能力
さて、色々と手紙に書いてあったわけだが。
手始めに姿見で今の自分の容姿を確認してみると、そこには二回り大きいシャツを着た美少女が佇んでいた。かつての自分とは全く違う薄緑のショートヘアには初め目を疑ったが、慣れてくるとこの容姿の女性が自分なのだと悦に入ってしまった。
それよりも、だ。一刻も早くこの世界に飛び出したくて仕方がない。冷静になる魔法が切れかかっているのだろうか、能力やら魔法やらモンスターやらにひどく好奇心を掻き立てられている。
「この世の真理」と「能力・魔法ブック」を探し出し、片手に抱えて部屋を飛び出した。
扉の外では、だだっ広い草原にろくに舗装のされていない道が横切っていた。右手には森も見える。建物は、左手に数軒という程度。ド田舎だ。
……いやいや、この世界ではこのような光景が普通なのかもしれない。
兎にも角にも、まずは能力が気になる。そんな面白そうなもの、使ってみない手はない。
しかし、俺の能力は何なのだろうか。分からないことには使えない。
そこでふと思い出す、「能力・魔法ブック」の存在を。手紙の神はそれで能力が判ると言っていた。きっと、どこかのページに俺の能力が書かれているのだろう。それも、きっと一番初めのページに――
――「能力・魔法ブック」の表紙をめくると、そこには予想通り文字が書いてあった。
『能力:植物 レベル:一』
……植物? 俺の能力植物? どういうこと? 草を伸ばす能力か?
それよりも俺は、レベルなんて概念があることに驚きを隠せなかった。さながらロールプレイングゲームの世界ではないか。レベルが上がるごとに出来ることが増えていく、なんて話なのだろう。面倒で面倒で仕方がない。
――無駄なことで長考していても仕方がない、早速能力を使ってみようと思ったわけだが、どうにも使い方が分からない。「能力・魔法ブック」には、能力とレベル以外何も書いていなかった。手帳にしては分厚いのに、全て白紙だった。なんなんだこれは。メモにでも使えというのか。能力を使えてすらないのに何をメモしろと。
そんなことを考えていると、突然森の方から呻き声が聞こえてきた。何事かとそちらに目をやると、濁った緑の生命体がこちらへ走ってきていた。
大きさは、一メートルもない程度だろうか。そこはかとない恐ろしさを醸し出しているが、まだ距離があるし足も遅いから余裕を持って観察することができる。
頭でっかちではあるが、辛うじて人型だろう。一際大きな眼は充血していて、今にも飛び出しそうだ。所謂ゴブリンというような容姿をしている。
――ゴブリン、ということはあれはモンスターなのだろうか。それならば、鬼の形相でこちらに迫っているのにも納得がいく。モンスターだと思うと余計に怖くなるが、身体は細いしなにやら弱そうだ。
……戦ってみようか。弱そうだし、使えないけど能力もあるし。それに、俺は前世でサッカーをしていた。身体能力には自信がある。
いざ戦うぞとゴブリンの前に立つと、今度は左から声が聞こえてきた!
「危ないですよ!」