンザに罹ったらしい子供や、そこからうつった家族が相談に来る事はあったみたいだけど。
そういう人達は、マニュアルに書いてあった通り、回復薬を渡して、症状別に滋養が高く、治りが早くなるような料理や食材を伝える。
もしくは出前の希望を聞いて帰したそうだ。
家族総出でダウンした場合なんかは、ケータリングの手配もしてくれたらしい。
身体を温めるのが大切だから、そういう出張サービスって大事だものね。
病気の相談件数の六割が夜職と言うのは、驚異的な数値だよな。
有難いことに分母が小さいのも、その理由の一つだけど。
街に定住し、結構月日が経っている人達は、栄養をシッカリ取って、毎日身体を動かし、日々充実しているのもあり、健康相談をするのは怪我人しか、今の所いない。
環境の変化による、ストレスのせいだろうか。
移住してきて少し経った人の相談件数が、次点で多い。
それに関しては、慣れが必要になってくるから、致し方ないよね。
困っている時に助けてくれた、という実績とクチコミを作るのに、そういう人達には回復薬に見える飲み物を渡すようにと、申し伝えてあった。
プラセボ効果で大抵何とかなるもの。
ならなかった人は、二回、三回と相談を繰り返すから、その時には改めて悩み相談を聞くように、とマニュアルにしたためておいた。
出番は無かったようだけど。
大切な街に住む、住民の問題だ。
早急に解決したい。
問題が山積みな中で結婚を祝われたとしても、ヌリアさんは真面目だから集中出来ないだろう。
会場に病人が乱入者してもいけないし。
フリアンくんがまとめてくれた資料を、優先順位を付け、解決し易い問題か否かで分ける。
あと、俺にしか出来ない事かどうかもね。
スライムを創るのなんかは、ものの数秒で解決するし。
むしろ不具合がないか、既に創って一号と一番触れ合っているフリアンくんに渡して、今現在進行形で確認して貰ってるし。
自然界に少ないとされるのは青色だ。
次に少ない傾向にある、赤い色にしておいた。
真っ赤ではなく、あくまでスライムだから、薄いピンクに見える赤色になる。
カワイイと既に見た目は大好評だ。
同じように創ったつもりだけれど、一号とケンカしないかとか、食べる物とそうじゃないものの区別がシッカリつくかとか。
そう言う観察を頼んだ。
今は服従確認の一環で、つついたり伸ばしたりしている。
とっても楽しそうだ。
良いなぁ、俺も遊びたい。
食事処が少ないのは、サージに頑張って後進を育てて貰うとか、外からスカウトしてくるとか、どうしても時間がかかる問題だ。
なので後回し。
学校と教会の利権問題に関しては、面倒だけど向き合わなければならない問題になる。
何なら、ヌリアさんとガルバの結婚披露会 に、王都にある精霊教会の支部から希望者を招けば良い。
堪能して貰い、懐柔してから話し合いが出来れば、コッチに有利な状態で要望を通せる。
教会と違い、人材育成が目的なのだ。
正直、とやかく言われたくないんだよね。
この街くらい、教会以外の機関が学校を持つことに目を瞑ってくれないだろうか。
なにせ王都にケンカを売るために、霊力を持つ人達を囲い込もうとしているんでしょ。
街の住民皆連れていかれちゃうじゃん。
マジで辞めて欲しい。
他にも広場に出店する際の届出方法の改善案が無いかとか、アスレチックの難易度を高くして欲しいとか、法律的な物から小さな要望まで、様々だ。
分別したひと山の内、カノンが手に取ったのは重要度も緊急性も高い書類だ。
枚数が少ないから手に取りやすかったのだろう。
その一番上に置かれていたのが、花街の件だ。
「……この原因は、男夢魔ではないのか?」
「いんきゅばす?」
「性行為を通じて、捕食対象の生命力を奪う魔物だ。
特に霊力を持つ人間を好む傾向にある。
女型を女夢魔、男型を男夢魔と呼ぶ。
野宿をしている冒険者を襲う女夢魔は珍しくないが、人里の中にまで入り込む、しかも男夢魔の話は聞いた事がないが」
どちらの性別でも、夢魔の捕食対象になった者は、身体に独特な文様が現れるそうだ。
問診すれば病気なのか夢魔に生命力を喰われたせいなのか、判断出来る。
俺の場合は鑑定眼もあるしね。
病気なら直ぐに薬を創って対処しなければならないし、長期的な戦いになる。
だけど夢魔による被害なら、しなければならないのは魔物退治だ。
すぐに解決出来る。
結婚披露会までに対処出来そうなら、すべきだろう。
職場に戻るついでに先触れをしてくれると言うので、サージには八の鐘が鳴ったら行くと伝えるようにお願いした。
今日も皆様お仕事があるのだ。
早い時間に行って、身支度しているタイミングで裏舞台を覗いてしまったら、失礼に値するだろう。
被害の多い‘’スファンクス‘’と言う名前の娼館は、一階が食事も出来る飲み屋になっているようだし。
仕込みの時間のジャマをしてはいけない。
店が開いて暫くしたら、客足も落ち着くだろうし、運が良ければ男夢魔の犯行現場を取り押さえる事も出来るかもしれないし。
そう言う口実で、一番遅い鐘が鳴り次第の訪問とさせて貰った。
わ〜い、夜更かしだ!